和名:ナラガシワ(楢柏)
別名:カシワナラ
学名:Quercus aliena
分布:本州(岩手・秋田県以西)・四国・九州(対馬・壱岐を含む。鹿児島県を除く)。朝鮮・台湾・中国・インドシナ~ヒマラヤ。
樹高:15~25m 直径:90cm 落葉高木 陽樹
沖積低地・扇状地や山麓の沢沿い・林縁に自生する。生育標高はナラ類の中で最も低い。近畿地方中部から中国地方・九州北部には比較的多いが、中部地方以東(特に太平洋側)では極端に少ない。分布地点は全国的にも限られているが、ケヤキ・ハルニレ・エノキなどと河畔林を構成し、優占種になることもある。西日本では、雑木林でアベマキ・クヌギ・コナラなどと混生することもある。
葉は葉身10~30cm、葉柄2~3cm、側脈9~17対。鋸歯は鈍形~鋭形まで変異が大きい。カシワの少ない東海以西では、柏餅の葉の代用とすることもあるが、乾きやすい。鋸歯が鋭いものをツクシオオナラ(別名:ノコバナラガシワ、学名:var. acutiserrata)と扱うこともある。
また、葉はコガシワ(コナラとカシワの雑種)とよく似ており、しばしば混同されている。コガシワの葉はやや小形で葉柄が短く、葉身8~18cm、葉柄0.5~1.2cm、側脈8~12対。また、コガシワのどんぐりはナラガシワと違い、殻斗の鱗片・堅果の花柱がやや長い。
葉表と葉裏。基本種ナラガシワは葉裏に星状毛が密生し、灰白色に見える。葉裏に星状毛がなく、緑色に見えるものは変種アオナラガシワである(後述)。しかし、基本種ナラガシワでも幼木やひこばえ、陰葉は裏に星状毛がない。また、中間型も存在する。
花。4~5月に開花する。
どんぐりは10~11月に熟す。堅果は長さ2~3.5cm。
東京都八王子市・北浅川で採集したどんぐり。東日本のナラガシワの堅果は、大粒で細長いことが多い。
大阪府・三草山で採集したどんぐり。生駒山、京都府長岡京市粟生で見たどんぐりもこのタイプだった。西日本のナラガシワの堅果は、小粒で樽形・有毛であることが多い。
左の2個は大阪府三草山、右の2個は滋賀県愛知川河辺林で採集した堅果である。堅果の長さは、三草山産:2.2cm・愛知川産:3.6cmであった。ナラガシワの遺伝的地域性は、近畿地方を境に北と南で明確に異なっているという(※①)。このような堅果形態の違いは、遺伝的地域性に起因するのかもしれない。前述の京都府長岡京市の堅果から考えると、滋賀県と京都府の間辺りにナラガシワの遺伝的地域性の境界があるようである。
樹皮は黒灰褐色で、縦に割れ目が入り、剥がれやすい。
枝はコナラよりも太く、あまり枝分かれしない。葉が大形で、枝も太いため迫力がある。
【関東周辺のナラガシワ(変種アオナラガシワを含む)分布地点】
関東周辺では極めて稀だが、暖温帯~中間温帯の沖積低地・扇状地・山地帯下部の沢沿いに自生し、ハルニレ・ケヤキ・エノキなどと混生して優占している場所もある。河川沿いの氾濫原に生えることが多いが、オニグルミやヤナギ類のように河道内に生えることは殆どない。新潟県柏崎市では海岸付近の林でも見られた。小集団や後継樹が殆ど育っていない場所も多く、そのような場所では近年猛威をふるうナラ枯れによって、消滅する危険性がある。神奈川県相模原市の集団は、ナラ枯れによって消滅した。
ナラガシワの記録地点は以下の他にも存在するが、ナラガシワはコナラ属の交雑種と誤認されることが多いため、誤認と思われる地点(ナラガシワの生育環境に合致しない地点)は記載していない。
・福島県猪苗代町:猪苗代湖畔駅付近(優占林)
・福島県会津美里町:伊佐須美神社(社叢は町指定天然記念物)
・茨城県日立市:川尻町・蚕養神社(1本。※③)
・群馬県安中市:碓氷峠アプトの道(横川駅西~めがね橋。優占林)、麻苧の滝自然公園(13本)
・埼玉県毛呂山町:平山の毛呂川沿い(優占林。10本以上)
・埼玉県日高市:北平沢の高麗川沿い(6本)、新堀の高麗川沿い(数本。※③。筆者未確認)
・埼玉県秩父市:別所・下影森の荒川沿い(成木5本・若木4本。※③)
・東京都八王子市:西寺方町・下恩方町の北浅川沿い(優占林。33本)
・神奈川県相模原市緑区:中沢の沢沿い(3本あったが、ナラ枯れで消滅)
・長野県野沢温泉村:平林(村指定文化財の巨樹。現状不明)
・長野県茅野市:北山・子之社(3本)、市民の森
・長野県下諏訪町:高木津島神社(巨樹が1本)
・長野県岡谷市:出早雄小萩神社(1本。社叢は市指定天然記念物)
・長野県辰野町・塩尻市:矢彦・小野神社(成木3本・若木4本。社叢は県指定天然記念物)
・新潟県柏崎市:宮川神社(社叢は国指定天然記念物)
・新潟県見附市:西蓮寺(1本)、小丹生神社(4本)、耳取遺跡。中越地方の雑木林に多いとの情報あり。
・新潟県津南町:津南浄化センター辺りの信濃川沿い(河畔林)
福島県・猪苗代湖畔のナラガシワ。猪苗代湖畔駅付近に位置する林で、この林は猪苗代湖からの強風を防ぐ目的で指定された防風保安林である。植生はケヤキが優占種・ナラガシワが第二優占種となり、オニグルミ・コブシ・コナラ・オオバコナラ?・ハルニレ・ヤマグワ・イタヤカエデ・オオモミジ・メグスリノキ・ヤマザクラ?・ウワミズザクラ?・クマノミズキ・シナノキ・トチノキ・ハリギリ・スギ・アカマツ・イヌガヤなどが混生している。冷温帯の樹種がやや多い。大木が多く、自然度の高い林である。
群馬県安中市・碓氷峠のナラガシワ。関東周辺では最大規模のナラガシワ自生地である。碓氷峠ではナラガシワは標高約380~580mに出現する。スギ人工林が多いが、標高約500m以下の沢沿いの天然林ではナラガシワが優占種となり、コナラ・ケヤキなどと混生している。ナラガシワは沢沿いの林縁や急斜面に生育しており、光を求めて歪な樹形になっていることが多い。関東周辺では川沿いのみに生える傾向があるが、碓氷峠では川から少し離れた斜面にも出現する。群馬県レッドリスト(2022年改訂版)では絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されている。
東京都八王子市・北浅川のナラガシワ。河川沿いの氾濫原で河畔林を形成しており、2025年10月時点では右岸に21本・左岸に12本の計33本のナラガシワが現存している。ナラガシワ・ケヤキが優占し、チョウセンコナラ(ナラガシワ×カシワ)・コナラ・クヌギ・エノキ・オニグルミ・イヌザクラ・カツラ・キササゲ・イロハモミジ・マグワ・ニガキ・クマノミズキ・マユミなどが混生している。堅果の成熟時期が秋の台風シーズンと重複することを考えると、治水工事が施される前は河川氾濫時に水流散布もしていた可能性がある。東京都レッドデータブック(本土部)2023では絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されている。
【近畿地方のナラガシワ自生地】
滋賀県・愛知川河辺林のナラガシワ。琵琶湖の湖東や湖北を流れる大きな川の中流~下流には、ケヤキ・エノキ・ムクノキ・ナラガシワを主体とした河辺林(河畔林)が発達する。愛知川の自然堤防沿いではナラガシワ・エノキが優占し、オオバコナラ・クヌギ・アラカシ・アカシデ・ケヤキ・アキニレ・ムクノキ・シロダモ・ヤブツバキ・センダン・マダケなどが混生している。ナラガシワは自然堤防や氾濫原に多いが、高水敷に生えたものもある。マダケは洪水対策として植林されたものである。竹林の拡大や遷移の進行により、陽樹であるナラガシワの更新に適した明るい環境は少なくなってきている。河辺林は、かつては水害防備や薪炭林・農用林(里山)として人々の暮らしに役立ってきた。しかし、その後、治水工事により流れが安定したことと、石油・電力や化学肥料の普及によって里山の需要がなくなったことで、河辺林は役割を失った。そのため、多くの河辺林が砂利採取地や工業用地として開発され減少した。愛知川の河辺林は、森林の規模や植物の多様性において、全国的に見ても貴重なものとなっている。ナラガシワは高時川・犬上川・愛知川・野洲川・百瀬川・安曇川などでも見られる。
大阪府東大阪市・生駒山のナラガシワ。ナラガシワは谷沿いに多いが、山麓寄りの尾根沿いにも生えており、場所によってはアベマキ・クヌギとともに優占種になっている。クヌギは植栽起源と思われる。遷移はあまり進行していない。ナラガシワが多い場所にはコナラが殆ど見られないが、標高が上がるとナラガシワは見られなくなり、コナラの優占林になる。地質は主に花崗岩や斑糲岩などの深成岩で、土壌は浅い。また、生駒山のナラガシワは、葉が愛知川や三草山のものよりも小形であった。
大阪府・三草山のクヌギ・アベマキ・ナラガシワ林。おそらくクヌギは植栽起源で、自然植生はアベマキ・ナラガシワ林と思われる。コナラは少なかった。地質は花崗岩や閃緑岩などの深成岩からなる。ナラガシワは大阪府では高槻や南河内にも分布する。三草山は兵庫県との県境に位置し、兵庫県では西播磨・但馬・丹波などに多く分布する(※④)。
ヒロオビミドリシジミは幼虫がナラガシワの葉しか食べないため、この蝶の分布域(京都府北部・大阪府三草山~山口県東部に局所的)はナラガシワの分布の中心地と重なっている。また、ウラジロミドリシジミは東日本ではカシワ、西日本ではナラガシワを食樹とする。里山の放置による遷移の進行や開発、スギ林への転換などでナラガシワ林が減少し、これらの蝶も減少の一途を辿っている。そのため、ナラガシワ林の保全が重要視されている。
【変種・品種】
・アオナラガシワ 別名:オオミズナラ、アオミズナラ 学名:var.pellucida
ナラガシワの変種で、葉裏は星状毛がなく緑色に見える。基本種ナラガシワと混生する。
葉は裏に星状毛がないため、基本種ナラガシワよりも薄く感じた。
・オウゴンガシワ 学名:'Lutea'
ナラガシワの園芸品種。若葉や花が黄金色で、葉は晩秋に黄色く色づく。葉に葉緑素が少ないため、生長が遅く、樹高5~10mほどにしかならない。庭木に利用される。
オウゴンガシワの若葉と花。黄金色の若葉が美しい。
黄葉。春と晩秋の2回、黄金色の姿を見ることができる。実生に親木の形質は表れず、接ぎ木で増やす。
<参考資料>
①津村義彦・陶山佳久 地図でわかる樹木の種苗移動ガイドライン 文一総合出版 2015年
②野嵜玲児 ナラガシワ群落について-沖積低地の自然林植生の一型として- 奥田重俊先生退官記念論文集 2001年
③須田大樹 関東地方におけるナラガシワの分布とその生育立地 埼玉県立自然の博物館研究報告 2018年3月
④橋本光政 兵庫県の樹木誌 兵庫県農林水産部林務課豊かな森づくり推進室 1995年















