2017年11月1日掲載

2022年10月8日改訂・再掲載

2023年9月16日更新

 

和名:ナラガシワ(楢柏)

別名:カシワナラ

学名:Quercus aliena

分布:本州(岩手・秋田県以西)・四国・九州(対馬・壱岐を含む。鹿児島県を除く)。朝鮮・台湾・中国・インドシナ~ヒマラヤ。

樹高:15~25m 直径:90cm 落葉高木 陽樹

 

沖積低地や山麓の沢沿い・林縁に自生する。生育標高はナラ類の中で最も低い。近畿地方中部から中国地方・九州北部には比較的多いが、中部地方以東では極端に少ない。分布地点は全国的にも限られているが、ハルニレ・ケヤキ・エノキなどと河畔林を構成し、優占種になることもある。西日本では、雑木林でコナラやアベマキと混生することもある。

 

葉は葉身10~30cm、葉柄2~3cm、側脈9~17対。鋸歯は鈍形~鋭形まで変異が大きい。カシワの少ない東海以西では、柏餅の葉の代用とすることもあるが、乾きやすい。鋸歯が鋭いものをツクシオオナラ(別名:ノコバナラガシワ、学名:Quercus aliena var. acutiserrata)と扱うこともある。

また、葉はコガシワ(コナラとカシワの雑種)とよく似ており、しばしば混同されている。コガシワの葉はやや小形で葉柄が短く、葉身8~18cm、葉柄0.5~1.2cm、側脈8~12対。また、コガシワのどんぐりはナラガシワと違い、殻斗の鱗片・堅果の花柱がやや長い。

葉表と葉裏。基本種ナラガシワは葉裏に星状毛が密生し、灰白色に見える。葉裏に星状毛がなく、緑色に見えるものは変種アオナラガシワである(後述)。しかし、基本種ナラガシワでも幼木やひこばえ、陰葉は裏に星状毛がない。また、中間型も存在する。

 

花。4~5月に開花する。

 

どんぐりは10~11月に熟す。堅果は長さ2~3.5cm。個体によって形や大きさ、毛の有無など変異が大きい。

東京都八王子市北浅川で採集したどんぐり。東日本のナラガシワの堅果は、大粒で細長いことが多い。

大阪府三草山で採集したどんぐり。大阪府では生駒山と三草山に分布しているが、生駒山で見たどんぐりもこのタイプだった。西日本のナラガシワの堅果は、小粒で樽形・有毛であることが多い。

左の2個は大阪府三草山、右の2個は滋賀県愛知川河辺林で採集した堅果である。堅果の長さは、三草山産:2.2cm・愛知川産:3.6cmであった。ナラガシワの遺伝的地域性は、近畿地方を境に北と南で明確に異なっているという(※①)。このような堅果形態の違いは、遺伝的地域性に起因するのかもしれない。

 

樹皮は黒灰褐色で、縦に割れ目が入り、剥がれやすい。

 

枝はコナラよりも太く、あまり枝分かれしない。葉が大形で、枝も太いため迫力がある。

 

河川沿いの氾濫原で河畔林を形成するナラガシワ(東京都八王子市北浅川)。堅果の成熟時期が秋の台風シーズンと重複することを考えると、河川氾濫時に水流散布もしている可能性がある。

林縁に生えることが多く、光を求めて歪な樹形になっていることが多い(群馬県安中市碓氷峠)。関東では極めて稀だが、碓氷峠の沢沿いではナラガシワが優占種になっている。福島県猪苗代湖畔にもナラガシワの優占林が存在する。

尚、ナラガシワの天然林が少ないことの考察は以下を参照されたい。

 

大阪府三草山のクヌギ・アベマキ・ナラガシワ林。おそらくクヌギは植栽起源で、自然植生はアベマキ・ナラガシワ林と思われる。尚、コナラは少なかった。ナラガシワの生育地点は、生駒山では谷沿いや斜面に限られていたが、三草山では地形を問わず出現した。三草山の地質は石英閃緑岩帯である。三草山は兵庫県との県境に位置し、兵庫県では西播磨・但馬・丹波などに多く分布する(※④)。

ヒロオビミドリシジミ(通称:ゼフィルス)は幼虫がナラガシワの葉しか食べないため、この蝶の分布域(京都府北部・大阪府三草山~山口県東部に局所的)はナラガシワの分布の中心地と重なっている。里山の放置による遷移の進行や開発、スギ林への転換などでナラガシワ林が減少し、この蝶も減少の一途を辿っている。

 

【変種・品種】

・アオナラガシワ 別名:オオミズナラ、アオミズナラ 学名:Quercus aliena var.pellucida

ナラガシワの変種で、葉裏は星状毛がなく緑色に見える。基本種ナラガシワと混生する。

葉は裏に星状毛がないため、基本種ナラガシワよりも薄く感じた。

・オウゴンガシワ 学名:Quercus aliena 'Lutea'

ナラガシワの園芸品種。若葉や花が黄金色で、葉は晩秋に黄色く色づく。葉に葉緑素が少ないため、生長が遅く、樹高5~10mほどにしかならない。庭木に利用される。

オウゴンガシワの若葉と花。黄金色の若葉が美しい。

黄葉。春と晩秋の2回、黄金色の姿を見ることができる。実生に親木の形質は表れず、接ぎ木で増やす。

 

<参考資料>

①津村義彦・陶山佳久 地図でわかる樹木の種苗移動ガイドライン 文一総合出版 2015年

②野嵜玲児 ナラガシワ群落について-沖積低地の自然林植生の一型として- 奥田重俊先生退官記念論文集 2001年

③須田大樹 関東地方におけるナラガシワの分布とその生育立地 埼玉県立自然の博物館研究報告 2018年3月

④橋本光政 兵庫県の樹木誌 兵庫県農林水産部林務課豊かな森づくり推進室 1995年