取り調

 

 

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閉所恐怖症の私が窓のない部屋で連日、取り調べられて…大川原加工機「女性社員」が証言する“警察庁公安部の恐ろしい手口”

 

 

 

捏造告白を引き出した高田剛弁護士(7月31日和田倉門法律事務所、撮影・粟野仁雄)(他の写真を見る)

 

 2020年3月、大川原化工機(神奈川県横浜市)の大川原正明社長ら幹部3人が「武器に転用できる噴霧乾燥機を中国に不正輸出した」との外為法(外国為替及び外国貿易法)違反の容疑で警視庁公安部に逮捕された。のちに起訴が取り消しとなるまで、逮捕された3人だけでなく同社の社員に対しても苛烈な取り調べが行なわれた。それが原因でうつ病を発症した女性社員Aさんの体験を聞いた。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

【写真】生物兵器に転用できるとされた「噴霧乾燥機(スプレードライヤ)」と大川原社長

「触るな」と怒鳴られた

 Aさんは貿易実務検定の資格を持つベテラン社員で、この冤罪事件で11カ月もの間、逮捕・拘留された元取締役の島田順司氏の直属の部下でもあった。

 2019年10月3日朝、横浜市に住むAさんが出勤のため最寄り駅に向かおうとすると、スーツ姿の男女が現れた。「外為法違反容疑で家宅捜索令状が出ています」と声を掛けられ、自宅に押し戻された。

 なんのことかさっぱりわからなかったが、Aさんが会社に電話しようとすると「会社へは電話しても無駄ですよ。あなたが出勤しないことは知っています」と止められた。夫が出勤した10分ほど後だった。

「捜査官らは夫の出勤時間も調べ、私をつけ回していたようでした」(以下Aさん)

 Aさんが捜査員に容疑内容を訊いても「会社のことです」と言うだけだ。

「携帯電話やパソコンだけでなく、服の入った抽斗(ひきだし)を捜索しようとするので、『夫の物です』とか『息子の物です』と言うと手はつけなかったですね」

 自分の鞄を持とうとしたら、中年の女性警官が「触るな」と怒鳴った。腹が立ったAさんは男性警官に「あの女の人は帰してください」と言ったという。

 警官は私服でパトカーに乗って来たわけではなかったが、押収物を持ち去る段ボール箱には「警視庁」と大書きされている。近所の人に変な噂でも立てられたら自宅に住めなくなると懸念したAさんは、「箱を使わないで手で運んでください」と訴えた。

 

 

「罪を認めている」の嘘

 12月には原宿署に呼ばれて取り調べが始まった。最初だけは大川原社長らと一緒だったが、その後は1人で通うことがほとんどだった。

 主にAさんを調べたのは、警視庁公安部外事一課の田村浩太郎という警部補だった。

「最初は私がどれくらい輸出に関与しているかの取り調べでしたが、次第に島田さんや社長たちがどのような話をしていたかを聞き出す目的に変わったようでした」

 噴霧乾燥機や輸出入に詳しい取締役の島田氏は、捜査本部にとって核になる存在だった。

「島田さん が社長らとどういう話をしていたか、といったことを訊いてきました。相嶋さん(静夫氏=拘留中にがんが悪化して死去。享年72)を含めた3人の幹部が共謀して不正輸出していたことにしたがっていたのだと思います。でも、私の職場は2階で、社長らがいるのは3階なので、『そんなことわかりませんよ』と突っぱねていました。実際に3人で相談をしているところなど見たこともありませんでした」

 それでも、田村警部補は「島田は罪を認めるような発言をしている」とまで言い、執拗に訊いてくる。嘘を言って混乱させようとしているのがAさんにはわかった。

「島田さんがそんな事を言うわけはないと思い、本人に確認しますと言いました。また、私に責任を押し付けるような人ではないことは、長い付き合いですからよくわかっていました」

逮捕される恐怖

 田村警部補はAさんの言葉尻をとらえては調書を改ざんし、警察の意に沿うように仕立ていたという。

「調書では、島田さんが『これ(大川原化工機の噴霧乾燥機)は非該当(外為法に抵触しない)に“しておいたから”大丈夫』と言ったようにされたんです。島田さんは『非該当だから大丈夫』という意味で言ったのに」

 他にも上海の合弁会社のことを訊かれたが、Aさんは詳しくなかった。他の従業員にも些細なことまで尋ねたという。

「会社にあった若い頃の安倍(晋三)元首相とロシア人女性が並んだ写真に興味を持った公安は、彼女についてうちの従業員の何名かに話を聞いていたらしいです。彼女は通訳をしてくれていただけです。公安は何でもいいから法に引っかかるようなことを必死で探している様子でした」

 そして、2020年3月11日、大川原、島田、相嶋の三氏が逮捕された。

「会社に来た捜査員は、私の机も荒らしました。逮捕されるのではないかと怖がっていると、若い男性の警官が『大丈夫ですよ』と言ってくれました。捜査員の中にも血の通った人間がいると思いました」

 

 

 

表参道駅がトラウマ

 その後も聴取は続く。

 Aさんは早く家に帰るため、昼飯休憩ははいらないとして午前11時頃から聴取を始めてもらったりしたが、帰る頃には真っ暗になることもよくあった。

 田村警部補は「上司に『お前が優しいからAは何も話さないんだ』と言われちゃったよ」などと調子良く言ったかと思うと、苛立って声を荒げることもあった。

「私は少し閉所恐怖症なんです。窓のない部屋で連日、数時間、時には8時間も閉じ込められ、早く帰りたいと言っても聞き入れてもらえず、頭が変になりそうでした。その場から一刻も早く逃げ出したいとしか思えなくなる。冤罪ってこんな感じでできるんだと痛感しましたね」

 疲労困憊したAさんは、次第に追い詰められていく。

「自殺未遂までしたわけではないですけど、駅のホームでふと、毎日こんなんなら死んでしまったら楽なのにと思ったこともありますね。原宿署に行くのに(東京メトロ)千代田線に乗り換えていた表参道駅にはトラウマがあり、今も1人では行けません。気分が悪くなります」

 遂にはうつ病を発症した。

 

「取り調べが数十回続いたある日、声を荒げた田村警部補に対して心の限界が来てしまいました。体調も悪くどうにもならず、帰らせてくれと言ったと思います。その時の事は自分でもよく覚えていません。とにかく頭の中で何かが壊れるような大きな音がして、倒れてしまったと思います。1人で帰らせて途中で何かあれば警察の責任にされると判断したのか、家族または会社の人間に迎えを頼めないかと聞かれました」

 夫に連絡し、迎えに来てもらった。

「夫から聞いたのですが、その際に間違いなく引き渡しをしたことに署名しろと要求されたらしいです。要は、この後、何かあっても、警察の責任ではないと言いたかったのでしょう」

 また、夫は今までの数十回にわたる取り調べに関して、「企業に対する捜査なのに個人をここまで追い込むのはおかしい。追い込まれているのがわからないのか? 普通の精神状態ではないことが顔を見ればわかるだろ」と強い口調で言ったという。しかし、「捜査員は事務的で無表情だった。人間ではないと思った」という。

 

無理やり取られた調書

 体調を崩したにもかかわらず、警視庁はなおもAさんを聴取したがる。仕方なく会社の顧問弁護士の高田剛氏(和田倉門法律事務所)に相談し、「田村浩太郎 以外で、原宿署ではなく近くて窓があるところ」と条件を付けた。担当刑事は代わり、町田署と玉川署の窓のある会議室になった。

「その時には調書が出来上がっていました。出来上がった調書を読み上げられ、署名をするよう要求されました」

 東京地検にも呼ばれたが、担当した検事は田村警部補が作った調書を見て、「これは無理やり取られた調書かな?」とはっきり言ったという。

「取り調べを録音・録画するカメラが回っている状況でそういうことを言うわけですから、検察も彼の取り調べの強引さと出鱈目さはわかっていたのかと感じました」

 この検事は、植田彩花という検察官で起訴をした塚部貴子検事の部下だった。実はこの検事は、同様のことを財務担当社員の調書に対しても言っている。塚部検事には報告していたはずだが、部下が懸念していたにもかかわらず、起訴に走ったのだ。

勇気ある警察官に感謝

 今年6月30日、大川原社長らが国と東京都を相手に起こしている損害賠償請求裁判で、公安部で捜査を担当した2人の警部補が高田弁護士の尋問に捜査の実態を証言した。浜崎賢太警部補は「捏造でした」「動機は上司らの出世欲」とまで明言。時友仁警部補は「上司に再実験するなど慎重な捜査をするように進言すると『事件を潰す気か』と叱責された」と証言した。

 

 Aさんはその裁判を傍聴していた。

「本当に嬉しかった。これで裁判に勝ったとか思うよりも、卑怯な悪魔ばかりだと思っていた警察に本当に正義感の強い素晴らしい人がいたことが嬉しかった。よくぞ勇気を出して言ってくれたと思いました。時友さんと濱崎さんは、まっすぐ前を見てしっかりと話してくれました。2人は真の警察官だと思います。ああいう人が活躍できる世の中になってほしい」

 

 Aさんの取り調べをしていた際の時友警部補は、無表情で無機質に話すだけだった。

「本当はものすごく自分を押し殺して仕事をしてきたのでしょう。体中に蕁麻疹ができていると裁判で打ち明けた若い警官もいました。みんな組織の意向で本意ではないことをさせられているからでしょう」

 その1週間前も傍聴に行った。

「安積(伸介)警部補は嘘ばかり言っていました。私は間近で顔を見てやろうと思って、閉廷した時、エレベーターまで彼を追っかけて、どんな表情をしているのか見てやりました。おどおどとして、すぐその場を立ち去りたいという目でした」

 他にも印象深かった証言者がいる。

「私も何度か電話でやり取りをしたことがある元経産省職員は、足が震えていました。高田弁護士が証拠のメールを提示した後は、特に震えがひどかったと思います」

 

 

逮捕候補者だったAさん

 高田弁護士は語る。

「当初、公安部は、Aさんも逮捕するつもりだったのです。しかし、田村警部補が追い込みすぎて彼女がうつ病を発症してしまい、こちらはちゃんとした診断書も出した。このため警視庁は、公判段階で取り調べでの任意性が問われてまずいことになると判断して、彼女の逮捕だけは見送った経緯があるのです」

 また「田村警部補は経産省に出向していました。警視庁と経産省はまさにツーカーの関係だったのです。経産省が自分たちには責任がないとばかり逃げていますが、経産省の責任は重いのです」と指摘する。

 社長ら3人の冤罪が認められた後も残ったもやもやした気持ちを晴らしてくれたのが、捜査の不備を証言した2人の勇気ある警官だった。Aさんは筆者に「マスコミの力であの2人を守ってくださいね」と熱心に訴えた。

 

 Aさんが自殺未遂を図ったという報道があったため、怯えた様子で短時間だけの応対になるかと予測していた。だが、実際にお会いすると、非常に明るく快活な女性で、1時間半近く、終始はきはきと語ってくれていた。

 

 それでも、たとえ体の一部だけを写したものだとしても、インタビュー中の写真の掲載は難しいとのことだった。「特定されると家族に迷惑がかかるので」という理由だが、突然、自宅に踏み込まれ、連日、密室で強引な聴取を受けた心の傷は、容易に拭い去れるものではなかったのだろう。

 

 

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

 

 

 

 

 

「判断間違ってない」「謝罪しません」…起訴取り消し巡る国賠訴訟で証言した担当女性検事の正体 12年前との落差に驚き

 

 

 

会社の前に立つ大川原正明社長(2023年7月、撮影・粟野仁雄)(他の写真を見る)

 

 大川原化工機(神奈川県横浜市)の冤罪事件で同社の大川原正明社長らが起こした国家賠償訴訟。6月30日には警視庁公安部の警部補から驚きの「捏造告白」が飛び出した。7月5日には大川原社長らを外為法違反容疑で起訴した東京地検の検事の証人尋問が行われ、彼女の口から「謝罪しません」という発言が飛び出した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

【写真】生物兵器に転用できるとされた「噴霧乾燥機(スプレードライヤ)」と大川原社長

経産省は「不正輸出とするのは無理」

 2020年、大川原化工機の大川原社長ら同社幹部の3人は、「武器に転用できる噴霧乾燥機を中国に不正輸出した」との外国為替及び外国貿易法(外為法)違反容疑で、警視庁公安部に逮捕、起訴された。しかし、東京地検は、初公判の直前に起訴を取り消し。大川原社長らは11カ月月も勾留され、その間に胃がんが悪化した同社顧問の相嶋静夫氏は、勾留は停止されたものの治療が間に合わず死亡した。現在、大川原社長らは「違法な捜査だった」として国と都に総額5億6500万円の損害賠償を求めている。

 東京地裁の712号法廷前には、8時40分頃に到着した。開廷は午前10時だったが、既に廊下には十数人が並んでいた 。全42席のうち12席は司法記者クラブ用。傍聴席は30席。1週間前の警視庁公安部の警部補への証人尋問で「まあ、捏造ですね」という衝撃的な告白が飛び出し、注目が高まっていた。

 この日はまず、経済産業省の男性の職員と女性の元職員が交代で証言台に立った。女性の声は聞き取りにくかったが、大川原化工機の噴霧乾燥機が規制の対象外であることを警視庁の捜査官に「何度も伝えた」「非該当性の可能性を数多く述べた」などと話し、「警察が(立件に)熱心だったのでクールダウンしてもらう主旨だった」と説明した。

 この事件で経産省は当初、「不正輸出とするのは無理」と警視庁に意見していたが、立件を目指すその執拗な説得で次第に協力的になった。公判直前になって東京地検が起訴を取り消したのは、裁判長から警視庁と経産省のやり取りの記録を開示するよう命令され、そうした経緯が暴露するからでもあった。

検事は「今でも同じ判断をする」

 さて、この日のメインは午後からの検事2人の証人尋問だった。2人とも女性である。

 そのうちの1人、最初に証言台に立った塚部貴子検事は起訴を取り仕切った主任検事だが、彼女は警視庁の捜査段階からしっかりと関わっていた。

 塚部検事は起訴が取り消されたことについて「当時見聞きした証拠を元に起訴した判断が間違いだとは思わないが、起訴後に何が起きたかは真摯に受け止めていく」と述べた。

 警視庁では「生物兵器への転用の条件」を「完全殺菌ができること」としていたが、大川原化工機の噴霧乾燥機は温度が上がり切らない部位が残るなど「輸出規制品に該当しない可能性が高い」との情報があった。

「こうした立件に不利な証拠を確認すべきだったか?」と問われると、塚部検事は「不利な証拠があるとの疑義は持たなかった」と答えた。

「同じことになれば今でも起訴するのか?」と問われると、「当時、私が見聞きした証拠関係で同じ判断をするかと言われれば、同じ判断をする」と答えた。

 さらに、大川原社長らへの謝罪について問われると、「間違いがあったとは思っていないので謝罪はしません」と言い切り、原告の大川原化工機の幹部らが並ぶ席に向かって頭を下げることもなかった。

 法廷に立つ塚部検事を険しい顔で見つめていた大川原社長は閉廷後、「何とも言えないね。そういう人だったんだ。もしそういう人だったら、捕まっている人たちに対する尋問にしたって、そういう思いでやっている人と正しいやり取りができるわけがないですよ。本当のことを言いたいと思っている人でも、こりゃあ言ったら大変なことになるなあと思ってしまう」と感想を話した。

 高田剛弁護士は「あれじゃあ『これからも私は冤罪を作りますよ』って言ってるようなものでしょ。あんなこと言っちゃうんだ」とあきれた様子だった。実は、塚部検事と高田弁護士は司法修習生時代の同期である。それを知っていた記者が「だから今日は、あまり尋問しなかったんですか?」と問うと、「いやあ、後輩も育てなくてはならないので」などと笑っていた。この日は同じ和田倉門法律事務所(東京・大手町)に所属する若手の我妻崇明弁護士が中心に尋問した。

 

 

12年前の「郵便不正事件」

 塚部検事はちょっとした「有名検察官」でもある。

 2010年、筆者は大阪で冤罪事件を取材していた。厚生労働省の局長だった村木厚子氏が大阪地検特捜部に逮捕・起訴された「郵便不正事件」の冤罪である。

 郵便物を安価に扱える許可証を障害者団体に違法に与えていたという容疑だった。部下の係長が上司だった村木氏の判を勝手に使ってやらかした犯罪だが、大阪地検特捜部は評判の高い有能な女性課長だった村木氏を逮捕して手柄を立てたかったのか、無理やり彼女の犯罪に仕立て上げた。その頃、塚部検事は大阪地検特捜部に属していたのである。

 だが、初公判後、特捜部の主任だった前田恒彦検事(懲戒免職)が起訴事実と合致しない証拠物件だったフロッピーディスクの日付を改竄。この事実を知った塚部検事は、特捜部の佐賀元明副部長(懲戒免職)に「公表すべきです」と迫った「正義の検察官」ということになっている。地に堕ちた大阪地検の中で、彼女一人が、ある種、正義のヒロインのようになっていた。実際、当時、「検察官はこうあるべし」などと塚部検事を称賛するブログの書き込みなどもあった。

12年前の冤罪事件での印象的な姿

 筆者は12年前、塚部検事を大阪地裁の法廷で見ている。前田検事の犯行を知りながらも隠蔽していたという「犯人隠避罪」で最高検に逮捕・起訴された大坪弘道特捜部長(懲戒免職)と佐賀副部長の公判に、塚部検事は証人として出廷したのだ。

 彼女は前田検事の証拠改竄を同僚から聞かされ、それを佐賀副部長に伝えたが、「『推測でモノを言うな』と言われて怒鳴り合いのようになった」「『改竄をもみ消すつもりですか』と言った」などと証言した。さらに、大坪部長に早く報告するよう求めると、佐賀副部長はためらう様子だったが「『もう部長に報告したから、外ではこの話はもうするな』と言われた」などと述べた。

 ちなみに、郵便不正事件は大阪地検特捜部による言語道断の捏造冤罪事件だったが(参考・拙著『検察に殺される』)、大坪氏と佐賀氏を起訴したのは世間の批判を受けた検察組織による「トカゲのしっぽ切り」だと考え、筆者は当時、彼らを擁護する記事を書いた。

 今回まさか、再び法廷で塚部検事の姿を見るとは思わなかった。

 大川原事件の裁判では、起訴を取り消した際の担当検事だった駒方和希検事が「検察が起訴後に行った実験で菌が死なず、立証困難になった」などと答えた。

 この日、起訴した塚部検事が黒、起訴を取り消した駒方検事が白の服を着ていたのは、何やら象徴的だった。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部