~ 言論・表現の自由を守る会 ~

 

  創立20周年企画

 

 ”政治を知るために、ビラは大切なもの”


 

 

 当NGOは2008年3月3日から開催された人権理事会に、初回レポートを提出し、自由権規約委員会第5回(2008年10月)及び第6回(2014年7月)日本政府報告書審査に出席し情報を提供し2016年4月、「言論・表現の自由」国連特別報告者デビッド・ケイ氏の調査を実現しました。

 

 ”政治を知るために、ビラは大切なもの”

 

ビラ配布の自由と市民の知る権利を実現するために、みなさんのご意見、あなたのお知恵とお力をお貸しください(=^・^=)

 

 

 報告書(外務省HP)

 

言論及び表現の自由の権利の促進・保護に関する特別報告者は,2016年4月12日か ら19日まで,日本を公式訪問した。

日本では,法律,特に憲法によって,政府が言論及 び表現の自由を尊重すること,またその尊重を確保していくことが担保されている。

例えば,インターネットにおける自由への日本のコミットメントは,日本の法律及び組織がいかに検閲を防止し,情報への広いアクセスを促進すべく機能しているかを明らかにするものとなっている。

 

しかしながら,特別報告者は,訪問中に収集された情報及び政府関係者 や市民社会の関係者との幅広い意見交換に基づき,日本政府に対し,デジタル環境を超えて表現の自由を強化する方策をとるよう強く要請する。

 

特に,本報告書では,日本政府が,本報告書において説明される様々な種類の脅威下にあるメディアの独立と情報へのアクセスを促進するとともに,日本における表現の自由の環境を改善するためのその他の具体的な方策を採用することを可能にするような勧告的措置に焦点を当てる・・・

 

Ⅱ.国際法基準及びミッションの主な目的 6.日本における言論及び表現の自由の権利に関する状況を評価するに当たり,特別報告 者は,国際法基準を参考としている。日本が1979年6月21日に批准した自由権規約 第19条は,言論及び表現の自由の権利の状況を評価するに当たり,最も明確な基準を提 供している。同規約第19条第1項は,いかなる規制の対象にもならずに干渉されること なく意見を持つ権利を保護している。同規約第19条第2項は,国境の有無にかかわらず, また,あらゆるメディアを通じて,あらゆる種類の情報や思想を追究し,受け取り,付与 されるという万人の権利を保護している。特別報告者は,同規約第19条第3項に沿って 課された制限が法律によって規定され,かつ,列挙された正当な利益の保護のための比例 性及び必要性の要件を満たすものであるかを評価することに特に注意を払った。表現の自 由の権利はこれまで,国家に対し同権利の制限を課すことを避けるのみならず,この基本 的自由に資する環境の促進を求めるものとして理解されてきた。この点については,「保護 する」義務に加えて「促進する」義務も確立する条文の文言自体から導き出されるもので ある。 7.メディアに対する規制は,長きにわたって,表現の自由に関する地球規模の懸念事項 の一つであり続けている。自由権規約委員会やその他のメカニズムは,締約国がメディア の多様性を促進し,メディアの独立を確保することの重要性を強調し続けている(自由権 規約委員会による言論及び表現の自由に関する一般的意見34(2011年)のパラ40 並びに2007年に採択された放送の多様性に関する特別報告者の共同宣言参照)。200 3年には,国連の表現の自由に関する国際専門家,欧州安全保障協力機構,米州人権委員 会が「メディアに対する公式な規制権限を行使する全ての公的機関は,透明性があり,公 の意見が反映され,いかなる特定の政党のコントロールも受けないような指名プロセスに よるものを含め,特に政治的又は経済的な性質の干渉から保護されるべきである」と強調 した共同宣言を発表した。自由権規約委員会は,その一般的意見34において,「これまで に実行に移してこなかった全ての締約国に対し,放送の許認可申請を審査し免許を付与す る権限を有する,独立した公的な放送許認可機関を立ち上げるべきである旨勧告」してい る(一般的意見34,パラ39)。 8.自由権規約第19条第2項においては,公的機関が有する情報へのアクセスの権利及 びこれに関する締約国の義務にも言及している。特に人権機構は,情報へのアクセスに対 する行き過ぎた規制,秘密指定を正当化するための国家安全保障及び公共の秩序の概念に 関する曖昧な定義の使用,並びに表現の自由の権利一般に対するその他の不均衡な規制へ の懸念を表明している(A/71/373 参照)。 4 Ⅲ.日本における表現の自由の基盤への課題 9.特別報告者の訪問中及びその後のやりとりにおいて,政府当局は,表現の自由に対す る憲法上の保護の重要性を確認した。実際,日本における表現の自由の法的基盤は憲法で ある。憲法第21条は,「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保 障する。検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。」と規 定している。この保護は,表現の自由とメディアの保障を力強く提供するだけではなく, 検閲を明示的に禁止し,個人のコミュニケーションのプライバシーを保障しているもので ある。 10.憲法第19条(言論)と第21条は,表現の自由に影響を及ぼし得る日本の政策及 び法律の基本的な基準を定めている。このような理由から,第19条の改正案は,自由で 独立したメディア及び反対意見の保護に対する当局のコミットメントについて,日本社会 の中で懸念を引き起こしている。自由民主党(自民党)の指導者たちは,憲法の改正を支 持してきた。日本の軍事態勢に関する第9条の改正案には多大な注意が払われてきている が,2012年の改憲草案は,憲法第21条を「公益及び公の秩序を害することを目的と した活動を行い,並びにそれを目的として結社をすることは,認められない。」と改正する ことを図っている。このように広範な表現で規定された条項は,自由権規約第19条にそ ぐわない可能性のある,表現の制限への扉を開くことになろう。「公益及び公の秩序を害す る」などの広範な例外を許容する文言は,第21条に基づく幅広い憲法上の保護の範囲を 除くために利用され得る。政府は既に,国際人権法に沿って,国家安全保障や公共秩序と いった正当な利益を保護するために必要,かつ,ふさわしいとして,法律により表現を制 限する権限を有している。したがって,自民党が提案したような文言は,表現の自由を損 ねる深刻なおそれのある主観性及び裁量の基準を生み出すことになるだろう。 11.自民党の憲法草案は,有事の際に,国際人権法の下で許容されているものを超えた 逸脱を許容することにより,更に歩みを進めたものとなっている。この草案は,第14条 (差別の禁止),第18条(奴隷的拘束の禁止),第19条(言論の自由),第21条(結社 と言論の自由)及びその他の基本的人権に関する規定は,最大限に尊重されるものとする ことに留意しつつ,国家が特定の人権を制限することを可能とし得る。国際人権法の下, 極めて限られた状況において逸脱が認められているが,草案における有事に関する条項は あまりにも広範であることを特別報告者として懸念する。特に,「最大限に尊重」という表 現のあいまいさは,有事において,いかなる措置が引き続き保護されるのかを明確にする ことに制限を加えている。 12.また,この草案は,基本的人権の不可侵性を維持する憲法第97条について,その ような規律が日本の伝統と調和しないという理由で削除を求めている。具体的には,憲法 5 第97条は,「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は,人類の多年にわたる自由獲得 の努力の成果であって,これらの権利は,過去幾多の試錬に堪え,現在及び将来の国民に 対し,侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」と規定している。提 案された同規定の削除は,日本における人権の保護を弱体化し得る。 Ⅳ.日本における言論及び表現の自由の権利の状況:主要所見(main findings) 13.個人が言論及び表現の自由を行使するあらゆるフォーラムにおいて,日本は,特に インターネットに対する強固なコミットメントを示してきた。日本国民は高度なオンライ ン上の自由を享受している。特別報告者が入手可能であったデータによると,2014年 のネットの普及率は91%で,携帯電話の普及率は120%に達した。ユーザーは,高性 能かつ高速で,明らかに広く普及しているインターネットへのアクセスを有している。例 えば,2017年1月,ある男性がグーグル検索結果から自身の児童買春での逮捕につい ての言及を削除させようとしたが,裁判所はそれを退けた。情報へのアクセスの自由の勝 利として,裁判所は,犯罪の深刻さに鑑み,一般国民の知る権利が当該男性のプライバシ ー権に勝るとした。 14.特別報告者は,今次訪問を通じ,(日本には)検閲に反対するオンライン及びオフラ イン上の強固な文化があるものの,救済困難な危機に発展する前に政府が対処すべき脅威 があると感じた。ジャーナリスト,活動家,学者等は,特別報告者に対し,表現の自由が 重大な圧力の下にあるとの懸念や不安を共有した。特に特別報告者は,メディアの独立, とりわけ,調査報道にコミットした公衆の監視機関としての役割について,懸念が広がっ ていると感じた。具体的には,記者クラブの不透明で閉鎖的なシステムや「アクセス・ジ ャーナリズム」の実施の誘因を通じた報道機関の操作,核の安全や国家安全保障分野にお ける強固なジャーナリズム精神を抑制する秘密法や違反への罰則の強化が挙げられる。日 本には,表現の自由が個人の探求や言論,経済や創造産業での刷新,公益に関わる全ての 発話を強化することができ,強化すべきであり,また,強化するシステムがある。他方, あらゆる民主主義機構のシステムにおいてそうであるように,これらの価値は,政策,実 践及び法によって絶えず確認及び強化されなければならない。特別報告者は,幾つかの分 野において,これらの根本的規範に対し改めて公の,また,民間レベルでのコミットメン トが必要であるとの懸念を有している。 A.メディアの独立 15.日本は,日本の文化・政治活動において意見の多様性や重要な存在感を有する優れ たメディアを有している。メディア界全般において様々な課題や機会があるが,それらと は別に,メディアの独立に関する3つの側面及び公的な監視機関としての日本のメディア の能力について考えることが重要である。すなわち,放送メディアに対する圧力とそれが 6 より一般的なメディアへの扱いを先導してしまうこと,政府へのアクセスに関する組織の 問題,そして,メディアの連帯の問題である。 1. 放送メディア 16.日本の法律では,放送メディアの独立の原則が認められている。放送法第3条は「放 送番組は,法律に定める権限に基づく場合でなければ,何人からも干渉され,又は規律さ れることがない」ことを強調する。このメディアの独立に関する要請に基づき,自主規制 を実施し,それによる政府による干渉を回避する放送倫理・番組向上機構(BPO)が創 設された。公共及び民間放送事業者双方を規制する放送法並びに電波法がこの分野におけ る規制の主たる根拠法令である。日本政府が特別報告者に対して強調してきたように,こ れらの法律は放送事業者の自主自律を前提としている。 17.国際基準においては,放送の規制は独立した第三者機関によってなされるべきもの であるが,公共放送である日本放送協会(NHK)と民間放送事業者の双方を規制する放 送法は,総務省にその権限を与えることになっている。放送法第174条は「総務大臣は, 放送事業者(特定地上基幹放送事業者を除く。)がこの法律又はこの法律に基づく命令若し くは処分に違反したときは,三月以内の期間を定めて,放送の業務の停止を命ずることが できる。」としている。電波法第76条は,総務大臣に放送法もしくは電波法の違反によっ て,テレビやラジオ放送局への業務停止命令を行う権限を与えている。法の中には,自主 自律を促進する規範も多くあるが,この制度上の枠組みは,メディアの自由と独立に対す る不当な制約となりうる規制環境の可能性を創出するものである。 18.つまり,日本のメディア規制は,政府から,特に時の政権与党から法的に独立した ものではない。このシステムが改善され,現行システムが独立した規制に代わることは, 政府,政党,そして最も重要なことに,日本国民にとって利益となる。 19.メディアを規制する独立機関の不在は,放送セクターにとって単なる仮説上の問題 ではない。コンテンツや立場に基づく政府の干渉の可能性は,政府が過去に追求したこと がなかったとしても,政治的に機微な事項と衝突するような調査を思い留まらせる等,メ ディアへの潜在的リスクとなり得る。この懸念は,特別報告者の訪問中に何度も提起され た。報道関係者,学者,市民社会の関係者は,放送法は倫理的義務の要素と独立性に欠け る政府の権限を混合しているとの懸念を繰り返し表明していた。民間報道機関の代表の中 には,政府からの圧力を感じていない,または恐れていないとの見解を述べる者もいたが, 政府による公式見解が,この懸念を妥当なものとしていると見る者もいた。政府は,特別 報告者に対し,放送関係者は自主自律的に放送法に従うこととなっている旨断言する一方 で,放送法の所管官庁として,総務省が,放送事業者の業務を停止すべく,放送法を合法 7 的に適用する可能性がある旨述べた。 20.放送メディアを規制する権力を政府に付与することと同時に,放送事業者が政府の 圧力から独立して活動することになっていることを強調することは,現実的な緊張関係に あることを特別報告者は強調する。構造上の懸念は,放送法の2つの条項の組合せに基づ くものである。同法第4条では,基本的な職業上の規範として,放送事業者に対し,「公安 及び善良な風俗を害しないこと」,「政治的に公平であること」,「(報道は)事実をまげない ですること」,「できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を規定している。こ れらは,世界中のジャーナリズム倫理の中でも中心的と考えられるべき正当な要請である。 しかし,独立していない政府機関は,何が公平かを決定する立場にあるべきではない。こ れは,BPOのような機関や,適切と認められれば(自由権規約の)第19条第3項の基 準を満たす明確な条件について判断する独立の規制機関等を通じて,公開討論や自主規制 に委ねられるべき問題である。特別報告者は,一般論として,仮にこれまで報道の阻害要 因になっていなかったとしても,そのような幅広い基準について政府が評価することは, 監視機関としての役割を担うメディアの自由を制限することにつながり得ると考える。 21.一方で,政府は対照的な見解を有しており,政府が放送法第4条の違反があったこ とを確認した場合,放送法第174条の下で,政府は放送事業者の免許の一時停止を命じ ることができる旨を,2016年2月に総務大臣が表明し,訪問中の面談で同大臣の部下 が確認している。政府職員は,これらの発言は脅しではなく,ただ法律について述べただ けであり,これまでの政権においても維持されてきた立場である旨主張した。日本の法律 の解釈は日本政府及び裁判所に委ねられるべき問題ではあるが,特別報告者は,この法的 見解はメディアを制限する脅威として合理的に認識され得るものと考える。 22.政府が第4条の下で,番組内容に基づき放送免許を停止したことはないが,日本に おけるメディアの報道内容や論調について,政府の懸念が公の場で表明されることが増加 しているのと同時に,メディア関係者の懸念が高まっている。例えば,複数の面談者から, 2014年の政府与党である自民党が行った対応の影響が継続していることについて言及 があった。2014年11月20日,自民党の幹部が放送関係者に対し,「選挙期間中の報 道メディアの不偏性,中立性,公平性の確保の要請」と題した書簡を送付した。同書簡で は,例えばゲストスピーカーの数,発話時間,選定についての「中立性と公平性」を求め ている。その後,1週間も経たないうちに,自民党はテレビ朝日に対し,11月24日に 放送された「報道ステーション」という番組における連立政権の経済政策に関する報道を 批判し,「公平かつ中立な番組」を要請する書簡を送付した。放送規制との関係を強調する かのように,同書簡では,同番組が放送法第4条の基準を十分に考慮していない旨述べら れていた。更に,市民社会の面談者は,2015年4月,自民党の情報通信「戦略調査会」 8 が2つの異なる番組に関し,テレビ朝日とNHKを招集したことを指摘した。一つの番組 では,テレビ朝日のコメンテーターが首相官邸に批判的な発言を行い,もう一つのNHK の番組では,やらせ内容が盛り込まれたことが指摘された。自民党戦略調査会の会長は, 職員が呼び出されたのは,番組に「歪められた」内容が含まれていたとの指摘についての 質問に答えるためであると述べた。このような問題や議論は,BPOのような政府から完 全に独立した機関に委ねるべきであり,そのような直接的な圧力の下にさらされるべきで はない。 23.特別報告者は,メディアとのオフレコ会合における政府職員の発言により,総じて メディアは圧力を感じている旨の報告を受けた(そのオフレコ会合の発言記録は,ジャー ナリストの間で広く共有されている)。例えば,2015年2月24日に行われた報道関係 者とのオフレコ会合で,内閣官房長官は,名指しはしなかったものの,あるテレビ番組に 対し,放送法についての官房長官自身の解釈に適合していないとして批判したとされる。 ここに問題の核心がある。もし政府が報道規制の枠組みを統制していなかったとすれば, 内閣官房長官の発言はあまり効力がないかもしれない。しかし,政府による規制の統制と いう文脈においては,政府による批判は不適切な圧力を伴うものとして当然メディアに認 識される。以下に記載するメディアの脆弱性に鑑み,この文脈において,そうした圧力は 合理的に説明し得ないものとなりうる。 24.訪問中に特別報告者が面会した多くのジャーナリストは,報道を政府の政策上の意 向に合わせるための政府による干渉があり,またそれが(メディア)経営により助長され ている旨説明した。特別報告者は,政府指導者とメディア幹部の間の不適切な緊密性につ いての不満の声を聞いた。報道によると,総理大臣と内閣官房長官はメディア幹部と頻繁 に夕食をとっている。一方では,メディアによる政府高官へのアクセスは賞賛されるべき ことであるが,他方,不透明な状況下で,編集に従事しない有力なメディア幹部に注がれ る注目は,報道と,政府高官との良好な関係維持との間の対立に関する認識に懸念を生じ させている。 25.厳しい質問をすると評判の有名な報道関係者やコメンテーター3名が,政府批判に 対して敵対的,又は,政府批判の結果を恐れる環境をその理由として,長期にわたって務 めていたポストを降板した。このような離職は,従業員が数十年も同じ会社で働き続ける 産業においては,驚くべきである。一人の有名で人気のあるコメンテーターは,政府によ る放送事業者への圧力により,テレビ番組への出演依頼が来なくなった旨主張している。 26.民間放送メディアへの圧力は,国の公共放送であるNHKにまで及んでいるとされ ている。NHKは何十年もの間,日本社会における中心的な役割を担う独立した機関であ 9 り,日本にとってそれは極めて誇るべきものであると言える。国会の同意を得て,内閣総 理大臣がNHKの経営委員会委員を任命し,国会がNHKの予算を承認している。これは 公共放送事業者については一般的であるが,国会が連立政権によって統制されている場合 には,報道関係者が政府からの独立性を欠いているという認識を生み,懸念を生じさせる。 NHKの前会長であり特別報告者が訪問した当時のNHK会長は,就任の記者会見で,「(国 際的な放送において)政府が『右』ということを,我々が『左』というわけにはいかない」 旨発言した。この発言は,追って同会長によって撤回されたが,NHKの役割は政府の政 策を支持することであると示唆しているように多くの人に受け取られた。訪問中の意見交 換で,NHKの専門経営チームは,そのような圧力を一切否定しているが,こうした圧力 があるとの考えが懸念を生じさせており,また,番組制作や報道の選択に影響を及ぼして いるとメディア内で言われている。しかしながら,その他のNHK内部の人間は,現在の 政治潮流が「我々が何を報道するかに影響する」と認めた。特別報告者が番組の延期や中 止に関する指摘について照会したところ,NHKはこの問題を内部調査したが,調査結果 は公表されていないと述べた。政府によれば,政府が確認したところ,NHKはそのよう な内部調査を実施していないとのことであった。報道価値のありそうな事項が公共放送に よって報道されないことは,政府の圧力への懸念を生じさせるとともに,報道関係者への 一般市民の信頼を損なうことに繋がり得る。 2.活字メディア 27.放送法は,放送メディアのみを規制するものであり,他のメディア(特に活字メデ ィア)は,同様の規制に直面するものではない。他方で,放送メディアへの圧力は,少な くとも次の理由により,法律上でないとしても,実際上,確実に活字メディアにも影響が 及ぶ。主要な放送メディアの各局は,活字メディア市場の中でも非常に大きな存在感があ る。確かに,最も人気のある放送メディアは,最も人気のあるニュース及び情報源でもあ る。メディアのオーナーは,放送及び活字メディアに持ち株を有しており,従って,両者 の方向性に影響を及ぼす。その結果,活字メディア自体が直接の規制圧力に直面していな くても,放送メディアが感じる圧力は,活字メディアにも及ぶのである。 28.特別報告者は,日本政府に批判的な記事を書いた後,その記事の出版を延期若しく は中止する,又は,記事を書いた記者を降格又は異動させるといった報告を直接受けた。 複数のジャーナリストは,メディアは,福島の災害や「慰安婦」等の歴史問題といった, 政府からの批判につながり得る話題の報道を避けている旨,特別報告者に対し述べた。 29.原発産業のリスクに係る情報アクセスが限られていることへの懸念は,新しいもの ではない。2012年のUPR対日審査の際に,複数の市民社会及び人権団体から,20 11年福島原発事故及び関連する健康上のリスクに関する正確な情報へのアクセスの欠如 10 について広く指摘があった。「すべての者の到達可能な最高水準の身体及び精神の健康の享 受の権利(健康の権利)」特別報告者は,2012年に日本を訪問し,福島の災害について の情報の欠如に関する懸念を強調し,災害関連の情報開示に着目するべきである旨勧告し た。 30.政治指導者によるメディアの内容への影響の認識は,歴史問題に関する報道におい て強く感じられる。国際人権メカニズムは,日本に対し,第二次世界大戦の「慰安婦」に 係る罪の問題について対処するよう繰り返し呼びかけてきた(歴史教育に関する記述は後 ほど記載)。この点,特別報告者は,朝日新聞勤務時に,朝鮮における「慰安婦」問題につ いて最も早期に報じた日本人ジャーナリストの一人である,植村隆氏へのハラスメントに ついて知るに至った。植村氏への圧力は,吉田清治氏による証言に関する朝日新聞の別の 記事の事実誤認に関する議論があった後,特に厳しくなった。植村氏の記事について特段 不正確さが見つからなかった後においても,これら歴史的出来事について報じた同氏の記 事や朝日新聞の記事は,吉田清治氏の証言をめぐる議論を本件問題に係る朝日新聞の記事 全体を疑問視するために利用した保守系の政治グループによって,厳しく批判された。2 014年8月5日,朝日新聞は,植村氏の記事を含む本件問題に係る記事全体を撤回する 旨決定した。植村氏自身は早期退職をし,大学で働くことになったが,そのことも,同氏 の記事に批判的で,同氏の辞職を求める団体によって非難された。植村氏と近い親戚は, さらなる直接の暴力の脅威の対象にもされた。警察の保護を得たにも関わらず,植村氏は 国外で活動を継続することに決めた。2014年10月,総理大臣本人が,国会の審議に おいて,本件議論につきコメントし,朝日新聞の誤報とされていた報道につき懸念を表明 し,朝日新聞に対し,損害を受けた日本の評判を回復するべく努めるよう求めた。 31.特別報告者は,特に,植村氏に対する保護の提案にもかかわらず,日本の政府当局 が,植村氏及び同氏が所属する機関が被った複数の攻撃に対する明確かつ一貫した批判を ずっと表明できず,また,この問題に関する独立した報道活動の重要性を認識しなかった ことを懸念している。この観点から,特別報告者は,ジャーナリストに対する暴力や攻撃 に対する,公の,無条件での組織的な非難を通じたものを含む,ジャーナリストにとって 安全な環境を確保することを人権理事会が各国に求めた人権理事会決議 33/2 を想起する。 第二次世界大戦中に実行されたとされる犯罪に関係する報道活動に対して行われた政府当 局によるいかなる間接的圧力も,この特定の話題への公の関心が高いことに鑑みれば,な おさら懸念される。最後に,特別報告者は,日本のメディア関係者,すなわち記者,編集 者,オーナー等は,植村氏や本件に関する他の報道に対し,より強い支持を表明し,全て の報道活動のあらゆる脅迫やハラスメントからの保護について,より強力なアピールを行 うこともできたはずだったことに留意する。 11 3. 専門機関と記者クラブ制度 32.強力で,独立し,安全で,団結したメディア,すなわち,力強い競争要素を有しつ つ,共通の倫理上及び行動上の規範によって結合したメディアは,上記のような圧力に簡 単に立ち向かうことができるであろう。それに比して,ジャーナリストが集団としてその ような特徴を欠く場合には,個人のジャーナリストが流れに抗ったとしても,小さな圧力 の形態でさえも,並外れた危機感を創出する可能性がある。日本において,特別報告者は, 信頼と一体性という基本要素を欠くようなあるメディアを見つけた。これは,一部には, メディアの雇用に関する性質やジャーナリスト(及びその他日本経済全般における専門職) が労働組織化される方法に関係するようである。ジャーナリストは,その多くが巨大なメ ディアによって雇用され,数十年間,時にキャリアの一生,その企業に残り,企業に対し 忠誠を向ける傾向がある。企業の中で,社員がジャーナリストの地位から,そうでない役 割に異動させられることもある。労働組合が代表するのは,企業レベルのみである。日本 の労働組織ではありふれたものである一方,ジャーナリストがメディア組織間を異動した り,毎年のように同じ企業に忠誠心を示すわけでは必ずしもないが,ジャーナリストとし ての高い結束を持つといったメディア文化があるような世界各地における報道職の組織の 形態に比べれば,希である。それゆえ,日本におけるメディアの雇用構造が,ジャーナリ スト達が政府からの圧力に耐え,報道機関間を跨いで結束を強める努力に影響を及ぼす可 能性がある。 33.特別報告者の訪日で最も驚いた特徴の一つは,特別報告者と面会したジャーナリス トが,自分が直面すると考える状況を話すことについての秘匿性を求めたことである。彼 らは,特に自分たちを守る独立機関が無い中,彼らが声を上げたことに対して,経営陣が 報復し得ることへの恐怖について述べた。主流とフリーランスの記者達をまとめ上げる広 範なジャーナリストの労働組合はなく,団結と擁護と共通の目標を有する可能性を制限し ている状況である。また,あらゆる報道分野について,独立して自主規制を行う報道協会 も存在しない。 34.メディアの一体性や,公の関心に即して情報収集を行う能力を損なっている主たる 要因の一つが,いわゆる記者クラブ制度である。記者クラブ,すなわち,記者会見やハイ レベルの匿名情報ソースへの独占的アクセスを有する活字・放送ジャーナリストの連合体 は,日本のメディアを支配しているが,同クラブは,大方,主流メディア機関で働く者に 限られている。逆説的に言えば,記者クラブは,元々は,地元のメディアが,情報開示に 後ろ向きな公の組織に圧力を行使する際の調整を確保するために自発的に確立された,日 本における長きに亘る慣行である。従って,彼らの根元的な目的は,一般市民の「知る権 利」を保護することである,と表現される。しかし,政府当局からの直の情報にアクセス する唯一のチャネルとしての記者クラブの統合,外部のメンバー受け入れに対するクラブ 12 の後ろ向きな姿勢,定期的に記者クラブのメンバーに対し,非公式かつ排他的なアクセス について交渉できる政府当局の能力は,公の関心に沿った情報アクセスを多大に狭めるこ とにより,逆効果を生じさせてきているようである。 35.フリーランスやオンライン上のジャーナリズム,外国人ジャーナリストに不利益と なっている記者クラブは,特定のメディア組織に限定されるようなアクセスの基準を定め ており,例えば,警察の記者会見は,特に記者クラブのメンバーでない関係者がアクセス できない旨主張するジャーナリストもいるほか,弁護士は,記者クラブが特定の事案の情 報に及ぼす不均衡な統制や,法執行機関と記者クラブに所属するジャーナリストとの非公 式な緊密性,そうした事情が訴訟事案の結果に影響を及ぼす可能性について懸念を示して いる。さらに,日本の全国紙の周辺に組織されたメディア関連のビジネス団体は,他の報 道機関(特にテレビ放送局)を,記者クラブ制度に参加させるようにし,記者クラブ制度 のニュース収集及び報道のルールに従わせるよう確保している。日本の5大民放組織が, それぞれ主流全国日刊紙と繋がっている。これは,情報市場への参加者数を制限している。 36.外国のジャーナリストは,記者クラブのルールの厳格な遵守により,特に影響を受 けている。彼らは,よく記者クラブから排除され,したがって,情報アクセス体系の基礎 である記者会見からも排除されている。特別報告者は,外国のジャーナリストから,記者 クラブから排除されることを避けるために,厳しい内容となりうる調査記事を諦めたとの 報告を受けている。 B. 表現への介入/歴史の発信 37.歴史的事案,特に日本の第二次世界大戦への参戦及び「慰安婦」問題に関し,教科 書の作成に政府当局の影響があるとの主張があることへの懸念についても報告されている。 近年,人権メカニズムの多くが,「慰安婦」問題についての日本における認識が限られてい ることについての懸念を示した。これらのメカニズムは,女子差別撤廃委員会 (CEDAW/C/JPN/CO/7-8),人種差別撤廃委員会(CERD/C/JPN/CO/7-9),自由権規約委員会 (CCPR/C/JPN/CO/6) , 拷 問 禁 止 委 員 会 (CAT/C/JPN/CO/2) , 社 会 権 規 約 委 員 会 (E/C.12/JPN/CO/3),人権理事会の複数の国連特別手続マンデート保有者及び普遍的・定期 的レビュー(UPR)(A/HRC/22/14,例えば,サブパラ147.145)を含む。人権メカ ニズムは,日本に対し,国民への本件問題についての教育・啓発と,この問題を否定する いかなる試みも非難するよう求めてきた。例えば女子差別撤廃委員会は,日本政府が,「『慰 安婦』問題を教科書に十分に取り入れ,また,歴史的事実を客観的に学生や一般市民に示 す」ことを勧告している。自由権規約委員会は,日本政府が,教科書における十分な言及 を含め,学生や一般市民に対する本件問題の教育・啓発を確保する,即時かつ効果的な立 法上及び行政上の措置をとるよう勧告している。 13 38.訪日中に,特別報告者は,文部科学省の教科書課の職員と面会し,教科用図書検定 調査審議会について,その委員が最終的には文部科学省により指名され,明示された基準 に基づき教科書を評価する権限を有することを知った。文部科学省は,同審議会の正委員 及び臨時委員を大学教授,小学校,中学校,高校その他教育機関の教員から選ぶ。同審議 会の正委員は,2年ごとに交代し,専門委員及び臨時委員は毎年交代する。審議会には1 50名の委員が存在し,そのうち社会科に焦点を当てているのは30名である。審議会は, 申請された教科書の原稿を,文部科学省の学習指導要領に従って確認する。検定の基準の 一つは中立性である。一旦合格すると,教科書は,編集や改訂なしに4年間使用すること ができる。 39.特別報告者との面会中,文部科学省は,複数の高等学校の世界史の教科書に「慰安 婦」問題に関する言及がある旨述べた。外部の専門家は,特別報告者に対して,日本史が 必修である中学校の教科書から,「慰安婦」問題に関する記述が編集で削除された旨の報道 を示した。一つの例においては,「慰安婦」問題の言及に,女性の強制連行はなかったとの 政府による反対の見解を示した但し書きを伴っていた。 40.1993年,日本政府は初めて「慰安婦」問題に関する責任を認め,政府が公に謝 罪を発表した。この認識の結果,「慰安婦」問題は,1997年に初めて,同問題に係る記 述を含めて,全7冊の中学校検定歴史教科書に含まれた。しかし,特別報告者は,200 2年には,3冊の検定教科書のみが本件問題への言及を含んでいたとの情報に接している。 2006年には,2冊の教科書のみに本件問題への言及・記述が維持され,「慰安婦」とい う言葉がほとんどの教科書からなくなったと報じられた。政府は2012年から2015 年に使用された教科書では「慰安婦」問題の記述がなかったが,2016年から使用され ている一冊の教科書には,記述が含まれていることを確認した。 41.教科書が第二次世界大戦中に実行された犯罪の現実をどう扱うかに対する政府の影 響は,一般市民の知る権利や,過去に向き合い,理解する能力を損なわせる。情報のアク セス権の遵守及び過去の深刻な人権侵害の歴史事案に関する公の情報発信は,複数の人権 メカニズムによって強調された懸念である。地域的(人権)裁判所も,真実の権利と情報 のアクセス権との緊密な関係について強調している。「国際人権法の大規模な違反および国 際人道法の重大な違反の被害者が救済および賠償を受ける権利に関する基本原則およびガ イドライン」は,充足の手段として,あらゆるレベルにおける国際人権法及び国際人道法 の研修及び教材の中に発生した違反の正確な説明を含めることを記している(国連総会決 議 60/147,別添参照)。不処罰と闘う行動を通じて人権を保護・促進するとの原則は,抑圧 の歴史に関する国民の知識は遺産の一部であり,特にそうした違反に関する知識を促進す 14 るという,国家の義務として適切な措置により確保されなければならないこと,また,そ のような措置は,集合的記憶を絶滅から保全することを目的とすべきであることを示して いる(E/CN.4/2005/102/Add.1 参照)。 42.歴史教育の問題については,文化的権利の分野の特別報告者が,2013年の報告 書(A/68/296)において,歴史的事案に関する情報を制限する政策は,教育の権利,あらゆ る個人,団体及び国民が,自らや他人の文化遺産を享受し,それにアクセスする権利及び 言論や表現の自由の権利と相容れない旨結論づけた。この研究において,同特別報告者は, カリキュラムを改定し,歴史教育の基準を形成するプロセスには透明性があり,実務者や 専門家連合によるインプットを含まなければならない旨勧告している。そのような問題を 扱う省庁の委員会や部局への任命やその機能にも,透明性と利益対立がないことが確保さ れなければならない旨勧告した。 C.情報へのアクセス 43. 日本の国内法には,2001年に施行された,行政機関の保有する情報の公開に関 する法律をはじめ,国民の知る権利を守るためのメカニズムが含まれている。情報公開・ 個人情報保護審査会の設置は,同メカニズムが政府職員による情報公開の拒否に対する異 議申し立てを容易にすることから,新たな法律の重要な特徴であるとされた。同法の採択 よりはるか以前の1981年に,神奈川県が情報公開制度を設置した。このような積極的 な取組にもかかわらず,2014年の特定秘密保護法の成立は,秘匿性を設定・強化する ために,政府職員が能力を拡大することにより,情報アクセスの保護の範囲を狭めた。 44. 特定秘密保護法の成立に先立ち,前任のマンデートホルダーは,同法の成立プロセ ス及び同法が国民の知る権利をいかに扱うかについて懸念を示した。特に,前任のマンデ ートホルダーは,「同法案において保護された情報の定義が非常に広範で不明確であると報 じられている」と指摘した。前任のマンデートホルダーは,国家機密の漏洩に係る罰則規 定があることから,同法は,ジャーナリストの活動を抑制し,公益通報者を萎縮させ得る との深刻な懸念を表明した。また,自由権規約委員会も,「同法は,特定秘密に区分され得 る事項の定義が曖昧かつ広範で,区分の前提条件が一般的であり,ジャーナリストや人権 活動家の行動に萎縮効果を与え得る厳しい罰則を設けている」と指摘しつつ,同法に懸念 を表明した。 45. 日本滞在中,特別報告者は,特定秘密保護法の施行に関わる責任者と建設的かつ有 益な会合を行ったが,まだ懸念を有している。第一に,自由権規約委員会が2014年の 政府報告審査で指摘したとおり,特定秘密保護法は,特定秘密に指定され得る事項及びそ の分類条件を十分に定義していない。政府の運用基準は,情報が特定秘密に指定され得る 15 4つの具体的な分類(防衛に関する事項,外交に関する事項,特定有害活動の防止に関す る事項,テロ防止に関する事項)を注意深く明確化しようと努めているが,具体的なサブ カテゴリーはあまりに広範なままである。防衛に関する事項のサブカテゴリーには,(a)暗 号情報,画像情報及び他の重要な情報に加え,(b)防衛力の整備に関する見積もり若しくは 計画又は研究が含まれる。また,外交に関する事項のサブカテゴリーには,(a)外国の政府 又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち,国民の生命及び身体の保護,領域 の保全その他の安全保障に関する重要なもの及び(b)国民の生命及び身体の保護,領土保全 若しくは国際社会の平和と安全に関する重要な情報が含まれる。特別報告者は,「重要な」 及び「~に関する」との文言を繰り返し使用することにより,同法に記載された4つの広 範な分類を十分に明確化できていないことを懸念している。 46. 加えて,特定秘密保護法は,ジャーナリストとその情報源を刑罰に課される危険に さらしている。特に懸念されるのは,同法第22条及び第25条である。同法第22条は 以下のとおり規定している。 (1)この法律の適用に当たっては,これを拡張して解釈して,国民の基本的人権を不当 に侵害するようなことがあってはならず,国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の 自由に十分に配慮しなければならない。 (2)出版又は報道に従事する者の取材行為については,専ら公益を図る目的を有し,か つ,法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは,これを正当な業務 による行為とするものとする。 47. 同法第22条は,表現の自由を認める一方,ジャーナリストに懸念を与える可能性 が高く,特別報告者は懸念している。政府職員は,同法第22条で用いられている「専ら ~をする目的」という文言は,「主に~をする目的」の意味で理解される旨説明したが,特 別報告者は依然として,正式に許可されない情報開示(例:公益通報)の場合における, 政府による同条の解釈の仕方に懸念を持っている。更に同法では,「著しく不当な方法」が 用いられたと考えられない場合,記者が秘密情報にアクセスしようとする試みは保護され る旨規定されているが,日本政府により提供された情報によれば,1978年5月31日 の最高裁決定では,「著しく不当な方法」とは,「取材対象者の個人としての人格を著しく 蹂躙するような態様のもの」とされている。日本政府は,「取材を求める合法な活動」を例 示した同法の公式コンメンタールを指摘している。これらの例示は有益で安心材料となる 一方で,あらゆる取材の例をカバーし得るものではなく,法において規定されれば,より 安心を与えるものとなろう。 48. 同法第25条には,一部において,特定秘密の漏洩ないしそうした秘密の取得を目 的として,人を欺き,人に暴行を加え,若しくは人を脅迫する行為により,又は財物の窃 16 取若しくは施設への侵入により,他者と共謀し,教唆し,又は煽動した者は5年以下の懲 役に処される旨規定されている。特別報告者は,政府が特定秘密保護法第25条の厳しい 罰則をジャーナリストに適用する意図はないことを政府職員から聞き,嬉しく思う。更に は,ジャーナリストが情報を開示しても,その情報が公的な関心事項であり,ジャーナリ ズムを誠実かつ合法的に追求する中で得られた情報である限り,罰せられない。しかし, 特別報告者は,こうした理解が同法において反映されていないことに引き続き懸念を有す る。 49. 不適切な秘密指定に適用され得る保護を除き,公益通報者の保護は一般的に脆弱に 見える。特に,特定秘密保護法と一般的な公益通報者保護法との相互作用といった,不確 定かつ懸念のある分野が残っている。公益通報者保護法では,事業者が公益通報者に対し, 解雇,減給,その他「不利益な取扱い」をしてはならないこととなっている。「不利益な取 扱い」は曖昧であり,公益通報者等が求める可能性のある保護の中身を明らかにし,法の 中に保護を詳細に明記すべきである。また,保護される「通報対象事実」の一覧に明示さ れていないので,同法では,非倫理的な行動についての公益通報が保護されるのか定かで ない。したがって,特別報告者は,非倫理的な行動についての公益通報が,特定秘密保護 法の下でも公益通報者保護法の下でも保護されないことに懸念を有している。更に,公益 通報は,必ずしも個別の不正行為を含むわけではないが,国民が知ることに正当な利益を 有する隠された情報を明らかにする可能性がある。特定秘密保護法は,公益情報を開示す る公益通報者を保護していない。 50. また,特定秘密保護法によって設立された監視メカニズムは十分に独立しておらず, 秘密指定の妥当性を決定するための情報へのアクセスが保障されていない。国会の常任委 員会が,監視能力を有する唯一の行政外部のメカニズムである。政府は,国会の委員会が 特定秘密にアクセスすることを認可する裁量を有している。多くの対話者は,国会の委員 会は,十分に具体的な情報がないまま,情報の秘密指定が適切であったかを決定すること になっている旨強調した。更に,国会の委員会の勧告は,性質上拘束力を持たない。政府 は,後に特別報告者に対し,情報監視審査会では,計22回の審査会が行われ,7件の特 定秘密を開示し,1件の開示が拒否された旨指摘した。 51. 監視メカニズムの脆弱性は,2016年3月に公表された衆参両院の情報監視審査 会による最初の年次報告において示された。同審査会は,計382の特定秘密について確 認を行った。2014年末までに,10の政府機関が約18万9000件の文書を特定秘 密に指定した。調査の一環として,同審査会は,情報の国家機密指定に関する政府の記録 簿を含めた関連文書を参照し,これら10機関の職員にインタビューを行った。しかし, 情報の国家機密指定に関する政府の記録簿に含まれた記述の多くは,同審査会が特定秘密 17 指定の妥当性を判断する上で,あまりにも曖昧過ぎるものであった。 52.特別報告者は,訪日中,情報監視審査会のメンバーとの面会希望が拒否されたこと に失望している。日本の特定秘密保護法の施行のレビューを支援するために,特別報告者 は,情報源と公益通報者の保護に関する最近の報告書(A/70/361)でなされた勧告と国家安 全保障と情報への権利に関する国際原則の基準をさらに想起する。公共機関が保有する情 報にアクセスする権利を規定する国内の法的枠組みは,国際人権規範に沿ったものである べきである。国家は,国家安全保障に関わる公的な情報の開示に特定の規則を適用するこ とが適当と考えるかもしれない。とはいえ,自由権規約第19条第3項に適合するために は,制限は,国家の安全保障を保護する上で必要であり,比例性が保たれたものであるべ きとの基準を厳守しなければならない。国家は,国家安全保障上の正当な利益への特定可 能な損害を上回るような,公共の関心事項の開示を促進することも求められている。 D.差別とヘイトスピーチ 53. 近年,日本は,少数者,とりわけ在日韓国・朝鮮人に向けられたヘイト表現の急 増に直面してきた。2016年3月30日,法務省は,ヘイトスピーチを伴う集会に関す る報告書を公表した。同報告書によると,2012年4月から2015年9月までの間, 特定の人種や民族を標的にした団体が関与したとされるデモが日本全国29県で,1,1 52件あった。そのようなデモは,2012年4月から12月までに計237件,201 3年には347件,2014年には378件,そして2015年の最初の9ヶ月には19 0件,実施された。自由権規約第20条によると,国民的,人種的又は宗教的憎悪の唱道 は非難されるべきものではあるが,それ自体は犯罪とはならない。そのような唱道は,差 別,敵意又は暴力の扇動にあたる場合にのみ,禁止の対象となる。 

 

54.訪問中,特別報告者は,国会の法務委員会と面会し,少数者に対するヘイトスピー チを廃絶するための提出中の法案について学ぶ機会を得た。2016年5月,本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律が国会で可決された が,同法は不当な差別用語を非難するものの,それを違法とはしていない。同法は,法的 拘束力を持つ条項がなく,公共の場でヘイトスピーチを伴う集会を開くこと等の行為に対 する罰則への言及もない。代わりに,同法は更なる人権教育と人権啓発活動などを通じて, 国民に周知を図り,理解と協力を得つつ,不当な差別的言動の解消に向けた取組を推進す るために制定された。 

 

 

55.差別的な行為が,本問題の根源であり続けているが,それにもかかわらず,日本に は,例えば雇用や住居に関する差別的な慣行を廃絶するための包括的な法律がない。20 14年には人種差別撤廃委員会,2016年には女子差別撤廃委員会が,日本に対して反 18 差別法の採択を勧告した。差別的な行為を禁止する法律は,ヘイトスピーチに対処する重 大な第一歩である。一度,反差別法が整備されれば,ヘイトに対抗する教育上及び公的な ステートメントといった,ヘイト表現に対抗する政府の幅広い行動が,差別との戦いに実 際の影響を及ぼすことが可能になる。その関連で,特別報告者は,ヘイトスピーチに効果 的に対応していくためには,ヘイトの扇動に対応するための法整備を超えて,こうした扇 動に反論するための,よりオープンで重要なカウンタースピーチを促進することを常に含 めるべきとした前特別報告者の勧告(A/67/357 参照)を改めて想起する。:「表現の自由の促 進と保護は,一方で,不寛容,差別そしてヘイトの扇動に対処するための取組と密接に関 連していなければならない。確かに,法律は必要であり,ヘイトスピーチに対処する上で 重要な要素である一方,人々の考え方,認識,そして発信に真の変化をもたらすような幅 広い政策措置により,補完されるべきである。」 

 

E.選挙運動における規制 

 

56.訪問中,特別報告者は,選挙運動に長年課せられている規制に対する懸念を繰り返し耳にした。政府はインターネットにおける選挙運動に対する制限を適用しておらず,これが,候補者に関する情報にアクセスする国民の能力を向上し,国民が政治に十分に参加できるようにする上で重要なことは明らかである。 

 

57.しかし,公職選挙法は,選挙運動期間中,戸別訪問や,法定限度を超える選挙運動 用文書図画の頒布といった通常の選挙運動に対して制限を課している。

自由権規約委員会は,日本政府に対し,特にこうした制限が公共の福祉を保護するという考えを前提として おり,表現の自由及び公的活動の実施に参加する権利を弱めている状況を踏まえ,政治活 動に対して非合理的な制限を課す法律を撤廃する必要があることに関し,注意を喚起した。 特に,選挙過程におけるオープンな空間を確保するための選挙運動の規制は許可され得る が,現行の制限は不必要かつ不適切であるように思える。さらに前述したとおり,政府当 局と政治団体によるメディア活動の中立性及び均衡性の概念の押しつけは,選挙期間中のメディアによる政治に関する報道への介入に使われてきた。メディアの経営者が,ジャー ナリズム活動によって中立性を欠いていると見なされることをプレッシャーに感じて,い くつかの場合において,最終的に自己検閲をするという結果になっている。 

F.デモ

 

 58.日本は強固で賞賛に値する公共のデモの文化を享受しており,それは時に街角での静かな抗議や拡声器の大音声とは裏腹の小規模な行進として行われている。国会前で何万人もの人々が抗議していることが知られている。デモに対する不必要な規制,デモ参加者の記録,政治的右翼によるデモへの介入への対処の失敗,ムスリム・コミュニティへの監視の申し立て等の問題について懸念を有す活動家もいる。

特別報告者はこうした懸念を特別報告者との開かれた対話に参加した警察庁のメンバーと共有した。

特別報告者はこうし た問題をフォローし,デモに十分な場所を確保することに関する日本のコミットメントについて対話を継続することに引き続きコミットする。

 

 59.また,特別報告者は,特に沖縄におけるデモに関する懸念を海上保安庁と共有した。 2015年,特別報告者は,沖縄の抗議活動に対する不均衡な規制の申し立てについての 懸念を当局に伝達した。特別報告者は過剰な有形力の行使と複数の逮捕についての信頼で きる報告を受けた。特別報告者はデモを撮影していたジャーナリストに対する有形力の行 使についての報告に特に懸念を抱いた。国家の安全保全に関して特定の分野における規制 が実行されるように,不当な制限を避けるための慎重なレビュープロセスが整備されるべ きである。現在進行中の対立に関する情報について,国民の完全なアクセスを確保するこ とは極めて重要であることを考慮すれば,ジャーナリストとの対立に関して報告された全 ての出来事に対して特別な注意が払われなければならない。特別報告者は沖縄における表 現と抗議に対する継続的な規制に関する重要な報告を受けているが,それは反対を表明す るための空間や,日本中の人々が沖縄の状況について知るための情報へのアクセスの利用 可能性について,正当な懸念を生じさせている。 60.特別報告者が訪日中に懸念を表明した最近の1つの事案がある。その事案は,20 16年10月,沖縄平和運動センター議長の山城博治氏が,沖縄北部の東村の米軍ヘリパ ッド建設現場近くの有刺鉄線を切断した容疑で逮捕された件である。同氏は名護市辺野古 のキャンプ・シュワブ前で移設作業を妨害し,防衛省職員の肩をつかんで揺さぶり,怪我 を負わせた罪にも問われた。山城氏は公務執行妨害と傷害について罪を認めなかったが, 有刺鉄線を切断するという器物損壊については罪を認めた。山城氏は裁判なしで5か月間 拘束された。そのような長期間の拘束は山城氏の被疑事実に比して不均衡に思える。20 17年3月,山城氏は保釈されたが,特別報告者は,こうした日本政府の行動は,表現, 特に公の抗議活動と反対意見の表明を萎縮させかねないと懸念している。 V.結論及び勧告 61.特別報告者は,あらゆる活動を通して,民主的な社会における言論及び表現の自由 の重要性を繰り返し述べる。言論及び表現の自由の権利の保護は人権の促進・保護の中心 をなすものであることを強調する。人権に対する日本の歴史的なコミットメントは,地域 的にも全世界的にも指導者としての重要な立場にある国と位置づけた。繰り返しになるが, 情報や思想の自由な交換を保護・促進するというそのコミットメントは,過去数十年にわ たり日本が経験した経済的及び科学的進展にとり確実に不可欠であった。日本国憲法は, おそらく,核となる市民的及び政治的権利,特に表現の自由の権利のために設けられた確 たる保護を付与された歴史プロセスにおける重要な要素であり続けている。 20 62.政府による検閲が存在しないということも重要なことであるが,こうした非常に堅 固な基盤があるにもかかわらず,特別報告者は著しく心配な兆候を確認した。メディア, 歴史的な出来事を議論する限られた場所,国家安全保障上の理由に基づく情報アクセスの 制限の増加に対して政府高官が行使し得る直接的及び間接的な圧力が,日本の民主主義基 盤をむしばまないよう注意する必要がある。 63.特別報告者は,日本がインターネットの自由の分野において重要なモデルを示して いることを強調する。日本は,インターネット普及率が高いレベルにあり,政府は内容制 限に携わっていない。デジタルの自由への干渉度が非常に低いレベルにあることは,政府 の表現の自由へのコミットメントを説明している。 64.しかしながら,特別報告者は,日本の民主主義基盤を更に強化するため,建設的関 与の精神で,以下の措置を勧告する。 A.メディアの独立 65.特別報告者は,現在の放送メディアを所管する法的枠組を見直すこと,特に,政府 に対し,政府による干渉の法的基盤を除去し,報道の独立性を強化する観点から,放送法 第4条の見直し及び撤廃を勧告する。この措置と並んで,特別報告者は,政府に対し,放 送メディアに関する独立規制機関の枠組を構築することを強く要請する。 66.特別報告者は更に当局及びメディア団体に対し,報道関係者もしくは他の調査報道 業務を行う専門家に対して,いかなる脅しも威嚇も拒否することを公然と表明することを 求める。 67.公共及び民間の放送メディア団体,活字メディア団体は,特に,議論を呼ぶ話題を 調査しコメントするジャーナリストへの全面的な支援及び保護を保障しつつ,編集活動に 対するいかなる直接的及び間接的な圧力に対して,常に警戒すべきである。沖縄における 軍事活動に対する抗議や原子力事業と災害の影響,第二次世界大戦における日本の役割と いった非常に機微な問題を取材するジャーナリストに対する支援に特に注意が支払われる べきである。 68.報道の自由及び独立はジャーナリスト間の更なる結束なくしては守られ得ない。特 別報告者は,ジャーナリスト団体に,現行の記者クラブ制度が及ぼす影響を議論し,少な くとも広範囲のジャーナリストが参加できるように会員を拡大する責任を負う立場にある ことを求める。特別報告者はまた,ジャーナリストに対し,独立した報道の促進がいかに 21 マルチメディアで働く専門家のつながりを促進できるかを評価することを求める。 B.歴史教育及び報道への介入 69.特別報告者は,政府に対し,教材における歴史的出来事の解釈への介入は慎むべき こと,また,第二次世界大戦中に日本が関与した出来事に特に留意しつつ,これらの深刻 な犯罪について国民に知らせる努力を支援することを求める。政府は学校のカリキュラム 作成において完全なる透明性を確保し,教科用図書検定調査審議会自体を政府の影響から いかに守るかを再検討することにより,公教育の独立性に,有意義に貢献すべきである。 70.「慰安婦」問題を含む過去の重大な人権侵害に係る公開情報を検証していくため,政 府は,「真実・正義・賠償・再発防止保証の促進(真実の権利)」特別報告者の訪問招請を 検討すべきである。 C.選挙運動とデモ 71.特別報告者は,選挙運動に対して不当な制限を課す公職選挙法の規定を廃止するこ とにより,公職選挙法を国際人権法に準拠させるための改正を求める。 72.特別報告者は,訪日時及び訪日後に受け取った情報に基づき,沖縄における公の抗 議活動に向けられた圧力を特に懸念している。特別報告者は,公権力,特に法執行機関が, 緊迫した状況下に置かれていることは理解するが,公権力,特に法執行機関は,メディア による抗議活動に関する報道も含め,公の抗議活動や反対意見の表明が可能となるよう, あらゆる努力を行うべきである。抗議活動を行う者に不均衡な処罰を科すことを含め,悪 者扱いすることは,全ての国民が公共政策への反対意見を表明する基本的自由を徐々に損 なうことになる。 D.特定秘密保護法 73.特別報告者は,たとえその情報の開示が日本の国家安全保障を脅かさないとしても, その情報が秘密と指定される可能性を避けるための継続的な取組と警戒を促す。 74.特別報告者は,政府関係者から,政府は同法25条の厳しい罰則をジャーナリスト に適用する意図はないとしていることを聞いたことには満足しつつも,政府に対し,法自 体がジャーナリストの業務に萎縮効果を与えないことを保障すべく同法を改正することを 促す。また,特別報告者は,政府関係者から,ジャーナリストが情報を開示したとしても, その情報が公的な関心事項であり,ジャーナリズムの誠実かつ合法的な追及の中で得られ たものである限り,罰せられないことを聞いたことには満足しつつも,自由権規約委員会 の提案を踏まえて,政府に対し,ジャーナリスト及び政府関係者を含め,いかなる個人も, 22 日本の国家安全保障に危害を与えない国民の関心事項である情報を開示しても処罰されな いことを保障する例外規定を同法に含めることを奨励する。 75.指定された秘密にアクセスする権限を有する者による情報の開示を罰する条項は, 最低限,情報の開示が公益に叶うものであり,またその開示が日本の国家安全保障を危険 にさらさないという誠実な信念に基づいて情報を漏えいした個人に対する例外規定を含む べきである。 76.また,情報への権利は,法律を超越して,不正の報道や公益に叶う情報の報道を促 進する社会的及び組織的な規範の基盤を必要としている。こうした規範の強化のためには, 様々な機関のあらゆるレベルに対する訓練と政治及び企業のリーダーや国際公務員,裁判 官等による支援策や支持表明,報復がなされた場合の説明責任の追及が必要である。 77.衆議院は,政府に対し,説明責任の向上を求めており,特別報告者は政府に対し, 専門家を配置した独立の監視委員会の設立によって,この目標を達成することを奨励する。 E.差別とヘイトスピーチ 78.特別報告者は,日本に対し,広範に適用可能な反差別法を採択することを促す。 79.特別報告者は,例えば,ヘイトに対抗する教育上及び公的なステートメントを通し て,ヘイトスピーチ問題に取り組む日本政府の努力に敬意を表する。他方,スピーチその ものは,自由権規約第20条及び同規約第19条第3項の要件を満たさない限り,制限さ れるべきではない。 F.デジタル権 80.政府は,盗聴及びサイバーセキュリティへの新しいアプローチに関連する法整備を 検討しているが,特別報告者は,自由,通信の安全,オンラインにおける革新の精神が, 規制への取組の念頭に置かれ続けるよう望む。国会が,そのような取組について国民的な 議論を行うこと,また,法がプライバシー権及び表現の自由を保護するための基準を尊重 することも重要である。 81.法律は,国家による通信の監視は,最も例外的な場合において,また,独立した司 法機関による監視の下でのみ行われなければならない旨を規定しなければならない。特に, 法は,いかなる電子的又はデジタルな監視も,少数者集団を対象とし監視する等の差別の ために適用されてはならないと保障する基礎的な原則を遵守すべきである。 (了)

 

 

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000318480.pdf

 

 

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日本が今でも「報道の自由度」70位に低迷する理由 安倍政治で“変えられてしまった”記者たちの末路 古賀茂明

 国際NGO「国境なき記者団」(RSF)が5月3日に発表した2024年「報道の自由度ランキング」で、日本は180カ国・地域のうち70位だった。 

 

【写真】記者クラブ非加盟のメディアに冷たい政治家はコチラ 

 

 トップ10は1位のノルウェーからG7で唯一入った10位のドイツまで全てが欧州諸国で、評価点数はノルウェー91.89、ドイツ83.84と、いずれも80点を超えた。G7では、14位カナダ(81.7)、21位フランス(78.65)、23位イギリス(77.51)までが70点以上。RSFの分類では、85~100 点が「good」、70~85点は、「satisfactory」で、ここまでが何とか合格点だ。

 

  55~70 点は、「problematic」だが、46位イタリア(69.8)は70点にわずかに及ばず、55位アメリカ(66.59)も3点余り下回った。 

 

 日本は、前年の68位からさらに下がり70位で、69位コンゴ共和国、71位コモロ連合と同レベルで点数も62.12。G7の中では大差をつけて最下位である。 

 

 日本は、民主党政権の時に12位となったのがピークで、安倍晋三政権の時から急降下し、その後も低順位が続いている。

 

  しかし、安倍氏が死去してから2年近く経ち、さらに裏金問題などで安倍派が壊滅状態になったことで、メディアが異常に恐れていると言われた萩生田光一・前自民党政調会長を中心とする安倍派強硬派の力もほとんどなくなっている。それなのになぜ日本のランキングが下がり続けるのだろうか。 

 

 その理由についてRSFのサイトを見ると、以下の記述がある(筆者の翻訳)。

 

  「日本は議会制民主主義国家であり、報道の自由と多元主義の原則は一般的に尊重されている。しかし、伝統的・ビジネス上の利害関係、政治的圧力、ジェンダーの不平等などにより、ジャーナリストが監視役としての役割を完全に果たすことができないことがしばしば起こる」 

 

 これだけではよくわからないかもしれないが、私の経験に照らせば、「なるほど」と思わせるものだ。

 

  RSFには世界中のジャーナリストが所属している。その中には、日本に駐在する外国メディアの特派員や日本で取材経験のあるジャーナリストもいる。ランキングには、実際の取材経験に基づく評価も入っているのだ。

  私は、2015年に、日本外国特派員協会(FCCJ)から「報道の自由の友賞」という賞をいただいた。テレビ朝日の報道ステーションに対する安倍政権の圧力を批判して同番組を降板した直後のことだ。 

 当時、多くの外国の記者に取材を受け、翌年には、デビッド・ケイ氏(「表現の自由」国連特別報告者)による日本の報道の自由に関する調査にも協力した。

  その時、私が彼らに解説した、日本の大手メディアに関する問題点について、彼らは、一様に賛同してくれた。

 

 

 

それらの問題は、10のポイントにまとめることができる。  それぞれについて簡単に解説してみよう。  第1に、日本の大手メディアの記者たちは、ジャーナリストである前に会社員であるというのが最も本質的な問題だ。ジャーナリストとして何をやりたいかということよりも、例えば読売新聞の会社員として、あるいはテレビ朝日の会社員として割り当てられた仕事をこなすことが最優先という記者が多いのだ。  どのような記事を書きたいかということが先にあり、その記事を書ける会社を選び、実績を積みながら一流のジャーナリストを目指す海外のジャーナリストとは全く異なる。  上司に従っていれば、出世して高い給与がさらに上がる。最後は、役員になるか、関連企業や団体に「天下り」する。そのためにはリスクを避けるという行動パターンが身についているように見える。  それが嫌になった人は会社を辞めてしまったという話もよく聞く。  第2の問題が「記者クラブ」だ。  多くの場合、取材先の官庁、政党、企業・団体の便宜供与により設けられる記者クラブには、大手メディアを中心に、取材先と伝統的に付き合いのある大手を中心とした報道機関がメンバーとして参加する。  記者クラブのメンバー各社の記者は、クラブに常駐し、何もしなくても情報が提供され、記者会見にも自動的に出席できる。また、クラブのメンバーだと言えば、原則取材に応じてもらえる。  彼らは、与えられた情報を右から左に流すだけで記事が書ける。さらに、各社が与えられた情報をどのようなトーンで書くのかも各クラブ内の雰囲気でわかるため、リスクを避けて各社が同じような記事を書くことになる。一種の談合だ。  一方、メンバー外の海外やネットなどのメディアは、そもそも記者会見があることもわからず、今何がテーマなのかを知ること自体が困難で、直接の担当官僚に取材をするのも制限される。この仕組みは、明らかに違法なカルテルだが、これに公正取引委員会がメスを入れたことはない/////