勤務先が移動になったのをきっかけに、車通勤から徒歩通勤に切り替えた。

片道35分。

運動不足解消のために始めたのだけれど、思いがけず楽しみになっているのが通勤途中の風景だ。

海沿いの道を歩きながら空を見上げ、季節の移り変わりを感じる。

そして毎朝目にするのが、この赤レンガの建物だ。

初めて見たときは「古い建物だな」くらいにしか思っていなかった。

でも調べてみると、この建物には呉の歴史が刻まれていた。

この建物は、大正10年(1921年)に石炭を原料とした都市ガスの製造を開始した「広島瓦斯電軌(現・広島ガス)阿賀骸炭製造所」のガス圧送室として建てられたものだという。

今から100年以上前。

まだ大正時代だった頃、ここで作られた都市ガスが呉の暮らしを支えていた。

当時の呉は海軍工廠の町として発展を続け、多くの人が働き、暮らしていた時代。

この建物もまた、その発展を陰で支えていた産業遺産のひとつなのだ。

味わい深い赤レンガの壁は、そんな時代の面影を今も残している。

その後、この建物は広島ガス海田工場阿賀製造所の倉庫などとして利用されたそうだが、現在は屋根が失われ、レンガ造りの外壁だけが遺構として残されている。

それでもなお存在感は大きい。

崩れかけた壁や草木に覆われた姿には、単なる廃墟とは違う重みを感じる。

100年以上もの間、この場所で風雨に耐えながら呉の移り変わりを見続けてきたのだから当然かもしれない。

その背後には現代のガス設備が見える。

新しい設備と大正時代のレンガ建築。

過去と現在が同じ風景の中に並んでいる。

毎日通り過ぎるだけの場所だけれど、こうして歴史を知ると見え方が変わる。

健康のために始めた徒歩通勤だったが、今では小さな歴史散歩の時間にもなっている。

忙しい朝でも、ふと足を止めて赤レンガの壁を眺める。

そして100年前、この場所で働いていた人たちのことを少しだけ想像してみる。

そんな時間が、思いのほか贅沢に感じられる。