高速鉄道は、日本には適さない

 

直下型地震では震源は真下にあり、いちばん近い地震計が地上にあるために、肝心の震源近くで揺れが強いところでは速報が間に合わない。
 

 緊急地震速報がうまく働いたとしても、走っている新幹線はその時間では完全に停止することは出来まい。

工場でも大きな機械を短時間で止めることは不可能だ。手術中の病院でも、これだけの時間では手術を止めることはできないだろう。
 

 緊急地震速報は地震予知の代役にはなれないのである

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

地震予知の代役にはならない…緊急地震速報「連続取消」
  

   「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その479
 

 島村英紀(地球物理学者)

 緊急地震速報は、震度5弱以上を地震計で捉えると、まだ揺れが伝わっていない地域に警戒を呼びかける仕組みだ。
 警報が発表された地域にいると携帯電話から警報音が鳴り、安全な場所に身を寄せるなどの緊急の行動が求められる。

 勘違いしている人もいるが、
地震予知ではない

 恐れられている南海トラフ地震が起きたときに、横浜で10秒ほど、東京でも10数秒しかない。
 

 しかも遠くなれば揺れも小さくなるから、20秒以上になるところで知らせてくれても警報の意味がなくなってしまう。
 

 このため一刻を争って出さなければならない。

 この緊急地震速報の影響は大きい。

 

 2013年には速報の誤報で大阪駅では乗客の携帯電話から緊急地震速報メールの受信音が一斉に響いた。関西ではめったになかった速報だけにパニックになった人たちもいた。
 
鉄道だけではなかった。この速報が伝わったとたん、円がドルに対して一時3円も急上昇した。

 この1月18日、インドネシア付近で発生した地震を気象庁の緊急地震速報のシステムが沖縄県や台湾付近が震源の地震と誤り、緊急地震速報が2回、発表された。
 気象庁は、その後の分析でインドネシア付近で発生した地震が原因だと分かった。どちらも取り消す羽目になった。
 インドネシア付近の地震はマグニチュード(M)7.2と比較的大きく、震源に近い沖縄県に地震波が到達したので、システムが自動的に震源を誤って判断したのだろう。

 他方、2011年の東日本大震災では緊急地震速報が出されたのは東北地方に限られ、強い揺れに襲われた首都圏には発表されなかった。

 

 東日本大震災は、マグニチュード(M)9の地震だった。このような巨大地震が起きたときには、震源断層の破壊は数分間続く。この破壊がすべて終わる前の破壊の初期段階でMを算出すれば、実際よりも小さく出てしまうのだ。
 このため、当時気象庁は、未曾有の巨大地震のマグニチュードを過小評価してしまった。関東などには緊急地震速報が出されなかった理由の一つだと思われる。

 この欠陥のため気象庁では2018年から「PLUM法」を導入する改良を行った。PLUM法とは、震源や地震の規模の計算から強い揺れが来るエリアを予測する従来の手法とは違って、実際に観測した揺れから、その他のどのエリアに強い揺れが来るのかを予測するという手法だ
 しかし今年に沖縄で味噌をつけることなった。
 この仕組みには根本的な弱点がある。直下型地震には対応できない仕組みになっていることだ。

 直下型地震では震源は真下にあり、いちばん近い地震計が地上にあるために、肝心の震源近くで揺れが強いところでは速報が間に合わない。
 緊急地震速報がうまく働いたとしても、走っている新幹線はその時間では完全に停止することは出来まい。工場でも大きな機械を短時間で止めることは不可能だ。手術中の病院でも、これだけの時間では手術を止めることはできないだろう。
 緊急地震速報は地震予知の代役にはなれないのである。

   (島村英紀さんのHP 
http://shima3.fc2web.com/
 「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より 2月3日の記事)

 

 

「地震と新幹線」(オピニオン欄)
今後も余震続く可能性   新幹線に多くの懸念

 宮城、福島両県で3月16日深夜に最大震度6強を観測した地震の規模はマグニチュード(M)7.4だった。2011年に起きた東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の本震の震源域の中で起きた大きな余震とみていい。

 東北地方太平洋沖地震はM9・0だったから、余震は長く続く。米国では余震が200年以上も続いている例もある。ミズーリ州とケンタッキー州の境で1811~12年にかけての3カ月弱の間にM8を超える大地震が続けて3回起きた。その余震である。

 東北地方太平洋沖地震規模の大地震だと余震はやはり100年以上続くと思われている。これからも余震が続き、さらに大きなM8級の地震が起きても不思議ではない。東北地方太平洋沖地震のひずみはまだ解消されていないからだ。

 大きな懸念は今回、宮城県白石市で新幹線の脱線事故が起きたことだ。「やまびこ223号」が乗客75人を乗せたまま、白石蔵王駅の約2キロ手前で地震を検知、急ブレーキをかけたが17両中16両が脱線した。車輪の大半がレールから外れているのが確認された。

 04年の新潟県中越地震でも、走行中だった上越新幹線が脱線して傾いたことがある。この列車は長岡駅に停車するために減速中で、フルスピードではなかった。そこにいくつもの幸運が重なった。

 豪雪地帯にしかない排雪溝にはまり込んだまま滑走したこと、現場の線路がカーブしていなかったこと、高架であったためにレールのすぐ脇がコンクリートだったことなどだ。対向列車がなく正面衝突をしなかったのも幸いだった。

 重大なのは地震のわずか3分前に、この列車が長さ約8・6キロの魚沼トンネルをフルスピードで駆け抜けていたことだ。同トンネル内では地震でレールの土台が25センチも飛び上がり、1メートル四方以上の巨大なコンクリートが壁から多数落ちたほか、各所が崩壊していた。地震が列車の通過時に起きていたら、大事故になっていたことは間違いない。

 今回の脱線でも対向する上り線への横倒しなど甚大化は避けられた。だが、福島―白石蔵王間の高架橋で損傷が見つかった。同区間では、架線をつっている電柱の傾斜や圧壊も起きている。新幹線そのものに耐震補強が施されても、線路が地震に耐えられないとなると、問題は大きい。人命にかかわるような事故にならなかったのは、今回も単に運が良かっただけだといえる。

 日本は地震多発地帯である。今の学問では、いつ、どこで地震が起きるかを知ることはできない。新潟県中越地震や東北地方太平洋沖地震も、前兆を捉えられなかった。

 着工したリニア中央新幹線は全区間の86%がトンネルだ。そして危険はトンネルや橋脚だけではない。阪神淡路大震災では地震に耐えるはずだった新幹線の鉄道橋がいくつか落ちた。もし発生が早朝ではなく運行時間帯だったら大事故になったに違いない。

 高速鉄道は、もしかしたら日本には適さないものかもしれないのだ。

× ×

しまむら・ひでき
1941年東京都生まれ。武蔵野学院大学特任教授。69年東京大から理学博士号。専門は地震学。北海道大教授、国立極地研究所長などを歴任。2005年4月から現職。「多発する人造地震―人間が引き起こす地震」など著書多数。