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2024年6月10日NHK

千葉県発注の道路工事めぐる贈収賄事件 癒着の実態と背景は

 

千葉県発注の道路工事で便宜を図った見返りに建設会社側から賄賂を受け取ったとして収賄の罪に問われた県の道路事務所の前所長らに対し、千葉地方裁判所は6月3日、「長年にわたる癒着を背景とした継続的な犯行だ」として執行猶予のついた有罪判決を言い渡した。

長年にわたる癒着の実態とは。そして、なぜ癒着は起きたのか。今回の事件の詳細をお伝えします。

千葉県職員による汚職事件

ことし1月から3月にかけて、公共工事をめぐる贈収賄事件に関わった疑いで、2人の千葉県職員が逮捕・起訴された。

起訴されたのは、千葉県の▼「北千葉道路建設事務所」の前所長と▼道路整備課市町村道班長だった副主幹。去年、それぞれ県が発注した道路工事の入札に関する情報を印西市の建設会社の当時の社長に漏らした見返りに、現金を受け取ったり、接待を受けたりしたとして収賄の罪に問われた。また、▼建設会社の当時の社長も贈賄の罪に問われた。

 
県が発注した道路工事の現場

千葉県では、平成29年に発覚した官製談合事件を受けて、利害関係者との関係で順守すべきことを定めた職員倫理条例が設けられた。再発防止対策がとられる中で今回の事件は起きた。

接待は千葉県庁前のマンションで

「県庁本庁の前で接待なんてふざけている。」ある捜査関係者が語ったことばだ。

 

 

接待が行われたのは千葉県庁や千葉県警察本部の目の前にあるマンションの1室だった。元社長が購入したもので、大型ソファーやワインセラーなどを備え、キャバクラ店のように改装されていた。

起訴内容では、ここで2人はコンパニオンによる接待を受け、前所長はおよそ40万円相当の接待などと現金およそ20万円、副主幹はおよそ20万円相当の接待などと現金およそ100万円を受け取っていたとされる。

接待や現金は、工事の入札の際に「予定価格」などの入札に関する秘密事項を知らせるなど、便宜を図った見返りだと指摘された。

2人は全面的に起訴された内容を認め、執行猶予のついた判決を求めた。

 
 

 

元社長は被告人質問で「当初は賄賂という認識はなく、悪いことだと思っていなかった」と述べていた。

出会いのきっかけは“OBの紹介”で

県職員と建設会社の接点はどこで生まれたのか。共通しているのが、「県職員OBの紹介」という点だ。

被告人質問で、前所長はOBを通じて元社長との会食に参加したと述べた。管理職の立場として県のコンプライアンス研修を受けたが、公共工事を発注する立場の道路事務所長になった去年4月からは、接待頻度が増加。「最初は情報を漏らすつもりはなかったが、いつからか自分が力をつけて元社長がうまくいくようにしたいと思うようになった」と話した。

副主幹もまた、OBからの誘いで元社長と出会ったと述べた。「倫理条例に反する認識はあったが、現役時代から懇意にしていたOBの誘いをむげにできないという思いだった」という。公共工事に関する情報が入った部内の共有フォルダは、業務と直接関係がない副主幹でも見ることができたという。

判決「長年の癒着を背景とした継続的な犯行」

今月3日の判決で千葉地方裁判所の新井紅亜礼裁判官は、癒着の実態について、「会食などを重ね、元社長が2人の飲食代を支払う関係性となり、次第に依頼に応じて職務上知りえた情報を提供する便宜を図るようになったことが認められる」と指摘した。

 
千葉地方裁判所 新井紅亜礼裁判官

そのうえで、「長年にわたる癒着を背景とした継続的な犯行で、公務員の職務の公正や社会の信頼を害した。さしたる抵抗感もなく規範意識に相当問題がある」と指摘し、2人に対し懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。前社長にはおよそ64万円、副主幹にはおよそ128万円の追徴金も命じられた。
また、贈賄の罪に問われた元社長にも、懲役1年6か月、執行猶予3年の判決が言い渡された。

県職員と利害関係者の接触は他にも

事件後、県が行った調査では、2人以外にも県職員が利害関係者から働きかけを受けている実態が分かった。

接待が行われたマンションでの会食に参加したと答えた職員は8人。このうち5人は、前所長や副主幹から誘われて参加し、「支払いはいい」といわれ、会食費は払わなかった。残る3人は、県土整備部OBに誘われ、みずから会食費を負担したという。8人はいずれも情報を漏らしてはいないという。

さらに、職員の行動倫理などを議論する部会では、無記名式のアンケート調査が行われ、回答のあった8600人余りのうち69人が、自分かほかの職員が利害関係者から接待などの働きかけを受けて、対応に困ったことがあると回答したという。また、接待や車での送迎を受けるなど、職員倫理を定めた条例に抵触する行為を行ったとした回答も8人だった。

委員からは、「働きかけを受けるなどした際に職員が取るべき行動を分かりやすく示すべき」などの意見が出された。

 
千葉県総務部人事課の國松健朗副課長

千葉県は、判決後、2人を懲戒免職の処分としたほか、監督責任があったとして上司にあたる県土整備部長ら3人をいずれも戒告の処分とした。

千葉県は「今後このような事案が起きないよう、第三者委員会で検証を行い、信頼回復に努めてまいります」とコメントしている。検証結果を踏まえて、実効性のある再発防止策をとることができるのか、注目される。