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統一教会の集中相談期間に総裁称賛の安倍氏「国葬」、この矛盾が通るのか
JPpress (作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
2018年、韓国・加平で開催された統一教会の合同結婚式での韓鶴子総裁(写真:UPI/アフロ)
来月27日に予定されている安倍晋三元首相の「国葬」におよそ2億5000万円を支出することが、26日に閣議決定された。費用は全額国費で、2022年度予算の予備費を充てる。 安倍氏が銃弾に倒れた事件の背景に統一教会(現・世界平和統一家庭連合)があることが知れると、たちまち政治家と教団との関係が問題視されるようになった。関連団体の催しに参加したり、祝電を打ったり、統一教会系の新聞『世界日報』の取材に応じたことも非難され、政治家が詫びる事態にまでなっている。岸田文雄首相は自民党議員に教団との事実上の訣別を迫る。
では、安倍晋三元首相はというと、昨年の9月、統一教会の創始者である文鮮明の妻で、現在の教団の総裁である韓鶴子が主宰する関連団体「天宙平和連合」のイベントにビデオメッセージを送って、こう明言していた。
「韓鶴子総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」 これを見た山上徹也容疑者(41)が、安倍氏を襲う決意をしたとされる。山上容疑者の母親が統一教会にのめり込み、多額の献金をして家庭が崩壊。教団への恨みが、安倍氏への殺意に置き換わっていく。
■ 教団と政治の関係でもっとも糾弾されるべきは安倍氏
統一教会の被害者救済に取り組んできた全国霊感商法対策弁護士連絡会が公表しているところによると、統計を取りはじめた1987年から昨年までの34年間の被害件数は3万4537件、被害総額は1237億3357万5406円にのぼる。
政府も「旧統一教会問題関係省庁連絡会議」を設け、初会合を今月18日に開いた。統一教会のいわゆる霊感商法などの不法行為の相談や被害者救済に、関係省庁が連携して取り組むためのもので、来月から1カ月程度、「相談集中強化期間」として集中的に相談を受け付けることを決めた。
安倍氏が一命をもって統一教会の問題に火を着けて「国に殉じた」と言えば聞こえはいいが、そもそも教団と政治家との関係でもっとも糾弾されるべきは、安倍氏のはずだ。
どうして加害者団体の首領を称賛する首相経験者を「国葬」にしなければならないのか、理解に苦しむ。
いうなれば、日本国民を食い物にする日本の敵に味方して、宣伝にも使われたはずの人物に、国費を注ぎ込んで葬式を出す意味がわからない。
安倍氏が自任したような保守政治家なら、それこそ「売国奴」と罵っているはずだ。
しかも、その「国葬」が日本武道館で行われている最中に都内で、「相談集中強化期間」として政府が被害相談を受け付けていることになると、こんな間抜けな話もない。
それもこれも、自民党や政府が安倍氏を含めた政治家と統一教会との関係を総括できていないことに一因がある。それどころか、統一教会が政治に影響力を及ぼしていないか、それすら曖昧のままだ。
■ 教団の名称変更、正式申請から短期間で認証
そのあたりの疑惑なら、まだある。たとえば、教団の名称変更についてだ。
統一教会は2015年に「世界基督教統一神霊協会」から現在の「世界平和統一家庭連合」に名称を変えている。教団は、1997年以降、文化庁に複数回にわたって名称変更の相談をしていたが、最初の相談から18年が経った2015年6月に初めて名称変更の正式な申請を行い、文化庁はわずか2カ月後の同年8月に認証を決定している。
1997年に統一教会側から名称変更の相談があった当時、担当の文化庁宗務課長だった前川喜平元文部科学事務次官は、野党のヒアリングに応じて、部下の職員から報告を受けていたとして、こう語っている。
「宗務課の中で議論した結果、実態が変わっていないのに名前だけ変えることはできないとして、認証できないと伝え、『申請は出さないでください』という対応をした。相手も納得していたと記憶している」
「『認証できないから申請を受理しない』という方針を一転し、受理して認証したので、前例を踏襲する役所の仕事からすると、何らか外部からの力が働いたとしか考えられない」
ここに関与しているとの疑惑を持たれたのが、当時の文部科学大臣だった下村博文氏だ。
■ 教団の名称変更、文科大臣の指示なし、報告だけ本当に認証されたのか
下村氏は、申請が認められる以前の2013年から14年にかけて、統一教会系の「世界日報社」の月刊誌でインタビューに応じていて、16年には同社の社長から下村氏が代表の政党支部に6万円の献金があった。
名称変更の手続きは、部長の決裁で済むため大臣には報告しないはずが、この時は担当者が当時の下村大臣に報告したとされる。
下村氏は「世界日報社」の社長からの献金は認めたものの、認証とは関係がないと関与を否定。「文化庁の担当者からは『申請に対応しないと行政上の不作為になる可能性がある』と説明もあったと思う。私が『申請を受理しろ』などと言ったことはなかった」としている。
この疑惑について、8月5日に記者会見した当時の末松信介文部科学大臣は、「宗教法人法上、申請を受理するにあたって、形式上の要件以外を理由として拒むことは、行政上の不作為として違法性を問われるおそれがあると認識している」と説明。1997年に教団から名称変更の相談があったものの、18年が経った2015年に申請を受理したことについては「平成9(1997)年の相談は、結果として申請書の提出がなく平成27(2015)年まで申請してこなかった。平成27年に申請書が出された理由は承知していない」と語っている。
当時の下村大臣に報告があがったことについては「社会的に注目度の高い法人だったので報告したもので、文部科学大臣が、政治的な判断を行ったものではない。当時の文化部長から確認しているが、下村氏から何ら指示などはなかった」と説明した。
疑惑の解明はここで止まっている。
では、なぜこの時期に教団は正式な申請を初めて行ったのか。大事なことを見落としている。
■ 「文部科学政務官」山本朋広氏の存在
視線は当時の下村大臣に注がれるが、実はこの時の文部科学大臣政務官だったのが自民党の山本朋広衆議院議員だ。統一教会の総裁の韓鶴子を「マザームーン」と呼んで讃えた人物だ。
2017年5月に教団が開いた「1万人集会」に来賓として出席。「日頃より世界平和統一家庭連合、世界平和連合の皆様には、我々自民党に対して大変大きなお力をいただいていますことを改めて感謝を申し上げたい」と挨拶した挙げ句に、「マザームーンにさきほど、カーネーションの花束をプレゼントさせていただきました」などと語り、その映像も拡散している。
山本氏は2014年9月4日から2015年10月9日まで、政務官を務めていた。教団の申請と認証された時期と重なる。教団との蜜月ぶりは否定しようがない。
ここまで掘り下げると、疑念は尽きない。政権与党として、教団との関係の見直しを議員任せにして、死亡した安倍氏については首相経験者でありながら、検証すらしようともしない。 また、国会議員の秘書の問題もある。統一教会の会員が秘書となっているケースだ。
■ 統一教会との接点、安倍派議員に多い理由
私が耳にしたところによると、自民党内でかつては主流派と反主流派に別れ、田中派が力を持っていた時代は、いまの安倍派は反主流派として、いわば冷や飯ぐらいだった。そうなると、優秀な秘書は主流派になだれ込む。反対に反主流派は人材に悩まされる。そこに統一教会の付け入る隙があった、というのだ。
安倍氏の祖父の岸信介元首相と「反共」で結ばれた統一教会との蜜月関係。福田赳夫元首相も文鮮明を前にして「アジアに偉大なる指導者現る。その名を文鮮明という」とスピーチするなどしてきた。そんな歴史もあって、安倍氏側と統一教会のつながりは浅からぬものがあったはずだ。
ただ、安倍氏が本当の保守であるのなら、日本国民を食い物にする「国賊」とは対峙しなければならないはずだった。それをなぜ表敬したのか。政治家としての姿勢も疑問視される人物を「国葬」にするならば、まずは問題点を総括することが求められる。
それなくして、「国葬」を内閣府設置法に定めた内閣府の所掌事務の「国の儀式」にして、閣議決定だけですべてを推し進めて、あとは国民を従わせるだけなら、中国のような強権国家と変わりがない。共産主義は、統一教会すら嫌悪していることは、言を俟たない。
青沼 陽一郎