市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)

第18条

 

1 すべての者は、思想、良心及び宗教の自由についての権利を有する。この権利には、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由並びに、単独で又は他の者と共同して及び公に又は私的に、礼拝、儀式、行事及び教導によってその宗教又は信念を表明する自由を含む。

 

2 何人も、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制を受けない。

 

3 宗教又は信念を表明する自由については、法律で定める制限であって公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課することができる。

 

4 この規約の締約国は父母及び場合により法定保護者が、自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有することを尊重することを約束する。

 

第20条

 

1 戦争のためのいかなる宣伝も、法律で禁止する。

 

2 差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。

 

 

 

 

 

 

自由権規約委員会

 

一般的意見3 (13) (2条・締約国の義務) 1981.7.28採択

1 委員会は、 規約第2条が同条で示す枠組の範囲内でその領域内における実施方法の選択につき、関係締約国に一般的に委ねていること、 に留意する。委員会の特に認めることは、その実施が憲法制定又は法令制定  これ自身はしばしばそれのみでは十分でない  にのみ依存するものでない、ということである。委員会は、 規約上の義務が人権尊重に限定されるものでなく、締約国がその管轄の下にあるすべての個人に対し、 人権享受を確保することをも約束していることに締約国の注意を喚起する必要があると考える。後者の側面は、個人が自己の権利を享受することを可能ならしめる締約国の具体的な活動を要求する。このことは、 多数の条 (例えば、 後出の一般的意見4 (13)で扱われる第3条) において明白であるが、 原則としてこの約束は、 規約の定めるすべての権利に関連するのである。

 

2 この関連で、 個人が規約 (及び、 場合により、 選択議定書) 上の自己の権利が何であるかを知ること、及び、 すべての行政機関と司法機関が規約により締約国の引き受けた義務を知ることは、極めて重要である。このためには、 規約が締約国のすべての公用語で公表されるべきであり、関係機関に対しその研修の一部としてその内容を習熟させるための措置がとられるべきである。締約国と委員会の協力についても公表されることが望ましい。

 

 

一般的意見11 (19) (20条・戦争宣伝、差別唱尊の禁止) 1983.7.29採択

1 締約国により提出された報告のすべてが、 規約第20条の実施に関する十分な情報を提供してきたわけではない。本条の性質を考えると、 締約国は、そこで言及された活動を禁止する必要な立法措置をとることを義務づけられる。しかし、 報告によれば、 いくつかの国においては、 そのような活動が法律により禁止されてもいないし、その禁止を狙いとした又はそれを禁止させる、適切な努力もなされていないのである。更に、 多くの報告は、 関連する国内法及び国内慣行に関する十分な情報の提出をしていなかった。

 

2 規約第20条は、 戦争のためのいかなる宣伝も、 そして、 差別、 敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪のいかなる唱道も、法律で禁止する、としている。委員会の意見では、ここで要求されている禁止は、19条の表現の自由の権利と完全に両立するのであり、表現の自由の権利の行使には特別の義務と責任を伴うのである。1項の禁止は、国際連合憲章に反する侵略行為又は平和の破壊の威嚇又はこれをもたらすあらゆる形態の宣伝に及ぶのに対し、2項は、差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪のあらゆる唱導にも向けられたものであるが、これらの宣伝又は唱導の目的が関係国にとって対内的なものであるか対外的なものであるかを問わない。20条1項の規定は、憲章に従って、固有の自衛権又は人民の自決及び独立の権利を唱導することを禁止するものではない20条が十分実効性を有するようになるためには、そこで規定された宣伝及び唱導が公序に反することを明確にし、かつ、侵害の場合に適切な制裁を定める法律が存在しなくてはならない。したがって、委員会は、まだこれを行っていない締約国は、20条の義務を履行するために必要な措置を採るとともに、自らそのような宣伝又は唱導を行わないようにすべきであると考える。

 

 

一般的意見22 (48) (18条・思想・良心・宗教の自由) 1993.7.20採択

1 第18条第1項で定められた、 思想、 良心及び宗教の自由 (信念を有する自由を含む) についての権利は、 広大で深遠な権利である。 この権利は、単独で表現されると他の者と共同で表現されるとを問わず、あらゆる事柄についての思想、 個人的確信及び宗教又は信念への関与の自由を包含する。委員会は、思想の自由及び良心の自由が宗教及び信念の自由と同等に保護されるという事実に締約国の注意を喚起する。かかる自由の基本的性格は、 本規定が規約第4条第2項に定められる公の緊急事態(public emergency) の場合でさえ停止されないという事実にも反映されている。

 

2 第18条は、 有神論的、 非有神論的及び無神論的信念、 さらには宗教又は信念を告白しない権利をも保護している。 信念及び宗教という語は広く解釈されなければならない。第18条の適用は、伝統的な宗教又は伝統的な宗教のそれと類似する制度的に確立された性格又は慣行を有する宗教及び信念に限定されない。従って委員会は、 あらゆる理由に基づく宗教又は信念に対する差別の傾向を懸念している。あらゆる理由の中には、それらが新興宗教であるという事実又は支配的な宗教集団の側からの敵意の対象となりうる宗教的少数者であるという場合も含まれる。

 

3 第18条は、 思想、 良心、 宗教又は信念の自由を、 宗教又は信念を表明する自由とは区別している。 本条は、 思想及び良心の自由、 又は自己の選択による宗教又は信念を受け入れ又は有する自由に対していかなる制限も許容しない。かかる自由は、第19条第1項で定められる誰もが干渉されることなく意見を持つ権利と同様に、無条件で保護される。 第18条第2項及び第17条に従い、 いかなる者も自己の思想又はいかなる宗教もしくは信念を有しているかを明かにすることを強制されない。

 

4 宗教又は信念を表明する自由は 「単独で又は他の者と共同して及び公に又は私的に」行使することが できる。 礼拝、 儀式、 行事及び教導において宗教又は信念を表明する自由は、広範な行動を包含している。礼拝の概念は、 信念を直接的に表現する儀式的及び祭儀的行為ばかりでなく、かかる行為に必要な多様な行為まで包含され、 礼拝のための場所の建設、儀式的式文及び器具の使用、象徴の展示、 及び祭日及び安息日の遵守等も含まれる。 宗教又は信念の儀式及び行事には、祭儀的行為だけではなく、 食事に関する規制、特有の衣服又は頭部覆いの着用、人生のある段階における儀式への参加及びある集団によって習慣的に用いられる特殊な言語の使用も含む。さらに、 宗教及び信念の行事及び教導には、とりわけ宗教的指導者、 司祭及び教師を選ぶ自由、神学校又は宗教的な学校を設立する自由及び宗教的教本又は刊行物を作成及び配布する自由など、宗教集団の基本的事柄にかかわる活動に必要な行為が含まれる。

 

5 委員会は、 宗教又は信念を 「受け入れ又は有する」 自由は必然的に宗教又は信念を選択する自由を伴うと考える。かかる選択の自由には、 現在の宗教又は信念を保持する権利に加えて、現在の宗教又は信仰を別のものに転向する権利又は無神論的見解を受け入れる権利も含まれる。第18条第2項は宗教又は信念を受け入れ又は有する権利を侵害する強制を禁じている。かかる強制には、信者又は無信仰者にその宗教的信仰及び宗派にとどまること、自己の宗教又は信念を撤回すること又は改宗することを強要する暴力の行使又は刑事罰の使用もしくはそれによる脅迫が含まれる。教育又は医学的治療を受ける権利、雇用を得る権利又は第25条及び規約の他の規定で保障されている権利の行使を制限するなど、同様の意図又は効果を持つ政策又は慣行も同様に第18条第2項と矛盾する。非宗教的な性格のあらゆる信念を有する者にも同じ保護が与えられる。

 

6 委員会の見解では、 第18条第4項は、 公立学校における一般の宗教史及び倫理等の科目の指導は中立的かつ客観的な方法で行われるのであれば、これを認めている。父母及び法定保護者が第18条第4項に定められるとおり、 自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由は、第18条第1項に定められる宗教又は信念を教導する自由の保障に関連している。委員会は、特定の宗教又は信念の指導を含む公教育は、 父母及び保護者の意向と調和するかかる科目の無差別的免除又は代替科目のための措置が設けられない限り、第18条第4項と矛盾すると考える。

 

 第20条に従い、 いかなる宗教又は信念の表明も、 戦争のための宣伝又は差別、敵意又は暴力の扇動 となる国民的、 人種的又は宗教的憎悪の唱道となってはならない。委員会がその一般的意見11(19) で述べているとおり、 締約国はかかる行為を禁じる法律を制定する義務を負う

 

8 第18条第3項は、 法律で定める制限による場合であって、 公共の安全、 秩序、健康もしくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要である場合に限って、宗教又は信念を表明する自由の制限を認めている。宗教又は信念を受け入れ又は有することを強制されることからの自由、ならびに父母及び保護者が宗教的及び道徳的教育を確保する自由は制限されない。制限を許容する条項の範囲を解釈するについては、締約国は、 第2条、 第3条及び第26条の、平等及びいかなる理由によっても差別されない権利などの規約によって保障されている権利を保護する必要性から考えを進めなければならない。課される制限は法律によって定められていなければならず、第18条において保障される権利を侵害する方法で適用されてはならない。委員会は、 第18条第3項は厳密に解釈されるべきであると考える:制約は、たとえそれが、国の安全等、 規約で保護されている他の権利の制限の根拠として認められるものであっても、本条項に定められていないものを根拠として認められてはならない。制限は規定された目的のためにのみ適用され、かかる制限の根拠となる特定の必要性事由に直接関連しまたこれと比例していなくてはならない。制約は差別的な目的で課されてはならず、また差別的な方法で適用されてはならない。委員会は、 道徳の概念が多くの社会的、 哲学的及び宗教的伝統に由来すると考える。従って、 道徳を保護するための宗教又は信念を表明する自由に対する制限は、単一の伝統のみに由来しない原則に基づかなければならない。被拘禁者など、 すでに特定の適法な拘束を受けている者は、 かかる拘束に特有の性格と両立する最大限の範囲において自己の宗教又は信念を表明する権利を継続して享有することができる。締約国の報告には、第18条第3項に基づく制限の全ての範囲及び効果について法律がどうなかっているか、また具体的な状況における制限の適用がどうなっているかの情報が含まれるべきである。

 

9 ある宗教が国教として認められているという事実、 公式に又は伝統的に確立されているという事実、又はその信者が人口の過半数を包含するという事実があるからと言って、第18条及び第27条を含む規約に基づくいかなる権利の享有も侵害してはならず、また他の宗教の信者又は無信仰者に対するいかなる差別も引起こしてはならない。特に、後者を差別する特定の措置、 たとえば国家公務員としての資格を支配的宗教の信者に制限し、経済的な特権をかかる信者に与え又は他の信仰における行為に特別な制限を課す措置などは、第26条に定める宗教又は信念に基づく差別の禁止及び平等の保護の保障と一致しない。規約第20条第2項が意図している措置は、第18条及び第27条で保障される権利を行使する宗教的少数者及びその他の宗教集団の権利の侵害に対し、または、 かかる集団に向けられる暴力行為又は迫害行為に対する、重要な保護措置を含むものである。委員会は、 すべての宗教又は信念による行為をその侵害から保護するため及びその信者達を差別から保護するために、当該締約国が採用した措置について、委員会に報告することが望ましいと考える。同様に、 第27条に基づく宗教的少数者の権利の尊重についての情報は、 締約国が思想、良心、 宗教及び信念の自由をどの程度実施しているかを委員会が評価するために必要である。当該締約国の報告の中には、その法律及び法解釈によって冒とく的なものとして処罰すべきとされる行為に関する情報も含めるべきである。

 

10 ある信念の体系が憲法、 制定法、 支配政党の公式声明等又は実際の慣行において公的なイデオロギーとして取扱われている場合、その結果として第18条に基づく自由又は規約に基づいて認められるその他の権利のいかなる侵害も招来してはならず、また公的イデオロギーを受入れない者又はこれに反対する者に対するいかなる差別も引起こしてはならない。

 

11 多くの個人が兵役につくことを拒絶 (良心的兵役拒否) する権利を、 第18条に定める自由から派生するという根拠によって、主張してきた。かかる主張に対し、 より多くの締約国がその法律において、 兵役につくことを禁じている宗教又はその他の信念を真に有している市民を強制的な兵役義務から免除し、国に対する代替役務につくことを認めるようになっている。規約は良心的兵役拒否の権利に明示的には言及していないが、委員会は、 致命的な武力を使用する義務が良心の自由及び宗教又は信念を表明する権利と深刻に対立する限りにおいて、かかる権利が第18条の規定から派生しうると考える。かかる権利が法律又は慣例によって認められた場合、良心的兵役拒否者の間で特定の信念の性質に基づく区別を設けてはならず、 また良心的兵役拒否者が兵役につかなかったという理由で差別を受けてはならない。委員会は締約国に、第18条に定める権利に基づき兵役義務が免除されうる条件、及び国に対する代替役務の性質及び期間について報告することを求めている。