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日テレの超高層ビル計画 住民の賛否割れて行方は混沌

 

日本テレビ旧本社跡地は現在広場になっている。奥は高さ約60メートルのスタジオ棟。(撮影/竪場勝司)

 

 かつては武家屋敷が並び、高級住宅街として知られる東京都千代田区番町地区。日本テレビホールディングス(以下日テレ)の創業の地だが、同社がその本社跡地に高さ90メートルの超高層ビルの建設計画を打ち出し、地元住民の賛否が割れ、大きな議論となっている。計画は千代田区の都市計画審議会で審議されているが、3月末に予定していた採決は見送られ、その行方は混とんとしたままだ。 

 

 1953年に放送を始めた日テレは2003年、港区の汐留に本社を移転した。13年から番町地区の本社跡地利用の検討を本格的に開始。16年からは町会長など地域住民を交えた協議もスタートした。18年5月に開かれた協議会で配布された日テレの資料に「新たな高さ制限150メートルまで」と記載があり、これが波紋を呼んだ。

 

  番町地区は地区計画(都市計画法に基づき街の特徴に合うようビルの高さなど細かいルールを地域住民と自治体が話し合って決める制度)で高さ制限は60メートルとなっている。「静穏な環境が失われてしまう」と危惧する一部の住民たちは日テレの計画に反対して「番町の町並みを守る会」を18年に結成。超高層ビル建設を許可しないよう求める約3300人分の署名を22年2月、区長に提出した。

 

  千代田区は22年7月、日テレの計画案を基にした、高さ制限90メートルの地区計画変更案を住民に明らかにした。計画地の広さは約1・2ヘクタールで、日テレは高さ90メートルの賃貸用オフィスビルの建設を予定。広場を設置し、最寄りの東京メトロ麴町駅の地上と地下をつなぐ通路をバリアフリー化して、スーパーなどの商業店舗も設ける。公共施設を整備する代わりに容積率を緩和して高い建物が建てられる「再開発等促進区」を計画地に適用している。

 

  22年11月には地権者に対する説明会があり、日テレ案に賛成の意見書が47通、反対が49通あった。23年3月に入って変更案の縦覧と幅広い利害関係者を含めた意見募集が行なわれ、3978件の意見が寄せられた。全体の意見の内訳は賛成2872件、反対1088件、その他18件だった。計画地周辺住民に限った意見の内訳は賛成275件、反対658件で、反対が大幅に上回る結果だった。

 

学識経験者からも異議が

 3月30日に開かれた千代田区都市計画審議会では、100人以上の傍聴人が見守る中、2時間以上にわたって審議が行なわれたが、予定されていた計画案の採決は見送られ、今後も審議が継続することになった。 

 

 審議会では学識経験者の委員から、今回の計画案(高さ90メートルの超高層ビル)は、地区計画で定めた地区計画の目標「建築物の高さの最高限度、用途や形態・意匠を制限することで、中層・中高層の落ち着いた街並みと良好な住環境の維持・保全を図る」と整合性が取れていない、との指摘があった。

 

  計画案をめぐりさまざまな指摘があって、この日に採決をするかどうかを問うことになり、学識経験者を中心に「採決するべきではない」の意見が多数を占めた。次回の都市計画審議会は7月に予定されている。 「番町の町並みを守る会」では、共同代表の大橋智子さん(68歳)を中心に高さ制限を60メートルのままとした代案を作成・提案している。同じ共同代表の中原秀人さん(72歳)は「90メートルのオフィスビルができれば、守る会の試算では7000人、日テレ案でも4000人の就業人口が増える。必ず交通量が増え、番町地区の交通インフラがあふれてしまう。車が少ない静かな住環境を維持したい」と反対する理由を説明する。

 

  日テレの藤井潤・不動産事業部長は「地域コミュニティの活性化のお手伝いをしたいとの思いで、10年かけて地域の方々と協議を重ねてきた。住民の方の要望に応え、広場を作り、施設のバリアフリー化、歩道の確保などを盛り込んだプランを作った。地域貢献の要素を実現し、バランスのとれた再開発をするためには90メートル程度の高さはどうしても必要になる。さらに住民の方の理解に努めていきたい」と話している。

竪場勝司・ライター