違う文化の国を訪れて、視野を広げたい、
ボランティアをして困っている人々を助けたい、
というのは立派な心がけですが、
「果敢な挑戦」なのか「無謀な挑戦」となるかは、
どこに、どのような準備と体制で挑むかによります。

例えば、充分な経験を積み、
サポート体制を整えた著名な登山家
がエベレスト登頂中に遭難して亡くなっても、
それは「無謀だった」と言われて
非難されることはないですよね。

それは、治安状況の悪い国で働く場合も同様です。

アフガニスタンに事務所を置き、活動している大半の
国際NGOは治安情報に細心の注意を払い、必要な治安対策を講じています。

韓国人が拉致されたガズニ州では、
今年の4月以降に拉致された人は、今回の拉致事件で
60名に上ったと報告されています。(Afghanistan NGO Security Office情報)
ということは、今年度の4月以降、韓国人23名が拉致されるまで、
同ガズニ州で37名が拉致されていたということになります。

ガズニ州の治安状況は非常に悪く、拉致のリスクが高いのみならず、
爆弾テロや、タリバンと治安維持部隊の衝突が頻繁に起きている
地域です。国際機関やNGOの国際スタッフもアフガニスタン人
スタッフも極力立ち入りを控えているような地域でした。
このようなガズニ州を大型バスで多くの外国人が移動するということは、
一般的な治安対策を講じている団体にとっては考えられない行為です。

先般書いた通り、誘拐・拉致は、アフガニスタンのような国では、
高度に政治化される問題です。メディアによっても大きく取り上げられます。
事件に巻き込まれた本人や、家族、出身国政府のみならず、
アフガニスタンで活動している国際コミュニティに対して大きな影響を及ぼします。

実際、ドイツ人エンジニア2名の拉致に続き、韓国人拉致事件が起きた
から、国際機関やNGOの国際スタッフに、警察の武装護衛なしでは、
カブール市外に陸路で出てはならない、というアフガニスタン内務省からの
お達しが出てしまいました。多くの国際NGOは、非武装を原則としているため、
実質的に行動が著しく制限されてしまうこととなりました。

また、今回の事件を一つのきっかけとして、日本政府(外務省)も
アフガニスタンに関する渡航情報(危険情報)を
カブール、マザリシャリフ、ジャララバード、ヘラート、バーミヤンを
「渡航の延期」から「退避勧告地域」に引き上げ、
アフガニスタン全土を退避勧告地域に引き上げました。結果として、
日本政府資金による事業を実施しようとする日本のNGOは、新規事業を
実施する際には、邦人スタッフを国外に駐在させ、アフガニスタン国外
からの遠隔操作でしか事業が実施できなくなってしまいました。

また、拉致事件は過去にも多数起きていましたが、今回の拉致事件は
タリバン政権崩壊後最大の拉致人数であり、特に大きくメディアに
取り上げられていることもあり、この拉致事件の解決方法の如何に
よっては、さらなる拉致・誘拐を助長し、結果として多くの
国際機関やNGOの活動範囲を制限してしまうことになりかねません。

悲しいことに、アフガニスタンの人々のために役立ちたい、
と思って来た韓国人ボランティア達の意図とは全く
正反対の事態が巻き起こされてしまっているのです。

今回の事件を受けて、ネット上で情報収集をしていたら、
アフガニスタンを最近旅した人や、旅をしたい人が
書き込んでいる掲示板などを見かけました。

アフガニスタンなどは、必要充分な治安対策を取っていても
リスクを伴う活動環境です。
このような治安状況の中で、気軽な気持ちでアフガニスタンを訪れるのは
どうかと思います。来られる本人は、何が起きても良い、
という覚悟ができていても
何かが起きた時には、本人だけでは済みませんので!