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梨泰院の雑踏事故から1週間、ソウルで数万人が追悼・抗議集会 犠牲者への正義求め
梨泰院の雑踏事故から1週間、ソウルで数万人が追悼・抗議集会 犠牲者への正義求め
テッサ・ウォン、ユミ・キム、BBCニュース(ソウル)
韓国・ソウルで5日夜、険しい表情をした大勢の市民が、炎の灯った白いろうそくと黒いプラカードを手に集まった。人気繁華街の梨泰院(イテウォン)で起きた大惨事の若い犠牲者を追悼し、政府を痛烈に非難するために。 過去10年間で最大規模の悲劇に国民の怒りが高まっている。こうした中、首都ソウルの各地で5日、追悼集会や抗議活動が行われ、数千人が集まった。
ソウル・梨泰院では10月29日夜、ハロウィーンを前に狭い路地に密集した大勢が転倒し、156人が死亡、196人が負傷する事故が起きた。犠牲者のほとんどは10代から20代の若者だった。 事故から1週間後、当局は警察署や消防署を家宅捜索するなど、調査を開始した。
韓国警察トップが群衆の管理が「不適切」だったと認めて謝罪したほか、尹錫烈(ユン・ソンニョル)大統領も今後の雑踏警備を改善していくと誓っている。
それでも、正義を渇望する国民の怒りを和らげるのには不十分といえる。K-POPに代表される若々しいイメージで国際的に知られるこの国で、当局は皮肉にも若者を守ることができなかった。そのことを大勢が深く恥じている。
■尹政権の「退陣こそ追悼」と抗議
ソウルでは5日、少なくとも7つの追悼・抗議集会が開かれた。
その中で最も大規模だったのは、進歩派団体「キャンドルライト・アクション」が主催した集会だった。
同団体は以前から、尹大統領に対する政治的抗議行動を定期的に行っている。
ソウル市庁舎の近くで行われたこのデモでは主要道路の2車線が封鎖され、数万人が集まった。
参加者の多くは尹政権の「退陣こそが追悼だ」という尹氏に向けた辛辣なメッセージが書かれた黒いプラカードを手にしていた。
会場では犠牲者を悼む歌や僧侶の祈りが続き、登壇者が交代で政府を非難した。
「政府に責任があるのは明らかなのに、無関係な組織から犯人を見つけ出そうとしている。(中略)政府が基本的な役割を果たさなかったためにこの事故は起きた」と、登壇者の1人は述べた。 「尹錫烈政権は退陣せよ!尹錫烈政権は退陣せよ!」と群衆は声を上げた。
■悲しみから怒りに 梨泰院では夜の集会に先立ち、様々な青年政治団体から集まった200人が事故現場近くで抗議した。
抗議者たちは黒い服とマスクを身に着け、「(10月29日午後)6時34分、(犠牲者のために)国はあそこにいなかった」と書かれたサインを掲げた。
午後6時34分とは、警察に最初の緊急通報が入った時刻。
あの夜、転倒事故が起きるまでに計11件の通報が寄せられていた。
路地の方向へ1分間の黙祷を捧げた後、参加者たちは賑やかな梨泰院の大通りを黙々と行進した。
参加者は韓国で悲しみの花とされる白い菊を手に、「私たちは被害者を救えたはずだ。政府はその責任を認めるべきだ」と書かれたサインを掲げて訴えた。
「最初は悲しい気持ちだったが、いまは怒りを感じている。この事故は防げたはずなので。犠牲者は私と年齢が近い人たちだった」と、22歳の大学生カン・ヒジュさんは語った。
行進の最終目的地となった戦争記念館では、青年活動家たちが交代で演説を行った。
「この社会は正常ではなく、私たちは安全ではありません。政府は責任を果たさずに若者に押し付けている。(中略)一体セウォル号事故からどんな教訓を得たというのか」と、高校生を中心に300人以上が死亡した2014年のフェリー事故を引き合いに話す人もいた。
「(政治家は)いつも選挙のたびに改革を約束するが、なぜいつも社会的大惨事が起こるのか。若者たちが問いかけているのは、そこだ」と別の人物は述べた。
市庁舎では夜が更けるにつれて、ろうそくの灯りが一帯に広がった。
中高年を中心としたマスク姿の抗議者の顔は暖かい灯りに照らされていた。
2人の子供を持つ建築家のヨム・ソンウォンさん(59 )はセウォル号事故のことをいまでも鮮明に思い出すという。
「あれはとても悲しい出来事だった。こんなことがまた起こるなんて信じられない。だからここに来ました」
「胸が張り裂けそう。あまりに無意味な事故なので」
「政府は彼らを無視した。何があっても国民を守り、安全を確保すべきなのに」
<解説>再び裏切られた若者たち――ジョナサン・ヘッド東南アジア特派員、ソウル 韓国では、修学旅行中の高校生を中心に304人が死亡した2014年の旅客船「セウォル号」沈没事故でも、当局の対応に不満を持った国民から怒りが噴出。
当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領への批判にもつながった。
そして今回、またしても純粋な若者たちが、シニカルな年長者たちに裏切られたという感覚が、梨泰院の事故についても広がっている。
「古い世代がまた若者を死に追いやった」と、動画投稿アプリTikTok(ティックトック)ユーザーの1人は述べた。
「過去が私たちの未来にかみついた。どうして私たちは、こんなことを許すのか。きりがないこの連鎖はいつか断ち切れるのか」。
ユーチューブ・ユーザーの1人は、「国は私を守ってくれない。20代の韓国人としてすごく実感している。
すごく落ち込んでいる」と書いた。
「ここは本当に21世紀の先進国なのか。この韓国で暮らし続けるために、私たち若者は誰を信じればいいのか」
「政治家たちは権力にしがみつきさえすれば、なんの責任もとらなくていいと思っている。そんな態度に吐き気がする」
韓国での安全性が急速な経済成長のために犠牲になっているという考え方は、今に始まったことではない。 同国では大惨事が起こるたびにこうした声が聞かれてきた。
そして、安全確保について当局の姿勢は変わるという約束が繰り返された。
セウォル号事故から8年後の今年4月、次期大統領として尹氏は次のように約束していた。
「韓国をより安全な場所にすることが、犠牲者への哀悼の意を表す最も誠実な方法だと信じている」
梨泰院での事故をきっかけに国民の怒りが高まる中、尹氏のこの公約をめぐり、政権が試され、その手腕が問われることになるだろう。
(英語記事 South Koreans demand justice for Itaewon dead/Itaewon crush: 'My country won't protect me')