こんにちは、児島です。


アフガニスタン北部で仕事をする私にとって、

ここ最近、
大きな心配事がひとつ増えた。


それは、
米軍によるアフガニスタンでの対テロ作戦のための、
軍事拠点及びロジラインの維持が難しくなっており、
米軍が新たな物資輸送経路を開拓しようとしていることである。


すなわち、
米軍のロジラインの要であった

キルギスタンのマナス空軍基地が閉鎖されて米軍の使用が不可能となり、
また、パキスタンとアフガニスタンの国境を通過する陸路の輸送ルートも、
タリバンの攻撃により維持が難しくなっている事態を受け、
米軍は、新たなロジラインとして、

クンドゥズ-タジキスタン
マザルシャリフ-ウズベキスタン
アンホイ-トルクメニスタン

の3つのロジラインを開拓しようとしている模様なのである。
そして、この3つのラインは全てアフガニスタン北部に位置する。


さらに、まだ噂レベルの話ではあるが
ジャウジャン州の警察関連施設に、
かの有名なPMC、Blackwater が駐屯の増強を始めている、というのである。
PMCは、イラクでの米軍の作戦でも、そのロジラインを確保するために米軍が重用しており、
米軍の長期作戦の実行には欠かせないアクターである。


これらの知見が示唆することは、
北部を米軍ロジラインのひとつとして確立しようとしている可能性は非常に高い、
ということである。


ここで、私には心配な点が3点ある。


第1点は、
これまでこのブログでも触れてきたが、
アフガニスタン北部は現在、カブール周辺や南部、東部に比べ、圧倒的に治安が安定している。
もちろん、タリバンなどの反政府勢力が拠点として使用す傾向が強い地点も幾つかあるが、

反政府勢力による事件に関わる被害の絶対量が、圧倒的に少ない。
一方、南部や東部では、治安悪化の為に復興活動が停止状態となっているところが多いと言われている。
治安が安定しているということは、北部復興ための大きなアドバンテージであった。
しかし今後、北部へ米軍ロジラインが伸びてくるために、
反政府勢力が活性化して、

そのロジラインの分断を狙ったタリバンの攻撃が北部で広がるのではないか、

それに伴い、北部全体の治安が悪化するのではないか、という懸念がある。
これが現実となれば、ついにアフガニスタンでは、
反政府活動が全土に例外なく広がることになり、

復興活動は全土で停滞傾向を示すようになるであろう。


第2点は、

新しい北部ロジラインを反政府勢力の攻撃から守り維持するために、
更に大きな経費が必要となるのではないか、ということである。
北部のロジライン、と一言でいうが、これは長大なものであり、
北部から南部カンダハル方面へのライン、カブールへのラインと2つのラインを考えると、
維持すべきラインの長さは、地図で大まかにみても1,500キロ位になるのではないか。
このラインを守るために更に、費用が嵩むだろう。
1つめの心配とも関連するが、
ロジラインの拡大→維持の為の経費増大、反政府対策への経費拡大、
ということになれば、
国際社会への負担は更に増大するだろう。
治安維持のための部隊派遣、その維持のためのロジライン確保、それを狙った反政府活動の増加、悪化する治安に対抗するための更なる部隊必要性・・・

という悪循環だ。


第3点は、

米軍のオペレーションが北部でも頻繁に行われるようになれば、

一般市民が巻き込まれる事件が多数発生するかもしれない。


これら3点が現実化すれば、

欧米を中心とした国際社会全体が、
ベトナム化するアフガニスタンに巻き込まれていくのかもしれない。


***


米軍にとっては、この点を勘案した上での、ロジライン開拓の判断であろうかと思われるが、

他意はないのだろうか。

米軍は少なくともすでに2007年ごろから
米軍中央司令長官が訪問するなどトルクメニスタンなどとの交流を深めているし、
トルクメニスタンでは、
2006年12月に厳しい情報統制と権力集中体制をひいていたニヤゾフ大統領から
ベルディムハメドフ大統領に代わってから、開放化に向かっている。
しかも、トルクメニスタンはイランと国境を接している。
つまりトルクメニスタンは、パキスタンと同様、地政学的な要地にあるのである。
もしかすると、以前からひとつのオプションとして北部ラインを考えいたのかもしれない。


確かに、
キルギスタンのマナス空軍基地を失うことになったのは、外交的失策であったと思える。
背景にはロシアとの駆け引きがあったと報道されているし、
ロシアと欧米の関係を考えても、欧米は中央アジアに拠点を維持したかったはずであるであるから、
キルギスタンを失ったことは、大きなビハインドと言える。


しかし、うがった考え方をするなら、
これで、米軍は、アフガニスタン全土に本格的な軍事展開をする理由が出来たわけであるし、
また、この作戦の維持を機会に、たとえばトルクメニスタンとの関係が深くなれば、
欧米が常に戦略上必要としている中央アジアでの強力な拠点の基礎となる。
パキスタンが不安定化している現在、
これは案外、アメリカにとって重要な副産物と考えているかもしれない。


***


Anglo-American regional policy の核心が奈辺にあるのか、
おそらく、全てが流動的な現時点では誰にも分からないのだろう。


ブッシュ政権からオバマ政権へと代わったことで
対イラン政策、対中央アジア戦略がどのように変更されるのか、
世界的な経済危機はアフガニスタン復興支援に影響を与えるのか、

各国の資源獲得政策はどのように変化するのか、

などなど、
まるで、気候変動予測のための全球モデルのように、
変動するパラメータだらけの事象である。


***


では
アフガニスタンへの真に実のある復興援助を目指す我々はどうすべきなのだろうか。


欧米諸国の外交戦略上の複雑な目論見のなかで、
それらを軽視することなく見つめながら、
そしてむしろ、それらを利用するぐらいの読みの深さで、
着々とアフガニスタンの復興をしていかなくてはならないだろう。


ひとつ確かなことは、
欧米の中央アジアに対する外交戦略は、
かれらにとっての優先順位の高いゴールの達成の為に決定されるのであり、
そこでは、

例えばアフガニスタンの政情不安がゴール達成の障害となる場合は、
アフガニスタンへの復興援助が行われるわけだが、
それは、いわば対症療法的な手段でクリアすればいいだけのハードルのひとつなのである。
だから、
アフガニスタンが本質的に抱えている貧困や内紛のポテンシャルを
本格的に解決しようとはそれほど思っていないだろう、

対症療法で安く済むならそれを選ぶだろう、と思われる。


一方、我々支援に携わる者は、
欧米の外交戦略上の目的とは無縁なところで、
アフガニスタンの本格的な復興を実現化することを志向している。

欧米の戦略が対症療法で、我々が根治を目指すのであれば、
我々はアフガニスタンの人々とともに、

「アフガニスタンの安定」が、Anglo-American の戦略の中で
どの程度本気でクリアすべきハードルとして位置づけられているのかどうか、

という基本的なところから、
深く考えていかねばならない。

そのなかで、

アフガニスタンは、
まるで、最後の国王ザヘルシャーが実践していたように、
アフガニスタンをとりまく国際政治の中でバランスをとりながら
復興を成し遂げなくてはならない。


***


経済のグローバル化、

世界的な環境問題・気候変動、

インターネットの普及などのせいで、
一見、国際政治の判断基準が、
ポストモダンと呼ばれるような、
参加しているアクター全員がお互いの多様性を認め合いながら、
平和裡に事象を解決しようとしているように錯覚されているように思う。
つまり、イスラエルやコンゴのような情勢は単なる例外的事象なのだ、

という思い込みがあるような気がする。

しかし、中央アジアをめぐる戦略をみていると
国際政治の判断は依然として、古式ゆかしい残酷さをもったままであり、
そこで生き抜くためにはプレモダン的外交能力が未だ必要とされている、私は思う。
アフガニスタンは、その両方の能力を身につけなくてはいけない。
もちろん、それは日本も同じである。


***


災害にしろ、戦争や内紛にしろ、
異常に酷薄で不条理で規模の大きな悲劇は、いずれ必ず、国際社会を疲弊させていく、と私は思う。
人道主義的支援活動の本来の意義は、その活動自体にあるが、
もし、人道的活動に大局的な意義もあるとするなら、
それは、不条理な悲劇による国際社会の精神的・経済的疲弊を防ぐことにあると思う。
それが我々の活動の大局的意義だと思う。
だから、アフガニスタンの復興を目指すのである。


楽観論かも知れないが、
悲劇による国際社会の疲弊を防ぐ、ということは、
最終的には(何百年後か知らないが)、
各国の外交戦略や政治戦略と、
一致しないわけはないと思うのだが、

それこそ、甘いだろうか、思い込みだろうか。


アフガニスタン便り-ISAFとANA

写真:ISAF(国際治安支援部隊)とアフガニスタン国軍の合同演習