寒い、寒い夜のこと。

 

「カタカタ」というような音で目が覚めた。
何だろうと、暗闇の中で耳を澄ませてみたが、もう何の音も聞こえてこない。
時計を見ると、午前4時少し過ぎ。

 

(寒ぅ……)
布団から出て音の正体を探る気にもなれず、どうせ築○十年の木造家屋である我が家のどっかの柱が軋んだんだろうと決め付けることにして、すぐに寝てしまった。

 

次の日も寒い夜だった。

 

「カタカタ」というような音で目が覚めた。
(ん~、結構近いし、柱の音じゃないよなぁ……)
気のせいか、起きても断続的に続いてるし……

 

(いわゆる、ポルターガイストってヤツか?)
そんなことを考えながら時計を見ると、頃合よろしく時刻は午前3時を少し周ったところだった。

(……マジか)

ホントに、超常的なモノがきちまったんだろうか?

 

「カタカタ」
こちらの胆力を試すかのように、一旦収まった音がまたし始める。

 

勝手知ったる我が家のこと、怖くない怖くないと言い聞かせつつ、それでもちょっと……嘘です、かなりどきどきしながら、意を決する。

電光石火の動きで布団を抜け出し、部屋の電気を明々と点けた。

 

(……ん~、これは……)
間抜けなことに、すべてがぼやけている。
コンタクトを外していたんだった。知る人ぞ知る、俺は非常に眼が悪い。これでは、たとえお化けだかポルターガイストだかに実体があったとしても多分識別不可能だ……

 

(……ん~)
音はまたもやさっさと止んでしまい、ぼやける視界で正体を探ろうとしたが、さっぱりだった。

 

(寒ぅ……)
それでも、さすがにしばらくは音の主の再訪を待っていたのだが、暖かな布団の中に避難して待つうち、待ちきれずに寝てしまった。

 

 ※

 

翌朝――

 

捜索の結果、隣の部屋の神棚の下にお供えしていた鏡餅に異変が。
餅自体は無事だったが、お供えの小魚と米が奪い去られていた。

 

どうやらネズミの仕業らしい。
神棚の下の収納前に、米が散らばり、小魚の一部が残されていた。
どうやらその収納から出入りしたようなのだが、収納の扉はほぼきっちりと閉ざされている。

まるで、去り際にきっちり閉めて行ったとでもいうように。

 

(ジェリーかよ……)
そういや、ちょっと前に台所で展開されたネズミ捕り作戦の際、捕獲用のネバネバ台紙に引っかかったのは、ネズミではなく、そんなものを仕掛けているのをすっかり忘れていた家のハハオヤの方だった。

大昔から活躍する猫と仲良く喧嘩するファンキーなネズミが我が家にやって来て無双する姿が目に浮かぶ。

 

ううむ、ジェリー侮どれず!

 

 

 

 ※

 

鏡餅を下げてしまうと、ポルターガイストもジェリーも我が寝床近辺には出てこなくなった。

まあ、食い物が消え去ったんだから、そらそうか。

 

そういえば夜中の騒ぎに起こされたのは、ちょうど鏡開きの日の夜と、その翌晩のことだった。
もしかして、ジェリーってば、出しっぱなしの鏡餅をどうにかしろって神使気取りだったんだろか……