大抵の政治家が不正や公金で私腹を肥やすことを断固として拒絶する高い倫理基準を保っている

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

「政治家が不正請求」なんて不可能…スウェーデンの情報開示が日本とは「レベチ」すぎた!

 

 政治とカネの問題が常に取り沙汰される我が国。彼らが使っているカネは、我々の税金なのだが腹落ちする使途理由を説明されることは少ない。一方、スウェーデンではそのような政治家の振る舞いはあり得ないのだそう。カネをかけない政治はどのように実現されているのか。

 

※本稿は、クラウディア・ワリン『あなたの知らない政治家の世界 スウェーデンに学ぶ民主主義』(新評論)の一部を抜粋・編集したものです。

 

  【この記事の画像を見る】 

 

● 議員の支出報告と請求書は保管され 市民は誰でも閲覧可能 

 

 「ここには、いつもジャーナリストが出入りしているんですよ」と、礼儀正しく笑顔で私に挨拶してくれた事務員が言う。この建物の小さなロビーは、制服を着た警護官に守られている。

 

  私たちは一緒に、国会議員全員の支出と経費を管理している機関である「議員サービス」の館内を歩いた。

 

  廊下の突き当りには長い書棚のある部屋があり、ここに、議員の支出報告と実際の請求書などが保管されている。

それぞれが大きなファイルに仕分けされており、全員、つまり349名の名前が書かれている。国会議長のペール・ヴェステルベリ氏のフォルダーもある。

議長は、この国においてもっとも高位となる公職だ。

スウェーデンの序列では、議長は首相より上に位置しており、議長の上にいるのは国王だけである。

国王は正式なプロトコールでは国の元首であり、首相を任命したり解任したりする。

 

  市民は誰でも、ここに来てフォルダーを閲覧することができる。情報開示は、電話、インターネット、ファックス、メールでも請求できる。

 

 「私たちがこういう仕事をしている主な目的は、税金が国会議員によって浪費されないようにすることです。国会議員は税金を効果的に使うために議員をしているのであって、私たちは、そのためのルールに従ってほしいと願っています」 

 

 このように話したのは、部署のトップであるアンナ・アスペグレン氏である。議長やその他の国会議員が提出した支出報告は、「詳細にわたってこの部署に所属している10名の職員が審査している」とアスペグレン氏が説明してくれた。 

 

 「国会議員が不完全な報告や特定の請求書について不正確な情報を提出した場合は、電話をして説明を求めます」と職員の一人が言ったが、報告に不正確な部分があることはだという。 

 

● 航空券もホテルも議会が予約 議員のカラ出張などは不可能

 

  「議会のメンバーは、正しいことをしようと努めています。不正を働こうとは思っていないというのが私たちの印象です。ですから、口論になることはありません。整合性がなかったり、不正確だと思われる部分があればその議員に連絡をしますが、ほとんどの場合、『間違いを指摘してくれてありがとう』と言われます。とくに間違えを見つけるのは、ここに出入りしているジャーナリストですからね」と、アスペグレン氏が話してくれた。

 

 実際、議員サービスは、当時の社会民主党の党首ホーカン・ユーホルト氏に警告しようとした。彼が本当にマンションでパートナーと一緒に住んでいたのなら、ユーホルト氏は賃料の全額を還付請求することはできなかった。ガールフレンドが一緒に住むなら、賃料の半分を払わなければならない。 

 

 「ユーホルト氏の側近の一人に連絡したんですが、彼は全額還付請求を続けました。ジャーナリストがここに来て、嗅ぎつけました。そして、ユーホルト氏はスキャンダルにさらされたんです」と、アスペグレン氏が当時を振り返った。

 

  どうやら、「窃盗」の機会はほとんどないようだ。スウェーデンの国会議員は、集会を催したり、高級レストランでの食事を経費で落としたりすることができないようだ。

 

  「まったくあり得ませんよ」と、アスペグレン氏が椅子に座ったまま言った。ただ、議長になると別で、外国からの賓客や大使との夕食会など、裁量で使える年次経費がある。2013年のこの経費の予算は112万クローナ(約1232万円)だった。

 

  外国へ出張する際、航空券やホテルの請求書が議会の「旅行サービス」から直接「議員サービス」に送られる。支払いをする前に「議員サービス」の職員が受け取ったデータを厳密にチェックし、議員が提出した出張報告と照らし合わせる形で確認をしている。

 

  「高額の請求書はあまりありませんね。議員がお金を使えるものはそんなに多くはありませんから。 また、出張の場合、請求書を偽造することはできません。航空券やホテルは議会の旅行会社が予約しますから」と、アスペグレン氏は言う。

 

● 会合にタクシーで来た議員に 記者が質問「なぜタクシーを使った?」

 

  スウェーデン国内の出張をする場合、「目的地に移動するためのもっとも経済的な方法」を選ばなければならないことを議員は知っている。出張マニュアルのガイドラインでは、議員は目的地へのルートや移動手段を計画する際、環境への負荷も考慮しなければならないことになっている。しかし、誰もそのルールをどのように適用しているかについては問われない。 

 

 「原則的に議員は、自分で自由に決めることができます。議員に3等席を取れとは言いません。しかし、議員は有権者に、なぜ飛行機に乗ることにしたのかなどについて説明をする責任があります。そして、有権者は、その行為で議員を判断するのです。最近、ある議員が、他の議員が鉄道で行ったところに飛行機で行った理由を説明しなければならないという状況に追い込まれました。議員がお金を浪費し、環境保護を軽視すると、スウェーデン人は憤慨するのです

 

  このように話したアスペグレン氏は、一般市民はよく「議員サービス」を訪れたり、連絡をしてきて、議員の支出について情報を求めてくると付け加えた。

 

  自由党のエヴァ・フリボリ議員も、メディアからの圧力を次のように認めている。  「1度、会合に行くためにタクシーに乗ったことがあります。書類がいっぱいあり、時間も遅くなっていたからです。そうしたら記者が、『ほかの人はバスで来たのに、なぜタクシーで来たのですか?』と尋ねました。メディアは常に政治家を見張っていますから、私たちは税金を不必要に使うべきではないと自覚しています」

 

  アスペグレン氏によると、「議員サービス」の仕事は議員との摩擦や争いもなく、円滑に行われているという。そこで私は、次のような質問をしてみた。 

 

 「厳しい監視があるからこそシステムは不正がないのか、それとも大抵の政治家が不正や公金で私腹を肥やすことを断固として拒絶する高い倫理基準を保っているから欺瞞がないのか?」 

 「両方でしょうね。それでも、私たちはすべてをチェックするんですよ。そして、議員はすべての経費の証拠を提出しなければなりません。

確認された、事業者からの請求書を付けてです。

ですから、欺瞞が入り込む余地があまりないのです

クラウディア・ワリン