億単位の政治資金 国庫に戻せ!
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2023.12.13
〈裏金問題・迫る特捜部〉会長も不在、ポストも失い、安倍派は崩壊へ…”裏ボス”森喜朗元首相は「介護施設に入るので」と雲隠れ? 疑心暗鬼の最大派閥内では黒幕探しも始まって…
政治資金パーティをめぐる一連の問題を受け、岸田文雄首相は大臣や、党役員などから安倍派議員を外す人事を行う考えだ。これまで99人の最大派閥として自民党内で大きな影響力をもってきた安倍派だが、会長も不在で、ポストも失うとなれば、派閥としての求心力を失うことは必至。さらに、ここに来て安倍派のオーナー的存在である森喜朗元首相の「雲隠れ」情報や、「黒幕」による裏切りの噂も派内の混乱に拍車をかけている。
「もはや安倍派にいる意味がない」急速に落ちる求心力
「政治の信頼回復と国政の停滞回避のため、しかるべきタイミングに適切な対応をとる」
12月11日、国会でそう語った岸田首相は、国会閉会後の14日という「しかるべきタイミング」に「安倍派の大臣らの交代」という「適切な対応」をとることを決めた。
「首相は、週末に麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長らと相次いで会談しました。こうした他派閥の党幹部の助言も受け、安倍派議員を早期に交代させる方針を決めました」(全国紙政治部記者
99人を擁する最大派閥の安倍派には激震が走っている。
「ただでさえ安倍派は、松野博一官房長官、西村康稔経産相ら『5人衆』が重要ポストを確保していたので、中堅以下にポストが回って来るのが遅かった。そのうえ『安倍派』というだけでポストからはがされては、たまったものではない。
もっとも、今は無派閥議員も『今、入閣要請されても泥船の岸田政権には入りたくないから断る』という状況で、ポストを求めたいわけではないが……。それでも、安倍派というだけで疑いの目を向けられるし、安倍さんももういないし、もはや安倍派に所属する意味がなくなる」(安倍派議員)
森氏が先手を打って「逃亡」したのでは
安倍派が大混乱に陥るなか、動向が注目されているのが、派閥に大きな影響力を持つ森喜朗元首相だ。
森氏は安倍氏の死去以降、安倍派会長人事をめぐって「官房長官の松野さんは、今は自分のことで精いっぱい」「萩生田さんは総合力は最も高い」などと口を挟んできた。
そんな森氏の発言の機会となっていたのが、森氏の地元・石川県の北國新聞の連載『総理が語る』だった。ここで森氏は、15人の集団指導体制となった安倍派について「下村博文さんを外すことが狙い」「下村さんは私に土下座するくらい、命懸けで会長を狙っていますが、残念ながら派内に期待する声はない」などと赤裸々に語っていた。
隔週1回、永田町で大きな話題となってきたこの連載が突如終了したのが、11月26日。低支持率に苦しむ岸田政権を「今こそ清和政策研究会(安倍派)が岸田さんをしっかり支えないといけない」などと語ったが、北國新聞の「この連載は今回で終了します」との一文で、24回の連載はあっけなく幕切れとなった。
「折しも、安倍派のパーティ券問題が大きく炎上する直前で連載が終了し、森氏が先手を打って『逃亡』したのではないかと話題になりました。森氏は安倍派の組織的な裏金づくり疑惑が連日報じられている渦中の12月5日夜に、安倍派の西村康稔経済産業相や世耕弘成参院幹事長と都内で会食。一連の問題への対応を協議したとみられますが、その前後には森氏が『介護施設に入るので、外部との連絡がとれなくなる』と友人に連絡したとの情報も駆け巡りました。
安倍派の組織的な裏金作りは20年ほど続いてきた慣習ともいわれており、森氏の関与や認識が問われるのは必至。それだけに森氏は検察の動きを見越して、先回りして動いているのでは、とみられています」(自民党関係者)
森氏と5人衆に反撃したいあの人は…
一方、大混乱に陥る安倍派の「裏切り者」「黒幕」とみられ始めているのが、安倍派の新体制で森氏や5人衆によって外された形となった、下村博文元文科相だ。
「5人衆や塩谷立座長の側が受け取ったキックバック額が具体的に報じられるなか、2018年に事務総長も務めた下村氏側のキックバックが報じられていないことで『安倍派の運営から外された下村氏が検察の捜査に協力し、キックバックによる裏金づくりの仕組みを伝えている』との見方が強まっています」(全国紙政治部記者)
その背景には、下村氏をめぐる現状がある。
「下村氏は、集団指導体制の15人からは外されたうえに、自身が安倍派会長に就任するために2000万円を森氏に渡そうとしたことを森氏に暴露されました(※下村氏は否定)。森氏や5人衆に反撃するため、自身に火の粉が降りかかるのも覚悟の上で、検察に裏金づくりの実態を暴露し、そのことを察知した安倍派幹部も、すでに森氏には下村氏の『裏切り』を報告したのでは、との話が永田町では出回っています。
連日、安倍派のキックバックの実態が報道され、安倍派議員は『次は自分の名前が出るのでは』とおびえ、『誰が裏切ってリークするのか』と疑心暗鬼になっているのです」(同)
過去に分裂を繰り返してきた歴史をもつ安倍派。分裂どころではなく、跡形もなくなってしまうのか……。
2023年12月12日 12時00分東京新聞
安倍晋三元首相の政治資金をゴッソリ継承…これが許される「世襲優遇」の仕組み 国会で問われた岸田首相は
故安倍晋三元首相の妻・昭恵氏が、夫の政治団体「晋和会」を継承し、元首相の5政治団体から計約2億1000万円を集めていたことが分かった問題。政党交付金の国庫返納もなく、無税で政治資金を「相続」した格好となり、国会でも「封建時代の領主」(枝野幸男立民前代表)と批判を浴びた。親族間の政治資金継承は一度、自民も旧民主も禁止とする改革案を出したが実現せずに、今回の夫婦継承問題に至った。このままでいいのか。(安藤恭子、山田祐一郎)
◆「全部で3.4億円」でも「相続税の課税は生じない」
今月8日、岸田文雄首相が出席した参院予算委員会。安倍元首相が死去した昨年7月8日付で安倍氏の資金管理団体だった「晋和会」の代表が妻の昭恵氏に変更されて政治資金も引き継いだとして、蓮舫議員(立憲民主)が「全部で3.4億円。これ、非課税ですか」と問うた。
衆院予算委で、立民の枝野氏(左手前)の質問に答弁する岸田首相(右)=8日、国会で
総務省の担当者が「相続税の課税は生じない」と答えると、蓮舫氏は「総理これね、変えませんか、この制度」と畳みかけた。
安倍元首相が代表を務めていた「自由民主党山口県第4選挙区支部」の代表も、同日付で昭恵氏に変更されたが、昭恵氏は森友学園問題などで閣議決定により「私人」と定義された経緯がある。
8日の衆院予算委で枝野幸男議員(同)は「なぜ亡くなった日に、私人であった配偶者が自民党の支部長になるんですか」と追及。これに対し岸田首相は「政治団体が代表を誰にするのか、資金をどうするのか、これは団体において判断する課題と考える」と述べて、問題視はしなかった。
枝野氏は「自民党の政治って古いと思っていたが、いやいや江戸時代、封建時代。領主さまが亡くなったら身内が引き継ぐ。自民党の支部ってそういうもんなんですか」と批判した。
◆継承した政治団体に、政党支部などから「寄付」
億単位の政治資金の「夫婦継承」は、どのように行われたのか。
北朝鮮による拉致問題解決を願う日韓合同コンサート会場を訪れた安倍昭恵さん=11月9日、東京都港区の韓国大使公邸で
総務省や山口県が公開した政治資金収支報告書によると、安倍元首相が亡くなった後の昨年7月〜今年1月、晋和会に五つの関連政治団体から総額計約2億1470万円が寄付の形で移され、このうち1億6434万円は5回にわたり、税金を原資とする政党交付金を受ける第4支部から受けていた。
このほか安倍元首相が生前に開いた政治資金パーティー収入や前年度からの繰越金を含め、蓮舫氏が「相続」とみなしたのが計約3億4200万円。晋和会は、安倍元首相の資金管理団体から通常の政治団体に衣替えし、第4支部は今年1月に解散。同支部の政党交付金使途等報告書によると、昨年も700万円の交付金を受けていたが、前年の倍以上にあたる2131万円の人件費などを支出し、全額を使い切っていた。
◆「政治資金の私物化と言える」
現行の政治資金規正法では政治資金は非課税扱いで、政治団体の代表者が議員から親族に交代しても相続税や贈与税はかからない。政治団体が別の政治団体に寄付の形で資金を移した場合も、税金はかからない。
元国税調査官でフリーライターの大村大次郎氏は「相続税法は金銭的な価値があれば、すべて相続税の対象と定める。お金をかけて政治家の『地盤』をつくってきた政治団体にも本来、相続税はかかるはず。法律上認められても社会的には認めがたく、倫理的に問題がある」と指摘する。
2019年4月、「桜を見る会」で招待客と記念写真に納まる安倍晋三首相(当時、中央左)と妻の昭恵さんら=東京・新宿御苑で
昭恵氏のような政治能力の未知数な親族が政治団体を引き継ぐことについて「悪弊だが、法律の抜け道として政界で繰り返されてきた」と述べ、こう続ける。「これは自分の財産を政治団体として管理しているだけ。公的な団体にふさわしい監査やチェックが働いておらず、政治資金の『私物化』と言える」
◆「脱税」批判に激しく反論していた晋三氏
そもそも「晋和会」の「相続」は2度目。晋三氏が父親の晋太郎元外相が亡くなった1991年に継承したのが1度目だ。第1次安倍政権時代末期の2007年には「週刊現代」が、晋太郎氏が晋和会などに個人献金した6億円以上の資金をそのまま晋三氏が引き継いだことを問題視。既に時効を迎えているとした上で、相続税が3億円に上るとし「脱税疑惑」と報じた。
第2次安倍政権時代の14年11月、参院予算委員会で社民党の吉田忠智党首(当時)がこの報道を取り上げると、晋三氏は「いまの質問は見逃すことはできない。重大な名誉毀損(きそん)だ。週刊誌の記事だけで私を誹謗(ひぼう)中傷するのは、議員として恥ずかしいことだ。これは全くの捏造(ねつぞう)だ」と激しく反論した。
◆継承規制の話はたびたび持ち上がっても実現せず
ただ、政治団体「相続」の制限を求める声は、かねてから浮上している。
政権交代を目指した09年、旧民主党は「世襲政治からの脱却」を掲げ、国会議員が死亡または引退した場合、配偶者や3親等以内の親族が政治団体を引き継ぐことを禁止▽その政治団体が親族らに寄付することも禁止、とする政治資金規正法改正案を国会提出した。だが成立しなかったばかりか、政権交代前後には、鳩山由紀夫首相(当時)の資金管理団体を巡る偽装献金問題の捜査で、実母からの巨額の資金提供が発覚し、沙汰やみになった。
一方、自民党も同時期に党改革実行本部が党内ルールとして世襲制限案を示し、その素案には資金管理団体や政党支部など国会議員がかかわる政治団体の継承の禁止を明記した。だが、最終的には「世襲を特別扱いしない」と抽象的な形の提言に終わった。
◆「本来は国庫に戻されるべき資金」
当時を知る政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「政権奪取後の民主党は公務員改革を優先し、政治家の身を正す改革は後回しにされた。自民党も世襲が問題視される一方で、(09年8月の総選挙で初当選する)小泉進次郎氏の人気が高く、及び腰だった」と話す。
山口県下関市にあった安倍晋三事務所。安倍氏の死去の後、閉鎖された=2019年撮影、一部画像処理
「いま批判を集めているパーティーによる政治資金集めについては今後、法改正が行われるかもしれない」とする一方、こう強調する。「政治家は、政治団体を『抜け道』として利用して相続税や贈与税を免れてきた。一番の問題は、名義を変えるだけで、子どもに組織や資金を残せるというロンダリングの仕組みを政治家が残していることだ」
日本大の岩井奉信名誉教授(政治学)は「中選挙区制時代から続く後援会型の個人地盤が、小選挙区制になってもそのまま続いている。政治家の都合のいい制度になっているのは間違いない」と政治団体がブラックボックス化する現行制度を批判する。「今回は特に政党支部の資金が移されていることに違和感を覚える。本来は党本部に帰属し、国庫に戻されるべき資金で個人が相続できるものではない」
◆「世襲議員全体のあり方を見直すべき」
政治家が引退したり、死亡したりした際の資産の継承について、岩井氏は早急なルール作りを求める。
立憲民主党は、今の臨時国会に、旧民主党と同様の政治資金規正法改正案を提出。岡田克也幹事長は会見で「何億もの金が政治団体に残されて、そのまま親族に代表者が代わって選挙に出るということになると、これはあまりにも一般の立候補者と比べてバランスがおかしい。しっかり法律で禁じる必要がある」と理由を説明した。
岩井氏はこう語る。「世襲議員だから悪いというわけではないが、スタート時に資金面で有利となるのは確か。全くルールがない中では、新たな人材を生み出すという意味で政党自体の活力がなくなる。お金の問題だけではなく、世襲議員全体のあり方を見直すべき時期にきている」
◆デスクメモ
政治家が亡くなった後、その政治団体の残金はどう処理されるか。実は政治資金規正法には何も規定がない。当然予想される事態なのに、なぜ尻抜けを放置するのか。だが、岸田首相をはじめ世襲議員があふれる自民を見るに、その答えはすぐ浮かぶ。穴はわざとあけてあるのだろう。(歩)
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