本日7月3日の朝日新聞に「吹田市教委による『君が代暗記調査』」に関する社説が掲載されています。

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(社説)君が代暗記調査 内心の自由を脅かすな

 

君が代の暗記状況を各校に尋ねた吹田市教委の調査票

 

 子どもたちは「君が代」の歌詞を暗記しているか――。

 

 そんな調査を大阪府吹田市教育委員会が市内の小中学校に実施していた。市議会議員の求めに応じたというが、斉唱の強制につながりかねない危うさをはらむ。経緯を検証して公表・説明する責任がある。

 

 調査は卒業式が近づく今年3月、市立の全54校に対して行われた。各校の校歌とともに「国歌の歌詞を暗記している児童・生徒数」を学年ごとに集計して即日報告するよう文書で求め、全校から回答を得ていた。

 

 調査の目的や確認の方法は、特に示さなかった。音楽の先生への聞き取りで概数を把握した学校がある一方で、担任が子どもたちに教室で挙手を求めて確かめた学校もあった。

 

 子どもたちは、先生の質問をどう受け止めたか。複数の教職員組合が「国歌の強制につながりかねない」「思想・信条の自由を脅かす」などと抗議の声をあげたのも当然だろう。

 

 調査は2012年に始めて今回が5回目で、いずれも同じ自民党市議の質問に答えるためだった。この市議はブログで「闘う保守」を自称し、学校での君が代斉唱の徹底を求めている。市教委が調査結果を議会で答弁したのは一度だけで、それ以外は市議にだけ伝えていたという。こうした対応の是非も検証しなければならない。

 

 君が代斉唱をめぐっては、1999年の国旗・国歌法の制定に際し、政府が「国民に義務を課すものではない」と説明している。文部科学省は学習指導要領で「いずれの学年も歌えるよう指導する」とする一方、児童・生徒の内心に立ち入らないよう注意も促してきた。

 

 学校の政治的中立の確保をうたう教育基本法や関連法に照らせば、特定の主義主張を掲げる政治家の求めに応じて調査すること自体、踏みとどまるべきではなかったか。吹田市教委の判断は誤りだと言わざるをえず、今後はこのような調査をするべきではない。

 

 大阪府では2011年、大阪維新の会が府議会で過半数を占めた後、公立校の教職員に君が代の起立斉唱を義務づける条例が成立。思想・信条の自由を理由に従わない教員らへの処分が相次いだ。そうした施策と対応が学校現場を萎縮させ、内心の自由を守る意識を鈍らせてはいないか。

 

 子ども一人ひとりの尊厳を守り、多様な価値観を認め合う。それが教育の基本であり、教育の場である学校が繰り返し確認すべき原則だ。吹田市教委の今回の一件を「他山の石」として、すべての教育関係者は改めて肝に銘じてほしい。

 

 


https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023062000039
 

〈社説〉君が代暗記調査 内心の自由脅かす圧力だ 信濃毎日新聞(2023.6.20)

 市議からの調査の依頼に応じた教育委員会に、教育現場への不当な政治介入だという認識はなかったのか。そのことが何より問われなければならない。

 小中学校に通う子どもは、君が代の歌詞を暗記しているか。大阪の吹田市教育委員会が市立の全校を対象に行った一斉調査である。市議会で自民党の市議から依頼があったという。

 市教委は「卒業式・入学式について」と題した各校への通知で、暗記している人数を学年ごとに回答するよう求めた。学校によっては、学級担任が子どもたちに手を挙げさせて確認したという。

 学習指導要領を踏まえて調査が必要だと判断したと市教委は説明する。全54校から回答があり、市議には学年別に全体を集計した結果を伝えた。学校ごとの内訳は知らせていないとしている。

 君が代について指導要領は、いずれの学年でも歌えるよう指導すると記載する。だからといって、市議の求めを諾々と受け入れるのは、教育の独立を揺るがす。調査することそのものが、君が代を徹底して教え込むようにという現場への圧力になる。

 教育は政治権力からの独立を保つことが何よりも大事だ。政治家や政党による干渉、介入は教育の根幹をゆがめる。教委は本来、毅然(きぜん)と向き合って、防波堤の役割を果たさなければならない。

 君が代、日の丸は、戦前の皇国思想や軍国主義の支えとなってきた歴史がある。それを踏まえれば、教員にも子どもたちにも強制されるべきものではない。

 今回の調査は、子どもの内心に公権力が踏み込む危うさをはらんでいる。市教委の判断だけでなく、異を差し挟まずに従った学校側の姿勢もうなずけない。

 君が代は1989年の指導要領改定で、入学式や卒業式で「斉唱するよう指導する」と明記されたのを機に、現場への締めつけが強まった。

さらにお墨つきを与えたのが99年の国旗国歌法だ。

 制定に際して政府は、強制や義務化はしないと明言した。にもかかわらず圧力を強め、起立、斉唱しない教員が各地で懲戒処分を受けてきた。思想・良心の自由の侵害だとして、処分の取り消しを求める裁判がなお続いている。

 指導要領はあくまで大枠の基準であり、介入や圧力を正当化する根拠にならない。君が代や日の丸を教育の現場でどう扱うか。あらためて議論し、政府による締めつけが強い同調圧力を生んでもいる現状を問い直す必要がある。