2017年11月12日掲載

2022年12月12日改訂・再掲載

2024年1月10日改訂

 

和名:ツブラジイ(円椎)

学名:Castanopsis cuspidata

別名:シイ、コジイ

分布:本州(伊豆半島以西の太平洋側・若狭湾沿岸以西の日本海側)・四国・九州(鹿児島県大隅半島中部まで)。済州島(※①③)。

樹高:10~25m 直径:100cm 常緑高木 陰樹

 

東海地方以西の丘陵~山地帯下部の照葉樹林に自生する。東海地方内陸部や瀬戸内海沿岸地域など、比較的降水量の少ない地域に多い。スダジイに挟まれるような分布をしており、海沿いにスダジイ、内陸にツブラジイ、内陸のより標高の高い所では再びスダジイが出現する傾向がある。スダジイと異なり、伊豆諸島・薩南諸島・南西諸島といった島嶼部には分布しない。スダジイよりもパイオニア的要素が強く、二次林でも見られる。関東地方にも僅かにあるが、真の自生か不明である(後述)。

 

葉は長さ5~10cm。全縁または上半分に鋸歯がある。スダジイよりも小形で薄い傾向がある。裏は金色。小枝はスダジイよりも細い。

 

花。5~6月に開花し、虫媒花で強い香りがする。スダジイよりも花期は早い。

岐阜県岐阜市・金華山(写真)は、ツブラジイの花で黄金色になることに由来する。ツブラジイは岐阜市の木にもなっている。

 

どんぐりは花の翌年の11~12月に熟し、食用となる。果期はスダジイよりも1カ月ほど遅い。

堅果は直径約1cm。こんなに小さくても虫が出てくることがある。和名は堅果が小粒で丸いことに由来する。

実生の葉の展開時期は、スダジイが5月頃なのに対し、ツブラジイは9月頃と遅い。


樹皮は割れ目が殆どないものと、縦に浅い割れ目が入るものがある。

浅い割れ目が入る個体(奈良県春日山原始林にて撮影)。割れ目の色は灰黒色で、スダジイよりも濃い。

割れ目のない個体(愛知県岡崎市山中八幡宮にて撮影)。 


スダジイと異なり、幹は通直である。寿命が短く、樹齢100年を超えることは少ない。40年生を過ぎると株を腐らせる腐朽菌が入って、枯死しやすい。材は割れやすい。萌芽力旺盛である。

根元は板根になることが多い。


スダジイとの中間型も多く、判断に悩むことも多い。スダジイとの雑種をニタリジイ(南九州)、ハンスダ(高知県)、オコジイ(鹿児島)と呼ぶ。葉の表皮組織はスダジイは2層、ツブラジイは1層だが、雑種では1層と2層が混在する。スダジイをツブラジイの変種とする見方もあり、ツブラジイからスダジイ・オキナワジイに分化したといわれる。

  

【変種】

タカサゴジイ 学名:Castanopsis cuspidata var.carlesii

ツブラジイの変種で、台湾・中国南部に分布する。

 

【関東周辺のツブラジイ】

 神奈川県小田原市入生田の神社裏山の斜面林に、胸高直径30cmほどのツブラジイと思われる個体が数本観察されている。しかし、枝・葉・幹・樹皮はツブラジイの形質だが、殻斗の長さは2cm近くあることから、ツブラジイと断定されていない(※②)。神奈川県レッドデータブック2022では情報不足となっている。

 また、埼玉県さいたま市・武蔵一宮氷川神社にツブラジイが多数あるが、周辺地域では全く見られないため植栽起源と思われる。

 静岡県伊豆半島内陸部が分布の東限で、伊豆市・修善寺周辺の社叢や二次林に多い。河津町・慈眼院にもあるという。富士川以西では普通だが、静岡県中部の社叢ではスダジイとの中間型も多かった。


〈参考資料〉

①橋本郁三 食べられる野生植物大事典 新装版 柏書房 2007年

②神奈川県植物誌調査会 神奈川県植物誌2018

みやざき森林環境教育 スダジイ