2017年10月掲載
2022年12月11日改訂・再掲載
2024年11月27日改訂
和名:シリブカガシ(尻深樫)
学名:Lithocarpus glabra
分布:本州(愛知県以西)・四国・九州(鹿児島県加世田・花瀬が南限。※①)。台湾・中国中南部。
樹高:10~15m 直径:50cm 常緑高木 陽樹
沿海地~低山の乾いた林や岩場に生える。瀬戸内海沿岸の花崗岩地帯に多い。アラカシやツブラジイと混生し、ツブラジイの二次林に多い。従来は分布の東限が近畿地方とされていたが、近年では愛知県の個体群に自生説が浮上している(後述)。近畿地方では、大阪府泉北地域や京都府保津峡にまとまった林がある。広島県二葉山の群落は国内最大規模であるが、全国的に大きな群落はあまり知られていない。
マテバシイ属は熱帯・亜熱帯地域に分布するものが多く、シリブカガシとマテバシイは最も北に進出してきたグループである。
葉は葉身8~15cm・葉柄1~1.7cm。葉は硬く、全縁または上部に微かに鋸歯がある。表は光沢があり、裏は細かな鱗状の毛があり、銀白色を帯びる。
花。9~10月に開花し、虫媒花で香りが強いが、シイほど臭くはない。
どんぐりは花の翌年の11~12月に熟し、食用となる。日本のブナ科で、花と堅果を同時期に見られるのは本種だけである。
堅果は長さ2~2.5cm。堅果の底は凹んでおり、和名はこれに由来する。堅果は穂状につき、葡萄色である。表面は蝋状物質に覆われていて、磨くと光沢が出る。
樹皮。灰黒色で割れ目はない。当年枝には毛が密生する。萌芽力旺盛である。
遠目ではアラカシに見えるため、注意しなければ誤認しそうになる。枝に花穂がついていればシリブカガシと判別できる。
京都府・保津峡のシリブカガシ群落。シリブカガシの北限であり、国内2番目の規模(1ha)のシリブカガシ群落である。川沿いの急傾斜地や岩場にシリブカガシ・アラカシが優占している。シリブカガシは、アラカシと同様に遷移の途中相の樹種なのかもしれない。
【愛知県のシリブカガシ】
愛知県岡崎市細光町(額田)にシリブカガシ林が存在する。1994年(平成6年)度の治水ダム調査で知られ、古い時代に鳥川流域に移入されたものと考えられていた。優占している箇所もあり、その規模は4ha・個体数2000本以上に及ぶ(※②)。
近年の遺伝子解析の結果、額田のシリブカガシは宮崎県のものと同じルーツであることが判明し、自生の可能性が高くなった。宮崎県と額田は陸続きだった時期があり、気候変動で水位が上がった時に水没しなかった場所にだけ植物が残ったためと考えられる。東海丘陵要素植物にも、宮崎県と共通の植物が存在する。額田ではイチイガシと誤認され、飢饉時の非常食に利用した(※③)。