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北海道新聞
岸田政権、乏しい人権意識 荒井秘書官更迭 現実社会との乖離鮮明に
視察先の福井県坂井市で荒井勝喜秘書官の更迭を表明し、厳しい表情の岸田首相=4日午後
岸田文雄首相は4日、同性婚やLGBTなど性的少数者への差別発言をした荒井勝喜(まさよし)首相秘書官の早期更迭に踏み切った。政権への打撃を最小限に抑えたい考えだが、スピーチライターとして首相の対外発信や広報戦略を担う側近による発言は、政権の人権意識の乏しさを改めて露呈した。同性カップルへの理解が進みつつある現実社会との乖離(かいり)がより鮮明になり、首相自身の価値観が問われる事態となった。
4日朝、北陸視察の出発前に記者団と向き合った首相の表情は硬かった。荒井氏の発言を「言語道断だ」と強い言葉で批判した。
経済産業省から出向している荒井氏は、原発の運転期間延長や原発の建て替えなどの政策転換の制度設計に携わっていた。「優秀で首相にも臆せず意見して信頼も厚かった」と政府関係者。それでも首相が発言から半日たたずに更迭を決断したのは「発言内容がひどすぎて、かばいようがなかった」(周辺)からだ。通常国会は新年度予算案審議の真っ最中。早急に事態を収拾し、週明け以降の審議に臨みたい思惑があった。
「政権の方針と全く相いれない」「内閣の考えとそぐわない」。首相は4日、荒井氏の発言と政権を切り離そうと何度も繰り返した。だが、そもそも荒井氏の発言は、1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化に関し「家族観や価値観、社会が変わってしまう」と述べた首相を擁護するため、記者団にオフレコで説明する最中に飛び出したものだ。
首相は昨年8月の内閣改造で月刊誌に「LGBTには生産性がない」などと寄稿した杉田水脈(みお)氏を総務政務官に起用。その後アイヌ民族などを侮蔑する投稿も明らかになったが、昨年末の更迭まで約1カ月間かばい続けた。
先月の施政方針演説では、社会的弱者を含め一人一人が尊重し合う「包摂的な社会」や「多様性が尊重される社会」を掲げたものの、LGBTや同性婚の言及は一切なかった。
首相が4日に福井県で記者団の取材を受けた際には「包摂的」を「包括的」と言い間違える場面もあった。
ある閣僚は「支持率が底を打ったと思ったが、ますます厳しくなる」と語った。国対筋は「同性婚などのジェンダー(社会的性差)政策が今国会の大きな論点に浮上するかもしれない」と漏らした。さらに5月には先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を控え、日本の立場が国際的に問われることになる。
政権の認識は現実の社会とも大きくずれている。北海道新聞社が昨年4月に行った全道世論調査では、同性婚を「認めるべきだ」とした人が前年度から5ポイント増え、75%を占めた。同性婚を認めないのは憲法違反だとして、道内を含む同性カップルが国に損害賠償を求めた集団訴訟では、2021年3月に札幌地裁が法の下の平等を定めた憲法14条に反するとして初の違憲判断を下した。昨年11月には東京地裁が同性カップルが家族になる法制度がない状況を違憲状態と指摘した。