仕組債問題で批判殺到…金融庁監督局・伊藤豊局長に浮上した「別のスキャンダル」

 

 証券取引等監視委員会が、リスクの高いデリバティブ(金融派生商品)を使った複雑な仕組債を "素人” に売りつけたとして、千葉銀行と傘下のちばぎん証券などを行政処分するよう金融庁に勧告した

 

金融機関になめられている金融庁監督局

 仕組債の危険性はかねて指摘されており、対応が不十分だったとして金融庁監督局の伊藤豊局長への批判も高まっている。金融庁の締めつけで販売自粛する金融機関がある一方、無視して継続するメガバンク系証券もあり「局長はなめられている」(金融庁関係者)という声も上がる。 

 

 伊藤氏は出世コースの財務省大臣官房秘書課長を経たエリートで、自他共に認める金融庁長官候補となった。

 

  仕組債問題は汚点だが、伊藤氏には別のスキャンダルもある。

 

  医療ベンチャー「テラ」を巡る金融商品取引法違反事件の法廷で、竹森郁被告が「高額接待をしたうえ1本5万円の高級ワインを贈った」と爆弾発言したのだ。竹森被告は有罪判決を受けたが、当時、「永田町のフィクサー」として知られる矢島義也氏の側近として政官要人の接待係を務め、資金も負担していた。

 

  それだけに証言には真実味がある。加えて「国家公務員倫理規程違反の告発も考えています」(竹森被告)と、まだ終わった話ではない。仕組債問題と接待疑惑―。金融庁のエリート官僚に荒波が押し寄せている。  「週刊現代」2023年6月24日号より

週刊現代(講談社)

 

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融資一辺倒では稼げない危機感が招いた顧客軽視の「ツケ」は、大きな痛手となって回ってきた

 

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千葉銀行など3社の処分勧告で露見した「仕組み債」乱売の実態、武蔵野銀行は役員が積極仲介を指示していた

 

 

長引く低金利で厳しい経営環境とはいえ、3社の連携による仕組み債の販売は顧客軽視と言わざるをえないものだった(編集部撮影)

 

 仕組み債の販売からいち早く撤退した「優等生」が、まさかの「問題児」だった。 

 

 証券取引等監視委員会は6月9日、ちばぎん証券や親会社の千葉銀行などの3社に対し、仕組み債を顧客に十分な説明なく販売していたとして、行政処分するよう金融庁に勧告した。勧告を受けて金融庁は、業務改善命令など行政処分を検討する。

 

  ちばぎん証券と提携し顧客を紹介していた武蔵野銀行も勧告の対象になった。3社は「厳粛に受け止め、改善・再発防止に取り組む」とのコメントをそれぞれ発表した。

 仕組み債はこれまでも個人投資家に販売するには適さないと指摘されてきた商品だ。

デリバティブ(金融派生商品)を使うことで、高い利回りを可能にする反面、株価や為替に連動して償還条件が変動するなど商品性は複雑。通常の債券とは異なるリスクがあるうえに手数料も不透明だった。

 

  金融庁は昨年5月に公表したリポートで、仕組み債の1つであるEB債(他社株転換可能債)を「購入する意義はほとんどない」と断じたほどだ

 

 ■販売をいち早く中止したちばぎん証券

 2022年8月、金融庁は仕組み債の販売状況について実態把握に乗り出す。地方銀行系証券会社はとくに仕組み債の販売に積極的だったが、強まる逆風を前に販売を次々と取りやめた。その結果、仕組み債を取り扱う地銀の数は2022年3月末に100行中77行あったが、11月末には33行と激減した。

 

  この流れにいち早く反応していたのが、ちばぎん証券だった。金融庁の実態調査前の6月、他社に先駆けて仕組み債の販売を中止した。

 

 親会社の千葉銀頭取は、業界団体である全国地方銀行協会の会長。「協会長として金融庁とやりとりする中で、調査の実施を事前に知ったのでは。抜け駆けだ」(ある地銀関係者)。そんな恨み節まで漏れていた。

 

  ところが、そのちばぎん証券で無理な販売が横行していた。監視委によると、2022年6月末に仕組み債を保有していた約8400人の顧客のうち、3割が同社の基準でも仕組み債の販売に適さない「低リスク投資」の意向を持っていた。また、顧客の多くは70代以上だったほか、投資経験がまったくなかった例もあった。

 

 

 仕組み債で生じた損失について苦情も出ていた。証券会社でつくる自主規制法人の日本証券業協会は、3度にわたってちばぎん証券に注意喚起をしていた。ところが顧客からの苦情を「一方的申し出」として真摯に対応してこなかったという。

 

  銀行が注力してきた銀証連携で生じた「歪み」も、今回の勧告を通じて浮き彫りになった。

 

  監視委によると、千葉銀、武蔵野銀は顧客をちばぎん証券に紹介する際、その顧客の投資知識や経験、投資目的などを十分に考慮しないまま、仕組み債の購入を勧めていたという。

 

■武蔵野銀は役員が支店長に積極仲介を指示 

 

 証券会社が仕組み債を販売して受け取った手数料の一部は、紹介した銀行の収益になる。銀行の営業職員にとっては自分の実績になるため、手数料の高い仕組み債は、「効率がよい」商品だった。

 

  武蔵野銀に至っては、役員が支店長に対し店別の「仕組み債収益実績表」を送付して、積極的に仲介をするよう指示していた。行員に対しても投資信託や個別株の販売ではなく、仕組み債の販売に特化した研修を行っていた。

 ちばぎん証券にとっても、銀行経由の仕組み債販売は大きな収益源だった。監視委によると、同社の営業収益のうち銀行経由の収益は70~80%。そのうちの多くが仕組み債関連で、2021年3月期には営業収益全体の約半分を占めた。

 

  仕組み債の販売をやめた2023年3月期のちばぎん証券の業績は、純営業収益が39億7700万円と前年同期比で39・1%減となり、11億3700万円の営業赤字に沈んでいる。

 

  「地銀が証券子会社をつくる目的は、リスク許容度の高い顧客の大手証券会社への流出を防ぐことだった。ただ、そうした顧客はすでにほかの証券会社と取引しており、もくろみどおりの顧客は想定より少なかった」

 

 金融庁でかつて主任統括検査官を務めた日本資産運用基盤グループの長澤敏夫主任研究員は、地銀系証券が高リスク商品の販売に走る背景を解説する。そのうえで「親会社から早期黒字化を求められ、銀証連携の掛け声の下、金融機関の都合で、本来仕組み債を販売するべきではない顧客に販売を進めたのではないか」と指摘する。 

 

 千葉銀は2022年度、有価証券運用を除く本業利益で518億円を稼いだ。地銀99行のうち3位という優等生だった融資一辺倒では稼げない危機感が招いた顧客軽視の「ツケ」は、大きな痛手となって回ってきた。

高橋 玲央 :東洋経済 記者

 

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証券取引等監視委が仕組み債で千葉銀など3社を行政処分勧告へ

高い利回りをうたう一方でリスクを伴う「仕組み債」と呼ばれる金融商品をめぐって、「千葉銀行と子会社の証券会社、それにさいたま市に本店を置く「武蔵野銀行」がリスクを十分に説明せずに顧客に販売したなどとして証券取引等監視委員会は、3社に対して行政処分を行うよう金融庁に勧告する方針です。

関係者によりますと証券取引等監視委員会は、「千葉銀行」と子会社の「ちばぎん証券」、それに「武蔵野銀行」の3社が仕組み債のリスクを十分に説明せずに顧客に販売したなどとして金融商品取引法に基づいて行政処分を行うよう9日にも金融庁に勧告する方針を固めました。


金融商品取引法は、顧客の知識や経験、それに財産の状況などに照らして不適当な勧誘や販売を行ってはならないという原則を定めていますが、ちばぎん証券は、投資の経験が少ない顧客に十分なリスクの説明をせずに仕組み債を販売していたということです。


また、提携関係にある千葉銀行と武蔵野銀行はそれぞれの顧客の情報をちばぎん証券に提供していましたが、監視委員会は、この2つの銀行が、法律が求めている投資家保護のために必要な対応をとっていなかったと判断したとみられます。
 

「仕組み債」をめぐっては金融機関がリスクを十分に説明せずに顧客に販売したなどとしてトラブルが相次いでいますが、金融庁は、この3社は特に悪質性が高いとみて今回の勧告を受けて行政処分を検討することにしています。