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デイリー新潮
五輪談合「200億円業務委託一覧表」を入手 バイトに日当「4万円」計上で予算を食い物に 仕切り役の組織委元幹部と受注業者の「ただならぬ関係」
「電通ライブ」本社に家宅捜索に入る東京地検特捜部の係員たち(11月29日午前)
東京五輪・パラリンピックのテスト大会業務をめぐる入札談合事件の捜査が進むなか、「デイリー新潮」は会場運営業務で広告代理店大手「電通」など9社が受注した業務委託費の一覧表を大会組織委員会関係者から入手した。一覧表に記されていたのは、社会常識に照らしても高すぎる人件費である。さらに内部証言から、談合を仕切ったとされる組織委の元次長と特定のイベント会社との“怪しい関係”が浮かび上がってきた。 【写真】
見せかけだった競争入札
一覧表のタイトルには〈43会場実施運営委託〉とある。新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪の開催が1年延期になる直前の2020年春頃に、組織委の「大会運営局」が作成した内部資料だという。
資料の内容に立ち入る前に、目下、東京地検特捜部と公正取引委員会が捜査を進めている五輪談合事件について整理しておきたい。
談合があったとされるのは、テスト大会の計画立案業務の入札である。2018年、組織委は競技会場ごとに26件の競争入札を実施。広告代理店の電通や博報堂、ADK、イベント制作会社「セレスポ」など9社と共同事業体の1団体が落札したが、競争入札は見せかけで、ほとんどが「1社応札」だった。契約額は1件あたり約400万円から約6000万円で、計約5億4000万円。だが、落札企業が最終的に受注したのはもっと大きな金額である。 「テスト大会の計画立案業務を落札した業者は、テスト大会ばかりでなく本大会の運営も担える『特約』があったとされています。そのまま落札業社が本大会の運営も随意契約で受注し、総額は約200億円に及びます」(担当記者)
予定価格より「25%」増しで発注
特捜部と公取委は29日までに、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で受注企業9社のうち8社の家宅捜索に入っており、捜査は本格化している。編集部が入手した内部資料は、テスト大会だけでなく本大会も含めた43会場の運営に関わる業務で、組織委が9社に発注した額などをまとめられた一覧表だ。談合によって受注企業がいかに不当な利益を得ていたかを物語る資料である。
リストに記されていた43会場の発注金額の総額は約187億円。予定価格の総額は約149億円で、予定価格を発注金額で割った数値である「予定価格比」の平均値は125・8% だった。資料を提供した組織委関係者が解説する。
「会場の運営費とはすなわち、派遣されたスタッフの人件費です。
予定価格もお手盛りなんですが、談合があったため発注金額も受注企業の“言い値”で跳ね上がっているケースが多い。
この資料が作成されたのは延期前なので、実際にはこの金額に加え、コロナ対策費などが2~3割程度、水増しされています」
各社バラバラの日当
最も高額だったのが、開会式などが行われたオリンピックスタジアムである。委託事業者はセレスポで、予定価格は約26億3838万円、発注金額は約34億5678万円、予定価格比は131%だった。2位は水泳競技が行われた東京アクアティクスセンターで、委託事業社はイベント制作会社「セイムトゥー」。予定価格は約8億2872万円、発注金額は約8億3376万円、予定価格比は100・6%。3位は卓球などが行われた東京体育館で、委託業者はセレスポ。予定価格は約7億1667万円、発注金額は約9億8822万円、予定価格比は137・9%だった。 このリストで注目すべきは、右側に記された大会実施期間中に各社から派遣されたスタッフの「日当の単価」である。「運営統括」「チーフ」「エリアディレクター」「ディレクター」「サブディレクター」「アシスタントディレクター」などと項目が細かく分けられ、組織委が算定した「基準値」の金額とともに各会場の単価が記されている。 この単価が委託事業者によってバラバラなばかりでなく、べらぼうに高いのだ。最も日当が高かったのは会場の現場責任者である「運営統括」で、基準値は14万円。だが、ADKと東急エージェンシーが委託した会場では20万円となっており、基準値を6万円も上回っていた。
ただの「バイト」に4万2000円
最も安い日当の単価は「サービススタッフ」。これは学生などが請け負うアルバイトだという。だが、バイトの割には「基準値」からして2万5000円とすでに高い。これも各社バラバラで、最も高額だったADKの会場では4万2000円。なぜこんなに数字にばらつきが出るのか。 「各社の言い値をそのまま反映させたからです。派遣スタッフを何人配置するかも業者からの申請に基づいています。基準値に基づいた予定価格を弾き出したのも電通などからの出向者で、そもそも発注者側に予算を抑えようという姿勢がないのです。適正な入札が行われていれば、こんなに数字が膨らまなかったはず。競争が働かなかった結果、五輪予算が談合業者によって食い物にされていたのです」(前出の組織委関係者) この組織委関係者によれば、組織委側で談合を取り仕切っていたのは、日本陸上競技連盟から出向していた大会運営局次長(当時)のM氏と、電通から出向していた同局テストイベント担当部長(同)のN氏。さらに電通本体に所属する担当者が加わり、3者で主導したという。
担当次長が肩入れした企業
陸連出身のM氏は、入札でノウハウがない会社が受注することやマイナースポーツの会場に入札する企業があるかなどの不安を抱えていたと各紙で伝えられているが、組織委関係者は「明らかに特定の受注先に肩入れしていた」と証言する。 「セレスポです。セレスポは陸上競技の運営に強い業者で、M氏は陸連時代から同社と昵懇の仲だった。実際、組織委でもM氏の周囲はセレスポからの出向者で固められていました。組織委から経費が出なかった札幌出張中のホテル費用なども、セレスポが出していたと聞いています」 リストによれば、セレスポは最も高額な予算が組まれたオリンピックスタジアムを含め、43会場中8会場を受注している。電通の11会場に次いで多く、受注総額は50億円以上で電通を上回っている。 「電通の本業は広告業務なので、会場運営は子会社などの下請けに丸投げするだけ。サッカーなど得意とする競技の会場は受注しましたが、他はノウハウもなく、引き受けるメリットもない。だから調整役に回ったのです。談合に加わった残りの業者は、おこぼれに預かっただけでもありがたいという感じでした」(同)
都からの出向者も「知っていたはず」
しかも、M氏には今年3月に組織委を退職後、「セレスポに雇われた」という話が持ち上がっているというのだ。 「周辺からそう聞いていますが、どういう肩書きかまでは知りません。セレスポも、あからさまに席を置いてしまったらまずいと考え、表面上は見えない形にしたのではないか」(同)
セレスポが出している財務報告書を読むと、7~10億円だったスポーツ事業の売り上げが20年度に32億円、22年度には121億円と突出して急増している。20年度はテストイベント、22年度は本大会の売り上げが計上されたからだと思われるが、M氏の貢献に応えて再就職先として迎えたということなのか。
セレスポに事実確認したところ、「弊社は捜査協力中につき、捜査に関するご質問に回答できる立場ではございません。コメントを控えさせていただきます」との回答だった。
このような馴れ合いのなかで、発注者側と受注者側が一体の関係のもとで談合が行われていたというのである。だが、組織委には東京都や国からの出向者もいたはずだ。彼らはいったい何をしていたのか。
「大会運営局の局長や部長には都からの出向者もいましたが、彼らは会場運営についてズブの素人で、M氏らに丸投げの状態でした。ただ、彼らは間違いなく談合が行われていたことを知っていたはずです」
M氏の父親が語ったこと
川崎市にあるM氏の自宅を訪ねたが、五輪汚職を主導したとして4度逮捕・起訴された組織委元理事の高橋治之被告が住んでいた豪邸と比べると庶民的な二世帯住宅であった。この家にも特捜部は家宅捜索に入っている。
インターフォンを鳴らすと、高齢の父親が出てきて「1週間くらい前から急に記者が押しかけてきたため、いまは自宅に帰っていません」と答えた。父親は苦渋の表情を浮かべ、こう語った。 「彼は中学から大学まで陸上競技をやってきて、1回就職した後、陸連に引っ張られて、スポーツを広めたいという一心で頑張ってきた。組織委に入ってからも大会を成功させようと、えらい苦労してやってきたと見聞きしています。陸連から行っていたんですから、給料なんてそんなにもらっていません。組織委の責任者だからといって、個人が悪いように書かれているのは信じられない思いです。(高橋被告とは違う? )関係ない関係ない、そんなんじゃないです」 一覧表を見て浮かんでくるのは、東京オリ・パラを無償で支えた延べ7万6186人のボランティアの顔である。そのウラで、談合した業社が不当に人件費を計上して利益を得ていたならば、許しがたい話だ。捜査当局による実態解明を待ちたい。
デイリー新潮編集部