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(更新)日経
建設石綿、国と企業の責任認める 最高裁が統一判断
建設現場でアスベスト(石綿)を吸って健康被害を受けた元建設作業員や遺族らが起こした4件の損害賠償訴訟で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は17日、国が対策を怠ったと認定し国の賠償責任を認める統一判断を示した。「一人親方」と呼ばれる個人事業主も救済対象とした。メーカーの責任も認めた。
建設アスベスト訴訟で最高裁が判決を出すのは初めて。政府は判決を受けて17日、原告に最大1300万円の和解金を支払うことなどを柱とする救済策を設ける方針を決定。菅義偉首相と訴訟の原告団が18日午前に首相官邸で面会することも発表した。
建設現場では1950年代以降、耐火性や防音性に優れる石綿の建材が幅広く使われた。原告側は「国が防じんマスク着用などを義務付ける対策を講じなかったのは違法だ」などとして、2008年以降に各地で提訴した。
最高裁は17日の判決理由で「国は73年ごろには建設作業員に石綿関連疾患の危険が生じていることを把握できた」と指摘。
石綿関連の規則が強化された75年10月から、含有建材の規制が厳格化される前の2004年9月までの間、保護具着用の義務付けといった規制権限を国が行使しなかったことを「著しく合理性を欠き違法だ」と結論づけた。
一人親方についても、国側が「労働安全衛生法の保護対象の『労働者』に当たらない」と主張したのに対し、最高裁は「同法は健康障害を防ぐのが趣旨で、労働者に当たらない人も保護対象になる」と判断した。
この日に判決が言い渡されたのは東京、横浜、京都、大阪の各地裁に起こされた4訴訟で、原告の元作業員や遺族は計約500人に上る。弁護団によると、対象となった元作業員の8割に当たる約340人は亡くなっている。
石綿の健康被害を巡っては、大阪府南部の石綿製造工場の労働者らが起こした「泉南アスベスト訴訟」で最高裁が14年、国が規制を怠ったのは「著しく合理性を欠く」として国家賠償責任を認めた。一方、石綿建材を使う建設現場で働いた人たちへの賠償のあり方は、残された論点として注目されてきた。
最高裁判所判例集
- 事件番号 平成30(受)1447
- 事件名 各損害賠償請求事件
- 裁判年月日 令和3年5月17日
- 法廷名 最高裁判所第一小法廷
- 裁判種別 判決
- 結果 その他
- 判例集等巻・号・頁 民集 第75巻5号1359頁
- 原審裁判所名 東京高等裁判所
- 原審事件番号 平成24(ネ)4631
- 原審裁判年月日 平成29年10月27日
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判示事項
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1 労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋内の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した労働者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
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2 労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋内の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち労働者に該当しない者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例 -
3 被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは,民法719条1項後段の適用の要件か
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4 石綿含有建材を製造販売した建材メーカーらが,中皮腫にり患した大工らに対し,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について連帯して損害賠償責任を負うとされた事例
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5 石綿含有建材を製造販売した建材メーカーらが,石綿肺,肺がん又はびまん性胸膜肥厚にり患した大工らに対し,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について連帯して損害賠償責任を負うとされた事例
- 裁判要旨
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1 屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業(石綿吹付け作業を除く。)に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより石綿肺,肺がん,中皮腫等の石綿関連疾患にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,石綿に係る規制を強化する昭和50年の改正後の特定化学物質等障害予防規則が一部を除き施行された同年10月1日以降,労働大臣が,労働安全衛生法に基づく規制権限を行使して,通達を発出するなどして,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督をせず,また,同法に基づく省令制定権限を行使して,事業者に対し,上記の屋内作業場と評価し得る建設現場の内部において上記各作業に労働者を従事させる場合に呼吸用保護具を使用させることを義務付けなかったことは,上記の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した労働者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法である。
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⑴ 昭和50年当時,建設現場は石綿粉じんにばく露する危険性の高い作業環境にあったところ,国による石綿粉じん対策は不十分なものであり,建設作業従事者に石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていた。
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⑵ 昭和33年には,石綿肺に関する医学的知見が確立し,昭和47年には,石綿粉じんにばく露することと肺がん及び中皮腫の発症との関連性並びに肺がん及び中皮腫が潜伏期間の長い遅発性の疾患であることが明らかとなっていた。
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⑶ 国は,昭和48年には,石綿のがん原性が明らかとなったことに伴い,石綿粉じんに対する規制を強化する必要があると認識し,昭和50年には,石綿含有建材を取り扱う建設作業従事者について,石綿関連疾患にり患することを防止する必要があると認識していた。
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⑷ 国は,昭和48年頃には,建設作業従事者が,当時の通達の示す抑制濃度を超える石綿粉じんにさらされている可能性があることを認識することができたのであり,建設現場における石綿粉じん濃度の測定等の調査を行えば,石綿吹付け作業に従事する者以外の上記の屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業従事者にも,石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていることを把握することができた。
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2 屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業(石綿吹付け作業を除く。)に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより石綿肺,肺がん,中皮腫等の石綿関連疾患にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,石綿に係る規制を強化する昭和50年の改正後の特定化学物質等障害予防規則が一部を除き施行された同年10月1日以降,労働大臣が,労働安全衛生法に基づく規制権限を行使して,通達を発出するなどして,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督をしなかったことは,上記の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち同法2条2号において定義された労働者に該当しない者との関係においても,国家賠償法1条1項の適用上違法である。
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⑴ 昭和50年当時,建設現場は石綿粉じんにばく露する危険性の高い作業環境にあったところ,国による石綿粉じん対策は不十分なものであり,建設作業従事者に石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていた。
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⑵ 昭和33年には,石綿肺に関する医学的知見が確立し,昭和47年には,石綿粉じんにばく露することと肺がん及び中皮腫の発症との関連性並びに肺がん及び中皮腫が潜伏期間の長い遅発性の疾患であることが明らかとなっていた。
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⑶ 国は,昭和48年には,石綿のがん原性が明らかとなったことに伴い,石綿粉じんに対する規制を強化する必要があると認識し,昭和50年には,石綿含有建材を取り扱う建設作業従事者について,石綿関連疾患にり患することを防止する必要があると認識していた。
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⑷ 国は,昭和48年頃には,建設作業従事者が,当時の通達の示す抑制濃度を超える石綿粉じんにさらされている可能性があることを認識することができたのであり,建設現場における石綿粉じん濃度の測定等の調査を行えば,石綿吹付け作業に従事する者以外の上記の屋内作業場と評価し得る建設現場の内部における建設作業従事者にも,石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていることを把握することができた。
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3 被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは,民法719条1項後段の適用の要件である。
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4 Y1,Y2及びY3を含む多数の建材メーカーが,石綿含有建材を製造販売する際に,当該建材が石綿を含有しており,当該建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を当該建材に表示する義務を負っていたにもかかわらず,その義務を履行しておらず,大工らが,建設現場において,複数の建材メーカーが製造販売した石綿含有建材を取り扱うことなどにより,累積的に石綿粉じんにばく露し,中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,Y1,Y2及びY3は,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について,連帯して損害賠償責任を負う。
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⑴ 上記大工らは,建設現場において,石綿含有スレートボード・フレキシブル板,石綿含有スレートボード・平板及び石綿含有けい酸カルシウム板第1種という種類の石綿含有建材を直接取り扱っていた。
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⑵ 上記の各種類の石綿含有建材のうち,Y1,Y2及びY3が製造販売したものが,上記大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられていた。
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⑶ 上記大工らが,上記の各種類の石綿含有建材を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体のうち3分の1程度であった。
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⑷ 上記大工らの中皮腫の発症について,Y1,Y2及びY3が個別にどの程度の影響を与えたのかは明らかでない。
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5 Y1,Y2及びY3を含む多数の建材メーカーが,石綿含有建材を製造販売する際に,当該建材が石綿を含有しており,当該建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を当該建材に表示する義務を負っていたにもかかわらず,その義務を履行しておらず,大工らが,建設現場において,複数の建材メーカーが製造販売した石綿含有建材を取り扱うことなどにより,累積的に石綿粉じんにばく露し,石綿肺,肺がん又はびまん性胸膜肥厚にり患した場合において,次の⑴~⑷など判示の事情の下では,Y1,Y2及びY3は,民法719条1項後段の類推適用により,上記大工らの各損害の3分の1について,連帯して損害賠償責任を負う。
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⑴ 上記大工らは,建設現場において,石綿含有スレートボード・フレキシブル板,石綿含有スレートボード・平板及び石綿含有けい酸カルシウム板第1種という種類の石綿含有建材を直接取り扱っていた。
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⑵ 上記の各種類の石綿含有建材のうち,Y1,Y2及びY3が製造販売したものが,上記大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられていた。
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⑶ 上記大工らが,上記の各種類の石綿含有建材を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体のうち3分の1程度であった。
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⑷ 上記大工らの石綿肺,肺がん又はびまん性胸膜肥厚の発症について,Y1,Y2及びY3が個別にどの程度の影響を与えたのかは明らかでない。
- 参照法条
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(1,2につき)国家賠償法1条1項,労働安全衛生法22条,労働安全衛生法23条,
労働安全衛生法27条,労働安全衛生法57条1項
(3~5につき)民法719条1項後段
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