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毎日新聞 2023/11/21 東京夕刊
ガザ情勢、中東専門家・立山良司さんの思い まず、対話へ歩む勇気を オスロ合意30年、いまだ遠い夜明け
イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘に出口はあるのだろうか。「ハマスの完全掃討は困難」と語るのは、パレスチナの選挙に立ち会った経験がある中東の専門家、防衛大名誉教授の立山良司さん(76)である。イスラエルとパレスチナの2国家共存を目指したオスロ合意から30年、立山さんが語るパレスチナの地の「遠い夜明け」とは――。
「平和は曲がり角の向こう側にあるのかもしれない。ただ、それをとりにいく勇気のある政治家がいるんだろうか。勇気を持った政治家が角を曲がって平和をとってこない限り、実現しないだろう」。立山さんは、かつて対話したイスラエルの作家で和平支持者のダビッド・グロスマン氏から聞いた話を忘れられないという。同じ気持ちだと立山さんも言う。「イスラエルもパレスチナも、反対があっても、もっと政治家が勇気を持って、和平に向かっていけばよかった」
だが、2人が切望したような政治家は現れないどころか、10月7日のハマスの大規模な越境攻撃を皮切りに双方は再び流血の惨事を繰り広げている。パレスチナ自治区ガザ地区の最大都市ガザ市に侵攻したイスラエル軍に対し、ハマスは徹底抗戦する。立山さんは「30年前の希望に満ちた状況が現実のものにならなかったのは極めて残念です」とため息をつく。
立山さんはハマスが越境攻撃に出た背景をいくつかあげる。イスラエルの封鎖政策でガザ地区の経済活動は低迷して失業率が高く、食料は不足する。「住民は何もできないハマスに対しても怒りがあり、それが顕在化し始めていた」。ハマスはイスラエル側の反撃と被害拡大を見越して敵対感情を高め、自分たちへ向かいかねない批判の矛先をそらす狙いがあったというわけだ。ちょうどパレスチナ解放機構(PLO)主流派のファタハが支配するヨルダン川西岸地区で双方の衝突が激化し、多数のパレスチナ人が亡くなる悲劇も続いた。「ハマスは手をこまねいているわけにはいかなかったのでしょう」。ユダヤ人国家のイスラエルがパレスチナを支えてきたアラブ諸国との国交正常化を進めていたため、ハマスは孤立するのを恐れた可能性もあるという。
イスラエルは越境攻撃をどうとらえたのか。…