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増える独り身高齢者、民間サービスでトラブル 政府が調査、対策検討
増える身寄りのない高齢者と課題
身寄りのない高齢者の増加に伴い、入院時の身元保証や葬儀などを一手に引き受ける民間サービスでトラブルが相次いでいる。政府は法規制も視野に対策を検討するため、実態把握の調査に乗り出した。ただ、民間の需要が増えるなかでの規制には課題も多そうだ。
【写真】高齢者の医療や介護などについて意見交換する岸田文雄首相=2023年8月7日午後3時22分、東京都豊島区の豊島区役所、代表撮影
岸田文雄首相は8月7日、身寄りのない高齢者を取り巻く現状を視察するため、東京都の豊島区役所を訪れた。同区は、65歳以上の一人暮らしの高齢者の割合が35・6%(2020年の国勢調査)で、全国の区市で最高。首相は視察後、記者団に「安心して民間事業者による身元保証などのサポートを受けられる仕組みを作る」と語った。
65歳以上の全国の高齢独居世帯は20年に672万世帯となり、00年の303万世帯から倍増した。少子高齢化に伴い、身寄りのない高齢者が今後も増えるのは確実だ。入院や施設に入所する際の身元保証の代行や財産管理、死亡後の火葬や遺品処理などで支援を必要とする人も少なくない。ケアマネジャーらが本来の業務とは別に対応するケースもあるが、民間事業者も増え、悪質業者によるトラブルも相次ぐ。事業者が経営破綻(はたん)し、預けたお金が契約者に返還されない事件も起きている。
消費者庁によると、消費生活センターに寄せられた相談件数は13~21年度で年平均100件を超す。「年金を預かると言われて渡した通帳と印鑑を返してもらえない」「解約したいが返金額に納得できない」といった声が寄せられている。
トラブルの背景には、提供されるサービスが多岐にわたり、一つひとつを適正に選ぶのが難しいこと、契約内容が複雑になりがちなこと、死後の事務に要する費用が生前に預託する仕組みとなる場合が多いことなどが指摘されている。
朝日新聞社
京都新聞
社説:おひとりさま 家族なしでも困らぬ社会に
身寄りのない高齢者というと、家族や親戚が一人もいないイメージが浮かぶ。 だが、家族がいてもさまざまな事情で「いざという時に頼れない」といえば、自分のことだと感じる人は少なくないのではないか。 そんな「おひとりさま」のニーズに応じて増えているのが、家族の代わりをする民間の高齢者サポート事業だ。 入院・施設入所時の身元保証をはじめ、日常生活支援、死後事務を有償で請け負う。認知症の人などを想定した成年後見制度よりも、対象は幅広い。 ただ、こうした事業を規制する法令や監督官庁はなく、利用者との契約トラブルも起きている。加藤勝信厚生労働相は先日の記者会見で、本年度中に身元保証など民間サポート事業の実態調査の結果をまとめる考えを示した。
現状把握とともに、課題の整理と対応策を急がねばならない。厚労省が中心になり、権利擁護や地域福祉に関わる官民の機関が連携する必要がある。
全国の消費生活センターには2018年度、民間サポート事業に関する苦情や相談が計101件寄せられた。「預託金100万円を支払うよう言われているが、詳細な説明がない」「約束されたサービスが提供されない」「解約時の返金額に納得できない」などである。
行政相談を所管する総務省が今月公表した調査報告によると、把握できた全国約400のサポート事業者のうち、調査に応じた204事業者の約8割が、サービスに必要な費用や解約時の対応といった重要事項を利用者に伝える説明書を作っていなかった。預託金を代表者の個人口座で管理するなど、流用が起きかねない例もあった。
これでは社会的な信頼はおぼつかない。国のガイドラインや登録制度を求める声は、事業者自身や自治体からも上がっている。しっかりしたルールを設け、利用者の安心につなげることが欠かせない。
国は、保証人がないことを理由に単身高齢者の入院・入所を拒まないよう求めている。だが、緊急時の連絡や費用の立て替えに対応できる人がいない場合、施設側に受け入れを断られがちなのが現実だ。火葬や遺品の引き取りを含め、老後に関わる事柄のほとんどは家族がいることを前提にしている。
独身を続ける人のほか、配偶者に先立たれたり、子どもと疎遠になったりするリスクは誰もが抱えている。
2000年に約300万世帯だった高齢の独居世帯は、この20年間で倍増した。40年には900万世帯近くになると見込まれている。
家族に頼る従来モデルだけでは、もはや社会が立ち行かない。「おひとりさま」でも困らない仕組みづくりに、国や自治体は本腰を入れて取り組むべき時である。