2017年9月15日掲載

2022年9月5日改訂・再掲載

2024年2月9日改訂


和名:アベマキ(棈、阿部槙)

別名:コルククヌギ、ワタクヌギ、ワタヌキ、アベ、オクヌギ、クリガシワ

学名:Quercus variabilis

分布:本州(山形県・長野県南部・静岡県西部以西、紀伊半島を除く)・四国(瀬戸内海側)・九州(北部・対馬)。朝鮮、台湾、中国、インドシナ。

樹高:15~25m 直径:80cm 落葉高木 陽樹

 

低地~山地帯下部の二次林に生え、中部地方以西の雑木林では優占種になる。東海地方、中国地方、瀬戸内海沿岸地域には特に多い。薪炭用やコルク採取用として植栽されたため、クヌギと同様に自然分布がはっきりしない。山形や関東にも稀にあるが、植栽起源と思われる(後述)。クヌギよりも乾燥・痩せ地に強く、雨量の少ない痩せ地や尾根でも育つ。

 

葉は葉身12~22㎝、葉柄1.5~3.5cm。

左はクヌギ、右はアベマキの葉裏である。クヌギの葉裏は無毛で緑色に見えるが、アベマキの葉裏には星状毛が密生し、白っぽく見える。また、アベマキの葉はクヌギよりも幅広で丸みがある。

 

花。4~5月に開花する。

 

どんぐりは翌年の9~10月に熟す。堅果は長さ2~2.5cm。クヌギよりも小粒で楕円形であることが多い(写真のどんぐりは丸いタイプ)。殻斗はクヌギよりも厚く、鱗片はクヌギより長いことが多い。堅果は落下するとすぐに発根し、地中深くまで根を伸ばす。


樹皮はクヌギよりも明るい灰色で、縦に割れ目が入る。コルク層が発達し、樹皮を指で押すと弾力がある。コルク層の発達した樹皮や葉裏に密生する星状毛は、高温・乾燥に対する耐性を示している。

明治時代以降には樹皮がコルク栓や炭化コルクに利用された。第二次世界大戦中にはコルクガシの輸入が途絶えたため、戦後暫くの間まで本種が代用とされた。当時のコルク業者たちは、アベマキが多く分布する岡山・広島などに工場を作った(※①)。コルク層が厚いため、薪炭やシイタケ原木としてはクヌギに劣る。

コルク層の発達具合には個体差がある。コルク層がよく発達し、皮がはげやすいものをホンアベ、コルク層の発達が悪く、クヌギに近いものをミズアベと呼ぶことがある。

樹皮を観察すると縦筋が何本も入っているのが確認できるが、これは1年間に成長した樹皮の厚さである。樹皮は幹の内側から形成されるため、外側に押し出されるように成長する。そのため、外側の樹皮ほど古い。コルク層は15年で約2cm厚くなる。

アベマキの「アベ」は岡山県の方言で痘痕を指す言葉で、凸凹した樹皮を痘痕に例えたものである。「マキ」は薪の意味である。また、「アバタマキ」が変化して「アベマキ」になったという説もある。

 

樹形。写真は愛知県小牧市貴船神社のアベマキで、樹高25m・幹周4.6m・樹齢約300年の巨樹である。東海の雑木林にはアベマキが多いが、クヌギは全く見られない。関東出身の筆者が、初めて東海の雑木林を訪ねた時は衝撃を受けた。

 

【交雑種】

アベクヌギ 別名:アイノコアベマキ、ウスカワアベ、ミズアベ、シロアベ

アベマキとクヌギの雑種。葉裏の星状毛がまばらで、樹皮はコルク質だがアベマキのように厚くない。変異が大きく、クヌギに近いものからアベマキに近いものまである。長野県飯島町周辺に交雑帯が存在する他、中国地方でも多く見られる。


【関東周辺に逸出するアベマキ】

 アベマキ-コナラ群集は本州の天竜川以西に分布する。関東にはクヌギ-コナラ群集が広がるが、所々にアベマキが逸出している場所がある。

 群馬県高崎市観音山では、染料植物園周辺にアベマキが多数生育している。桐生市吾妻山の村松沢にもアベマキが30本ほど生育している。コルク採取用として植栽されたか、クヌギと誤植されたのかもしれない。

 また、筆者は神奈川県相模原市緑区の相模湖近くのクヌギ・コナラ林の中に、1本だけアベマキが生育しているのを見たことがある。かつて薪炭用に植林されたクヌギの種苗の中に混入していたのだろうか?興味深い光景であった。

 この他にも宮城県塩竈市、福島県太郎坊山、茨城県常陸太田市、埼玉県熊谷市周辺、東京都青梅市、千葉県柏市、神奈川県横浜市・秦野市、山梨県芦川渓谷などにもアベマキが逸出している場所があるという。日本海側地域では山形・新潟・石川の分布も、真の自然分布かはっきりしないそうだ(※②③)。

 アベマキの分布の東限が、フォッサマグナの西辺である糸魚川静岡構造線と大体一致するのも興味深い。かつて、日本列島は東北日本と西南日本に分かれており、フォッサマグナ地域は海であったことの名残なのだろうか?


〈参考資料〉

①喜多常夫 ワイン醸造家のみなさんへ ワイン栓の選択肢、スクリューキャップ?合成コルク?天然コルク系? 酒うつわ研究2007年2月号掲載

②松原輝男・広木詔三 ブナ科植物の生態学的研究 Ⅱアベマキの分布と種子期の性質 日生態会誌 1980年

③齊藤陽子 日本の森林樹木の地理的遺伝構造(34)アベマキ(ブナ科コナラ属) 森林遺伝育種第10巻 2021年