A/64/881 配布:一般 2010 年 7 月 26 日 英語 原文:英語/フランス語 第 64 回会期 議事日程議題 77 コソボの一方的独立宣言が国際法に適合しているかに関する国際司法裁判所の勧告的意見の要請 コソボに関する一方的独立宣言の国際法適合性に関する国際司法裁判所の勧告的意見 事務総長のノート 1.2008 年 10 月 8 日の第 63 回会期の第 22 回本会議において、総会は、国連憲章第 96 条に従って、 総会決議 63/3 により、国際司法裁判所規程第 65 条に従って、次の問題に関する勧告的意見を与える ことを、国際司法裁判所に要請することを決定した。 「コソボ暫定自治政府による一方的独立宣言は、国際法に適合しているか?」 2.2010 年7月 22 日に、国際司法裁判所は上記問題に関するその勧告的意見を言い渡した。 3.2010 年 7 月 26 日に、私は同裁判所のこの勧告的意見の正式に署名され封印された写しを受領した。 4.私は、この結果として「コソボに関する一方的独立宣言の国際法適合性」と表題のついた事件につ いて、2010 年 7 月 22 日に国際司法裁判所により与えられた勧告的意見を、総会に送る。 5.勧告的意見に付けられた個別意見、分離意見および宣言は、このノートの補遺として発行される。 2010 年 7 月 22 日 勧告的意見 コソボに関する一方的独立宣言の国際法適合性 目次 項 手続の年代順配列…………………………………………………………………………… 1-16 Ⅰ. 管轄権と裁量………………………………………………………………………………… 17-48 A.管轄権 …………………………………………………………………………………… 18-28 B.裁量 ……………………………………………………………………………………… 29-48 Ⅱ. 問題の範囲と意味 …………………………………………………………………………… 49-56 Ⅲ. 事実に関する背景 …………………………………………………………………………… 57-77 A.安全保障理事会決議 1244(1999)および関連 UNMIK 規則………………………… 58-63 B.2008 年 2 月 17 日以前の最終的地位プロセスにおける関連出来事 ……………… 64-73 C.2008 年 2 月 17 日の出来事およびその後……………………………………………… 74-77 Ⅳ. 独立宣言は国際法に適合しているかどうかという問題…………………………………… 78-121 A.一般国際法………………………………………………………………………………… 79-84 B.安全保障理事会決議 1244(1999)及びその下に創出された UNMIK の憲法枠組… 85-121 1.安全保障理事会決議 1244(1999)の解釈………………………………………… 94-100 2.独立宣言は安全保障理事会決議 1244(1999)及びその下で採択された措置に 適合しているかどうかの問題 ……………………………………………………… 101-121 (a) 独立宣言の起草者の身元……………………………………………………… 102-109 (b) 独立宣言の起草者は安全保障理事会決議 1244(1999)又はそのもとで 採択された措置に違反して行動したかどうかという問題………………… 110-121 Ⅴ.全体の結論 ……………………………………………………………………………………… 122 勧告的意見 ……………………………………………………………………………………… 123 国際司法裁判所 2010 年 2010 年7月 22 日 付託事件リスト 141 番 2010 年7月 22 日 コソボに関する一方的独立宣言の国際法適合性 要請された勧告的意見を与える裁判所の管轄権 国際司法裁判所規程第65条1項――国際連合憲章第96条1項――勧告的意見を要請する総会の権限― ―国際連合憲章第10条および第11条――総会は憲章に基づくその権限外で行動したという主張――国 際連合憲章第12条1項――勧告的意見を要請する権限付与は第12条によって制限されない 裁判所が意見を与えることを要請されている問題は「法律問題」であるという要件――独立宣言をな す行為は国内憲法によって規律されるという主張―-裁判所は、国内法に委ねる必要なしに国際法に典 拠して問題に応えることができる――問題が政治的側面を有するという事実は、その問題から法律問題 としての性格を奪うものではない――裁判所は、要請の背後にある政治的動機又は勧告的意見が有する かもしれない政治的含意にはかかわらない 裁判所は、要請された勧告的意見を与える管轄権を有する。 * * 意見を与えるべきか否かを決定する裁判所の裁量 裁判所の司法機能の保全――「極めて強い理由」のみが、裁判所がその司法機能を行使することを断 る結果に導くべきである――勧告的意見を要請する決議を支持する個々の国家の動機は、裁判所がその 裁量を行使することと関係がない――意見の目的、有用性および政治的重要性を評価する要請機関 安全保障理事会および総会のそれぞれの権限の限界――コソボに関する安全保障理事会の関わり合 いの性質――憲章第12条は、安全保障理事会で審理中の国際の平和と安全に対する脅威に関する総会に よる行動を妨げない――総会はコソボにおける事態に関して行動をとってきた。 裁判所が勧告的意見を与えない裁量を行使する極めて強い理由はない。 * * 問題の範囲と意味 総会決議63/3の問題の本文――問題を明確にする裁判所の権限――総会によって提示された問題を 再定式化する必要はない――その司法機能の適切な行使のために、裁判所は、独立宣言の起草者の身元 を証明しなければならない――総会は問題を決定する裁判所の自由を制限する意図はない――裁判所 の役割は宣言が国際法に違反して採択されたか否かを決定することである * * 事実の背景 コソボの暫定行政のための枠組は安全保障理事会によって適切に設定する――安全保障理事会決議 1244(1999)――国際連合コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)――事務総長特別代理人の役割――UNMIK 体制の「4本の柱」――暫定自治政府の憲法枠組――暫定自治政府機構と事務総長特別代表との関係 最終的地位プロセスにおける関連事項――コソボの最終的地位プロセスのための事務総長による特 別使節の任命――コンタクト・グループの指導原則――協議プロセスの失敗――特別使節によるコソボ の最終的地位解決に関する包括的提案――トロイカ体制の下でのコソボの将来の地位に関する交渉の 失敗――2007年11月17日に行われたコソボ議会の選挙――2008年2月17日の独立宣言の採択 * * 独立宣言は国際法に従っているかどうか 国家実行に従えば独立宣言は禁止されていないこと―― 一方的独立宣言の禁止は、領土保全の原則 に事実上含まれているとの主張――領土保全の原則の範囲は国家間の関係の分野に限られている―― 独立宣言に関する安全保障理事会の実行から一般的禁止を推論することはできない――自決権の範囲 および「救済的分離」の権利の存在に関する問題は、総会によって提出された問題の範囲を超える 一般国際法は独立宣言の禁止に適用可能な法を含まない――2008年2月17日の独立宣言は一般国際法 に違反しなかった 安全保障理事会決議1244(1999)および憲法枠組――決議1244(1999)は国際法上の義務を課しかつ 適用可能な国際法の部分である――憲法枠組は国際法的性格を有する――憲法枠組は決議1244(1999) に従って創出された特別の法秩序の部分である――憲法枠組は国内法の主題である問題を規律する― ―事務総長特別代理人の監督権限――安全保障理事会決議1244(1999)および憲法枠組は2008年2月17 日の時点において有効かつ適用可能であった――それらのいずれも終了を規定する条項を含んでおら ず、かつ、廃止されなかった――事務総長特別代理人はコソボにおける彼の職務を執行し続ける 安全保障理事会決議1244(1999)および憲法枠組は、裁判所で審理中の問題に答える場合に考慮され るべき国際法の部分を形成する 安全保障理事会決議の解釈――決議1244(1999)はコソボにおける国際文民および安全保障プレゼン スを設立した――コソボの領土に対するその継続的主権から生じるセルビアの権限行使の一時的停止 ――決議1244(1999)は暫定体制を創出した――決議1244(1999)の目的と意図 独立宣言の起草者の身元――独立宣言はコソボ議会の行為であったか否か独立宣言の起草者はコソ ボ暫定自治行政の枠組の範囲内で行動しようとはしなかった――起草者はコソボの国際義務を履行す ることを引き受けた――原文であるアルバニア語の本文においてコソボ議会の作業となる宣言に言及 せず――事務総長特別代理人の沈黙――独立宣言の起草者は、暫定行政の枠組の外側でコソボ人民の代 表者の立場で一つになって行動した 独立宣言の起草者は安全保障理事会決議1244(1999)に違反して行動したか否か――決議1244(1999) は国際連合加盟国および国際連合の機関に向けられた――その他の行為者に特別の義務は向けられて いない――決議はコソボの最終的地位を扱う如何なる規定も含んでいなかった――安全保障理事会は コソボの状況の最終的決定を自らに留保しなかった――安全保障理事会決議1244(1999)は2008年2月 17日の宣言の起草者が独立宣言を発することを妨げなかった――独立宣言は安全保障理事会決議1244 (1999)に違反しなかった 独立宣言は暫定自治政府機構によって発布されなかった――独立宣言は憲法枠組に違反しなかった 独立宣言の採択は国際法の適用可能な規則に違反しなかった 勧告的意見 出席裁判官:小和田裁判所所長、トムカ副所長、コロマ、アル・ハサウネ、バーゲンソール、ジンマ、 エブラヒム、キース、セプルベダ=アモール、ベヌーナ、スコトニコフ、カンセド・トリ ンダージ、ユスフ、グリーンウッドの各裁判官;クーヴロー書記 コソボに関する一方的独立宣言の国際法との適合性に関して 裁判所は、 上記のように構成され、 以下の勧告的意見を与える。 1. 裁判所の勧告的意見が要請された問題は、2008年10月8日に国際連合総会(以下、総会)によって 採択された決議63/3に述べられている。2008年10月10日にファクシミリで書記局が受領した2008年10 月9日付の書簡により、その謄本は2008年10月15日に書記局が受領したのであるが、国連事務総長は、 勧告的意見を求める問題を提出する総会の決定を裁判所に伝達した。英文版および仏文版の真正の複 写であると証明された決議が書簡に同封されていた。決議は次のようである。 「総会は、 国際連合の目的と原則に配慮し、 国際連合憲章に基づく任務と権限に留意して、 2008年2月17日にコソボ暫定自治政府機構がセルビアからの独立を宣言したことを想起し この行動は、現行国際法秩序との両立性に関して、国際連合加盟国から様々な反応を受けてきたこ とを認識し、 国際司法裁判所に要請する国際連合憲章第96条に従い、裁判所規程第65条に従って、次の問題に関 して勧告的意見を要請することを決定する。 『コソボの暫定自治政府による一方的独立宣言は、国際法に適合しているか?』」 2.2008年10月10日付けの書簡によって、裁判所書記は、裁判所規程第66条1項に従い、勧告的意見の 要請を、裁判所の裁判を受けることができるすべての国に通告した。 3.2008年10月17日付けの命令により、規程第66条2項に従い、裁判所は、国際連合およびその加盟国 が問題に関する情報を提供することができることを決定した。同じ命令により、裁判所は、問題に関 して陳述書が提出されるべき時間的期限として2009年4月17日を、および、規程第66条4項に従い、書 面の陳述を行った国および組織が他の書面による陳述について書面による意見を提出すべき時間的 期限として2009年7月17日を、それぞれ設定した。 裁判所は、また、2008年2月17日の一方的独立宣言は勧告的意見を求めて裁判所に提出された問題 の主題であるという事実を考慮して、その宣言の起草者は問題に関する情報を提供することができる と考慮されたということを決定した。それ故、更に、同じ時間的期限内に裁判所に書面の提出をする よう起草者に求めることを決定した。 4.2008年10月20日付けの書簡により、裁判所書記は、国際連合およびその加盟国に裁判所の決定を通 知し、かつ、命令の複写を国際連合およびその加盟国に送付した。同日付けの書類により、裁判所書 記は、独立宣言の起草者に裁判所の決定を通知し、かつ、命令の複写を彼らに送付した。 5.規程第65条2項に従い、2009年1月30日、国際連合事務総長は、問題を明らかにすることができる書 類一式を裁判所に伝達した。書類は後に裁判所のウエッブサイトに入力された。 6.裁判所によって設定された時間的期限内に、次の順序で諸国により書面の陳述が提出された。即ち、 チェコ共和国、フランス、キプロス、中国、スイス、ルーマニア、アルバニア、オ-ストリア、エジ プト、ドイツ、スロヴァキア、ロシア連邦、フィンランド、ポーランド、ルクセンブルグ、リビア= アラブ国、連合王国、アメリカ合衆国、セルビア、スペイン、イランイスラム共和国、エストニア、 ノルウエー、オランダ、スロベニア、日本、ブラジル、アイルランド、デンマーク、アルゼンチン、 アゼルバイジャン、モルディブ、シエラレオネおよびボリビアである。一方的独立宣言の起草者は書 面を提出した。2009年4月21日、裁判所書記は、書面の陳述をした全ての国家および一方的独立宣言 の起草者に対して書面の陳述および書面の提出の複写を伝達した。 7.2009年4月29日、裁判所は、設定期限の後の2009年4月24日に提出されたベネズエラ・ボリビア共和 国の書面による陳述を受領することを決定した。 8.2009年6月8日付の書簡により、裁判所書記は、国際連合およびその加盟国に、裁判所は、2009年12 月1日に聴取を始めることを決定し、聴取においては、陳述書および場合によっては論評書を提出し ていたか否かに関係なく、国際連合および加盟国が口頭による陳述および論評を提示することができ る旨を伝えた。国際連合およびその加盟国は、2009年9月15日までに、口頭による訴訟手続への参加 の意図があるかどうかを、裁判所書記に伝えるよう求められた。更に書簡は、一方的独立宣言の起草 者が口頭による寄与を提示することができる旨を述べていた。 同じ日付の書簡によって、裁判所書記は、一方的独立宣言の起草者に聴取を行う旨の裁判所の決定 を伝え、同じ時間的期限の範囲内に、口頭による訴訟手続に参加する意図があるかどうかを知らせる よう求めた。 9.裁判所によって設定された時間的期限内に、書面による論評が次の順序で提出された。即ち、フラ ンス、ノルウエー、キプロス、セルビア、アルゼンチン、ドイツ、オランダ、アルバニア、スロベニ ア、スイス、ボリビア、連合王国、アメリカ合衆国およびスペインである。一方的独立宣言の起草者 は書面による陳述に関する書面による寄与を提出した。 10.上述の書面による論評および書面による寄与を受領した後、裁判所書記は、2009年7月24日、それ らの複写を、陳述書、書面による論評を提出したすべての国および一方的独立宣言の起草者に伝達し た。 11.2009年7月30日付書簡によって、裁判所書記は、国際連合および書面による訴訟手続に参加しなか ったすべての加盟国に、すべての陳述書および書面による論評並びに一方的独立宣言の起草者の書面 による寄与を伝達した。 12.2009年9月29日付書簡により、裁判所書記は、裁判所が設定した時間的期限内に、すでに示した訴 訟手続に参加する意図を表明した者に対して聴取の詳細な時刻表を送付した。 13.裁判所規則第106条に従い、裁判所は、裁判所に提出された陳述書および書面による論評並びに一 方的独立宣言の起草者の書面による寄与を、口頭訴訟手続の開始の時から、公に利用し易くすること を決定した。 14.2009年12月1日から11日まで開催された聴取の過程において、裁判所は、次の者からこの順序で口 頭による陳述を聴取した。 セルビア共和国 H. E. Mr. Dušan T. Bataković、歴史学博士、パリ・ソルボンヌ大学(パリ第4大学)、 駐セルビア共和国フランス大使、 バルカン研究所副所長およびベルグラード大学助 教授、代表団長 Mr. Vladimir Djerić, 法学博士(ミシガン)、弁護士、Mikijelj, Janković & Bogdanović、 ベルグラード、補佐人および弁護人 Mr. Andreas Zimmerman, 法学修士(ハーバード)、ポツダム大学国際法教授、ポツダ ム人権センター所長、常設仲裁裁判所裁判官、補佐人および弁護人 Mr. Malcolm N. Shaw勅撰弁護士、ライセスター大学ロバート・ジェニングス卿国際 法教授、連合王国、補佐人および弁護人 Mr. Marcelo G. Kohen、ジュネーブ国際開発大学院研究所国際法教授、ジュネーヴ、 国際法学会準会員、補佐人および弁護人 Mr. Saša Obradović、外務省一般監査官、代表団副団長 一方的独立宣言の起草者 Mr. Skender Hyseni、代表団団長 Sir Michael Wood、聖ミカエル・聖ジョージ上級勲爵士、イギリス法廷弁護士会会員、 国際法委員会委員、弁護人 Mr. Daniel Müller、パリ・ウエスト大学ナンテール国際法センター(CEDIN)研究員、 ナンテール弁護士、 弁護人 Mr. Sean D. Murphy、ジョージ・ワシントン大学パトリシア・ロバーツ・ハリス法学 研究教授、弁護人 アルバニア共和国 H.E. Mr. Gazmend Barbullushi、駐オランダ王国アルバニア特命全権大使、法律顧問 Mr. Jochen A. Frowein、比較法修士、マックス・プランク国際法研究所名誉所長、 ハイデルベルグ大学名誉教授、国際法学会会員、法律顧問 Mr. Terry D. Gill、アムステルダム大学軍事法教授およびユトレヒト大学国際公法 准教授、法律顧問 ドイツ連邦共和国 Ms. Susanne Wasum-Rainer、法律顧問、連邦外務省(ベルリン) サウジ・アラビア王国 H.E. Mr. Abdullah A. Alshaghrood、駐オランダ王国サウジ・アラビア王国大使、代 表団団長 アルゼンチン共和国 H.E. Madam Susana Ruiz Cerutti、大使、外務・国際貿易省法律顧問、代表団団長 オーストリア共和国 H.E. Mr. Helmut Tichy、大使、欧州・国際関係省法律顧問代理、 アゼルバイジャン共和国 H.E. Mr. Agshin Mehdiyev、駐国際連合アゼルバイジャン大使および常駐代表 ベラルーシ共和国 H.E. Madam Elena Gritsenko、駐オランダ王国ベラルーシ共和国大使、代表団団長 ボリビア多民族国家 H.E. Mr. Roberto Calzadilla Sarmiento、駐オランダ王国ボリビア多民族国家大使 ブラジル連邦共和国 H.E. Mr. José Artur Denot Medeiros、駐オランダ王国ブラジル連邦共和国大使 ブルガリア共和国 Mr. Zlatko Dimitroff、法学博士、外務省国際法局局長、代表団団長 ブルンジ共和国 Mr. Thomas Barankitse、法律アタッシェ、弁護人 Mr. Jean d’Aspremont、アムステルダム大学准教授、ルバン・カソリック大学招待 講師、弁護人 中国人民共和国 H.E. Madam Xue Hanqin、東南アジア諸国連合(ASEAN)大使、外務省法律顧問、国際 法委員会委員、国際法学会会員、代表団団長 キプロス共和国 H.E. Mr. James Droushiotis、駐オランダ王国キプロス共和国大使 Mr. Vaughan Lowe、勅撰弁護士、イギリス法廷弁護士会会員、オックスフォード大学 チチェリー国際法教授、補佐人および弁護人 Mr. Polyvios G. Polyviou、補佐人および弁護人 クロアチア共和国 H.E. Madam Andreja Metelko-Zgombić、大使、外務および欧州統合省主任法律顧問 デンマーク王国 H.E. Mr. Thomas Winkler、大使、大使、外務省法務関係次官、代表団団長 スペイン王国 Ms Concepción Escobar Hernández、法律顧問、外務・協力省国際法局局長、代表団 団長および弁護人 アメリカ合衆国 Mr. Harold Hongju Koh、国務省法律顧問、代表団団長および弁護人 ロシア連邦 H.E. Mr. Kirill Gevorgian、大使、外務省法律局局長、代表団団長 フィンランド共和国 Ms. Päivi Kaukoranta、外務省法律部門総局長 Mr. Martti Koskenniemi、ヘルシンキ大学教授 フランス共和国 Ms.Edwige Belliard、欧州・外務省法律局局長 Mr.Mathias Forteau、パリ・ウエスト大学教授、ナンテール弁護士 ヨルダン・ハシェマイト王国 H.R.H. Prince Zeid Raad Zeid Al Hussein、駐アメリカ合衆国ヨルダン・ハシェマ イト王国大使、代表団団長 ノルウエー王国 Mr. Rolf Einar Fife、外務省法律局総局長、代表団団長 オランダ王国 Ms Liesbeth Lijnzaad、外務省法律顧問 ルーマニア Mr. Bogdom Aurescu、外務大臣 Mr. Cosmin Dinescu、外務省法律局局長 連合王国 Mr. Daniel Bethlehem、勅撰弁護士、外務英連邦省法律顧問、連合王国代表、補佐人 および弁護人 Mr. James Crawford, S.C.、ケンブリッジ大学ヒュ-エル国際法教授、国際法学会会 員、補佐人および弁護人 ベネズエラ・ボリビア共和国 Mr. Alejandro Fleming、 外務人民権力省欧州副大臣 ベトナム社会主義共和国 H.E. Madam Nguyen Thi Hoang Anh、法学博士、外務省国際法条約局局長 15.口頭手続への参加者に対して裁判官から質問がなされた。それらの幾つかは求めに応じて制限時間 内に書面で回答された。 16.シー裁判官は、口頭手続に参加した。彼は後に2010年5月28日付で裁判官を辞任した。 Ⅰ. 管轄権と裁量 17.勧告的意見の要請を把握する場合、裁判所は、最初に、裁判所が要請された意見を与える管轄権を 有するか否か、および、それが肯定される場合、裁判所が、その裁量において、裁判所に提出された 事件に対して管轄権を行使しない何らかの理由があるか否かを検討しなければならない。(核兵器に よる威嚇又は使用の合法性、勧告的意見、I.C.J. Reports 1996(Ⅰ), p.232, para. 10; パレスチナ 占領地域における壁建設の法的効果、勧告的意見、I.C.J. Reports 2004(Ⅰ), p. 144, para. 13) A.管轄権 18.本裁判所は、最初に、2008年10月8日に総会によって要請された勧告的意見を与える管轄権を有す るか否かという問題を取り上げる。勧告的意見を与える裁判所の権限は、裁判所規程65条に基づくも のであり、次のように規定する。 「1.裁判所は、国際連合憲章によって又は同憲章に従って要請することを許可される団体の要請が あったときは、いかなる法律問題についても勧告的意見を与えることができる。」 19.この規定の適用において、本裁判所は次のことを指摘してきた。 「勧告的意見が憲章の下でそれを求めることを正当に許可された機関によって要請されること、それ が法律問題について要請されること、および、総会および安全保障理事会に関する場合を除き、問題 が勧告的意見を要請する機関の活動の範囲内で生じたものであることが、裁判所の権限の必須条件で ある。」(国際連合行政裁判所判決第273号の再審請求。勧告的意見、I.C.J.Reports 1982、pp.333- 334, para.21) 20.勧告的意見の要請が、国際連合の機関又はそれをなす権限を有する専門機関からのものである場合 に、裁判所はこれに応じる。総会は、憲章第96条によって勧告的意見を要請することが許可されてお り、次のように規定する。 「1.総会または安全保障理事会は、いかなる法律問題についても勧告的意見を与えるように国際司 法裁判所に要請することができる。 2.国際連合のその他の機関および専門機関でいずれかの時に総会の許可を得るものは、また、そ の活動の範囲内において生ずる法律問題について裁判所の勧告的意見を要請することができる。」 21.第96条1項は総会に対して「いかなる法律問題」についても勧告的意見を要請する権限を与えてい るが、裁判所は、過去において、時折、勧告的意見の要請の主題となっている問題と総会の活動との 関係に関して一定の指摘をしてきた。(ブルガリア、ハンガリーおよびルーマニアと締結された諸平 和条約の解釈、第一段階、勧告的意見、I.C.J. Reports 1950,p.70; 核兵器による威嚇またはその使 用の合法性、勧告的意見、I.C.J. Reports 1996(Ⅰ), pp.232-233, paras. 11-12; パレスチナ占 領地域における壁建設の法的効果、勧告的意見、I.C.J. Reports 2004(Ⅰ), p.145, paras. 16-17) 22.裁判所は、憲章第10条が次のように規定していることに注目する。 「総会は、この憲章の範囲内にある問題もしくは事項又はこの憲章に規定する機関の権限および任務 に関する問題若しくは事項を討議し、並びに、第12条に規定する場合を除く外、このような問題又は 事項について国際連合加盟国若しくは安全保障理事会又はこの両者に対して勧告をすることができ る。」 更に、憲章の第11条2項は、「国際連合加盟国によって総会に付託される国際の平和および安全の維 持に関するいかなる問題も」討議し、かつ、第12条の制限に従って、このような問題について勧告す る権限を明確に総会に与えてきた。 23.憲章第12条1項は、次のように規定する。 「1.安全保障理事会がこの憲章によって与えられた任務をいずれかの紛争又は事態について遂行し ている間は、総会は、安全保障理事会が要請しない限り、この紛争又は事態について、いかなる勧 告もしてはならない。」 24.本件法的手続において、安全保障理事会がコソボにおける事態を把握していることを理由に、第12 条1項の効果は、総会の勧告的意見要請が憲章の下での権限の外にあり、したがって、第96条1項によ って与えられた許可の範囲内にはない、ということが言われてきた。しかしながら、裁判所が早い時 期に述べてきたように、「勧告的意見の要請は、それ自体、『紛争又は事態について』の総会による『勧 告』ではない。」(パレスチナ占領地域における壁建設の法的効果、勧告的意見、I.C.J. Reports 2004(Ⅰ), p.148, para.25)したがって、第12条は総会が裁判所の意見の受領後に続けてとる行動の 範囲を制限するものではあるが(裁判所が本件において決定する必要のない問題である)、それ自体、 第96条1項によって総会に与えられた勧告的意見を要請する許可を制限するものではない。安全保障 理事会および総会のそれぞれの権限の限界(第12条はその一つの側面である)が、本件の状況におい て、裁判所が勧告的意見を与える管轄権を行使しないか否かは、別の問題である(以下のパラグラフ 29-48において検討されるであろう)。 25.また、裁判所は、意見を与えるように要請されている問題が憲章第96条および規程第65条の意味の 範囲内の「法律問題」であることを納得している。本件において、総会によって裁判所に提起されて いる問題は、問題となっている独立宣言が「国際法に従っている」か否かを問うているのである。あ る特定の行動が国際法に適合しているか否かという、裁判所に明白に問われている問題は、確かに、 法律問題であるように思われる。裁判所が以前に述べたように、法的な用語でまとめられかつ国際法 の問題を生じさせる問題は、その性質によって法に基づいた応答を受け入れることができ(西サハラ、 勧告的意見、I.C.J. Reports 1975, p.18, para. 15)、それ故に、憲章第96条および規程第65条の目 的にかなった法的性格の問題である。 26.それにもかかわらず、本件法的手続における参加者の何人かは、総会によって提示された問題は実 際には法的問題ではない、という考えを述べてきた。この考え方に従えば、国際法は独立宣言を行う 行為を規律しないのであり、そのような行為は政治的行為とみなされるべきだということになる。国 内憲法のみが独立宣言をなす行為を左右するのであり、勧告的意見を与える裁判所の管轄権は国際法 の問題に限定されるのである。しかしながら、本件において、裁判所は、独立宣言が国内法規に従っ ているか否かに関して意見を求められているのではなく、それが国際法に従っているか否かに関して のみ意見を求められているのである。裁判所は、国内法制を調査することなく国際法に言及すること によって問題に答えることができる。 27.更に、裁判所は、問題が政治的側面を持っているという事実が、その問題から法律問題としての性 格を奪うというだけでは十分ではない、ということを繰り返し述べてきた。(国際連合行政裁判所判 決第158号の再審請求事件、勧告的意見、I.C.J. Reports 1973, p. 172, para. 14) その政治的側 面がどのようなものであれ、裁判所は、本質的に司法上の職務、即ち、本件においては、国際法に照 らしてある行為の評価、を果たすように請われている問題の法的要素に応えることを拒絶することは できない。裁判所は、また、法律問題と向き合うか否かという管轄権の問題を決定するにあたって、 勧告的意見の要請を促した動機の政治的性質や意見が出されることになる政治的含意とは無関係で ある旨を明らかにしてきた。( 国際連合における加盟国の地位を国家に承認する場合の条件(憲章第 4条)、勧告的意見、1948、I.C.J. Reports 1947-1948, p.61 および 核兵器による威嚇またはそ の使用の合法性、勧告的意見、I.C.J. Reports 1996(Ⅰ)、p.234, para.13) 28.それ故、裁判所は、総会によってなされた要請に応えて勧告的意見を与える管轄権を有すると考え る。 B.裁量 29.しかしながら、裁判所が管轄権を有するという事実は、それを行使することを義務づけられている ことを意味するものではない。 「裁判所は、過去において、『裁判所は、勧告的意見を与えることができる――』と規定する裁判所 規程第65条1項は、裁判所は、たとい、管轄権の条件が整っているとしても、勧告的意見を与えない 裁量の権限を有するという意味に解釈されるべきであるということを何度も想起してきた。」(パレス チナ占領地域における壁建設の法的効果、勧告的意見、I.C.J. Reports 2004(I), p.156, para.44.) 勧告的意見の要請にこたえるか否かの裁量は、裁判所の司法機能の保全および国際連合の主要な司 法機関という性質を保護するために存在する。(東部カレリアの地位、勧告的意見、1923、P.C.I.J., Series B, No.5, p.29; 国際連合行政裁判所判決第158号の再審請求、勧告的意見、I.C.J. Reports 1973, p.175, para.24; 国際連合行政裁判所判決第273号の再審請求、勧告的意見、I.C.J. Reports 1982、 p.334、para.22; パレスチナ占領地域における壁建設の法的効果、勧告的意見、I.C.J. Reports 2004(Ⅰ), pp.156-157, paras.44-45) 30.にもかかわらず、裁判所は、勧告的意見の要請に対するその答えは、国際連合の活動への参加を表 すものであり、かつ、原則として、拒絶されるべきではない、という事実を大切にする。(ブルガリ ア、ハンガリーおよびルーマニアと締結した諸平和条約の解釈、その一、勧告的意見、I.C.J. Reports 1950, p.71; 国連人権委員会の特別報告者の訴訟手続きからの免除に関する意見の相違、勧告的意見、 I.C.J. Reports 1999(I), pp.78-79, para.29; パレスチナ占領地域における壁建設の法的効果、勧 告的意見、I.C.J. Reports 2004(I), p. 156, para. 44.) したがって、裁判所の一貫した判例は、 「極めて強い理由」のみが裁判所をしてその管轄権内にある要請に対する意見を拒絶することに導く ものと決定してきた。(ユネスコに対する異議申し立てに関する国際労働機関行政裁判所の判決、勧 告的意見、I.C.J. Reports 1956, p. 86; パレスチナ占領地域における壁建設の法的効果、勧告的意 見、I.C.J. Reports 2004(I), p. 156, para. 44.) 31.裁判所は、本件における裁判所の司法機能の行使の正当性に関して十分に答えなければならない。 それ故、以前の判例に照らして、総会からの要請に対して返答することを拒絶する極めて強い理由が あるか否かについて注意深く考慮してきた。 32.本件法的手続きへの参加者の何人かによって提示された一つの議論は、要請の背後にある動機に関 係する。それらの参加者は、総会が裁判所の意見を要請した決議の唯一の主唱者によってなされた陳 述に注意を引いた。それは、次のような趣旨であった。 「裁判所の勧告的意見は、一方的独立宣言が国際法に合致していることを取り上げる方法を今後熟慮 する多くの国にとって、政治的に中立で法律的に信頼できる手本を提供するであろう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ この決議案を支持することは、基本原則を再確認することにも役立つであろう。即ち、国際連合加 盟国が極めて重要であると考える事柄に関する基本的な問題を裁判所に提出するそれらの国の権利 である。この決議案に反対することは、国際連合体制を通じて裁判に訴えることを――現在または将 来において――求める国の権利を事実上否定する投票となるであろう。」(A/63/PV.22,p.1.) それらの参加者によれば、この陳述は、裁判所の意見が総会を助けるためではなく国の利益に役立 つために求められてきたのであり、それ故に、裁判所は応えるのを拒絶すべきである、ということを 明らかにしたのである。 33.勧告的意見の管轄権は、国家が裁判に訴える方式ではなく、総会および安全保障理事会並びに憲章 第96条2項に基づき特別に総会の許可を与えられた国際連合のその他の機関および専門機関がそれら の活動において助けとなるための意見を得ることができる手段である。裁判所の意見は国家に対して ではなくそれを要請した機関に対して与えられるのである。(ブルガリア、ハンガリーおよびルーマ ニアと締結された諸平和条約の解釈、意見その一、勧告的意見、I.C.J. Reports 1950, p.71)にも かかわらず、正確にはその理由ゆえに、勧告的意見を要請する決議を支持し、又は、決議に賛成の投 票をする個々の国家の動機は、裁判所が応えるか否かの裁量を行うことと関連がない。裁判所は、こ のことを「核兵器による威嚇またはその使用の合法性」の勧告的意見において次のように述べている。 「総会が、決議を採択することによって、法律問題に関する勧告的意見を求めた場合、裁判所は、意 見を与えることを拒絶する極めて強い理由があるか否かを決めるにあたり、要請の起源や政治的歴史 又は採択された決議に関する投票分布に対して関心を持たないであろう。」(I.C.J. Reports 1996(Ⅰ), p.237, para. 16) 34.法的手続きに参加した何人かの者は、決議63/3は総会が裁判所の意見を必要としている目的を表し ておらず、かつ、意見が何らかの有用な法的効果を持つと思われることを示すものは何もない、とい うことも述べた。この議論を受け入れることができない。裁判所は、一貫して明らかにしたように、 意見がその機能の適切な遂行に必要であるか否かを決定するのは、意見を要請する機関であって裁判 所ではない。「核兵器による威嚇またはその使用の合法性」の勧告的意見において、裁判所は、次の ように述べて、総会が裁判所に対して意見を求める目的を説明しなかったということを根拠に総会の 要請に応えることを拒否すべきであるという議論を拒絶した。 「裁判所は、自ら、その機能の遂行のために総会によって勧告的意見が必要とされているか否かを決 定することを主張してはいない。総会は、それ自身の必要性に照らして意見の有用性に関して自ら決 定する権利を有している。」(I.C.J. Reports 1996(Ⅰ), p.237,para.16.) 同様に、「パレスチナ占領地域における壁建設の法的効果」の勧告的意見において、「裁判所は、要 請された意見の有用性の評価を、意見を求めている機関、即ち、総会に替わって行うことができない、」 ということを述べた。(I.C.J. Reports 2004(Ⅰ), p. 163, para. 62)