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■ニューヨーク=藤原学思
NPT会議、再び決裂 ロシアが不合意で最終文書を採択できず
核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用を3本柱とする「核不拡散条約」(NPT)の再検討会議は26日午後(日本時間27日未明)、米ニューヨークの国連本部で最終日を迎えた。コンセンサス(意見の一致)による「最終文書」の採択をめざしていたが、ロシアが同意せず、決裂した。
会議は5年に1度開かれ、当初は2020年春の予定だった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大によって4度にわたって延期。今月1日、4週間の日程で始まった。
前回15年の会議では中東の非核地帯構想をめぐって交渉が決裂し、最終文書を採択できなかった。2回連続で決裂したことにより、NPT体制への信頼は揺らぐことになる。
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朝日新聞
(社説)原発政策の転換 依存の長期化は許されない

足元の「危機克服」を理由に、長期的な国策を拙速に転換すれば、必ず禍根を残す。考え直すべきだ。
岸田文雄首相が、原発の新増設や建て替えの検討を進める考えを示した。原則40年の運転期間の延長も検討する方針で、「原発回帰」の姿勢が鮮明だ。東京電力福島第一原発の事故以来の大きな政策転換になる。
脱炭素の加速化や、ロシアのウクライナ侵略に伴うエネルギー不安を前に、電力の安定供給策の検討は必要だ。だが、その答えが原発事故の教訓をないがしろにすることであってはならない。原発依存を長引かせ、深める選択はやめるよう求める。
■事故の教訓忘れたか
11年前の原発事故は、3基の炉心溶融という未曽有の事態に至り、甚大な被害をもたらした。周辺の住民は故郷を追われ、日本社会全体に深刻な不安が広がった。
今も多くの人が避難を強いられ、賠償も不十分だ。廃炉などの事故処理は、いつ終わるのかの見通しすらたたない。
事故を受けて原発の安全規制は強化された。だが、地震や津波、噴火などが頻発する国土への立地は、他国と比べ高いリスクがつきまとう。
そもそも、日本にとって原発は不完全なシステムだ。高レベルの放射性廃棄物は、放射能が十分に下がるまでに数万~10万年という想像を絶する期間を要するにもかかわらず、最終処分地が決まっていない。
使用済み燃料中のプルトニウムは核兵器の材料になり、国際的に厳しく管理される。日本は減量を国際公約しているが、利用の本命だった高速炉の開発は、巨費をつぎ込んだあげくに頓挫したままである。
苦い経験と山積する課題を直視すれば、即座にゼロにはできないとしても、原発に頼らない社会を着実に実現していくことこそが、合理的かつ現実的な選択である。
政府も、依存度の低減をうたい、新増設は「想定していない」と述べてきたのは、そうした判断を重視してきたからではないのか。
首相は今回の検討指示にあたり、事故の教訓や原発の難点にどこまで真摯(しんし)に向き合ったのか疑わしい。政策転換を正当化する根拠は極めて薄弱だ。
■疑問ある決定過程
議論の進め方も問題だ。
首相が今回の発言をしたのは、脱炭素を議論するGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議の第2回会合だ。7月の初回に、首相が政治判断が必要な項目明示を求め、経済産業省などがまとめた。
この会議は、原発を推進する産業界や電力会社の幹部も加わり、議論は非公開だ。従来のエネルギー基本計画の有識者会議が公開で議論しているのに比べ、多様性、透明性に乏しい。国民生活に深く関わる政策の基本路線をこの場で転換しようというのは、不適切だ。
首相は7月の参院選前には、原発の新増設への考えを尋ねられても答えていなかった。選挙が終わるや「検討」を始め、年末に結論を出すというのでは、およそ民主的決定とはいいがたい。
しかも、新増設するという原発に、技術的裏付けはまだない。高速炉はもとより、小型炉も開発途上だ。既存炉の安全性を高めるという「次世代革新炉」の姿も明確ではない。首相も「実現に時間を要するものも含まれる」と認める。
経済性の面でも、経産省の直近の試算でさえ、2030年に新設の原発は事業用の太陽光発電よりも割高になる。新型炉には開発初期のリスクもある。
■安全規制ゆるがすな
こうした不確実な技術を、当面の安定供給への対応策として持ち出すのは、国民に対するごまかしにほかならない。原発依存に逃げ、世界が力を入れる再生可能エネルギーの技術開発に後れをとれば、国際競争力をさらにそぐだろう。
首相が指示した検討項目には、原発の運転期間の延長や、再稼働への関係者の「総力の結集」も挙げられた。再稼働に向けては、国が「前面に立ってあらゆる対応をとる」という。
電力事業者が原子力規制委員会の指摘をきちんと履行するよう促す、あるいは住民避難のあり方に国も責任を持ち、事故のリスクへの疑問にも正面から答えるといったことならば、理解できる面もある。
だが、科学的に厳格な検討や審査、地元の合意手順が必要な事項に、政権が圧力をかけることは許されない。原発のある自治体の判断や規制委の独立性をゆるがせにしないことも、事故の重要な教訓である。
今回の転換の名分にされたロシアのウクライナ侵略では、原発への武力攻撃のリスクも顕在化した。ロシアの行為が許されないのは当然だが、狭い国土で原発に依存し続ける危険性は減るどころか増えているのが現実である。安易な「原発回帰」が解ではないのは明らかだ。
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福島民報
【双葉の選択 8月30日復興拠点避難解除】(1)「古里の力に」心待ち 県外避難多く 悩む人も 福島県双葉町
東京電力福島第一原発事故に伴い唯一全町避難が続いていた福島県双葉町は30日、帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除される。原発事故から11年5カ月。唯一県外に町役場機能を移した影響もあり、県外避難者の割合が高い。県内外で長期避難を続けてきた町民はどんな選択をするのか。町に思いを寄せる人はどう復興に関わっていくのか。現状に迫る。
いわき市勿来町の災害公営住宅勿来酒井団地。現在約230人が暮らしているが、そのうちの約130人が双葉町民だ。団地の自治会長を務める国分信一さん(72)は、町内への帰還を決めた一人だ。「新たなまちづくりの力になりたい」と意気込む。
国分さんは2018(平成30)年に同団地に入居し、翌年自治会長に就いた。防災面での不安解消のため地元消防団と防災協定を結ぶなど、入居者が安心安全な生活を送れるよう努めてきた。自主防災組織として勿来酒井団地自主防災会を設立し、地域住民らと合同で避難訓練を行うなど交流を深めてきた。
国分さんは、こうした避難先での経験を新たなまちづくりに生かしたいと考えている。ただ避難生活の長期化により、町への帰還を希望する町民は必ずしも多くはないと感じている。勿来酒井団地の町民のうち、現段階で帰還を決めたのは10人にも満たないのが現状だ。 「本当に町は安全なのか」「生活環境が整わない町に戻っても仕方がない」。町民の気持ちは分かる。ただ、「被災したからこそ、自分たちの手で災害に強い安全な町にしなければならない」と自らを奮い立たせる。
町は原発事故に伴う被災市町村のうち唯一県外に町役場機能を移した。今年復興拠点の避難指示を解除した大熊町や葛尾村は大半が県内避難だったのに対し、双葉町は現在も3割を超える町民が県外で避難生活を送る。
県外で最も多くの町民が暮らす埼玉県で町埼玉自治会の役員を務める町議作本信一さん(68)は「帰町を考える人は必ずしも多くないのが現状だ」とうつむく。「避難先の町民に目を向け続けてもらいたい。きっと帰還する町民の増加につながるはずだ」と信じる。
今回避難指示が解除される町内長塚一区で長年区長を務めてきた木幡智清さん(81)はいわき市内に住宅を購入した。「町内の家々に明かりがともり、町ににぎわいが戻れば帰還したい」と復興の加速化を期待している。
「双葉町に帰りたいが…」。待ち焦がれてきた避難指示解除だが、古里は遠く素直に喜べない町民もいる。悩みは尽きない。