企業活動と人権に関する基本指針

 

国連 A/HRC/17/31

 

 総会 

配布:一般 

2011 年 3 月 21 日 

言語:英語

人権理事会 第 17会期 

 

議題項目 3 

 

すべての人権の促進と擁護、

 発展する権利を含む、市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利 

 

多国籍企業および一般企業と人権に関する国連事務総長特別代表(ジョン・ラギー)の報告

 

 企業活動と人権に関する基本指針(国連の「保護、尊重、補償」の枠組みの履行)

 

 

要約:これは特別代表の最終報告である。2005年から2011年まで行われた彼の仕事の要約 であり、「企業活動と人権に関する基本指針」、すなわち、人権理事会の検討による国連の「保 護、尊重、補償」の枠組みの履行を示している

 

 

付属文書 

 

企業活動と人権に関する基本指針:

 

「保護、尊重、補償」の枠組みの履行 一般原則 この基本指針は下記の認識に基づいている。

 (a) 人権や基本的自由を尊重、保護、そして履行する国家の既存の義務、 

(b) すべての適用法令を遵守し、人権を尊重することを求められている、専門化された機能を行 なう社会の専門化された機能としての企業の役割、 

(c) 違反した際に適切で効果的な補償と調和する権利と義務の必要性。 これらの基本指針は、規模、部門、場所、所有権、そして構造に関係なく、すべての国家や多国籍 や一般、すべてのビジネス企業に適用される。 この基本指針は全体が終始一貫したものとして理解され、影響を受ける個人や共同社会にとって評 価できる結果をもたらすために、企業活動や人権に関する基準や実践を促進する目的として個人的 に、そして全体的に読まれるべきであり、それ故に、また社会的に持続可能な企業の国際化に貢献 している。 基本指針のどの項目も新たな国際的な法律義務を作成するもの、あるいは国家が実施している法的 義務を制限または揺るがすものとして読まれるべきではなく、人権に関する国際法の基での対象で あるべきものでもない。 この基本指針は、社会から取り残される弱者に高いリスクでなり得る個人が直面する異議申し立て と同様に、かれらの権利と要求に特段の注意を払い、また、女性や男性が遭遇するそれぞれの危険 に十分に注意を払って、差別のない方法で実行されなければならない。 

 

Ⅰ. 人権を保護するための国家の責任

 A・ 基礎的な原則

 1. 国家はその領土や司法管轄権内で、ビジネス企業を含む第三者による人権侵害に対して保護しなければならない。これには有効な政策、法令、規則、そして判決を通してこのような侵害を防止し、調査し、処罰し、そして救済するための適切な手段を講じることが要求される。 

 

 

解説

 

 国家が国際人権法を義務とするために、国家がその領土や司法管轄権内で、個人の人権を尊重し、保護し、そして履行することが求められている。これにはビジネス企業を含む第三者による人権侵害に対して保護するための責任を含んでいる。 

保護するための国家の責任が行動の規範である。それ故、国家はそれ自体、民間の関係者による人権侵害に対して責任はない。しかし、このような侵害が彼らに起因する場合や、民間関係者の侵害を予防し、調査し、そして罰して救済するための適切な手段を講じなかった場合には、 国家は国際的な人権法の義務を違反するかもしれない。国家は一般的にこれらの手段を決めるあたり決定権を有しているが、国家は、政策、法令、規則、そして判決を含む、許される範囲の予防および救済手段を考慮しなければならない。

国家は、法の前での平等やその適用に際しての公平性を確保する措置を講ずることにより、そして適切な説明責任や法的な確信性、そして手続き上や法的な透明性を備えることによって、法の支配を擁護し、促進する責任を同時に有している。 

この章は予防措置について焦点を絞り、一方、第3章では救済措置の要点を述べる 

 

2.政府は、定住する領土や司法管轄件内のすべての企業がその企業活動のいたる所で人権を尊重する可能性を明確に設定しなければならない。 解説 現在、国家は、定住する領土や司法管轄権内における企業の国外での活動を規制することを、 国際人権法の下では一般的に求められていない。しかし、法的な根拠が認められているならば、 政府がそうすることは禁じられていない。これらの範囲内に、いくつかの人権条約機構は、本国政府がその司法管轄権内の企業による国外での侵害を防止する措置を取るよう勧告してい る。 企業が海外で人権を尊重する可能性を、特に政府自体がこれらの企業活動に係わっているか、あるいは支援している場合、本国政府が明確に設定する強力な政策上の理由がある。この理由には、首尾一貫した趣旨を提供することにより企業にとって予測できるようにし、政府自体の評判を保つことを含んでいる。 政府はこの点に関して一連の方策を採択した。いくつかは国外の関与についての国内措置であ る。例として、企業全体の国際活動に関しての報告をするよう「親」会社への要求を含んでいる。 すなわち、OECD 多国籍企業行動指針のような多国間の緩やかな法規程や海外投資を援助する機関から求められる事業基準などである。ほかの方策は直接の国外法の制定や施行である。これには犯罪の発生場所に関係なく、犯人の国籍に基づく訴追を考慮する刑事制度を含む。様々な要因は、例えば国家の行動が多国間の合意に基づいているかによって、その行動の 理解と実際の妥当性に寄与するかもしれない。

 

 B. 運営上の原則 一般的国家の調整と方針の機能 

 

3. 保護するための義務に応えるにあたって、国家は、

 (a) 企業が人権を尊重し、そして定期的にこの法律の妥当性を評価し、その隔たり部分を取り組むことを目的とし、あるいは効果を持った法律を施行すべきである。

 (b) 企業の創設や進行中の事業を管理する別の法律や方針が、例えば企業法など、強制することなく、しかし企業に人権を尊重することが出来るよう確保すべきである。

 (c) 企業活動を行なっている間じゅう、どのように人権を尊重するかについて企業に効果的な指針を提供すべきである。 

(d) 必要に応じて、人権の影響をどのように取り組むか伝えることを企業に勧めるべきである。

 

 解説

 

 国家は、企業が例外なく国家の無作為を好むか、あるいはそこから利益を受けるかを仮定すべ きではなく、企業の人権に対する尊重を促すために、国内的かつ国際的、そして義務的かつ自 発的な方策の賢い混ぜ合わせを検討すべきである。 直接的、あるいは間接的に人権に対する企業の尊重を規制する現行法を強要しようとする間違 いは、しばし国家施策においての顕著な法的な隔たりが存在する。このような法律は非差別や 労働に関する法律から環境、財産、私生活、そして反増収賄に関する法律まで広がるかもしれ ない。従って、近年、このような法律が効果的に強いられているかどうか、そして、もしそう でないとしても、なぜこれが該当するのか、またどのような方策がこの状態を合理的に修正で きるのかを国家が検討することは重要である。 国家は同時に、これらの法律が状況の進展に照らして必要な適用範囲を提供しているかどうか、 また、関係する政策と共に、人権に対する企業の尊重を導く環境を提供するかどうかを再検討 することが重要だ。例えば、法律や政策の分野の中で一層明確なものとして、土地の所有ある いは使用に関係する権利を含む土地への交通手段を支配するようなものは、権利保有者と企業 の両者を保護するためにしばしば必要である。 

 

会社証券法のような企業の創設や継続する活動を支配する法律や政策は、企業の行為を直接に 形成している。

だが人権への影響は理解されないままになっている。

例えば、企業やその役員 は人権に関して行なうために、言うまでもなく、何が許されているかに関して会社証券法には 明瞭性の欠如がある。

この領域における法と政策は、取締役会のような実際の経営機構の役割に対して正当な敬意を払って、企業が人権を尊重できるよう十分な指針を備えるべきである。

 人権を尊重することに関する企業への指針は期待される結果を示し、最良の実践の共有を手助けするものでなければならない。

この指針は、人権の適切な審査や、少数民族、女性、国民的あるいは民族的マイノリティー、宗教的そして言語的マイノリティー、子供、身障者、そして 移住労働者やその家族が直面する特定の要求を認識しながら、性差や弱者たちの問題をいかに 効果的に考慮するかを含む、適切な手段について助言しなければならない。

 

 パリ原則を遵守する国内人権機関は、関係する法律が人権義務に従っているか、そして効果的 に実施されているかについて国家に確認させる手助けや、企業や他の非政府関係企業にまた人権に関する指針を提供する重要な役割を有している。

 企業が人権の影響にどのように取り組むかについての企業の情報は、影響を受けた利害関係者 との非公式な関係から正式な公的報告まで広がっている。このような情報への国家の奨励、あ るいは必要とされている所においては、企業による人権に対する尊重を促すことは重要である。 

 

 十分な情報を伝達する誘因として、法的あるいは行政的な手続きの際に、このような自己報告 に重点を与える規定を含むかも知れない。

伝達するという要求は、企業活動の性質あるいは活動状況が人権に重大な危険をもたらす所では特に適切なことがある。この領域における政策あるいは法律は、情報の伝達性と正確性の両方を確保しながら、企業は何を、そして如何に伝達すべきかを有効に明らかにすることが出来る。

 十分な情報を構成するであろうもののいかなる規定は、個人や施設、すなわち、商業上の機密 性についての合法的要求そして会社の規模や構成における多様性、の安全と保安にもたらすか も知れない危険を考慮に入れるべきである。 財政的報告の要求は、いくつかの例に見られる人権の影響が企業の経済活動にとって、「本質 的」で「重要」かも知れないことを明らかにしなければならない。

 

 国家-企業の結合 

 

4.国家は、国家により所有あるいは管理され、あるいは、輸出信用機関や政府投資保険または 保証機関などの、必要であれば人権に関する適性審査の要求によることを含め、政府機関か ら助成援助や取扱を受けている企業による人権侵害から保護するために更なる手段を取るべきである。

 

 解説

 

 国家は個々には国際人権法の下における第一の義務保持者であり、全体的には国際人権制度の 受託者である。企業が国家に管理され、あるいはその活動が国家に起因しうる所では、企業に よる人権の迫害は国家自体の国際的な法律義務の違反を引き起こす可能性がある。 更に、企業が国家に接近すればするほど、あるいは法令の権威または納税者の支援に依存すれ ばするほど、企業が人権を尊重することを確認するため国家方針の論理的根拠がより一層強く なる。

 

 国家が所有し管理する企業では、国家が人権尊重の実行に関して関係する政策や法律、そして 規則を確認する絶大な手段をその権力内に有している。上級管理職は通常、国家機関に報告を 行い、関連する政府部門は効果的に人権の適正評価が実行されているかの確認を含めて、広い 範囲の精査と監視を有している。(これらの企業は第2章で取り組まれる人権を尊重する企業 責任の対象でもある。) 国家と公式にも非公式にも関連している機関の範囲は、企業活動の支援や貢献をもたらすだろ う。これらには輸出融資機関、政府投資保険あるいは保証機関、開発機関、そして開発金融機 関が含まれる。これらの機関が受益企業の人権に関する実際かつ潜在的な有害な影響を明確に 考慮しないところでは、これら機関は何らかの害を支持するに当たって、名声や財政、政策や 潜在的な法的項目において自らの身を危機に陥れ、そして受け入れ国家から人権問題を加えら れるだろう。 これらの危機を与えられ、国家は相応しいところで、機関自体や機関から援助を受ける企業あるいはプロジェクトによる人権の適正評価を奨励し要求しなければならない。人権の適正評価 に対する要求は、事業の性格あるいは事業状況が人権に重大な危機をもたらすところでは恐ら く最も適切だろう。 

 

5.国家は、人権の享受に影響を与える可能性のある仕事を提供する企業と契約あるいは企業のために法を制定する際、国際的な人権義務に応えるため十分な監視を行なうべきである。

 

 解説 

 

国家は人権の享受に影響を与えかねないサービスの提供を民営化する際、国際的な人権法の義 務を放棄はしない。このようなサービスを行なっている企業が一貫して国家の人権義務と共に 運営していることを国家が確認を怠ることは、国家自体に対する名声的かつ法的結果を伴うで あろう。必要な手段として、関係サービスの契約または権能賦与法において、企業は人権を尊 重しているという国家の予測を明確にすべきである。国家は、十分な独立した観測の配置と説 明責任を有する組織体をも通じて、企業の活動を効果的に監督できることを確保すべきである。

 

 6.国家は企業の人権に対する尊重を促すべきである。それにより国家は業務取引を管理する。 解説 国家は、少なくとも企業の調達活動を通じてではなく、企業と様々な業務取引を管理する。 こ のことは国家に、個別にも全体的にも、契約条件の下を含む国内法や国際法下の国家の関連業 務を十分考慮して、これらの企業による人権への自覚と尊重を促す独特な機会を提供している。 紛争地域における人権に対する企業の尊重を援助して 7.紛争地域における全体的な人権侵害の高まりにより、国家は、このような状況内で営業して いる企業が侵害に干渉されることのないよう手助けすべきである。

 

それには、

 

 (a)企業活動や企業関連における人権に関係する危機を明確にし、防止し、そして軽減に手 助けするために出来る限り早い段階で企業に介入する。 

 

(b)性別に基づくものや性的な暴力に対して特別の注意を払いながら、侵害への高まる危険 性を判断し、取り組む企業に十分な援助を提供する。 

 

(c)著しい人権侵害に関与している企業に対して公共の援助や仕事への権利を否定し、この 状況を取り組む際に協力することを拒否する。 

 

(d)著しい人権侵害における企業関与の危険性を取り組む際に、最新の政策、法律、規則、 そして施行措置が有効的であることを確保する。 解説 ビジネスを含む最悪の人権侵害のいくつかは、領地や資源あるいは政府自体の支配権紛争の最中に発生する。そこにおいては人権体制を意向通りに機能させることは期待できない。責任ある企業はこのような困難な状況において、人権に害を与えない方法について政府による指針を多く求めるようになっている。斬新で実践的な対策が要求されている。

 

特に、性的や性差に基づく暴力の危険に対して注意を払うことが重要だ。このことは特に紛争時に広まる。

 

 10 すべての国家にとって現場の状況が悪化する前に早く問題に取り組むことが重要だ。

 

紛争地域 において、「受けいれ」国家は効果的な管理の欠如により十分に人権を保護することはできない だろう。

 

多国籍企業が巻き込まれるところでは、「親」国家はそれ故、企業が人権侵害に巻き込まれることのないよう確認するため、これら企業や「受け入れ」国家の両者を助ける役割を有している。一方、近隣の国家は重要な追加援助を提供することができる。

 国家は紛争地域において人権の膨大な侵害に巻き込まれる危険性の高まりを企業に警告しなければならない。国家は、その政策、法律、規則そして実施措置が効果的にこの高まる危機に取り組んでいるかどうか、企業による人権の適正評価に対する規則をも含めて検討すべきである。

 相違が明らかにされて場合、国家はその相違に取り組む適切な手段を取るべきである。これは 著しい人権侵害を侵すか、その一因をつくっている、領土および司法管轄権内に定住あるいは活動している企業に対して民事、行政あるいは刑事責任を探ることを含む。 これらすべての措置は武力紛争の状況下での国際人道法や国際刑事法の下における国家義務の追加である。

 

 政策の一貫性の確保

8.国家は、企業活動を形成する政府の諸官庁や政府機関が関連情報、教育、そして援助を提供 するなどして各々の委任業務を履行する際、国家の人権義務をよく知り守ることを確保しな ければならない。 

 

 

解説 

 

ビジネス慣行を形成するところにおける国家の人権義務と法と政策の間には、なんら避けがたい緊張はない。しかしながら、国家は時折、異なる社会慣習上の必要性を仲裁するために困難な均衡のとれた決定をしなければならない。適切な均衡を達成するために、国家は垂直および水平な国内政策の一貫性の確保を目的とする、ビジネスと人権の議題を運営する広範な研究を行う必要がある。 

 

垂直な政策の一貫性は、国家が国際人権法の義務を実行するために必要な政策、法律、そして過程を持つこととなる。水平な政策の一貫性とは、政府の人権擁護義務に適合する方法をわきまえ、そして実行するビジネス慣行(企業法や証券規制、投資や輸出信用、そして保険、 貿易、労働に対する責任を含む)を形成する国内ならびにそれに準じる部門や機関の支援と設置を意味する。

 

 9.国家は、投資協定や契約などを通じて他の国家や企業とビジネスに関する政策目標を遂行する際、人権擁護義務に応えるため十分な国内政策の領域を保持しなければならない。

 

 

 解説 

 

他の国家あるいは企業との間の国家により締結された経済協定、例えば2国間投資条約、自由貿易協定あるいは投資プロジェクト契約など、は国家に対して経済機会を作り出す。しかし、これらは同時に政府の国内政策の領域に影響を与える。例えば、国際投資協定により国家が新たな人権法を完全に実施できないかも知れず、あるいは国家が考えている国際調停にタガをはめる危険に晒すかも知れない。それ故、国家は必要な投資家保護を提供しながら、 このような協定の条件の下で人権を保護する適切な政策や規制能力の保持を確保すべきである。