風が吹けば桶屋が儲かる。
今日はそんな日だったのかもしれない。
強く冷たい風の日。
冬ならではのピューと吹く北風だ。
丸の内オフィス街、ビルとビルの谷間に風が吹き抜ける。
地上を行き交う人々は、地下へと移ろい
丸の内のダンジョンは密度が高いエリアへ変貌する。
暑い真夏のあの日もそうだった。
人口が多い地下街では、
いつもの休憩を取るOL達、
商談の人、
買い物を楽しむ老夫婦、
観光を楽しむヨーロッパの方々に、
忙しく駆ける中国人等、
今日もカオスな東京駅なのであるが
とりわけ人が多い。
暖かいを求めて人は集うのだ。
そして更に落ち着きと温かさを 求めるものはカフェに足を伸ばす。
しかし満員。
ここも満員。
溢れかえる店内。
カフェは地下の空間の中でも激戦区なのだ。
今日は美味しい茶を飲みながらスタイリッシュに企画を考案したり
落ち着いた心で文章を書きたかった私にとって予想外の痛手の現状。
思いつく限り巡っても巡っても
人、人、人。
満員、満席、満室。
彷徨い続けてもはや1時間を迫ろうとしている。
落ち着いた場所は確保できないと見切りつつある時間。
やっとの思いで、なんとか見つけた小規模な路面席(商業施設内の路面席のために寒さは免れられるのである。)
2席分だけ空いていた。
カフェ難民として彷徨い続けて途方に暮れていた。
それだけに席があるという事実だけが、この私を満足させる。
もはや落ち着きのある空間を求めてではなく
席という場所の確保が最重要項目になっていた。
ただただ茶を席で飲めればよい。
ほっとしたい。
ただそれだけである。
難民化した故の疲労が、カフェ探し初期の段階時にあった欲をも最小限化させたのだ。
2席空いた席を二度見した後ドリンクを決める。
普段飲まないドリンクなんかが良いではないか。
キャラメルラテを頼んでみる。
しかもSサイズをやめてMサイズでオーダー。
多めの分量は、その分の休息をもたらすだろう。
カップいっぱいに注がれたラテ。
苦労の末、褒美のように煌めいて見える。
要は、単純に嬉しかったのだ。
やっと手に入れる安息に。
しかし悲報は突如として現れる。
いつもそうだ。
残念なタイミングを呼び起こすのは
油断している時なのだ。
会計時にそれは起きた。
支払い中にあの!この俺が!求めていた!
あの安息の地。
確約された俺の座席!!
マダムご一向:「良かったわぁ~席とりましょ!」
黒船襲来!!
おもむろに、休息を約束されていた我が領地を横取りされたのである。
急なマダム達の上陸作戦に驚愕する。
俺氏心の叫び: 「なぅあんだとぉぉぉぉ~!」
と大声をかみ殺しつつ、
まだ残る最後の座席に目を向ける。
マダムご一向: 「座席足りませんのでくっつけましょ!!」「キャッキャ!!!」
そう、マダムご一向は、座席を拡張すべく
席の統合を行ったのだ。
領地拡大。
約束された安息の消失。
この時点で店外でのテイクアウトが約束される。
カフェ難民として丸の内を彷徨い続けたこの私にとって残念すぎる結果となった。
30分の楽しみは、早口3分へと短縮。
ただただ今日も"天才的な残念"を引き寄せたのだった。