2017年9月27日掲載
2022年8月28日改訂・再掲載
2025年10月1日改訂
和名：クヌギ（櫟・椚）
別名：クニギ、フシマキ、カタギ、ツルバミ、フシクレボク
学名：Quercus acutissima
分布：本州（岩手・山形県以南）・四国・九州（屋久島・種子島が南限）。沖縄県にも植栽。朝鮮、台湾、中国、インドシナ半島～ヒマラヤ。
樹高：15～25m 落葉高木 陽樹
低地～丘陵の二次林や河畔林で見られ、関東の雑木林ではコナラとともに優占種になる。斜面下部や平坦な沖積低地の周りなど、やや水分の多い土地で林を形成することが多い。アベマキに比べ冷涼な地域に分布するが、薪炭用として植林されてきたため、自然分布ははっきりしない。古い時代に、中国大陸から持ち込まれた帰化植物とする説もある（後述）。
葉は長さ8～18㎝。細長く、針のような鋸歯がある。裏は無毛で淡緑色。落葉樹だが、クヌギやカシワは冬になっても枯葉が枝についたままであることが多く、春になってから完全に落葉する。生理的には枝と葉柄の間の維管束が閉塞して水分が送られなくなると葉は枯れるが、枯葉が落葉するには離層という組織が形成されなければならない。クヌギやカシワは離層形成が不完全な状態で冬を越し、春の展葉直前に離層が完成するためである。
花。4～5月に開花する。
どんぐり。2年目の9～10月に熟す。堅果は球形～楕円形で、直径2～3cm。殻斗の鱗片は長く伸び、反り返る。堅果は豚の飼料に利用された。
樹皮は灰褐色で、縦に割れ目が入る。生長は早く、萌芽力も旺盛である。樹液を求めてカブトムシ・クワガタムシ・スズメバチなどが集まる。材はシイタケ栽培の原木に利用される。
クヌギの大木。幹は通直である。よく手入れされた雑木林は萌芽更新されるため、大木は少ない。株の樹齢が100年程度を越えると、萌芽能力は急速に失われてしまうことが多い。武蔵野では江戸時代にクヌギを植えて雑木林を育てた。
和名は国木（全国で広く生育しているという意味）が訛ってクヌギになったといわれる。
クヌギの河畔林（埼玉県秋ヶ瀬公園）。荒川の高水敷にハンノキ・クヌギを優占種とし、エノキを交えた湿生林が広がる。ハンノキは湿地のパイオニア種でしばしば純林をつくるが、土壌水分の少ないところではクヌギ・エノキが優勢になる。当地のハンノキ林は関東最大規模とされる。関東平野の沖積低地にはかつて、広大なハンノキ林があったと思われるが、殆ど水田に置き換えられ、現存は極めて少なくなっている。
河川の中洲に群生するクヌギ（埼玉県毛呂山町越辺川）。河川沿いで野生状のものを見るが、後述の帰化説を考えると自生ではなく野生化したものかもしれない。
【クヌギは元々日本にはなかった？】
クヌギは中国大陸原産で、日本にあるものは全て植栽起源とする説がある。クヌギは人里近くに多く、奥山では殆ど見られないこと、クヌギの花粉は縄文時代前期からは出土するが、それ以前の時代からは出土しないことがその根拠となっている。コナラ・クヌギの雑木林は縄文時代初期といわれる日本での農耕の始まりと深い関係があるといわれている。雑木林が稲作や畑作に不可欠なものだとすると、クヌギは縄文時代前期に農耕技術や稲作の種籾とともに大陸から持ち込まれた可能性がある（※①②）。
また、国内のクヌギは有意な遺伝的分化が存在しない。本来、天然の樹木集団は長期的な気候変動に対応してその分布域を変遷させながら生き残ってきたため、同一種でも地理的に遺伝的な違いが生じていることが殆どである。国内のクヌギの遺伝子の変異の幅が狭いのは、原産地の多様な系統のうちのごく一部の系統しか日本に持ち込まれていないためと考えられる（※③④⑤）。このことをボトルネック効果という。
以上のようなことから、クヌギの現在の分布は自然のものではなく、過去に人為により急激に分布を拡大したことが考えられる。
〈参考資料〉
①大久保達弘 ドングリ（コナラ）の絵本 農山漁村文化協会 2017年
②鈴木和夫・福田健二 図説日本の樹木 朝倉書店 2012年
③森林総合研究所 広葉樹の種苗の移動に関する遺伝的ガイドライン
④齊藤陽子 先史時代における有用樹種クヌギおよびイチイガシの遺伝構造
⑤堀大才 新版 絵でわかる樹木の知識 講談社 2023年