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性被害訴えた児童の声、届かなかったのはなぜか 元校長わいせつ事件

 小学生女子バスケットボールクラブで起きた強制わいせつ事件で、指導者で元小学校長の男性(71)が児童3人の体を触ったとして有罪判決を受けた。児童は学校に被害を訴えたが止められなかった。中学校の部活動を地域や民間に委ねる「地域移行」が進められる中、重い課題を残した。【亀田早苗】 

 

【図解】性被害にあった場所 一番多いのは… 

 

 ◇50年近く市バスケ協会理事長の職に  神戸地裁伊丹支部は3月13日、強制わいせつ罪に問われた伊丹市の元校長に懲役4年6月(求刑・懲役7年)の判決を言い渡した。2021年4月~22年4月、指導するクラブの練習中に女子児童(当時11~12歳)をそれぞれ複数回、体育館の舞台裏やミーティングルームに個別に呼び出し、胸や下腹部を触ったり、キスをしたりしたと認定した。  元校長は07~12年度に小学校2校で校長を務め、退職後も市の委嘱でスポーツ推進委員会長や人権教育指導員などを歴任した。バスケの指導は19歳から始め、全国大会にも出場。市バスケットボール協会理事長に50年近く就いた経歴を持つ。  検察側は公判で、30年前に被害を受けたという人の証人尋問を求めるなど、元校長からの被害は長期に及び、他にも被害者がいることを示唆した。元校長は公判で無罪を主張し、判決後に控訴した。  ◇地域スポーツの「権力者」  なぜ表面化しなかったのか。公職を歴任した元校長が地域スポーツの世界では「権力者」で、保護者側には信頼とともに圧倒的な力関係の差があり、被害児童が指導の一環と思わされていたことなどがあるとみられる。  市教委の対応は消極的だった。23年3月に元校長が逮捕された後、市教委は被害事実を「知らなかった」とした。だが公判では、被害女児がその1年以上前に小学校の担任に被害を訴えていたことが明らかになった。担任は警察への相談を勧め、保護者にも被害内容を知らせた。校長にも報告したという。  市教委によると、児童生徒からわいせつ行為やハラスメント被害の相談を受けた場合、学校が市教委に連絡するかは校長ら管理職の裁量の範囲になる。だが校長は報告せず、被害は続き、新たな被害者も出た。  22年6月には別の小学校に通う被害児童の保護者が同校の校長に連絡し、警察に届け出た。校長は市教委に報告、市教委幹部は元校長に公職での活動を自粛させた。クラブ指導の自粛も求めたが、聞き入れられなかったという。木下誠教育長(当時)は「民間人として指導しているのを市に止める権限がない。捜査に影響が出るので自粛の理由は本人に説明できなかった」と語る。  市は23年8月、子どもからの相談を電話や面談で受ける「伊丹っ子SOS相談室」を開設した。こども福祉課家庭児童相談グループの職員17人が相談員を兼務する。だが新たな研修などは実施しておらず、相談は保護者からの数件にとどまる。  市では26年度以降に部活動の地域移行を進める方針だ。地域移行に向けて中学校1校に一つの部活動で外部指導者を依頼した。経歴を確認し、学校側が面談した後に登録。体罰やハラスメントをした場合、「いかなる処分も受ける」という誓約書を取っている。指導者のコンプライアンス研修を充実する考えだが、完全に地域移行した後は「市の権限が及ばない」とする。  

 

◇専門家「国主導で対策を」 

 

 部活動の体罰やハラスメントに詳しい名古屋大の内田良教授(教育社会学)は「地域移行は必須だが、体罰や暴言、セクハラなどへの倫理意識が薄い人が指導者として入り込む可能性がある」と指摘。「問題が起こった時に厳格に処分できる仕組みを作らなければならない。同じ人物が別の自治体では指導できるということのないように、国が主導して対策を考える必要がある」と話す。