一般的意見25 (57)  (25条・政治に参与する権利) 1996.7.12採択

1 規約第25条は、 すべての市民が政治に参与する権利、 投票し及び選挙される権利、及び公務に携わる権利を有することを承認し、 かかる権利を保障している。法又は政治体制の如何にかかわらず、規約は締約国に対して、 市民が保障された権利を享受する実効的な機会を持つことを確保するために必要な立法その他の措置を講じることを要求している。第25条は、 人民の同意に基づきかつ規約の趣旨に合致した民主的核心部分に位置いている。

 

2 第25条に基づく権利は、 人民の自決権と関係を有するが、 これらの権利そのものとは区別されている。第1条第1項に基づく権利により、 すべての人民は政治的地位を自由に決定する権利及び憲法又は政治体制を選択する権利を享受する権利を有する。第25条は、 政治過程に参与する個人の権利を規定している。 かかる権利は個人の権利として第一選択議定書に基づき申立の対象となる。

 

3 規約により承認されたその他の権利及び自由 (締約国の領域内にあり、 かつ、その管轄下にある全ての個人に保障されている。) と対照的に、 第25条は 「すべての市民」の権利を保障している。 締約国の報告には、 第25条により保障された権利に係る市民を定義する法律上の規定を概要が示されるべきである。これらの権利の享受に関し、 人種、 皮膚の色、 性、 言語、 宗教、 政治的意見その他の意見、国民的もしくは社会的出身、 財産、 出生又はその他の地位を理由として市民相互間で差別することは許されない。出生により市民権を取得するものと帰化により市民権を取得したものを区別することは、第25条と両立するか否か問題になり得る。 締約国の報告には、 永住者等のグループが地方選挙権を有し、又は特定の公務員の職務に付く権利を有していること等、 限定的な形でこれらの権利を享受しているかどうかが示されるべきである。

 

4 第25条により保障されている権利の行使に適用される条件は、 合理的かつ合理的な基準に基づくべきである。例えば、 成年の市民に等しく与えられるべき投票権の行使に比べて、 被選挙権を有するための又は特定の公務に就任するための年齢が高いことは合理的たり得る。市民によるこれらの権利の行使は、 法律に定められ、 かつ、 合理的な根拠を有する場合を除き、停止又は排斥されないものとする。 例えば、 精神的無能力が確定されている場合、それは選挙権を行使し、 又は公務に就任する権利を拒絶する根拠となりうる。

 

5 第25条 (a) 項で言及される政治は、 政治的権力の行使に関連する広範な概念である。この中には、 特に立法権、 執行権及び行政権の行使が含まれる。 また国際的、 国内的、地域的及び地方的レベルにおける行政及び政策の立案と実施の全てに関するものが対象になる。権限の配分及び各市民が第25条により保障されている政治に参加する権利の行使方法は憲法その他の法律により定めらるべきである。

 

6 市民が立法機関の議員として又は行政官に就任することにより権限を行使する場合、市民は政治に直接参加する。 かかる直接参加する権利は第25条(b) 項により支持されている。また市民は、 憲法を選択し、 改正し、 又は政治問題を決定する場合、 (b) 項に従い行われる直接投票またはその他の選挙手続を通じて、政治に直接参加する。 市民は、 地方の問題又は特定の地域社会の問題に関する決定権限を有する議会ならびに市民を代表して政府と交渉するために設立された機関に参与することにより、直接参加することができる。 市民の直接参加の方法が定められている場合、 参加に関して市民相互間で第25条に定める理由に基づいて差別してはならず、また不合理な制限を課してはならない。 7 自由に選挙された代表者を通じて市民が政治に参加する場合、 これらの代表者が実際に政治的権利を行使し、その行使に関し選挙手続を通じて責任を負うものであることが、 第25条で黙示的に示されてる。また代表者が憲法上の規定に従い割当てられた権限のみを行使することも黙示的に示されている。自由に選挙された代表者を通じて参加することは、 投票手続を通じて行われるものであり、かかる投票手続は (b) 項に従い法律により定められなければならない。

 

8 また市民は、 代表者との公開討論及び意見交換、 あるいは自らを組織する能力を通じて影響力を行使することにより政治に参加する。かかる参加は表現、 集会及び結社の自由を確保することにより支持される。

 

9 第25条 (b) 項では、 投票者又は選挙における立候補者として政治に参加する市民の権利を取扱うための具体的な規定を定めている。代表者に付与された立法権又は行政権の行使に関する責任を確保するために、 (b) 項に従った真正な定期的選挙は不可欠である。 かかる選挙は定期的に行われるものとし、不当に長い期間を置いてはならず、 また政府の権威が選挙人の意志の自由な表明に基礎づけられていることが確保される期間内に行われなければならない。 (b) 項に定める権利及び義務は法律により保障されるべきである。

 

10 選挙及び直接投票において投票する権利は、 法律により定められなければならず、投票権の最低年齢の規定等、 合理的な制限にのみ服する。 身体障害を理由として投票権を制限し、又は識字能力、 教育もしくは財産を要件として課すことは合理的でない。 政党の党員であることは投票の資格条件にとすべきでなく、また不適格の理由とされるべきでもない。

 

11 締約国は、 投票権を有するすべての人がこの権利を行使することができるように実効的な措置を講じなければならない。選挙人の登録が必要な場合は、 登録を促進し、 これを妨げてはならない。 選挙人名簿への登録に居住要件が適用される場合、当該要件は合理的なものでなければならず、 住居を有しない者から投票権を排除するような方法で制限を課してはならない。選挙人名簿への登載登録又は投票に対する恣意的干渉ならびに投票人に対する脅迫又は強要は刑罰法規により禁止されるべきであり、かかる法律は厳格に執行されるべきである。 選挙人に対する啓蒙活動及び選挙人登録の呼びかけは、情報を与えられた共同体による第25条の権利の実効的行使を確保するために必要である。

 

12 表現、 集会及び結社の自由は投票権の実効的な行使のために不可欠な条件であり、完全に保障されなければならない。 投票権を有する者がその権利を実効的に行使することを妨げることになる識字能力の欠如、言語上の障壁、 貧困、 移動の自由に対する障害等、 特定の障害を克服するために、積極的な措置が講じられるべきである。 投票に関する情報及び資料は少数者の言語によっても提供されるべきである。識学能力を欠く投票者がその選択の基礎となる十分な情報を得ることができるように、写真及び記号等の特別な方法を採用すべきである。 締約国はその報告書の中に、本項に指摘された障害の対処方法を記載すべきである。

 

13 締約国の報告には、 投票権を規定する規則及び当該報告の対象期間における当該規則の適用状況を記載すべきである。また、 締約国の報告には、 市民が投票権の行使を妨げられる要因及びかかる要因を克服するために採用した積極的措置を記載すべきである。

 

14 締約国の報告においては、 市民から投票権を剥奪する法律上の規定はが記載され、説明されるべきである。 かかる剥奪の根拠は合理的かつ客観的なものでなければならない。犯罪に対する有罪判決が、 投票権の停止の根拠となっている場合、 当該停止期間は犯罪及び量刑に比例していなければならない。自由を剥奪されている者であっても、 有罪判決を受けていない場合、 投票権の行使を剥奪されてはならない。

 

15 選挙による公職に立候補する権利及び機会の実効的な実施のためには、 投票権を有する者に対し立候補者の選択の自由を確保することが必要である。年齢等、 立候補する権利の制限は客観的な基準に基づいて正当化されるものでなければならない。本来立候補する資格を有する者は、 教育、 居住関係又は門地等の不合理又は差別的な要件により、又は政治的所属を理由として排斥されてはならない。 立候補したことを理由とするいかなる差別も不利益もあってはならない。締約国は、 選挙による公職から特定のグループ又はある範疇の人々を除外する法律上の規定があれば、これにつき記載し説明すべきである。 かかる除外理由は、 合理的かつ客観的なものでなければならない。

 

16 選挙の、 指名日、 手数料又は供託金に関する条件は合理的なものでなければならず、差別的であってはならない。 選挙による公職と特定の地位の在職 (例えば司法職、上級軍事職、 公務員) を兼任すべきでない合理的理由がある場合、 利害の抵触を回避する措置は、 (b) 項で保障される権利を不当に制限するものであってはならない。 選挙による公職に就任している者を解任するための事由は、法律により定められるものでなければならず、 その法律は合理的かつ客観的な基準に基づき、かつ適正な手続を定めるものでなければならない。

 

17 立候補する者の権利は、 立候補者に対し政党の党員であること又は特定の政党の党員であることを要求することにより、不合理に制限されてはならない。 立候補者が指名のために一定数以上の支持者を有することを要件とされる場合、かかる要件は合理的なものでなければならず、 立候補の障害として機能してはならない。規約第5条第1項の適用を妨げることなく、 政治的意見は、 立候補の権利を剥奪する事由として利用されてはならない。

 

18 締約国の報告には、 選挙による公職に就任する条件を定めた法律上の規定、及び特定の職務に適用される制限と資格を記載すべきである。 また報告には、 指名条件 (例えば、 年齢制限及びその他の資格又は制約) を記載すべきである。 締約国の報告には、公職に有る者 (警察職又は軍事職を含む) が特定の公職に選挙されることを除外する制約があるかどうかを記述すべきである。選挙されて公職に就任している者の解任のための法的根拠及び手続も記載されるべきである。

 

19 (b) 項に従い、 投票権の実効的な行使を保障する法律の範囲内において、 選挙は定期的に、公正かつ自由に行われなければならない。 投票する権利を有する者は選挙の立候補者に自由に投票し、また直接投票又は国民投票に付された提案に対し、 自由に賛成又は反対し、 又、自由に政府を支持し又はこれに反対することができなければならず、 選挙人の意思の自由な表明を歪曲し、又は抑制するあらゆる種類の不当な影響又は強制を受けることがあってはならない。投票者はあらゆる種類の暴力、 暴力による脅迫、 強制、 誘惑又は不正工作による干渉を受けることなく、独自の意見を形成することができなければならない。 選挙運動の費用に関する合理的な制限は、立候補者又は政党の不相当な支出により投票者の自由な選択が損なわれないようにし、民主的手続が歪められないようにするために必要な場合には、 正当化され得る。真正な選挙の結果は、 尊重され、 実行されなければならない。

 

20 選挙手続を監視し、 選挙が公正、 平等に、 かつ規約に適合する法律に基づいて行われることを確保するために、独立した選挙管理委員会が設置されるべきである。 締約国は選挙における投票 (不在者投票制度が存在する場合の不在者投票を含む) の秘密を確保するための措置を講じるべきである。 このことは、 投票者はどのような投票をしようとしているか又は投票結果を開示させるあらゆる形態の強制又は強要、及び投票手続に対する不法又は恣意的な干渉に対し保護を受けるべきことを意味する。これらの権利を放棄することは規約第25条に適合しない。 投票箱の安全は保障されなければならず、また立候補者又はその代理人の立ち会いのもとで、 開票がなされるべきである。選挙人が投票及び開票の安全を信頼できるように、 投票及び開票に対する独立した審査がなされるべきであり、かつ司法審査又はこれと同等の手続が利用可能とされるべきである。 身体障害者、視覚障害者又は識字能力のない者に対する援助は独立したものであるべきである。選挙人はかかる保障について十分に知らされるべきである。

 

21 規約は特定の選挙制度を課すものではないが、 締約国で運営されている各制度は、第25条により保証されている権利に適合するものでなければならず、 また選挙人の意思の自由な表明を保障し、これを実効性あるものにしなければならない。 1人1票の原則が適用されなければならず、また各締約国の選挙制度の範囲内において1人の選挙人の投票は他の1人の投票と同等であるべきである。選挙区の設定及び投票の配分方法は投票者の分布状況を歪曲し、 又は特定のグループを差別するものであってはならず、また代表者を自由に選択する市民の権利を不合理に排除し又は制限するものであってはならない。

 

22 締約国の報告には、 真正かつ自由な定期的選挙を保障するために採用した措置、及び選挙人の意思の自由な表明を保障し、 実効あらしめるための選挙制度の内容を記載すべきである。また報告には、 選挙制度について記載し、 その社会における異なる政治的見解が選挙された組織においてどのように代表されているかの説明がなされるべきである。さらに報告には、 投票権が全ての市民により実際に自由に行使されることを保障する法律及び手続を記載し、また投票手続の秘密、 安全性及び有効性が法律によりどのように保障されているかを記載すべきである。また当該報告が対象とする期間におけるこれらの保障の実際の実施状況を説明すべきである

 

23 (c) 項は市民が一般的な平等条件の下で公職に就く権利と機会とを規定するものである。一般的な平等条件により公職に就くことを確保するために、 選任、 昇進、 停職及び解雇の基準と手続は、客観的かつ合理的なものでなければならない。 すべての市民に対し公務に携わる機会均等を確保するため、適当とみなされる場合には、 積極的な差別解消の措置をとることができる。 機会均等及び一般的な実力主義に基づく公務への就任、ならびに身分の保障により公職に在る者は政治的な干渉又は圧力から自由であることが確保される。第25条 (c) 項に基づく権利の行使にあたって、 第2条第1項に規定されるいかなる理由によっても差別されないことを確保することは、特に重要である。

 

24 締約国の報告には、 公務に就くための条件、 適用される制約、 及び選任・昇進・停職・解雇又は解任の手続、ならびにこれらの手続に適用される司法その他の審査機構についての記載がなされるべきである。また報告には、 機会均等の要求がどのように達成されているか、 積極的差別解消廃措置が導入されているか、導入されている場合にはその程度が示されるべきである。

 

25 第25条により保護されている権利の完全な享受を確保するためには、 市民、立候補者及び選挙された代表者との間の公的及び政治的問題に関する情報及び考えの自由な伝達が不可欠である。これは公的問題について検閲も制約もなく論評でき、 世論を伝達できる自由な報道を意味する。これはまた、 個人として又は政党その他の団体を通じて政治的活動に従事する自由、政治について討論する自由、 平和的示威行動及び集会を行うこと、 批判し反対すること、政治的文書を出版すること、 選挙活動をすること及び政治的考えを宣伝することなどを含む、規約第19条、 第21条及び第22条に保障されている権利を完全に享受し、 尊重することを要求する。

 

26 政治的及び公的事柄に関する団体及び結社を組織し参加する権利を含む結社の自由に関する権利は、第25条により保障される権利に不可欠なものとして随伴するものである。 政党及び党員であることは、政治と選挙手続において重要な役割を果たす。 国は、 政党がその内部運営において、市民が第25条に基づく権利を行使できる同条の適用可能な規定を尊重することを確保すべきである。

 

27 規約第5条第1項の規定に鑑み、 第25条により認められ保護されている権利は、現在の規約が定める範囲を超えて、 規約により保障されている権利及び自由を破壊し又は制限する行動をとる権利を意味し、又はかかる行動を有効とするものと解釈されてはならない。