和名:シリブカガシ(尻深樫)

学名:Lithocarpus glabra

分布:本州(愛知県以西)・四国・九州(鹿児島県加世田・花瀬が南限。※①)。台湾・中国中南部。

樹高:10~15m 直径:50cm 常緑高木 陽樹

 

沿海地~低山の乾いた林や岩場に生える。瀬戸内海沿岸の花崗岩地帯に多い。アラカシやツブラジイと混生し、ツブラジイの二次林に多い。従来は分布の東限が近畿地方とされていたが、近年では愛知県の個体群に自生説が浮上している(後述)。近畿地方では、大阪府泉北地域や京都府保津峡にまとまった林がある。広島県二葉山の群落は国内最大規模であるが、全国的に大きな群落はあまり知られていない。マテバシイ属は熱帯・亜熱帯地域に分布するものが多く、シリブカガシとマテバシイは最も北に進出してきたグループである。

葉は葉身8~15cm・葉柄1~1.7cm。葉は硬く、全縁または上部に微かに鋸歯がある。表は光沢があり、裏は細かな鱗状の毛があり、銀白色を帯びる。

花。9~10月に開花し、虫媒花で香りが強いが、シイほど臭くはない。

どんぐりは花の翌年の11~1月に熟し、食用となる。日本のブナ科で、花と堅果を同時期に見られるのは本種だけである。堅果は長さ2~2.5cm。堅果の底は凹んでおり、和名はこれに由来する。堅果は穂状につき、葡萄色である。表面は蝋状物質に覆われていて、磨くと光沢が出る。

樹皮。灰黒色で割れ目はない。当年枝には毛が密生する。萌芽力旺盛である。

遠目ではアラカシに見えるため、注意しなければ誤認しそうになる。枝に花穂がついていればシリブカガシと判別できる。

 

【東海~近畿のシリブカガシ記録地点】
・愛知県:岡崎市細光町。絶滅危惧Ⅱ類(VU)
・岐阜県:県南中部に稀に野生状態で生育する。可食性の果実や材の有用性から植栽されることもあり、県内では分布が極めて限られて不連続であることも考えると、植栽逸出起源の可能性もある。情報不足
・三重県:桑名市・伊賀市・大台町・熊野市などに分布情報がある。社寺林などで僅かに見られるが、社寺林のものは献木などとして植栽された可能性もあるため、真の自生か不明である。絶滅危惧Ⅱ類(VU)
・京都府:京都市・保津峡、下鴨神社(植栽?)、宇治市・白山神社、天ケ瀬ダム周辺、木津川市・弊羅坂神社。要保全対策
・大阪府堺市:宝光庵、堺自然ふれあいの森、ハーベストの丘、美多彌(みたみ)神社(府指定天然記念物)
・大阪府和泉市:聖神社、松尾
・大阪府貝塚市:蕎原
・大阪府富田林市:春日神社
・奈良県奈良市:東大寺知足院(※④)
・奈良県生駒市:高山城跡・くろんど池付近、生駒山麓(※⑤)
・和歌山県有田川町:伏羊
・兵庫県:福崎町・七種山、たつの市・松尾神社(県指定天然記念物)、相生市・三濃山山麓、赤穂市・周世など。ランクB
 愛知県岡崎市細光町(額田)のシリブカガシ林は、1994年(平成6年)度の治水ダム調査で知られ、古い時代に鳥川流域に移入されたものと考えられていた。優占している箇所もあり、その規模は4ha・個体数2000本以上に及ぶ(※②)。近年の遺伝子解析の結果、額田のシリブカガシは宮崎県のものと同じルーツであることが判明し、自生の可能性が高くなった。宮崎県と額田は陸続きだった時期があり、気候変動で水位が上がった時に水没しなかった場所にだけ植物が残ったためと考えられる。東海丘陵要素植物にも、宮崎県と共通の植物が存在する。額田ではイチイガシと誤認され、飢饉時の非常食に利用した(※③)。
 また、筆者は愛知県瀬戸市にフモトミズナラを見に行った際に、アベマキ林の林縁にシリブカガシが生えているのを見たことがある。逸出かもしれないが、大阪府和泉市・聖神社でもアベマキと混生していたため、自生だとしても不思議ではない。
 近畿地方の数ヶ所の自生地を訪ねたが、土壌が浅い乾燥した立地の照葉樹林でアラカシと混生して優占する場所が多い。しかし、近畿地方ではアラカシに比べると分布地点は非常に限られており、どのような場所を選んで生えているのかいまひとつわからない。堺自然ふれあいの森は、シリブカガシ・アラカシ・コナラが優占する乾燥した二次林であった。大阪府和泉市・聖神社ではシリブカガシよりもアラカシの方が優勢であった。大阪府富田林市・春日神社は、文献ではシリブカガシ群落と書かれていたが、筆者が2023年に訪ねた際にはシリブカガシははっきりとは確認できなかった。遷移の進行によって消滅したのだろうか?

京都府・保津峡のシリブカガシ群落。シリブカガシの北限であり、国内2番目の規模(1ha)のシリブカガシ群落である。川沿いの急傾斜地や岩場にシリブカガシ・アラカシが優占している。シリブカガシは、アラカシと同様に遷移の途中相の樹種なのかもしれない。

大阪府堺市・美多彌神社のシリブカガシ林(府指定天然記念物)。シリブカガシ・アラカシが優占し、シラカシ・コナラ・クスノキ・ナナミノキ・ヤブツバキ・サカキ・クロガネモチ・カナメモチ・ネズミモチ・トウネズミモチ・サンゴジュ・ヤツデなどが混生している。樹林面積は8250平方メートルで、シリブカガシは100本近く群生している。大阪府では堺市南部丘陵に多く自生するが、泉北ニュータウンの開発により大部分が消滅した。当社叢は、造成前の泉北丘陵の原植生を知る上で貴重な手がかりである。大阪府和泉地域では昔から「いっちん」と呼ばれ、食用にされてきた(⑦)。 
兵庫県たつの市・松尾神社のシリブカガシ林(県指定天然記念物)。シリブカガシは境内全体で見られるが、境内北東部では優占している。他にはアラカシ・コナラ・ツブラジイ・ヤブニッケイ・ヤブツバキ・ヒサカキ・カナメモチ・モミ・スギなどが混生している。シリブカガシは兵庫県では稀であり、シリブカガシを食草とするムラサキツバメも生息している。
 
〈参考資料〉
①平田浩 図解 九州の植物 下巻 南方新社 2017年
②落合圭次 中部の植生断面図集 新風舎 2006年
④北川尚史・伊藤ふくお 奈良公園の植物 トンボ出版 2004年 
⑤森本範正 奈良県樹木分布誌 2012年  
⑥神園英彦 京都の花木百科 夏秋冬 京都新聞出版センター 1994年
⑦堺自然ふれあいの森 森の館通信 2020年11月 No.150号