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録音されていた「供述誘導」、裁判所は調べず…検察が供述調書の証拠請求を回避

[供述誘導 広がる波紋]<4>

木戸経康・元広島市議の裁判が行われた広島地裁の法廷(2023年10月、広島市中区で)

 「無罪と公訴棄却(裁判の打ち切り)を求める」「裁判所は『証拠』を調べた上で判断してもらいたい」 

 

【図】木戸経康・元広島市議の1審での証拠採否の経緯

 

 3月15日、広島高裁。2019年参院選を巡り、元法相・河井克行(61)(有罪確定)から買収資金を受領したとして公職選挙法違反(被買収)に問われた元広島市議・木戸経康(68)の控訴審第1回公判で、弁護人の田上剛(65)はそう主張した。

 

 木戸を巡っては、東京地検特捜部検事が任意の取り調べで不起訴を示唆するなどした供述誘導疑惑が浮上した。田上が言う「証拠」とは、木戸が取り調べを隠し録音したデータのことだ。

 

 「違法捜査」を訴える木戸側は1審・広島地裁にも録音データを証拠請求したが、採用を拒否された。木戸は被告人質問で「不起訴を示唆された」と述べ、昨年10月の1審判決は「不起訴を前提に取り調べた」と言及しつつ、客観証拠に基づき木戸を有罪としていた。

 

 高裁も地裁に続いて請求を退け、田上は「裁判所は公判を通じて捜査を監視する『最後の砦(とりで)』でもあるはず。なぜ証拠を採用して正面から向き合わないのか」と憤った。木戸の控訴審判決は22日に言い渡される。

 

 地裁と高裁が木戸側の証拠請求を拒否するまでの過程には、録音データの存在を把握した検察側の「方針転換」があった。

 

 容疑者の供述調書は有罪立証の「核」となることが多く、検察側はこの裁判でも木戸の調書を地裁に証拠請求する姿勢を示していた。ところが、調書に任意性・信用性がないことを示すためとして木戸側がデータを開示すると、検察側は請求を回避し、木戸の「自白」は裁判の争点から外れてしまった。

 

 あるベテラン刑事裁判官は「調書が証拠になっていない以上、録音データを調べる必要はない」とし、地裁・高裁の判断を妥当とみる。

 

 その一方で、「捜査をチェックする」という裁判所の機能を重視する見地からの異論もある。別のベテラン裁判官は「不適切な取り調べが行われた可能性がある以上は、録音データを調べ、実態を明らかにする選択肢はあった」と語った。