プリン by akuma
朝、起きたら、りっちゃんが仁王立ちになって、僕を睨んでいました。
「真ちゃん、プリン食べたでしょう?」
「えっ何?」
「あたしが取っといた、ヒロタのプリン食べたでしょう?」
僕は、前日遅くまで飲んでいて、帰ったのは明け方でした。
何か食べたかも知れませんが、記憶が定かではありませんでした。
「もー、楽しみにしてたのにー」
「ええやないか、また買うてきたらー」
「ほな買うてきてー、今すぐ、すぐやでー」
食べ物の恨みは怖い、特に女の恨みは。。。。
僕はジャージを引っ掛けて、駅の近くの店まで、自転車で走りました。
まだ、頭がふらふらします。
小さな交差点に差し掛かった時でした。
右から来た軽自動車が、僕に迫っていました。
キキーッと急ブレーキの音と共に、僕は車のボンネットの上に乗り上がって、そのまま、路面に叩きつけられたのです。
一瞬身を引いて、体を丸くしたので、頭から落ちる事はありませんでしたが、背中をしこたま打ったので、息がまともに出来なくて、うずくまっていました。
車から降りてきた女の人が、
「大丈夫ですかー」
と言っているのが聞こえましたが、返事も出来ません。
数分後、僕は救急車で運ばれ、すぐ近くの病院に入院する事になりました。
「真ちゃん!」
慌ててきたのか髪の毛は乱れ、化粧もせず、寒いのにジーパンにトレーナーだけで彼女は駆けつけてきました。
「ああー、大丈夫やで、骨も折れてへんし、打撲だけやから」
「びっくりしたわー、お宅のご主人、救急車で運ばれましたーって、それだけしか聞いてへんかったからー」
「大げさやなー、先生も気分が良ーなったら帰ってもええって言うとったし」
「真ちゃん、ごめんなー、うちがあんな事言うたからー」
「ええって」
「相手の人は?」
「一旦帰ったわ」
「たっぷり慰謝料もらわなー」
「何をやーさんみたいなこと言うとんや、俺も不注意やったんやからー仕方ないねんて」
「そやけど、相手の人は怪我もしてへんやろ」
「怪我はしてへんけど、青うなって、廊下で倒れたらしいで」
「そんなんあたり前やろ、加害者ねんから」
僕が車を運転する立場としたら、避けようがなかったかなぁーと思っていましたから、相手の事をそこまで責める気にはなれませんでしたが、りっちゃんは何か戦闘態勢万全という気合になっていました。
「ほなら、そろそろ帰えろかー」
僕がベッドから起き上がろうとすると
「ええー、もう帰んのー、もうちょっとおりーな」
と訳の分からない事を言い出す始末。
これは、相手の人になおさら会わせない方が良いと思い、帰ることにしました。
その夜、事故の相手の人がやってきました。
「絶対、表に出てくんなよ」
「わかったー」
僕はお互い様と言う事で、医療費だけを受け取る事で、相手の保険屋さんの話にも承諾をしました。
それでも僅かばかりの慰謝料のような物が出るみたいでした。何か気の毒な感じもしました。
相手の人が帰った後、手土産の紙袋の中身を見て、
「あー、ヒロタのプリンやー、真ちゃん頼んどいたのー」
って、そんな訳あるはずもないのに、
「ええ人やねー、あの人」
りっちゃんは、手のひらを返したように、にこやかになっていました。
"げにおそろしきは女なり"
と言う言葉が浮かんで消えました。
by akuma
