2017年11月4日掲載

2022年11月20日改訂・再掲載

2024年5月3日改訂

 

和名:ツクバネガシ(衝羽根樫)

学名:Quercus sessilifolia

分布:本州(福島・富山県以西)・四国・九州(対馬を含む)。朝鮮、台湾、中国中南部。

樹高:10~20m 直径:60cm 常緑高木 陰樹

 

丘陵~山地帯下部の照葉樹林の沢沿いの急斜面・痩せた尾根・岩場などに自生する。西日本には多いが、東日本ではやや少ない。土壌が浅い東海丘陵にも多い。アカガシと混生することも多く、両種の交雑種であるオオツクバネガシ(後述)も出現する。

 

葉は葉身5~12cm、葉柄1cm。上半分に微かに鋸歯があるのが基本だが、全縁の個体もある。典型的な個体は縁が裏面側に反るが、変異が多い。また、葉は枝先に集まってつき、その様子がお正月の衝羽根のように見えるため、この名がついたといわれる。裏は緑色。

 

花は4~5月に開花する。

どんぐりは花の翌年の10~11月に熟す。堅果は長さ2~2.5cm。毛が生えた堅果もあり、殻斗には毛が密生する。

 

樹皮。灰黒色で縦筋が入り、成長するにつれて鱗状に剥がれ落ちる。材は木目が美しく、器具材・楽器材・床柱に利用される。

アカガシと誤認されることが多いが、樹皮が剥がれた跡はアカガシが橙色なのに対し、ツクバネガシは灰黒色である。

 

【交雑種】

オオツクバネガシ 学名:Quercus × takaoyamensis

ツクバネガシとアカガシの雑種。東京都高尾山で発見され、1920年に牧野富太郎によって命名発表された(尚、標本木は1966年の台風で倒れ、枯死した)。

葉は両種の中間型で、ツクバネガシよりも幅広であることが多い。同一個体でも葉の形に変異が見られ、判断が難しいこともある。

左から順に、ツクバネガシ・オオツクバネガシ・アカガシの葉である。この写真はわかりやすい例だが、もっと判断が難しい場合もある。樹皮はツクバネガシに似ることが多い。

オオツクバネガシのどんぐり。どんぐりだけでツクバネガシ・アカガシと区別することは不可能である。

東京都八王子市南大沢八幡神社のオオツクバネガシ(市指定天然記念物)。樹高12m・幹周604cm・樹齢約600年で、幹の内部は空洞になっている。幹の内側は死んだ細胞の集まりであるため、外側の生きた部分さえ残っていれば樹木は生き続けることができる。かつてはアカガシと誤認されていた。

 

【関東周辺のツクバネガシ(オオツクバネガシを含む)記録地点】

・茨城県:県北山地、筑波山、神栖市など。準絶滅危惧(2012年)。

・栃木県:宇都宮市・多気山不動尊

・群馬県:安中市・桂昌寺。絶滅危惧ⅠA類(2022年)。

・埼玉県ときがわ町:多武峯神社

・埼玉県坂戸市:国謂地祗神社(森戸神社)

・埼玉県飯能市:名栗渓谷(優占林)、南川のウラジロガシ林、東神森稲荷大明神(埼玉県最大のツクバネガシ)

・東京都奥多摩町:向寺地(町指定天然記念物。衰弱気味)

・東京都瑞穂町:狭山神社

・東京都八王子市:高尾山、蓮生寺公園(オオツクバネガシ)、南大沢八幡神社(オオツクバネガシ。市指定天然記念物)、横山出張所(オオツクバネガシ。市指定天然記念物)、中野山王子安神社、石川御嶽神社

・東京都町田市:清水寺(アカガシ林として市指定天然記念物)

・東京都世田谷区:上野毛稲荷神社(アカガシとして世田谷名木百選に選定)

・東京都目黒区:国立科学博物館附属自然教育園(少数)、円融寺(優占)、八雲氷川神社

・神奈川県相模原市緑区:川尻八幡宮(ホソバタブと誤認)

・神奈川県横浜市青葉区:鉄神社

・神奈川県横浜市都筑区:池辺町杉山神社

・神奈川県横浜市港北区:師岡熊野神社(アカガシ林として県指定天然記念物)、篠原八幡神社

・神奈川県横浜市南区:定光寺(優占林)、弘明寺公園(少数)

・神奈川県丹沢山地:愛川町~清川村、山北町

・千葉県:房総丘陵南部に分布するが、鴨川低地以南には記録がない。要保護生物

・山梨県甲州市:菅田天神社(社叢は県指定天然記念物)

・静岡県小山町:上野神明宮(町指定天然記念物)

・静岡県函南町:畑毛白山神社

関東周辺ではやや少なく、茨城・群馬・千葉県ではレッドリストになっている。飯能・名栗を中心とした埼玉県西南部~東京都八王子市~神奈川県横浜市辺りの内陸丘陵地には比較的多い。アカガシと混生することもあるが、アカガシに比べると数は少ない。東京都町田市清水寺周辺、神奈川県横浜市港北区師岡熊野神社、山梨県甲州市菅田天神社などに群落が存在する。

アカガシと誤認され、アカガシとして名木や天然記念物などに指定されている場所が非常に多い。そのため、アカガシ・ツクバネガシの分布情報は信憑性が疑わしいところである。神奈川県相模原市緑区川尻八幡宮ではホソバタブと誤認されていた。