ー・-・-・-・-ー・-・-・-・-

社説:米国がイラン攻撃 道理に反する力の横暴だ | 毎日新聞

 

毎日新聞2025/6/23 東京朝刊

米国がイラン攻撃 道理に反する力の横暴だ

 

 米国の軍事介入により、中東で戦火が拡大し、世界の混乱が深まる恐れがある。一刻も早く紛争に終止符を打たなければならない。

 トランプ米政権がイランの核施設3カ所を攻撃した。核開発能力を破壊し、核の脅威を阻止することが目的という。

 

 攻撃対象のうち、中部フォルドゥの地下核施設には大型の地下貫通弾「バンカーバスター」が複数発投下された。

 

 

6月20日に撮影されたイラン中部フォルドゥの核施設の衛星画像=マクサー・テクノロジーズ撮影・AP

 

 トランプ大統領は演説で核施設を「完全に取り除いた」と主張し、イスラエルとの和平に応じなければ攻撃を続けると脅した。政権転覆すらちらつかせる。

 

 2日前には「2週間」の期限を設けてイランとの交渉に余地を残していたが、直接協議を待たずに武力行使に踏み切った。

 米軍による核施設攻撃は、イスラエルが要請していた。ネタニヤフ首相は「大胆な決断」とたたえ、「米国は無敵だ」と述べた。

混迷の拡大を助長する

 イランは反発を強め、「言語道断」と非難している。被害は限定的だと反論し、核開発を続行する姿勢を明らかにした。

 確かに、イランは「平和利用」と言いつつ、核兵器開発を疑わせる行動を取っている。核兵器級の水準に迫る高濃縮ウランを製造しているとされる。

 

 フォルドゥの核施設は岩盤に守られた地下深くに建設されており、高濃縮ウランが保管されているとみられている。

 だからといって、米国の攻撃が正当化されるわけではない。

 国際法上、他国への武力行使が認められるのは、自衛権の行使か国連安全保障理事会の決議がある場合に限定されている。

 自衛権の行使は、攻撃を受けた後に反撃する場合や、差し迫った脅威があることが前提となるが、いずれにも当たらない。

 そもそもイランに対するイスラエルの先制攻撃が国際法に抵触する。米軍の攻撃はその違法行為に加担したも同じだ。

 トランプ氏はイランの核開発が国際社会の深刻な脅威と主張する。そうであれば、安保理に諮り、その証拠を提示するのが筋だ。

 ルールや手続きを一切度外視し、思いのままに他国の領土を攻撃するトランプ氏の行動は、道理に反し、看過できない。

 核施設への攻撃は放射能漏れの危険を伴う。倫理的にも受け入れられない。

 かつて大量破壊兵器の除去を理由に開戦に突き進んだイラク戦争では、フセイン政権を倒しながらも、それらを保有する証拠は見つからなかった。

 武力行使の可否を連邦議会に諮らなかったのは憲法違反だという声が与党・共和党からも出ている。国連のグテレス事務総長が「深刻な懸念」を示し、「世界の平和と安全に対する直接的な脅威だ」と警告したのは、当然だろう。

 懸念されるのは、中東全体が戦乱状態となり、世界に深刻な影響を与えることだ。

外交こそが解決の手段

 イランは中東の米軍拠点を報復攻撃する姿勢を見せている。中東各地に根を張る親イラン派の武装組織が参戦する恐れがある。

 そうなれば欧米・イスラエルとアラブ・イスラム諸国の対立も激烈になる。ロシアや中国も対欧米で態度を硬化させるだろう。

 イランは原油輸送の動脈であるペルシャ湾の封鎖も辞さない構えだ。原油価格の高騰は、インフレに苦しむ世界を痛撃する。

 欧州や中東の戦争により、経済的なしわ寄せを受けているグローバルサウス(新興・途上国)の不信感も増大するに違いない。

 日本の立場も問われる。石破茂首相はイスラエルのイラン攻撃を「到底許容されない」と非難したが、米国の攻撃については「早期の沈静化が何よりも重要だ」と述べるにとどまった。

 アジアでは北朝鮮が核弾頭を製造し、搭載可能な弾道ミサイルを多く配備する。脅威の度合いはイランより深刻だ。

 米国が北朝鮮の核施設への攻撃を過去に検討しながら見送ってきたのは、アジアが大混乱に陥る危険があるからだ。

 同盟国として米国の身勝手な軍事力の行使を見過ごすようなことがあってはならない。欧州とも連携して自制を促すべきだ。

 力による解決は禍根を残し、惨禍が繰り返されることになる。外交的な解決でなければ、根本的な問題を取り除くことはできない。