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「ヤジと公安警察」編集者の危惧 選挙妨害と同一視せず考えるために

冊子「ヤジと公安警察」を編集した寿郎社の下郷沙季さん=2024年5月17日午後0時52分、札幌市北区、上保晃平撮影

 

 2019年夏の参院選で、札幌市で街頭演説中の安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばした市民らが北海道警の警察官に排除された問題をめぐり、札幌の出版社・寿郎社が今月、排除された男女2人やジャーナリストの青木理氏が参加したシンポジウムの内容をまとめた冊子『ヤジと公安警察』を刊行した。 

 

 同社の編集者で、2人を支援する有志でつくる「ヤジポイの会」メンバーの下郷沙季さん(34)が、シンポジウムの内容を多くの人に伝えたいと企画した。 

 

 全70ページの冊子は、ヤジ排除を担った警察官が公安警察だった点に着目する。原告男性は、公安警察は「特定の思想を持った個人や団体を監視し、その活動の広がりを妨げること」が「最大のミッション」と主張。元共同通信記者で『日本の公安警察』などの著書がある青木氏も公安警察のあり方がヤジ排除問題の背景にあると推測し、警鐘を鳴らす。 

 

 ヤジ排除問題をめぐっては、排除された市民のうち男女2人が道を相手取り、表現の自由を侵害されたとして提訴。22年の一審・札幌地裁判決では原告側が「全面勝訴」したが、昨年6月の札幌高裁判決は原告男性が周囲の聴衆から危害を加えられる危険があったとして、男性に対する警察官の行動を適法と判断。原告側は「半分勝訴」となった。原告被告ともに最高裁に上告している。

 

  選挙活動に関しては、今年4月の衆院東京15区補欠選挙で、「つばさの党」が拡声機で大声を出すなどして、他陣営の街頭演説を妨害する事件があり、代表らが今月、公職選挙法違反の容疑で逮捕された。この妨害とヤジを同様に考え、「ヤジ排除をめぐる司法判断が選挙妨害の取り締まりを萎縮させている」との声も上がる。  下郷さんは、このような言説を「為政者に都合のよいように、物事をざっくりと悪や脅威と決めつけている」と危惧する。「首相演説に一市民が肉声で批判的な声を上げることと選挙妨害事件を同一視することが、民主主義にとっていかに危険か。立ち止まって考えるためにも有効な一冊です」

 

  冊子は税込み1210円。全国の書店で購入できる。(上保晃平)