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会計年度任用、非正規待遇改善のはずが「官製ワーキングプア」の実情

任用打ち切りを通知する書類を見つめる女性=福岡県小郡市で2023年6月6日午後3時15分、山下智恵撮影(画像の一部を加工しています)

 

福岡県小郡市の会計年度任用職員として2023年度も任用すると一旦は説明したのに、22年度末で任用を打ち切ったとして、同市の女性(58)が市を相手取り、550万円の損害賠償を求める訴訟を福岡地裁久留米支部に起こした。提訴は16日付。原告側は「期待が侵害され、精神的損害を被った」と主張している。 

 

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 会計年度任用職員制度は、地方公務員全体の3分の1を占めるまで増加した非正規公務員の待遇改善などを目的に2020年4月に始まった。会計年度任用職員は非正規だが、地方公務員法で公務員と定められ、ボーナスが支給されるほか、フルタイムであれば退職金の支給対象になる。ただ、ボーナスを出す代わりに月給を下げる自治体もあるなど給与水準が低く、「官製ワーキングプア」との批判も根強い。 

 

 さらに同制度では、実質上限のなかった非正規公務員の任期について、原則、4月~翌年3月の「会計年度」と明記され、働く期間が1年ごとに区切られた。多くの自治体が3年目には公募に応じる必要があると規定し、当初目指していた待遇改善にはほど遠いのが実情だ。

 

  非正規公務員が一方的に「任用止め」に遭っても、公務員には民間の雇用契約を規定した労働契約法が適用されないため、その不当性を争うことは難しい。このため、今回の訴訟で原告側は「任用継続の期待権を侵害された」と主張して争う。期待権を認めた判例は複数あり、東京地裁は06年、約10年にわたって勤めてきた非正規公務員の保育士4人との契約を打ち切ったことを巡り、「(継続雇用の)期待権を裏切った」として東京都中野区に損害賠償を命じている。

 

  今回、福岡地裁久留米支部に提訴した女性(58)は、勤務していた福岡県小郡市の幹部から次年度の具体的な部署名を説明され、「勤務は60歳までの2年間」とまで言われていたのに、その後、任用を打ち切られた。「ずっと働き、これまで同様に来年度の話をされたばかりだった。いいように利用され、自治体の都合一つで任用を止められる制度には納得できない」と憤る。  非正規公務員制度に詳しい立教大学の上林(かんばやし)陽治特任教授は「必要以上に短期で雇用し、突然クビを切るなど民間では許されないことが適法化されている。やりたい放題だ」と批判。「相談員や司書など専門職ほど非正規比率が高い。不安定な雇用では成り手が細り、その影響を受けるのは住民だ。専門職を正規職員として雇うジョブ型雇用への転換など、自治体が条例改正でできることがあるはずだ」と指摘する。【山下智恵】