誰もいない一人の部屋に帰ってコートを脱ぐと、さっきまでいた海沿いの街の潮の香が微かに香った。

 

 ※

 

「アフリカに行くことになった」

突然、別れ際にそう言われた。

 

「当分、帰ってこれそうもない」

わたしがその名前すら知らない国の、レアメタル採掘プロジェクトに一から関わるのだという。

 

「国家戦略の端くれを担うってことになるのかなあ」

レアメタルの重要性は年々増すばかりで、どの国も新たな供給源を見出すことに血眼になっているのだそうだ。

 

そんなの、わたしには関係のない世界だ。

関係ないのに、突然そう聞かされて、なんでこんなに動揺しているのだろう。

「おめでとう」

やりがいのある仕事を任された大事な友達を、なぜ素直に祝福できないんだろう?

 

 ※

 

「好きだ」

と、初めて言われたのはいつのことだったろう?

「ごめんさい」

と、これまで何回悲しませてきただろう?

 

一人が寂しくなると、気ままに呼び出した。

今日も、いつものように愚痴に付き合って貰って、いつものように何事もなく気楽なデートを終えるはずだった。

 

<ずっと大事な友達でいたかった>

というのは、都合がよすぎる話だったのだろうか?

 

「行かないで」

なんで、あんな身勝手な言葉を口走ってしまったんだろう?

 

 ※ 

 

どうしよう?

どうしたい?

 

今までの関係が終わってしまうのが怖いのか、

それとも一歩を踏み出すのが怖いのか、

何もまとまらないぐちゃぐちゃな頭のまま、わたしは膝を抱えてうずくまる。

 

一人の部屋は、ひどく寒々しくて。

こんな時こそ、あなたに電話したいのに。

優しい声で、慰めて欲しいのに。

 

どうしよう?

どうしたい?