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コロナの3年間で「不登校が増えた」学校も。ある教師の“本音のつぶやき”に激しく共感

 

2020年4月、新型コロナウイルスの蔓延により発令された「緊急事態宣言」で、わたしたちの生活は一変しました。やっと元の日常が少しずつ戻りつつありますが、この約3年間のことはずっと忘れられないでしょう。 「特に影響を受けたのは、学校に通う子どもたちだったのではないでしょうか」と語るのは、中学生の娘を持つ和田ありささん(仮名・42歳)。コロナ禍の子どもの学校生活に疑問を隠せない一人です。

黙って給食を食べ、友達とも喋らない日々

「緊急事態宣言が出て休校になった時期は、世界的にも未知のウイルスにパニックになっていたので、一時的な休校は仕方がなかったかと思います。ですがその後、学校生活が始まってからは、疑問に思うことだらけでした」 登校時は“密”を避けるため分散登校。登下校中も人との間隔をあけて、友達との会話は自粛。教室の机と机の間には、アクリル板のパーテーションをつけ、先生はフェイスシールドを装着し、息苦しそうに授業をしていました。この3年間は全国のほとんどの学校で、同じような対策が取られていたはずです。 会食での感染が取りざたされたため、学校でも食事中は特に厳しく会話が制限されました。黙って給食を食べる「黙食」が励行(れいこう)され、できるだけ友達と会話をしないように過ごすように指導されていました。 そんな姿を見て和田さんは、抱えていた疑問が大きく膨らむのを感じたといいます。 「学校は勉強を教えてくれる場所でもありますが、子どもたちにとっては『友達との関わりの中からたくさんのことを学ぶ』という大事な役割もあると思います。先生方も思うところはあったでしょうし、国の方針に従うしかなかったと思いますが、人とのかかわりを絶たれてしまった学校という場所は、授業だけを提供する、面白みのない場所になってしまったように思いました」

ポツリとつぶやいた「先生の言葉」に激しく共感

ある先生はオンライン授業の中でぽつりと「密になるのが学校の醍醐味なのになぁ」とつぶやいたそうです。それを聞いて和田さんは、まさにそれだと感じたと言います。 「確かに未知のウイルスは脅威でしたが、日を追うごとにその症状や致死率、若者の感染・重症化リスクなどは見えてきたかと思います。けれどほぼ3年もの間、学校はずっと密を避け、黙食をつづけていました。登下校で外を歩くときや体育のときなども、マスクをしている意味があまり感じられず、それよりもコミュニケーションの機会の剥奪(はくだつ)や熱中症のリスクなどのデメリットばかりが浮き彫りになっているような気がしました」という和田さんは、「せめて少しずつでも、友達との関わりを持てるように緩和していってほしかった。子どもの3年間は、もうかえってきません」と嘆きます。 人は生きている限り病気やウイルス、細菌と共存するしかなく、リスクをゼロにすることは不可能です。リスクヘッジは大事ですが、できるだけリスクは取らないという選択ばかりしていると、社会は後退してしまいます。

 

「2020年入学の子どもたちに不登校が多いんです」

和田さんの学校では、娘さんが通う2020年入学の学年でひときわ不登校が多く、子どもたちの精神年齢も幼いという話を耳にしたそうです。 「子どもたちは学校で友達や先生とのコミュニケーション、そして学校行事などを通じて成長していくものですよね。入学当初からまともに学校生活が始まらず、やっと登校したかと思えば分散登校、マスクで顔もよく見えず、会話も制限される学校生活で、子どもたちの精神年齢が幼いと言われると、やり場のないモヤモヤを感じます。不登校だって、そりゃあ学校に馴染めない子が増えるのは当然のことですよね……」 多感な子どもたちの学生時代は一度きり。ほかの人生を歩めないからこそ、彼/彼女自身はそれを当然のこととして受け止めるのかもしれません。ですが他者とのかかわりが大切な時期に「密を避け、人と距離を取って、授業だけ提供された学校」で過ごした子どもたちが将来どんな風に育つのか? 想像が足りなかったのではないでしょうか。

“変化に対応し、生き抜く子どもたち”を育めているか

いまの子どもたちは数十年後に社会を担う人たち。そして子どもたちにとって学校とは小さな社会。学校で、多感な時期にさまざまな人とコミュニケーションをとって、トラブルも経験しながら成長し、大人になって社会に出ていく。学校はその準備期間と捉えると、その大事な準備期間がすっぽり抜け落ちた状態で社会に出ていくことになります。 2020年度から順次改訂されている学習指導要領の目的は「社会の変化に対応し、生き抜くために必要な資質・能力を備えた子どもたちを育む」とあります。ですが、行き過ぎた感染症対策で子どもたちに不自由を押し付けてしまった大人たちの行動は、“変化に対応し、生き抜く子どもたち”を育むどころか、“自分の頭で考えずに、上の指示にただ従うこと”を見本のように示してしまったのではないでしょうか。制限の中でも工夫する姿を示すことができていたでしょうか。 今から3年間を取り戻すことはできません。ですが、政府や自治体の方針を受けたうえで、本当にそれが子どもたちに最善の策だったのか、「子どもたちのため」と言いながら、大人の保身になっていなかったのか、コロナ禍の対応について、改めて省みる必要があるでしょう。そして改めて、子どもの見本となる大人たちが「自分の頭で考えて行動する」ことが何よりも大事なことであると考えます。

 

 ―シリーズ「令和の親・令和の子」― 

<取材・文/塩辛いか乃> 

【塩辛いか乃】 世の中の当たり前を疑うアラフィフ主婦ライター。同志社大学文学部英文学科卒。中3繊細マイペース息子と20歳年上の旦那と3人暮らし。乳がんサバイバー(乳房全摘手術・抗がん剤)。趣味はフラメンコ。ラクするための情熱は誰にも負けない効率モンスター。晩酌のお供はイオンのバーリアル。不眠症。