「海へ行こう」
思いついて、メールすらなしに君の部屋のチャイムを押した。
「ヤダ」
靴も脱がずにそう言った僕の提案を君は即座に却下する。そりゃまあ、何日か続きの猛暑日、用もないのに外に出るのは躊躇われる。
だが、拒否権は認めない。
嫌がる君を拉致るように部屋から連れ出して車に押し込んだ。
暑い、暑すぎる。
クーラーを利かせているのに、さっぱり快適にならない。フロントガラス越しに遠慮なく入ってくる夏の日差しが心を灼いていく。
「ちょっとクーラーの効き悪すぎなんですけど」
「ニュースチェックしてる? 今日も猛暑日だよ、モ・ウ・ショ・ビ!」
海へのドライブの間中、君はひたすら文句をつけまくる。
「うおっ、マジか」
「もぉ、やっぱり超暑いじゃん」
車を一歩出たとたん、猛暑日が牙を剥く。
ビーチは靴を履いていても熱く、海風は呼吸を苦しく思えるぐらい湿気たっぷりで生温い。
だが――思った通り!
もともとそれほど人気のある浜ではないが、それでも夏の最盛期には人であふれかえっているはずのビーチに人影はまばらだ。
蚊も猛暑日には飛び回らない。
いつもは君の周りで五月蠅奴らもあまりの暑さにお休み中で、僕は君を独り占め。
「馬鹿ね」
僕が思いついた素敵な実験の成果を得意満面に説明してやると、プリプリと先を歩いていた君は少し機嫌を直して振り向いた。
タイミングよく少しだけだが涼を含んだ海風が吹き抜けて、君の髪を揺らす。
うん――綺麗だ、とっても。