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「命尽きるまで働くしか…」自営業者の年金問題、あまりにも少なすぎる受給額【CFPが解説】
年金受給年齢までずっと自営業であれば、年金は国民年金だけ。しかし、令和4年度の年金保険料は月額16,590円、満額の受給額は月額64,816円と、とてもではありませんが、これだけで老後生活を賄うには無理があり、事前に何らかの対策が必要です。しかし、30年にも及ぶ景気低迷の中、思い通りの資産形成が進んでいる人ばかりではありません。厳しい現状を見ていきます。
65歳、クリーニング店経営独身男性の嘆き
「両親とずっとクリーニング店を経営してきました。生活は楽ではありませんでしたが、老後の年金は確保しなくてはいけないと思い、国民年金の保険料だけはずっと納めてきました。しかし、いざ年金を受け取る手続きをしてみてビックリしました。これだけしか受け取れないなんて…。貯蓄もほとんどありません。死ぬまで働けということでしょうか!?」 年金を受け取るまで、ずっと自営業を営んでいた人が受け取る年金は「国民年金」のみです。一方で、会社員や公務員として働いたことがある人が受け取る年金は、「国民年金+厚生年金」です。要するに、自営業者は「国民年金」しか受け取れないのに対して、会社員や公務員は「国民年金」に上乗せして「厚生年金」を受け取ることができる、ということです。 この時点で、自営業者と、会社員や公務員が受け取れる年金額にはかなりの差が出ます。
国民年金と厚生年金…大きく違うのは、保険料と年金額
それでは、「国民年金」と「厚生年金」の制度を比べてみましょう。 このように「国民年金」と「厚生年金」にはさまざまな違いがありますが、とくに注目したいのが「保険料」と「年金額」の違いです。 国民年金の年金保険料は、男性も女性も、20歳の学生も50歳の自営業者も、すべての人が一律の金額を支払うことになっています。令和4年度の年金保険料は月に16,590円です。ですので、受け取れる年金額も満額で月に64,816円と、全員同じ金額です(ただし、年金保険料の未納期間がある場合は、年金額は減額されます)。 一方で、厚生年金はというと、年金保険料は「標準報酬月額・標準賞与額※1×18.3%」となっているので、収入が少ない人は保険料も少なく、収入が多い人は保険料も多く支払うことになっています(保険料には上限があります)。さらに、保険料は労使折半なので、半分は自分で支払いますが、半分は会社が支払います。例えば、年収約500万円の人は月に約76,000円の保険料となり、労使折半なので自分で負担する金額は約38,000円程度となります※2。 ※1 標準報酬月額・標準賞与額:少し複雑な計算をしますが、かなりざっくり言うとボーナスを含めた年収の1/12ぐらいのことと思ってください。
※2 あくまでもイメージです。 そして、受け取れる年金額は支払った保険料に準じます。たくさん保険料を支払ってきた人は、年金額も多くなります。最高でおよそ26万円程度受け取れると言われています。さらに、厚生年金を受け取れる人は、国民年金も受け取れるので、26万円に満額で約6万5,000円の国民年金が上乗せされることになります。
国民年金、満額受け取っても「69,662円」足りない
それでは、国民年金と厚生年金の制度を確認したところで、本題に戻りたいと思います。 自営業者の方が受け取れる国民年金の年金額は、満額受け取ったとしても月に64,816円です。この金額で、毎月の生活費を賄えると思いますか? 恐らくほとんどの人がNOと答えると思います。 実際に、総務省統計局の家計調査では、無職単身世帯の月の支出は134,478円となっています。ということは、年金を満額で受け取ったとしても、69,662円足りない計算になります。
65歳の日本人男性の平均余命は約85歳です。
毎月69,662円足りないとすると… 69,662円 × 12ヵ月 × 20年 = 16,718,880円 およそ1,670万円、自分でなんとかしなくてはいけないということです。
さらに年金制度は、物価の上昇についていけない仕組みになっています。
この先、物価が5%上がったとしても、受け取れる年金額は5%アップしないのです。
昨今、物価がどんどん上昇していることから、不足額はもっと膨らむでしょう。
また、この支出額には介護費用等、不測の事態の費用は含まれていません。
もし要介護状態になったり、大きな病気をしたりすると、もっと不足額は膨らみます。
ちなみに、厚生労働省令和2年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」では、国民年金の受給平均額は56,358円となっています。
年金保険料を40年間支払っていない場合、受け取れる年金額は減らされてしまうので、もし保険料を満額を支払えていない人は、さらに不足額が増えてしまいます。
不足は貯蓄を取り崩すしかないが、貯蓄がない人は…
では、この不足額を補うにはどうしたらいいでしょうか。
方法は2つです。1つは貯蓄を取り崩す、そしてもう1つは収入を得る=働く、という方法です。 取り崩せる貯蓄がある人は、国民年金の年金額が少なくても何の問題もありません。
では、取り崩せる貯蓄がない人はどうしたらいいのでしょうか。収入を得続ける、すなわち働くしかありません。
国民年金のみの受給者の方は、年金をもらい始めるまでにしっかり貯蓄をしておくか、65歳を過ぎてもずっと働き続けるか…。
貯蓄ができたのに、娯楽等で使い果たしてしまったという人は自業自得かもしれません。しかし、貯蓄をしたくても出来なかった人にとって、年金をもらえる年齢を過ぎても働き続けなくてはいけないというのは、酷な現実なのではないでしょうか。
高木 智子 ヨージック・ラボラトリー CFP