欧州路のブログ

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旅館料理屋のたぐひが、わりに多い。これも自分とは縁のなささうな贅沢な構えである。
 たまには、事務所や、寺や、土蔵などがある。やはり、さういふところは、なんとなく張合ひがない。仕事の最中を、誰かに見てゐられるといふことは、そんなに意識はしなくつても、それはそれで、邪魔にならないばかりでなく、むしろ、気が張つて調子のつくものである。
 ひと通り仕事の終つたところを、旦那がやつて来て、――ほゝう、見違へるやうになつた。これやまた、たいしたもんだ、と、目をみはり、どうかすると、それがまた、品のいゝ若づくりの細君が一緒ででもあらうものなら、熊川忠範は、ひときわ面目を施し、硫酸水に荒れた手で鼻をこすり、わざとそつぽを向いて煙草をふかすのである。
 彼の仕事は、たしかに丁寧を極めてゐた。しかし、その半面、能率がおそろしくあがらないことも事実であつた。当節の商売は、それでは割に合はぬといふことを悟らないのは彼だけで、親方は、ついに業を煮やした。