市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約) 条約本文

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採択 1966年12月16日
発効 1976年3月23日
訳者 日本政府


 

この規約の締約国は、国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものであることを考慮し、これらの権利が人間の固有の尊厳に由来することを認め、世界人権宣言によれば、自由な人間は市民的及び政治的自由並びに恐怖及び欠乏からの自由を享受するものであるとの理想は、すべての者がその経済的、社会的及び文化的権利とともに市民的及び政治的権利を享有することのできる条件が作り出される場合に初めて達成されることになることを認め、人権及び自由の普遍的な尊重及び遵守を助長すべき義務を国際連合憲章に基づき諸国が負っていることを考慮し、個人が、他人に対し及びその属する社会に対して義務を負うこと並びにこの規約において認められる権利の増進及び擁護のために努力する責任を有することを認識して、次のとおり協定する。

 

第1部

第1条

1 すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する。

 

2 すべての人民は、互恵の原則に基づく国際的経済協力から生ずる義務及び国際法上の義務に違反しない限り、自己のためにその天然の富及び資源を自由に処分することができる。人民は、いかなる場合にも、その生存のための手段を奪われることはない。

 

3 この規約の締約国(非自治地域及び信託統治地域の施政の責任を有する国を含む。)は、国際連合憲章の規定に従い、自決の権利が実現されることを促進し及び自決の権利を尊重する。

 

 

 

第14条

1  すべての者は、裁判所の前に平等とする。

すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。

報道機関及び公衆に対しては、民主的社会における道徳、公の秩序若しくは国の安全を理由として、当事者の私生活の利益のため必要な場合において又はその公開が司法の利益を害することとなる特別な状況において裁判所が真に必要があると認める限度で、裁判の全部又は一部を公開しないことができる。

もっとも、刑事訴訟又は他の訴訟において言い渡される判決は、少年の利益のために必要がある場合又は当該手続が夫婦間の争い若しくは児童の後見に関するものである場合を除くほか、公開する。

 

2 刑事上の罪に問われているすべての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する。

 

3 すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に、少なくとも次の保障を受ける権利を有する。

 

(a) その理解する言語で速やかにかつ詳細にその罪の性質及び理由を告げられること。

 

(b) 防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。

 

(c) 不当に遅延することなく裁判を受けること。

 

(d)  自ら出席して裁判を受け及び、直接に又は自ら選任する弁護人を通じて、防御すること。弁護人がいない場合には、弁護人を持つ権利を告げられること。司法の利益のために必要な場合には、十分な支払手段を有しないときは自らその費用を負担することなく、弁護人を付されること。

 

(e) 自己に不利な証人を尋問し又はこれに対し尋問させること並びに自己に不利な証人と同じ条件で自己のための証人の出席及びこれに対する尋問を求めること。

 

(f) 裁判所において使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受けること。

 

(g) 自己に不利益な供述又は有罪の自白を強要されないこと。

 

4 少年の場合には、手続は、その年齢及びその更生の促進が望ましいことを考慮したものとする。

 

5 有罪の判決を受けたすべての者は、法律に基づきその判決及び刑罰を上級の裁判所によって再審理される権利を有する。

 

6  確定判決によって有罪と決定された場合において、その後に、新たな事実又は新しく発見された事実により誤審のあったことが決定的に立証されたことを理由としてその有罪の判決が破棄され又は赦免が行われたときは、その有罪の判決の結果刑罰に服した者は、法律に基づいて補償を受ける。ただし、その知られなかった事実が適当な時に明らかにされなかったことの全部又は一部がその者の責めに帰するものであることが証明される場合は、この限りでない。

 

7 何人も、それぞれの国の法律及び刑事手続に従って既に確定的に有罪又は無罪の判決を受けた行為について再び裁判され又は処罰されることはない。

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一般的意見13(21)(民事及び刑事裁判における手続的保障) 1984年4月12日採択

1. 委員会は、規約14条が複雑な性格を有しており、この規定の相異なる側面につき明確な意見が必要とされることに留意する。

これらのすべての規定は、適正な司法運営の確保を目的としており、このため、裁判所の前の平等及び法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利など、一連の個別的権利を定める。

すべての報告が14条の各規定を実施するために特にとられた立法措置その他の措置の詳細を述べているわけではない。

 

2. 一般的に、締約国の報告は、14条が個人の刑事上の罪の決定のための手続のみならず、民事上の権利及び義務の争いについての決定のための手続にも適用されることを認めていない。

これらの事項を扱う法律と実務は、国ごとに大きく異なる。この違いがあるため、「刑事上の罪」及び「民事上の権利及び義務の争い」の概念がそれぞれの法制度との関係でどのように解釈されているかについて、締約国がすべての関連情報を提出し、より詳細に説明することは、一層必要である。

 

3. 委員会は、今後の報告で、締約国が、裁判所への平等なアクセスを含む裁判所の前の平等、公正な公開審理、並びに司法部の権限、公平及び独立を法律により確立し、かつ、現実に保障することを確保するために採った措置に関しもっと詳細な情報を提出できれば有用と考える。

 

特に、締約国は、裁判所の設置規定に関する憲法及び法律の条文を明記すべきであるとともに、裁判官の任命方法、任命資格、任期及びその昇任、転任及び職務の終了を規律する条件、並びに、行政部及び立法部からの司法部の現実の独立に特段の注意を払って、裁判所の独立、公平及び権限を確保すべきである。

 

4. 14条の規定は、普通裁判所と特別裁判所を問わず、本条の範囲内にあるすべての裁判所に適用される。

委員会は、多数の国において、民間人を裁く軍事裁判所又は特別裁判所が存在することに留意する。

これは、公正で、公平な、かつ、独立した司法運営に関して、重大な問題を提起する。

極めて多くの場合、そのような裁判所を設置する理由は、通常の裁判の基準を満たさない例外的な手続の適用を可能にするためである。

規約は、そのような種類の裁判所を禁じてはいないが、規約の規定する条件は、そのような裁判所による民間人の裁判が、ごく例外的なものであり、14条に規定するすべての保障を真に与えるところでなされるべきことを明確に示している。委員会は、民間人を裁く裁判所を司法制度の中に有するいくつかの締約国の報告において、この点に関する情報の重大な欠如があることに留意した。

いくつかの国では、そのような軍事裁判所や特別裁判所において、人権の実効的保護にとって不可欠である、14条の要件に従った適正な司法運営が厳格に保障されていない。

 

締約国は、4条の想定する公の緊急事態の状況で、14条で要求される通常の手続の停止を決定する場合には、当該停止が現実の事態が真に必要とする限度を越えないことを確保するとともに、14条1項のその他の条件を尊重すべきである。

 

5. 14条1項2文は、「すべての者は、公正な公開審理を受ける権利を有する」と定める。

本条3項は、刑事上の罪の決定に関して「公正な審理」の要件について詳細に論じている。

しかし、3項の要件は最低限の保障であり、これを遵守しても、必ずしも1項の要求する審理の公正さの確保に十分であるとは限らない。

 

6. 審理の公開は、個人、そして社会一般の利益の重要な擁護手段である。

同時に、14条1項は、裁判所が同項で明示されている理由で公衆の全部又は一部を排除する権能を有することを確認する。

そのような例外的な状況を別にすると、審理は、報道機関を含む公衆一般に公開されなければならず、たとえば、特定の種類の人にだけ公開されてはならないと委員会が考えていることに留意されるべきである。

公衆が審理から排除される場合であっても、判決は、厳密に規定された一定の例外を別として、公開されなければならないことに留意されるべきである。

 

7. 委員会は、14条2項に関する情報がないことに留意してきたが、ある場合には、人権の保護にとって基本的な無罪の推定が極めて曖昧な文言で表現されている、ないし無罪の推定の実効性が無くなる条件が付されていると述べたことさえあった。

無罪の推定によって、嫌疑の立証責任は検察官が負い、被告人は疑問のある場合には有利な判断を受ける。嫌疑が合理的疑問の余地なく立証されるまで、有罪を推定してはならない。さらに、無罪の推定は、この原則に従って取扱われる権利を含む。したがって、すべての公的機関は、裁判の結果を予断してはならない義務を負う。

 

8. 3項に定められた刑事手続における最少限度の保障のうち、最初のものは、すべての人がその理解する言語でその罪を告げられる権利に関する((a))。

 

委員会は、締約国の報告がしばしばこの権利がどのように尊重され、確保されているのか説明していないことに留意する。

 

14条3項(a)は、刑事上の罪に関するすべての事件に適用され、抑留されていない者も含む。委員会は、さらに、「速やかに」罪を告げられる権利により、権限を有する機関によって嫌疑をかけられたら、直ちに規定された方法で告知が与えられなければならないことに留意する。

 

委員会の見解では、この権利は、捜査過程で裁判所又は公訴機関が犯罪の被疑者に対する手続上の措置をとることを決定するとき、または公式に被疑者として名指しするときに生じなければならない。

 

3項(a)の明示の要求は、口頭又は書面で嫌疑を伝えれば満たされるが、そこでの情報が嫌疑の基礎とされる法律及び被疑事実の両者を示すことが条件である。

 

9. 3項(b)は、被告人が、防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡できなければならないと定める。

 

「十分な時間」がどの程度であるかは、それぞれの場合によるが、この便益には、弁護人を依頼し、連絡する機会をもつことのみならず、訴訟の準備に被告人が必要とする書類その他の証拠にアクセスすることも含まれなければならない。

 

被告人が直接に防御することを欲しない場合又は自ら選任する人若しくは団体に依頼することを欲しない場合には、被告人は、弁護士を利用することができるべきである。

 

さらに、本項は、弁護人に対し、交通の秘密を十分尊重するという条件で被告人と交通することを要求する。

 

弁護士は、いかなる方面からも制限、影響、圧力又は不当な干渉を受けることなく、確立した専門的水準及び判断に従って、依頼者に助言し、依頼者を代理することができるべきである。

 

10. 3項(c)は、被告人が不当に遅延することなく裁判を受けると定める。この保障は、裁判の開始時だけに関するのではなく、裁判が終結し、判決が言渡される時にも関連する。

 

すべての段階が、「不当に遅延することなく」行われなければならないのである。

この権利に実効性を与えるためには、裁判が、1審及び上訴審とも、「不当に遅延することなく」進行することを確保するための手続が利用可能でなければならない。

 

11. すべての報告が3項(d)で定義された防御権のすべての側面を扱っていたわけではない。

 

委員会は、罪の決定において被告人が出席する権利の保護、また被告人の直接に防御する権利若しくは自ら選任する弁護人により援助される権利を法制度でどのように確保しているのか、弁護人に対する十分な支払手段を有しないときにとられる対応措置について、いつも十分な情報を受領してきたわけではない。

 

被告人又はその弁護士は、可能な防御をすべて果たすに当たって、十分にかつ恐怖を感じることなく行動する権利、及び、事件処理が不公平であると考えるときにはそれに異議を申立てる権利を有していなければならない。

 

例外的に正当な理由に基づき欠席裁判が行われるとき、防御の諸権利の厳格な遵守が一層必要である。

 

12. 3項(e)は、被告人は、自己に不利な証人を尋問し又はこれに対し尋問させること並びに自己に不利な証人と同じ条件で自己のための証人の出席及びこれに対する尋問を求める権利を有すると定める。

 

この規定は、証人の出席を強制し、かつ、いかなる証人に対しても尋問し又は反対尋問するという、検察官に与えられるのと同等の法的権能を被告人に保障することを目的としている。

 

13. 3項(f)は、被告人は、裁判所において使用される言語を理解すること又は話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受ける権利を有すると定める。

 

この権利は、裁判の結果とは無関係であり、自国民のみならず外国人にも適用される。

 

この権利は、裁判所によって使用される言語を知らないことや理解するのに困難なことが防御権の大きな障害となり得る場合において基本的な重要性を有する。

 

14. 3項(g)は、自己に不利益な供述又は有罪の自白を強要されないと定める。

 

この保障規定を考えるにあたっては、7条及び10条1項の規定に留意すべきである。

 

自白又は自己に不利益な供述を強要するために、しばしばこれらの規定を侵害する方法が使用される。

 

法律は、そのような方法又はその他の強制的手法によって得られた証拠は受容できないとしなければならない。

 

15. 14条1項及び第3項に基づく被告人・被疑者の権利を保障するために、裁判官は、公判のどの段階においても、この権利が侵害されたとのすべての申立てについて審理する権限を有するべきである。

 

16. 14条4項は、少年の場合には、手続は、その年齢及びその更生の促進が望ましいことを考慮したものとする、と定める。少年が刑事上の罪に問われうる最少年齢、少年と見なされる最高年齢、特別裁判所及び特別手続の存在、少年事件の手続を規律する法律及び少年のためのこれらの特別な配慮が「その更生の促進が望ましいこと」をどのように考慮しているのかなどの関連事項に関して十分な情報を提出する報告は、多くない。少年は、少なくとも、14条の下で成人に与えられていると同一の保障及び保護を享受すべきである。

 

17. 14条5項は、有罪の判決を受けたすべての者が法律に基づきその判決及び刑罰を上級の裁判所によって再審理される権利を有する、と定める。他の条約正文における「犯罪」(crime)の語(“infraction",“delito", “ prestuplenie")に特別の注意を払えば、この保障は最も重大な犯罪にだけ限定されるものではないことが示される。この関連で、上訴の手続、特に再審理裁判所へのアクセスとその権限、判決を不服として上訴するために満たすべき要件、再審理裁判所における手続が本条1項の公正な公開審理要件をどのように考慮しているのか、に関して十分な情報は提出されていない。

 

18. 14条6項は、そこで定める一定の誤判の場合に法律に基づく補償が与えられる、と規定する。多数の締約国の報告から、この権利はしばしば国内法では認められず、あるいは十分に保障されていないと思われる。締約国は、必要な場合には、規約の規定に合致させるためこの分野の国内法を補充すべきである。

 

19. 締約国の報告を審理するにあたって、14条7項の範囲に関してしばしば異なった見解が表明された。いくつかの締約国は、刑事事件の再審手続に関連して、留保する必要すら感じた。大部分の締約国は、例外状況で正当化される再審と、7項に含まれる一事不再理(nebis in idem)の原則によって禁止される再訴との間に明確な区別をしている、と委員会には思われる。一事不再理のこのような理解は、締約国に対し、14条7項に対する留保を再検討するよう促すものであろう。