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TBSテレビ

 

国内地震・災害福島隆史

 

どんな地震でも震源地を地図上に×印で示すの、もうそろそろ見直しませんか?

 
図-1 2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震(M9.0)の震度分布図

震源地を「×印」で示すことの限界

 

図-1は、東日本大震災を引き起こした「平成23(2011)年東北地方太平洋沖地震」によって、国内の各地がどれくらいの揺れに見舞われたかを示した震度分布図だ。「震央(震源地)」が三陸沖に×印で示してある。

だが、未曾有の被害をもたらした巨大地震が発生した位置を正確に示す手法として、×印は適切とは言い難い。

 
図-2 2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震(M9.0)の震源断層(イメージ)

図-2を見てほしい。



2011年3月11日午後、岩手県沖から茨城県沖にかけて南北方向に約500㎞、東西方向に約200㎞の面積で海底の岩盤が大きく跳ね上がった。だからこそ北海道から高知県までの太平洋沿岸を大津波が襲い、東北と関東の広範囲を震度6弱以上の非常に強い揺れが直撃した。マグニチュード9.0は、それほど規模が大きかった。

なので、巨大地震を発生させるに至った<地下で岩盤が破壊した領域(震源断層)>をできるだけ実態に近づけて表示するとしたら、図-1の×印ではなく、図-2の赤い長方形の方が実は相応しいのだ。

また、震源地が「三陸沖」と発表されたため、三陸沖から距離が離れている福島県、茨城県、千葉県などの沿岸の住民は、津波に対して当事者意識を持てなかった可能性も指摘されている。

国内で震度1以上の揺れを観測した場合、気象庁は地震発生から概ね1分半後に「震度速報」を発表する。「震度速報」は、地震でどの地方がどれくらい揺れたのかを速やかに伝えてくれる。さらに地震発生から概ね3分後には「震源情報」を発表し、地震がどこで起きたのかも教えてくれる。

2024年1月1日午後4時10分、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の大地震が発生し、能登地方で最大震度7を観測した。図-3は気象庁が発表した震度分布図で、地図上に各地方の最大震度が示されている。

 

 

図-3でも能登半島の最奥(先端)部に×印が付いている。一般には「震源地」の名で知られるが、気象庁は「震央(しんおう)」と表現する。震源の真上にあたる地表の地点を指している。

通常の地震はすべて、断層と呼ばれる地下の岩盤がずれ動いたり、滑ったり、破壊したりすることで発生する。地下で断層がずれ動いた最初のポイントが「震源」で、地表の「震央」は、いわば地震発生のスタート地点を平面地図上に表示したものということになる。

そして、東日本大震災を引き起こした巨大地震と同様、石川県を中心に北陸地方に甚大な被害をもたらした今回の大地震も、地震を発生させた領域を示すのに×印では不十分なのだ。

 
図-4 2024年1月1日 能登半島地震(M7.6)の各観測点の震度=気象庁提供

能登半島地震でも「×印」に課題が

 

図-4は、能登地方や富山県の沿岸周辺を拡大した震度分布図だ。青い×印の位置が震度6強の表示に隠れて見えにくくなっているが、珠洲市内の海に近い場所に見える。つまり「震央」=断層の破壊開始点は陸地だったため、気象庁はこの地震の震源を「石川県能登地方」とした。「震央」の位置がもう少し北側にずれて海域だったら、震源は「能登半島沖」になっていたはずだ。

さて、図-4で少し不思議に思えるのは、最大震度7を観測した志賀町の観測点が能登半島の西側に位置し、×印からはかなり離れて見えることだ。一方、志賀町よりも×印に近い珠洲市や輪島市、能登町の観測点は震度6強か6弱となっている。輪島市や能登町には震度のデータが未入電の観測点もあるため現時点で確定的なことは言えないが、志賀町の震度7に関しては、地震が発生した場所から遠くなればなるほど地震の揺れが弱くなる「距離減衰」が当てはまっていない。

地震発生のメカニズムに詳しい京都大学防災研究所の後藤浩之教授の分析によれば、地震発生直後に震央付近で強い揺れを伴う地震波が観測され、その約20秒後に能登半島西側でも再び強い揺れを伴う地震波が捉えられた。後藤教授は、震源から北東方向と南西方向に断層の破壊が進み、能登半島の陸域ではおもに南西方向に破壊が進んだとみている。

地震を起こす断層の破壊は、必ずしも一瞬で終わるわけではないのだ。

 

 

 

図-5 2024年1月1日 能登半島地震(M7.6)の震源断層モデル(暫定)=国土地理院提供資料に加筆

地震を起こした断層の大きさを×印から想像するのは簡単ではない

では、M7.6の大地震を発生させた断層の破壊領域はどれほどの大きさなのか。


国土地理院は、M7.6の大地震に伴い観測された隆起や沈降など上下方向や水平方向の地殻変動のデータをもとに、震源断層モデルを示した(図-5)。緑色の実線と破線で囲まれた2つの長方形が震源断層で、断層の破壊は震央の右側(北東側)と左側(南西側)にそれぞれ進んでいて、その長さは計約150㎞に及ぶ。

 

活断層に詳しい東北大学災害科学国際研究所の遠田晋次教授は「長辺約130~150㎞、短辺約10~15㎞の面積の断層が数メートルずれ動いたという感触」と話す。また、能登半島の北側の海底には幾つもの活断層の存在が知られているが、遠田教授は「それらの活断層帯が動いて起きた地震で、未知の断層によるものではない」と断言する。

 

平面地図上に表示することを前提に、地震を発生させる震源断層を正方形で表すと、
・マグニチュード6の震源断層の面積は約10㎞×約10㎞(ずれの大きさは約50センチメートル)
・マグニチュード7の震源断層の面積は約30㎞×約30㎞(ずれの大きさは約1.5メートル)
・マグニチュード8の震源断層の面積は約100㎞×約100㎞(ずれの大きさは約5メートル)
以上のようになる。

<破壊した断層の面積>と<断層面に沿ったずれの平均値>を掛け合わせた値が大きくなればなるほど、地震の規模を示すマグニチュードも大きくなる。
ちなみに、上記の計算式によるモーメントマグニチュード(Mw)で地震の規模を比較した場合(※)、阪神・淡路大震災を起こした1995年兵庫県南部地震(Mw6.9)を1とすると、エネルギー換算で、

・2007年能登半島地震(Mw6.7)は2分の1。
・2016年熊本地震本震(Mw7.0)は約1.4倍
・2024年1月1日能登半島地震(Mw7.5)は8倍
・1964年新潟地震(Mw7.6)は約11倍
・1983年日本海中部地震(Mw7.7)は16倍
・1993年北海道南西沖地震(Mw7.7)は16倍

以上となり、能登地方で1月1日に発生した地震は、阪神・淡路大震災を起こした地震の8倍の大きさに相当する。

 

地図の縮尺にもよるが、今回のようにマグニチュード7をはるかに超えるような大規模地震では、震源断層の大きさを地図上の×印から想像するのは簡単ではないことがわかるだろう。

さらに日本海沿岸では、今回を上回る規模の地震が過去に繰り返し起きてきたことも見てとれる。

 

図-6 記者会見で震源について説明する気象庁担当者(2024年1月1日)

気象庁も抱いているジレンマとは

 

その点については、実は気象庁自体もジレンマに陥っている

 

地震火山部のある幹部は「×印は、一般の人もメディアもそこだけに注目してしまいがちだ。特に規模の大きな地震では、×印周辺に限らず強い揺れが広域に及んで被害の範囲も大きくなるが、なかなかそのようには受け止めてもらえない」とこぼす。一方で、×印にも防災上の大きな価値があるという。

 

「地震の規模が大きくなればなるほど、発生直後に震源断層を正確に推定することは難しくなる。とはいえ震源の推定が遅れれば津波の予測にも時間がかかり、人々の避難行動や救出・救助活動などの初動対応にも影響する可能性がある。精密な計算はできていないかもしれないが、大まかにでも『どれくらいの規模の地震がどのあたりで起きたのか』を早く知らせることはとても重要だ」(気象庁地震火山部幹部)

 

大規模地震における震源の伝え方に改善を

今回のM7.6の大地震については、TBSも地図上で震源地を示す際、これまでと同様、一様に×印で伝えてきた(図-7)。気象庁から送られてくるデータをもとに作画するため仕方がない部分はあるにせよ、ある程度時間が経過した段階で見直す必要性を筆者も今回強く感じている。

 
図-7 2024年1月1日 能登半島地震(M7.6)のTBS震度分布図

 

特に大規模地震の場合は、地震や被害の規模感をできるだけ早く、実態に即して把握することが求められる。また、たとえ×印から遠く離れたエリアに見えても、実は深刻な被害に遭遇している可能性について想像力を働かせることも大切だ。

 

「×印」は確かに重要だが、情報の伝え手として、そこだけにしか目が行くことのないような伝え方や、地震“像”を的確に読み取る読解力を養うことも考えなければいけないと考えている。

 

取材:TBSテレビ報道局解説委員(災害担当)・福島隆史

※2024年1月1日能登半島地震を除き、Mwの値は「理科年表2024」を参照。