こんにちは、児島です。



前回のブログでは、

いささか私の物言いが、

信仰が生きるアフガニスタンに希望を託した、明るい妄誕へ流れてしまった。

肯綮に中った想像にはリアリティが含まれるが、

私の前回の妄言が、どれくらいアフガニスタンの事象を汲み取っているかは分からない。

日々残酷な事件が発生しているときに、

あまりに将来に明るさを思うのは不謹慎かもしれない。


BBCの行ったアフガニスタンでの世論調査が今日11日に放送されていて、

それによると、

70%のアフガニスタン国民が事情は好転していると考えている、という結果だったが、

母集団が1,500人というのも気になるし、

春の攻勢を前にした現時点で、

BBCが掘り起こした世論に、

そのまま現実が映し出されているとも思えない。


ただ、私が思うに、

希望の種とは、

真摯な想像力の余地を残しながらリアルを顧眺するという、高度な緊張感から生まれるはずで、

私としては

現在起きている事象に目を向けながらも、

現実を咀嚼しようとする意気込みを持って、

心事に浩さを保ち続けられたら、と思う。




アフガニスタン便り-アポノジの乗合ジープ
写真:雪の降る中、停車する乗り合い自動車。かなりの山奥にまで人と荷物を運ぶ、ロシア製ジープである。なお、屋根に載っているのは、荷物ではなく、2人の乗客である。雪がひどく、プラスティックシートをかぶって乗っている。この寒い中、何時間も屋根の上で揺られるのである。


さて、今回は、

前回とバランスをとるわけではないが、

少し、現実的な話を書いてみる。


* * *


このブログで昨年書いたように、
冬の夜間のサリプルでは、

日中には220V以上ある電圧が50V以下に下がる。

サリプル中心部の電化が年々進んでいて、

夜間の電力需要が増えるからであろう、

この電圧低下は昨年の冬よりもさらにひどくなっている。



日没前には、デスクトップ型のPCはダウンしてしまうし、

最近は比較的電力を必要としないネットも、

頻繁に不通になるようになり、

多くの日で、夕方から22時くらいまでダウンしてしまう。


オフィスの中では、電灯をつけていても手元も見えないし、
オフィスの外になると、

敷地内に治安対策のため設置している外灯も、

マッチを燃やしている程度しか光らず、

電球の中のフィラメントの細い線まで直視できそうなほどの光しかない。


更に悪いことには、

近所の電気使用量の気まぐれな変化により

電圧が頻繁に上下するので、

それがオフィス内の電化製品にダメージを与えることである。

現に2週間前、冷蔵庫のモーターがやられて、修理に出している。


気持ちも沈みがちな、寒灯の夜が続く。

スタッフとの会話も、この暗さに同調するように、

耳語するような小声になりがちである。

暗いオフィスの中で

電圧の変化に呼応して、スタビライザーが

ギュルギュル、キーキーと鳴り続けている。


* * *



この状況を冬の風情としてたのしむことも出来ようが、

防犯上よくないし、

オフィスの電化製品にもよくない。


というわけで、

数ヶ月前に、

この低電圧対策として、

サリプルに新しく出来た電気屋さんに注文してトランスを製作してもらって、
オフィス内のパソコン用の電源に試用してみていた。
正直、はじめは、

この手作りのトランスには余り期待していなかったのだが、
これが存外に調子よく、
手元は少し明るくなった。

PCやネットのダウンする時間も短くなった。


このサリプル製のトランスが好調であるので、
気をよくした私は、現地スタッフと相談し、
外灯用を少しでも明るくするために

もっと容量の大きいトランスを製作しよう、ということになり、

年末にそれを設置したのだが、
予想よりも外灯が明るくなった。


実は、私個人としては、
サリプルの真っ暗な冬の夜は

大気中に砂埃の多い乾季の夜空に比べると、

星がはっきりと見えるのが好きなので、
もし、トランスを設置して外灯が明るくなると
”天の川が見えなくなるのではないか”
という心配もしていた。
しかし、そんな趣味的な気分で治安対策を犠牲にするわけにはいかないので、
大型トランスを導入してみたわけである。


幸か不幸か、

星空が見えにくくなるほどの劇的な改善は見られなかったが、

それでも警らのためには大きな改善となった。


* * *


と、ここまで

なぜ長々と、

サリプルの電気事情の話を書いているのか、

自分でも忘れそうになっていたが、

そうそう、
”モハメド・ユヌス・ナワンディッシュ”という人について書くための枕のつもりだった。


昨年のブログで、

サリプルの電気事情を紹介した折、

(たしか、2009年の1月ごろのブログだったかと思う)

片田舎のサリプルの電化が以外に早かった理由として、

水・エネルギー省の副大臣であった

上記のモハマド・ユヌス・ナワンディッシュという

サリプル出身の人物について書いたことがあった。

彼が副大臣だったのは、カルザイが2004年に正式に大統領に選任される前の、

暫定政権期、2002~2004年頃であるが、

その後、どうしているか分からない、と書いた。


で、
最近、そのナワンディッシュ氏についての消息が分かった。

先ごろ罷免されたカブール市長の後任として、

氏が選ばれた、ということが判明したのだ。

久しぶりに表舞台に戻ってきたというところか。

当然ながら、カルザイ大統領の指名である。


各種メディアで報道されている通り、

現在、カルザイ政権は、内閣の人事で紛糾している。

1月2日に、カルザイが選んだ大臣のうち、実に17人が議会で否認されてしまい、

9日、新しい16人の候補者がリストアップされた。

今後どうなるか、注目されているところである。


カルザイ大統領には、

内閣閣僚だけでなく、

地方の知事や市長についても、実質的にその選任の権利があるらしい。

この点については、

現在のアフガニスタン世論のなかで、

「地方の首長も、民主主義的な選挙で選ばれるべきではないか」という議論が起きているが、

いまのところ、この点についての法整備をするところまでは進んでいないようだ。


西欧のメディアでは、

”中央政府の汚職体質が改善できないのであれば、

地方からの改善を実行するために、

まず、地方の首長に清廉潔白な人間を選ぶべきだ”

という主張もされているが、

それら地方の人事権もカルザイ大統領にある、というのはどうであろう。


罷免された前カブール市長であるアブドル・アハッド・サヒビ氏は、

私の知る限りでは、

カブール市内の土地を民間企業に貸与する際、

入札を行わず、自身の親族の企業を選んだということで、

罷免されたそうである。


* * *


さて、後任に指名されたナワンディッシュ氏については、

サリプル出身であることは分かっているのだが、

その人物についての評価はあまり仄聞できない。

わかっていることは、

氏がジュンベシ出身ということである。

もちろん、ジュンベシとは、

北部同盟の雄、ドスタム将軍が率いていた軍閥の名前である。

そして、ドスタム将軍は、先の大統領選挙でカルザイ支持に回った。


* * *


カルザイ新政権の内政手腕への一般的な批判・懸念としては、

”政府内にはびこる汚職体質を一掃できるか”、

”先の選挙当選を担保した軍閥出身者の協力への政治的見返りを如何に処理するのか”

という二点が挙げられる。


サリプルなど北部の一部は、ジュンベシのお膝元である。

非常に短絡的な理想主義的発想をするなら、

カルザイに協力したドスタム将軍への政治的配慮は、

カルザイに協力したワハダットなどの他の軍閥関係者と同様に、

極力避けるべきだ、ということになる。


しかし、状況はそれほど単純なものではない。


サリプル周辺に関して言えば、

良きにつけ悪きにつけ、個人の影響力はジュンベシに裏打ちされていることが多い。

軍閥は、”清廉潔白な徳者の集団”では勿論ないが、

同時に”極悪人のみからなる集団”というわけでもない。


ジュンベシの実体については分からないことが多い。

ドスタム将軍自身についての醜聞は多いし、

タリバン時代から、その内紛はよく知られるところである。

しかし、一方で、ジュンベシ統治下を懐かしむ声も聞かれる。

たとえば、

ジュンベシは、教育に熱心であった、と言われる。

現在、国立大学に編入された、シビルガンの大学は、

もともとジュンベシが設立した大学であった。

初等教育においても、男女ともに、今よりも恵まれていた、と話す者もいる。


確かなことは、

過去にジュンベシが大きな影響力をもっていて

今もそれが生きていることである。


地方の州の発展に貢献できるような有為の人材は、

それなりの影響力を持った集団に属していることが多い。

サリプルの場合、優秀な人材の多くには、

何らかの形でジュンベシに関わってる者が多い。

この間まで続いていた戦国時代の中で、

軍閥から完全に中立な有力者でいることができるのは、稀であろう。


地方の発展が、国情の安定に大きく寄与すると考えられるアフガニスタンでは、

地方の事情に明るい人材が、

地方の声を中央に上げるべきである。

その地域に全く不案内な人材を起用しても、

地域住民のためにならないこともあるだろう。

悪党を選ぶべきではないが、

もし有為の人材がいれば、

彼や彼女が軍閥との関係を持っていたとしても、

登用することが必要になるかもしれない。


このように考えてくると、

今後行われるカルザイの人事に、

選挙の票集めに加担した軍閥への見返り人事について、

杓子定規な批判をするのは、害のあることになるかもしれない。


もちろん、

アフガニスタン国内全体でみれば、

ジュンベシ配下のような事情のところばかりではないだろう。

もっと小規模の有力者が林立しているところでは、

かえって部外者が任命されるほうがよいところもあろう。

また、当然ながら、

無分別な軍閥のコマンダーを、

中央政府内のパワーバランスだけを考えて闇雲に任命するのも問題外である。


* * *


この点、

9日に発表された、2回目の閣僚候補者リストには、

私のスタッフの話では、

あまり聞いたことのない名前が多い、ということだ。


カルザイ大統領としては、

1月28日のロンドン会議までには内閣を固めたいようだ。

その後に、地方の首長の人事にも着手することになるだろう。


軍閥への見返り人事、という視点で言うなら、

それぞれの候補者に、どのような背景があるか、

軍閥関連の背景について、どこまでを許容するのか、が私の気になるところだ。


その他、汚職への対応、欧米諸国の対応など、

近々に行われる人事への注目点は多い。

とにかく、

まずは16人の候補者に対する議会の判断が待たれる。



アフガニスタン便り-カラフルなロバと子供
写真:冬のサリプルの典型的な景色。全体がうすら寒い褐色の世界になり、足元は雪や泥でベチャベチャになる。この季節は、村人が身につけている明るい色の服や、門扉などを彩る派手なペンキが、とても美しく見えるものだ。