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「そんなにあげられない」「消しゴムで修正」国立病院機構グループ病院で看護師の残業時間の“改ざん”が横行

 

 独立行政法人国立病院機構(NHO)に所属する全国の病院で働く看護師への残業代の未払いが常態化している問題で、新たに、上司による勤務記録の“改ざん”が頻繁に行われていることが「 週刊文春 」の取材でわかった。こうした行為は労働基準法に違反する疑いがある。小誌には3月7日の時点でNHOの看護師156人から告発が寄せられており、多数の看護師が証言した。 

 

【画像】「NOパワハラ」と書かれた東京医療センター内に掲示された厚労省の貼り紙

残業が認められたのに記録が改ざん

 

国立病院機構 本部 ©時事通信社

 

 NHO傘下の多くの病院では、看護師が残業する場合、上司に事前に申請する仕組みで、認められなければ残業代は支払われないが、認められた場合でも後で勝手に修正されることがあるという。

 

 

  京都医療センターの看護師が語る。 「タイムカードはなく、残業代はハンコで管理されており、事前に口頭で看護師長やリーダーに申請しなければいけません。2時間以上の超過勤務を申請すると、『そんなにあげられない』『他の人に回せないの?』などと言われ、すんなり申請が通ることはほとんどない。申請した超過勤務は、当直師長のハンコがないと認められない仕組みなのですが、申請して当直師長から『分かりました』と返事があっても、次の日に記録を確認したら貰えていないこともよくあります。明らかな改ざんです」 

 

 千葉医療センターの看護師もこう証言。 「うちも人手不足で、日勤のときは30分前、夜勤のときは1時間前に来て“前残業”しますが、この分の残業代の申請ができないのは“当然のルール”になっている。通常の残業も日々3~5時間あり、帰宅が深夜になることもあります。しかし、事前に申請できるのは2時間までで、残業申請の用紙は手書き。これは師長が書くか、帰宅前に自分たちで書くこともできますが、後で師長が消しゴムで『修正』を入れられるよう、鉛筆書きをしないといけません」

タイムカードが導入されても変わらない実態

 NHOでは、2016年に都城医療センターで当時20代の事務職の男性が過労自殺し、労災認定されたことなどを受け、ICカード式のタイムカードによる勤怠管理の試験的な導入を一部の病院で開始。今年4月からはすべての病院に導入される予定だ。

 

  だが、大阪南医療センターの看護師は実態をこう語る。 

 

「今年2月からタイムカードが導入されました。しかしなぜか、始業と終業のハンコ管理は変わっていないんです。ハンコで承認された出退勤時間と、タイムカードの打刻が30分以上ずれていたら、そのズレの理由を師長に報告しなればいけません。でも結局、そこで『残業しました』と言っても怒られるか、残業代を認められないかのどちらかです」

 

  他病院の看護師もこう続ける。 

 

「NHOは昨年から急ピッチでタイムカードの導入を進めていますが、端末で看護師が入力した残業は、上司の決裁が無ければそもそも勤務として登録されません。上司が入力内容を訂正することも可能です。手書きで勤務時間を管理していた時と何も変わらないんです」(東近江総合医療センター看護師)

 

 「うちも勤怠管理がタイムカードになりましたが、病棟師長によるチェックの段階で、本人への告知なしに勝手に残業がなかったことにされている病棟がありました。給与明細を確認して、明らかに残業代が少なかったことで気付いたそうです。無断カットも病棟によっては常態化しており、看護部長も把握しているはずですが、お咎めなしのままです」(横浜医療センター看護師)

 

  勤務時間を“改ざん”されるのは看護師だけではない。 「私の病院では事務職の一般職員のほとんどが過労死ラインの月80時間を超え、100~180時間の残業をしています。タイムカードの打刻で勤怠管理をしていますが、残業としてつけていたものをいつの間にか上司に『自己研鑽』として勝手に処理され、45~60時間におさまるよう修正されています。昼休憩の際は食事よりも少しでも睡眠を確保しようと仮眠をとっています」(NHO病院の事務職)

 

こうした管理体制の法的な問題点

 労働問題に詳しい旬報法律事務所の佐々木亮弁護士は、こう指摘する。 「実際に働いた時間を、上司が主観で書き換えるのは労働基準法違反。たとえ事前に残業申請がなくても、残業せざるを得ない業務があれば、『黙示の指示』として労働時間に含まれますので、勝手に書き換えていい理由にはなりません。また、労働時間については『客観的な記録』を残す必要がありますから、『あえて鉛筆で』は論外。タイムカードの場合も、上司が修正したら赤字になるなど、書き換えの記録が分かるようにする必要があるでしょう」

 

 看護師の超過勤務の申請を認めなかったり、勤務時間を短く修正したりする実態について、NHO本部に問い合わせるとこう回答した。 「超過勤務につきましては、事前に超過勤務命令を、または事後に確認をし、労働実態があるものにつきましてはきちんと手当を支給しています。NHOは140の病院が所属する法人であり、タイムカードを導入するなど、勤務時間の管理に一斉に今取り組んでいるところです。いくつかの看護師さんからお声があるということは真摯に受け止めながら、未来に向かって自信をもって教育研修を進めていきたいと思っております」

 

  3月8日(水)12時配信の「 週刊文春 電子版 」および3月9日(木)発売の「週刊文春」では、小誌に届いたNHOの看護師、病院幹部、本部職員らの多数の告発を紹介し、NHOが病院にコスト削減を迫る理由や、手術室で漏水するなど病院の老朽化の様子、さらにNHO本部の主要部署への厚労省役人の“天下り”の実態、NHOの実務トップの副理事長への直撃内容などについて詳報する。

「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年3月16日号

 

 

 
 
 

「週刊文春」編集部

2023/03/01

source : 週刊文春 2023年3月9日号

genre : ニュース社会企業働き方医療

 

「急変患者が出たら終わり」“看護師大「急変患者が出たら終わり」“看護師大国立病院機構 傘下の病院で危険な「一人夜勤」横行の疑い

 独立行政法人国立病院機構(NHO)に所属する「京都医療センター」において、コロナ病棟で看護師の「一人夜勤」が行われ、上司から病院の管理日誌に記録しないように指示されていたことが「週刊文春」の取材でわかった。同病院の現役看護師と元看護師が証言した。

 NHOを巡っては、傘下の多くの病院で労働基準法に違反する看護師の“ブラック労働”や大量退職が相次いでいることを「週刊文春」が報じると、2月27日の時点で看護師138人から告発が寄せられた。

 その中でも深刻なのは、患者の命に関わる“危機”が進行していることだ。

 

「急変患者が2人出たらもう終わり」危険な一人夜勤の実態

 京都医療センターの現役看護師が語る。

「コロナ病棟は本来、看護師2人で夜勤をするはずですが、一人をよその病棟に応援に出してしまい、私一人で病棟を看ていました。10人とか患者がいるのに、それを一人にまかせる。別の入院病棟でも、15人程度を一人夜勤で看ることがあると聞いています。一人夜勤なんて、急変患者が2人出たらもう終わりですから、急性期病院ではまずやらないし、看護師の人員配置基準にも反します。しかし、危険だと上司に訴えても変わりません。それどころか『病棟に一人残して応援に行くときは管理日誌に記録しないように』と隠蔽の指示を受けていました」

 同病院の元看護師もこう打ち明ける。

 

「コロナ病棟では他の病棟と比べて患者数が少ないので、他病棟に応援に行くことが常態化しています。コロナの防護服を着ていると、患者さんの異常を知らせるモニターの音も聞こえにくい。2人いれば片方が確認しに行けますが、一人だと無理。急変のモニターに反応できる人間がおらず、取り返しのつかない事態に及ぶ可能性がありました。患者が急変したときに、ナースステーションから全館につながるPHSで他の病棟の応援を呼ぶこともできますが、そのナースステーションにまず誰もいませんから、応援を呼ぶこともできません。危険だと上司に伝えても、『患者8人でしょ。そんなん一人で看れるやん。他の病棟何人看てるかわかってるん?』などと言われて聞き入れてもらえませんでした」

 

 

さらにこの看護師も上司に“隠蔽”を指示されたという。

「普段は他病棟に応援に行けば、看護師の管理日誌という書類に誰がいつ、何時間どこの病棟に応援に行ったと記載しますが、一人を残して応援に出る場合は、『書いたらあかんよ』と言われ、正式な書類には残さず、メモ用紙的な物に書きなさいと指示されていた。夜間に病棟から応援を出すのは、人員配置基準に反するので、隠蔽しているのではと噂になっていました。ただ、万が一医療事故が起こり、『なんで1人しかいなかったのか』と問題になったときに、果たして守ってもらえるのかと本当に恐怖を感じました」

京都医療センターに実態を問うと…

 この記録を残さない「一人夜勤」の実態について、京都医療センターに問うと、「コロナ病棟の患者が少数のとき、他の病棟に応援に行くことはあります」とした上でこう回答した。

 

「記録をすべきところは記録する。残さないことはないという認識です。一人になるというのはあってはならない。考えられないことです。ただ、調査はしていません」

 

 患者の命に関わることだけに、NHO本部の早急な調査と対応が求められる。

 

 3月1日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」および3月2日(木)発売の「週刊文春」では、小誌に届いた多数の看護師の告発を紹介し、看護師不足によって「患者の放置」や「事故のリスク」が増加するなど、NHOの病院で「看護崩壊」が起こりつつある実態を詳報する。