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西日本新聞
「もう終わりだから」期待裏切られ…“駆け込み”雇い止め、研究職で続出
女性が教授から示された労働条件通知書。「契約の更新はしない」とある(写真の一部を加工しています)
国立大や公的研究機関に勤める有期雇用の研究者らが、契約を打ち切られる事例が相次いでいる。改正労働契約法施行(2013年4月)を起点とする雇用期間が来春で10年を迎え、これを過ぎた時点で雇用されている人は、無期雇用申請の権利を得られることが背景にあるとみられる。契約を更新せず権利取得を阻害する「雇い止め」は過去にもあった。識者は「制度の不備が放置されたままになっている」と指摘する。
「もう終わりだから」。福岡市の九州大に勤務する研究支援員の女性は今春、所属する研究室の教授に呼ばれ、来年3月末での契約終了を告げられた。「契約更新しない」と書かれた労働条件通知書を見せられ、内容に同意する「確認書」に署名を求められた。1年契約の更新を繰り返し、10年以上勤めてきた女性。来年4月には申請権を得られ、再来年からは契約期間のない無期雇用になれる、との期待は裏切られた。
13年4月1日施行の改正法は、同じ職場で有期雇用が一定期間を超えた場合、無期雇用を申請できるようにした。正当な理由がなければ雇わなければならない。雇用安定化が狙いだ。 民間企業や公的機関を含めてその期間は「5年」を原則とした。だがその5年を迎えた18年には、無期雇用申請の権利を得る前に、雇い止めされるケースが続発。特に九州内の国立大では18年3月末に契約満了となる約890人のうち、およそ半数の雇用が継続されなかった。
一方、研究開発能力の強化や教育研究の活性化を目的に、研究者や支援員、教員などの期間は「10年」とされた。一般事務などの雇い止めが問題となって5年が経過しようとする今、同じ構図の問題が再浮上している、というわけだ。非正規雇用に詳しい井下顕弁護士(福岡県弁護士会)は「制度に抜け道がある。何の対策も取られないまま研究職でも同じことが繰り返されている」と指摘する。
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国立大で雇い止めが顕著なのは、04年に国立大が独立法人化して以降、国からの運営費交付金が減少したまま財政難が続いていることが背景にある。
有期雇用者の割合は年々増えており、研究者のキャリア問題に詳しい「科学・政策と社会研究室」の榎木英介代表は「財政難の大学では、研究者が人件費の『調整弁』になっている」と指摘する。
九大の支援員の女性は、研究室の予算管理や科学研究費の申請手続きなど幅広い業務で研究を支える。女性によると、教授は女性との契約更新と、その後の無期雇用を認めるよう所属学部の事務担当に掛け合ったが「定年までの財源を確保できない。1人認めたらみんな認めないといけなくなる」と拒まれたという。
九大の人事部は取材に対し「(女性に関する)やりとりがあったことは把握していないが、各学部がそのような事情を抱えているという認識はある」と回答。契約更新の判断は各学部に任せており「大学として契約更新を拒否するよう指示した文書や、同等のものはない」とした。 国立大の雇い止めは今年5月の参院内閣委員会でも議論されたが、文部科学省は「労働契約法の趣旨を踏まえて適切に対応するよう(各大学に)お願いしている」と述べるにとどめた。
日本学術会議は7月に出した研究者らの雇い止めに反対する声明で「(重要なのは)日本の研究力強化にとって極めて深刻な事態であるという認識を政府、アカデミア、個々の大学・研究機関が共有し、大局的観点から抜本的な解決策を見いだすことだ」と強調。知的財産損失への危機感は強い。 (平峰麻由)
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