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安倍派「5億円裏金」問題の根本は“劣悪な安倍チルドレン”が大量に生まれてしまったこと 青木

ジャーナリストの青木理氏

 

 自民党の最大派閥「清和政策研究会」(安倍派)による政治資金パーティーの裏金問題は、底なし沼になってきた。裏金は5年間で総額5億円に上るとみられ、東京地検特捜部は19日、千代田区にある安倍派事務所などに家宅捜索に入った。わが世の春を謳歌してきた安倍派はなぜここまで追い詰められたのか。「安倍三代」(朝日新聞出版)の著書もあるジャーナリストの青木理氏に分析してもらった。 

 

【写真】今年5月に使われた「安倍派」パーティー券の実物はこちら 

 

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「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する、と言ったのは19世紀英国の歴史学者ですが、それがまたも繰り返されたという印象です」

 

  青木氏は、一連の安倍派の裏金問題は「一強」政権が放埒な権力行使を繰り返した必然的結果だと語る。

 

  これまで、岸田文雄首相は自身の権力基盤の弱さから、常に最大派閥の安倍派の意向をうかがってきた。松野博一氏、西村康稔氏、萩生田光一氏、高木毅氏、世耕弘成氏の「安倍派5人衆」を政府や党の要職に就けたのもそのためだ。

 

  裏金問題を受けて「5人衆」は政権から一掃され、一気に岸田政権の「非安倍化」が進んだが、やはりダメージは小さくなかった。17日に公表された毎日新聞の世論調査では、岸田政権の支持率は16%まで下落。前代未聞の危険水域となった。

■会計責任者の刑事責任追及は確実 「これまで岸田政権は安倍派出身の政務3役(大臣、副大臣、政務官)が15人もいました。安倍派は党内最大派閥ですから、味方につけなければ岸田氏は首相にも就けなかった。安倍派に配慮を怠れば、政権運営もままならないと考えた。しかし、その安倍派が火だるまになれば当然、岸田政権も火だるまになる。しかも今回の裏金問題は安倍派に限った話ではない。実際、二階派にもすでに強制捜査が入り、自民党全体の問題になっている。その中でも安倍派と二階派が特に悪質とされるのは、両派が政権の中枢を牛耳り続けたことと無縁ではない。やはり権力は腐敗するのです」

 

  東京地検特捜部はすでに裏金を受け取ったとされる安倍派議員の聴取もはじめていて、今後は安倍派の会計責任者らの刑事責任追及も視野に入れているという。

 

 「億単位のパーティー収入や支出を政治資金収支報告書に記載していなかった以上、会計責任者の刑事責任追及は確実です。また、不記載を指示したり報告を受けたりといった共謀が認められれば、派閥の事務総長を務めていた大物議員の立件も視野に入ってくる。さらにいえば、派閥からキックバックを受けて裏金化していた金額が数千万円に上る議員についても、政治資金収支報告書への不記載容疑で会計責任者や議員本人が立件される可能性もあります」

 

■派閥の組織ぐるみだった悪質性 

 

 その特捜部の捜査で一つの基準となっているとみられるのは、自民党の元衆院議員だった薗浦健太郎氏(自民党を離党)のケース。昨年、政治資金収支報告書にパーティー収入など約4000万円を超える収支を記載せず、薗浦氏本人と元秘書2人の計3人が政治資金規正法違反の罪で略式起訴された。薗浦氏は罰金100万円と公民権停止3年の略式命令を受けた。 「この“基準”に則れば、キックバックを受けて裏金化した額が4000万~5000万円とされる議員は立件対象になるはずです。また、派閥の組織ぐるみだった悪質性や世論の強い反発を考慮すれば、例えば1000万円以上のケースは立件対象になっても不思議ではない。もし会計責任者との共謀が立証されて多数の議員が公民権停止となれば、ある意味で戦後最大級の政治スキャンダルになってくる。問題は、どこまで特捜部が追及の手を伸ばすかです」 

 

 もともと、安倍派の裏金問題が明るみに出たのは、「しんぶん赤旗」の日曜版が昨年11月にパーティー収入の不記載問題をスクープし、それを受けて神戸学院大学の上脇博之教授が刑事告発したのがきっかけだった。 「上脇教授はさらに独自調査を重ねて自民党の各派閥に数千万円規模の記載漏れ、あるいは不記載があるとして刑事告発したわけですが、これだけ長い間、半ば堂々と組織的に裏金づくりをやっていたのですから、永田町にあまたいる政治部記者はなぜ気づけなかったのか。ちょっと鼻の利く記者だったら、気づいてもおかしくはない。しかも赤旗日曜版のスクープや教授の告発があっても大手メディアは沈黙を続け、独自の取材にも乗り出さなかった。これは正直、情けない話でしょう」

 

■安倍元首相に従うだけの“安倍チルドレン”  安倍一強と言われる政治体制のなかで、メディア側も見て見ぬふりをするような雰囲気が蔓延していたのかもしれない。さらに、青木氏は裏金問題の“根っこ”をこう話す。 「安倍派には99人もの所属議員がいて、こんなやり口が問題だと考える者はいなかったのも異様です。安倍氏が政権に復帰した2012年の総選挙で大量当選した“安倍チルドレン”は、安倍氏や上層部の言うことにひたすら唯々諾々と付き従うだけで、おかしいと感じても何も言わない、そもそもおかしいとすら感じない、そんな劣悪な議員が大量に生まれてしまったということなのかもしれません。政治家の質が政治の質に直結すると考えた時、これは相当に深刻なことだと思います」 

 

 例年、1月20日ごろに通常国会が召集されるが、現職議員への捜査はどのように推移するのか。今後の展開について青木氏はこう推察する。 

 

「従来の検察捜査の例を見れば、年明け1月の通常国会召集までには捜査に一定程度の目鼻をつけることになるでしょう。その際、果たして幾人の議員が刑事訴追の対象となるのか、さらにはキックバックされた裏金が何に使われたのかまで特捜の捜査が踏み込んでいくかどうか、その辺りが注目点になるでしょう」 

 

 安倍派のもとで甘い汁を吸ってきた“安倍チルドレン”にとっては、肝を冷やしたままの年越しになりそうだ。 (AERA dot.編集部・上田耕司)