ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

PRESIDENTOnline

値上げ地獄でも「増税」を押し付ける…日本人をますます貧乏にする岸田政権の危うさ

 

閣議に臨む岸田文雄首相=2022年11月1日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

 

日本の経済はこれからどうなるのか。経済アナリストの森永康平さんは「今後岸田政権は金融と財政の両方を引き締める可能性がある。家計が苦しむ中、減税どころか増税に走れば、日本は亡国への道を歩みかねない」という――。

 

  【図表】消費者物価指数(前年同月比)の推移 

 

■岸田政権は「苦境にあえぐ国民」を助ける気があるのか 

 

 スマホを眺めていると国内ニュースでは「値上げ」と「円安」の話題ばかりだ。  海外ニュースでは中国の習近平政権が異例の3期目に突入し、いよいよ台湾有事の危機がより鮮明になったという。 

 

 ロシアによるウクライナ侵攻は泥沼化し、年末に向けて新型コロナウイルスの第8波に備えよというニュースも流れている。

 

  これらのニュースに目を通すだけでも、日本国民がいま苦境にあえぎ、かつさまざまな外部の脅威にさらされていると容易に想像できる。だが、果たして日本政府は支援策を考えているのだろうか。

 

  不況下で物価だけが上昇するのが「スタグフレーション」だ。筆者は1年以上前から、そのスタグフレーションの状況下で、日本政府が金融と財政の両方を引き締める可能性があると警鐘を鳴らしてきたが、どうやらこの予測が当たってしまいそうである。

 

 ■「デフレに慣れた家計」を物価高が襲う  エネルギー価格の高騰や円安を背景に、国内でも物価上昇が続いている。 

 

 日本銀行が発表した9月の消費者物価指数の刈込平均値は前年同月比+2.0%となり、データをさかのぼれる2001年以降で初めて2%台に乗った。

 

 刈込平均値とは、ウエートを加味した品目ごとの上昇率分布で上下10%を機械的に除いた平均値で、極端に価格が変動した品目や一時的に大きく変動した品目を除いている。

 

  そのため、物価動向の基調をみるのに適した経済指標といえる。  また、総務省が発表した9月の消費者物価指数において、生活必需品にあたる基礎的支出項目の伸び率をみると、前年同月比+4.5%と高い伸び率を維持している。

 

  欧米では消費者物価指数が前年同月比で10%近く上昇しているが、それに比べれば、依然として日本のインフレ率は低く抑えられている。

 

  しかし、長きにわたるデフレに慣れてしまった日本の家計にとって、足元の物価上昇は数字以上に大きな打撃となっているだろう。

 

 ■賃金が上がらず、国民は節約に走る

 

  極論だが、物価が上昇しても、賃金がそれ以上に伸びていれば、家計の観点ではさほど問題にならない。 

 

 だが、賃金が伸びなければ、国民はさらに節約して消費を抑えるしかない。そうなれば企業はコストカットをしながらも薄利多売に走り、日本は再びデフレスパイラルに突入しかねない。 

 

 厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によれば、8月の季節調整済賃金指数は前年同月比-1.8%と、5カ月連続の下落となった。 

 残念ながら、賃金上昇率は物価上昇率に追い付いていないのが現状だ。

 

  国民は節約に走り、消費が落ち込んでいるのだろうか。

 

  総務省が発表した8月の家計調査をみてみると、季節調整済実質消費支出は前年同月比+5.1%と、高い伸びを示している。

 

 

■「日本の消費は強い」はウソ

 

  この数字をもって、「日本の消費は強い」とする報道もある。

  だが、それは間違いである。これはいわゆる「統計マジック」である。

  昨年8月には広い地域で「まん延防止等重点措置」が発出され、消費が抑制されていた。

 

  前述の伸び率は前年同月比なので、「まん防」だった昨年8月と、何も発出されていない今年8月との比較では、数字が実態以上に開くのは当たりまえだ。

  現に、同指標を前月(今年7月)と比較すると-1.7%であり、消費支出は2カ月連続で「マイナス」となっている。 

 「消費が強い」とする一部報道がいかにミスリーディングかがわかるだろう。 

 

■「コロナ前の水準を回復」はミスリード

 

  このような「ミスリード報道」が多発している。

 

  2022年4~6月期の実質GDPが「コロナ前の水準を回復した」という報道を目にした方も多いだろうが、これもミスリードだ。  コロナ前を「2019年10~12月期」と定義すれば、この報道は間違いではない。 

 

 しかし、2019年10~12月期は、2019年10月の消費増税でGDPが大きく落ち込んだタイミングである。

  消費増税前の2019年7~9月期と比較すると、日本の実質GDPはまだ大きく落ち込んでおり、景気が正常化したとはとても言えない。

 

  このようなミスリードを信じて、「コロナはもう終わった」と支援の手を緩めれば、多くの企業が倒産に追い込まれ、多くの人々が職を失うだろう。

 

■世論・支持率には敏感な「ワイドショー政権」

 

  政府はどのような支援を考えているのか。

  現在、電気料金の負担を緩和する支援制度などを盛り込んだ「総合経済対策」がようやく固まり、事業規模で72兆円、財政支出ベースで39兆円と金額だけをみれば相応の金額が提示された。GDPを4.6%押し上げる効果が期待されるという。 

 しかし、昨年も55兆7000億円の補正予算を組み、GDPを5.6%程度押し上げるとしたが、実際はそうなっていないことを見れば明らかなように、今回ももくろみ通りにはいかないだろう。

  消費者物価指数を1.2%以上引き下げる効果があると試算される物価高騰対策には期待が高まるが、予算の中に組み込まれている「新しい資本主義」を実現するために「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「GX(グリーントランスフォーメーション)」「DX」の4分野における大胆な投資などは、実際に何にいくら投資されるかも分かっておらず、またこれらは直接家計を支援するものでもない。

 

  しかも、最もシンプルかつ、効果も大きいと考えられる「消費減税」は、検討もされていないのが現状である。  そろそろ国民は怒りをあらわにすべき時に来ているとも思うが、国民はまだ政府の手のひらの上で転がされ、本当の問題から目をそらされている。

  なぜか。冒頭で述べたように、連日「値上げ」のニュースが報道されているが、その原因は「円安」とされている。そして、その円安は日本銀行の金融緩和のせいだとされている。

 

  このような論理構成で報道が繰り返されていれば、「日本銀行の金融政策が元凶」だと誤解する国民がいても不思議ではない。

 

  実際、毎日新聞による10月の世論調査では、「日銀の金融緩和政策について、どう思いますか」との問いに、「見直すべきだ」という回答が55%と過半数を超えている。 

 

 そもそも、世論を意識して金融政策を変更すること自体あってはならないと考えるが、岸田政権という世論・支持率に敏感な「ワイドショー政権」においては、そうした「あってはならないこと」が平然と断行される可能性が高い。

 

  幸い、黒田総裁は金融緩和の維持を粘り強く主張しているが、その任期は来年4月8日まで。後任人事次第では、スタグフレーション下にもかかわらず、金融緩和を解除し利上げするというシナリオも十分考えられる。